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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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七不思議の後日談 其の四

 ――『一人かくれんぼ』が行なわれている館にて


「……」


 明かりを消した館の中、私は玄関付近に置かれたクローゼットの中に隠れていた。

 ……。


 いや、普通に考えれば、こんな所にクローゼットなんてものがある方がおかしいんだけどさ。


 これは私が黒騎士達に話した『ホラーゲームの【お約束】』が大いに影響しているのだったり。

 あれですよ、『探索型のホラーゲームは【敵を倒す】のではなく、【隠れたり、逃げるのが基本】』ってやつ。

 まあ、現実的に考えた場合、敵に付き合っていたら体力が持たないだろうし、必然的にそういった状態になるんじゃないかとは思う。


『基本はロッカーやクローゼットに隠れ、敵を遣り過ごすんだよ』


『初期装備は、近くで拾った鉄パイプやバールのような物といった打撃系のもの』


『探索を進めていくと、敵を倒す手段やアイテムが手に入ったりする』


 ……といったことを、『よくあるホラーゲームの展開』として話したところ、『じゃあ、今回も隠れられる場所が多い方が良いよね』的な解釈をされたのだったり。

 なお、その言葉の通り、各所に隠れられるポイントが設置されている。

 今、私が隠れているクローゼットの様に、『普通はそんなところにないだろ』と突っ込まれること請け合いだけど、『少しでも安全に配慮したい』という言い分の下、実行された。


 何のことはない、全ては奴らが『ホラーゲーム的展開』とやらを見たいだけである。


 塩水だって各所に用意されているというのに、隠れる場所も豊富というイージー設定です。

 もはや『一人かくれんぼ』というより、複数のホラーゲームが混ざったような状態なのだ。奴らはそれを見たい、と。

 なお、その目的を達成すべく、館には魔道具が数多く仕掛けられ、別の場所で待機している皆の下に映像を届けているはず。

 ……多分、ちょっとしたモニタールーム状態になっているのではなかろうか?

 インターネットでの実況は数多くあったし、ライブ中継にしている人も居たけれど、多分、今の私も似たようなものと見た。

 こうなると、『最高のエンターテイナー』を自称する私としても、何かしら見せ場を作りたいものである。……『一人かくれんぼ』にそんなものがあるかは知らないけど。


「(さて、そろそろ数を数え終わっている頃なんだよねぇ……)」


 覗き見用に作られた隙間からこっそり外を窺うも、未だ、ウサギさんの姿は見えない。そもそも、成功しているか怪しい。

 ……そんなわけで。

 ウサギさんとの初のエンカウントを願い、私と騎士達は儀式(?)の成功を願っているのですよ……!


 早くおいでよ、ウサギさん♪


 初見はきちんと姿が映るようにと、一番判りやすい場所で待ってるわ♪


 でも、できれば何かしらのオカルト的アクションが欲しいなー♪


 普通は息を潜めて、ドキドキしながら、恐怖と戦うこの一時。私も息こそ潜めているけど、気持ち的にはルンルンです!

 ああ、でもやっぱり、ウサギのぬいぐるみはもう少し大きな物を選んだ方が良いと思うんだ……。


 何故なら、ウサギさんは片手に乗るサイズ。つまり、小さい。


 そんな生き物が一生懸命、館の中を探し回るんですよ? 庶民である私の感覚では、それなりに広い『館』なのよね、ここ。

 ……私に辿り着けるか、非常に心配です。移動速度が亀の歩みとか言わねーだろうな?

 今回は戦闘を想定しているから仕方ないけれど、『一人かくれんぼ』って、もう少し狭い場所でやるから、エンカウントの危険性があるような。

 だ……大丈夫ですかね? ウサちゃんは。あまりに動きがとろくて、時間切れ――二時間を予定しております――は切ないのだけど。


 ――そんな考えが脳裏を過り、内心、冷や汗を流し始めた頃。


『パキッ』


 どこかで小さく、不自然な音がした。思わず、耳を澄ませると。


『カタンッ』


 今度は何かが動くような音が。先ほどの音は家鳴りで済ませるとしても、今回の音は『何かが動いたような音』。

 つまり、『自然現象ではない』……!


 私 、 大 勝 利 … … ! ( 歓 喜 ) 


 やったぜ♪ やったぜ♪、初のオカルト体験! 魔法世界よ、ありがとう……!


 これで強盗とかだったら、出会った直後、怒りのままに〆るけど。期待させた分、罪深いと知れ。

 内心、狂喜乱舞している私ですが、自分の役目は心得ていますとも。

 多分、これらの現象はモニターの向こうで皆も確認しているはず。これでウサギさんの姿を確認していようものなら、盛大にざわついていることだろう。

 そんな私とて、ウサギさんの動きを確認したい一人。

 ああ、でもまずは『お約束』どおりに浴室に行って、ぬいぐるみがあるかを確認すべきだろうか?

 このままここに暫く隠れて怪奇現象を堪能し、動くウサギさん(ホラーモード)を確認するのも捨てがたい。


 ――私が隠れつつも葛藤する中、奇妙な音は時折響き、異様な気配が徐々に広まりつつあった。


※※※※※※※※


 ――騎士達が待機している館にて(アルジェント視点)


「……嘘だろう」


 映し出されている光景に、半ば茫然とクラウスが呟きました。もっとも、これはクラウスだけではなく、ここに居る黒騎士達全員の行動ですが。


「まだ音が響いているだけで、確証がないのでは?」


 疑問に思って尋ねるも、クラウスは顔を顰めて首を横に振りました。


「音の発生源が特定できない。しかも、幾つかの魔道具に、映像の乱れがある。これは明らかにおかしい」

「ほう」


 確かに、何人かの黒騎士達が魔道具の調整をしています。あれは不具合が起きたと思っての行動だったのでしょう。これは非常に珍しいことでした。

 魔術に対する好奇心や向上心が強いことも勿論ですが、黒騎士達の大半は自分の技術に自信を持っているのです。

 それはこれまでの努力や蓄積された知識といったものに裏打ちされた実力があるからなのですが、それゆえに、『不具合が出る』という状況が許せないらしく。

 その『不具合』が起きた場合は、徹底的に検証を行なうのが常でした。小さな失態であっても、問題点を知ることは重要だ、と。


 ――ですが、魔道具を確認している彼らは皆一様に、首を傾げたりしています。


 どうやら、魔道具には何の問題もない模様。クラウスが茫然と呟いたのも、これらのことが原因のようでした。


「私は魔法や魔道具といったものについては判らないのですが、それほど奇妙なことなのですか?」


 残念ながら、私には魔法の才がありません。ですが、道具が壊れることなど珍しくはないと思えてしまうのです。

 まして、『高い技術を必要とする魔道具』という、繊細なものならば。


「戦闘が行なわれていたり、何らかの妨害要素があるならば、まだ納得できる。だが、あの館にそんなものはない」

「確かに!」


 今回の『一人かくれんぼ』の舞台を作り上げたのは主に、黒騎士達。

 今現在の様に、別の場所で事態の監視を行なうことを最初から想定していたでしょうし、誤作動や不調の原因となるものは排除されているはずです。

 ……そう考えると、確かに奇妙です。一体、何が原因なのでしょうね?


「クラウス、ミヅキは無事なのかい?」


 さすがに心配になったらしく、エルがクラウスに声を掛けています。

 ……が、その背後では双子が生温かい目を、ミヅキが隠れているクローゼットに向けておりました。


「通信が可能な魔道具を持たせているが、今のところ、特に問題はないようだ。だが、使えなくなっている可能性も否定できない」

「ならば、中止を……っ」

「……否定できないが。双子の様子を見る限り、大丈夫だと思うぞ?」

「え゛」


 クラウスに指摘され、エルも双子の方を向き。心配どころか、呆れた様子の彼らに、怪訝そうな顔になりました。


「……。君達、その顔は一体、何」


 エルの問いかけに、双子は顔を見合わせて。


「ええと……その、理由を聞かれても困るんですが。多分、ミヅキは大丈夫ですよ」

「寧ろ、滅茶苦茶楽しんでる気がするんですよね……」

「何故」

「だって、俺達、欠片も不安になるとか、ヤバい雰囲気を感じませんし!」

「そう! 寧ろ、ろくでもないことを考えているミヅキの傍に居た時のような危機感と言うか、焦燥感と言うか! そんな感じがするんですよ……!」

「ええ……」


 双子の言い分に、エルは困惑したようでした。ですが、私は彼らの言い分に酷く納得してしまったのです。

 彼らは基本的に、ミヅキと共に行動しております。

 ……つまり。


『ミヅキが何かをやらかす』という場合、まず止めているのがこの二人なのです。


 彼らは騎士団長であるアルバート殿の剣すら、『動く瞬間が何となく判る』という非常識を発揮し、ギリギリとはいえ、全て避けてみせるのです。

 間違いなく、彼らが持つ危機察知能力は本物でしょう。なにせ、魔法ですら、『詠唱しようと思った直後に潰される』のですから。

 そんな彼らが全く危機感を覚えていないならば。


「間違いなく、ミヅキの奴はこの状況を楽しんでいるだろうな」

「でしょうねぇ」


 クラウスと共に、苦笑してしまいます。そもそも、現状はミヅキ念願の『オカルト』というもの。

 こちらがいくら慌てていようとも、全く気にせず、危険な目に遭うことすらも『楽しんで』しまうでしょう。

 と、言いますか。


「エル……貴方もミヅキの親猫と呼ばれているのですから、いい加減、黒い子猫が普通の思考回路をしていないことを認めるべきでしょう」

「普通は心配するだろう!」

「無駄だぞ? 黒い子猫は悪戯盛りな上、楽しいことが大好きだからな。まあ、今回は人間に被害が出るわけじゃないんだ、温かく見守ろう」

「君達はミヅキと一緒に楽しんでいるだけだろう!?」

「当たり前じゃないか」

「当然ですよね」


 ジトっとした目を向けて来るエルに怯むことなく、クラウスは平然と、私はにこやかに返しました。

 ふふ、何を今更。しかも、今回は滅多にできない経験らしいじゃないですか。魔法が使えずとも、興味を抱くのは仕方がないでしょうに。

 と、その時。


『え゛』


 上がった声にそちらを向けば、一つの映像がおかしなことになっておりました。

 はっきり言いますと、ぬいぐるみ……ウサギの顔が画面全体に張り付いているのですが。

 その状況を見ていただろう騎士達も、困惑していると言うか……呆気に取られて固まっておりました。

 彼らの反応を見る限り、ウサギのぬいぐるみが自ら、魔道具に気付いて覗き込んだ……というわけではないようです。


「何だ? 一体、何があった?」


 本当に、何があったのでしょうね?

黒猫「……(心の中では狂喜乱舞中)」

黒騎士「あんな遣り方で降霊術が成り立つなんて……orz」

ウサちゃんの顔アップ映像を見た皆様「は? 一体、何があった??」

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうしたカトリーナ!? なんでしょう真夜中のホラーというより、真夜中のプロレス中継を見ている気分で待ち構えてしまうのは。 ヒール側がパフォーマンス最大限発揮してこそ盛り上がるのよ? がんばれ…
[一言] わたしウサちゃん いま、頭のおかしい少女の追われてるの
[一言] ミヅキならシャッキーでも受け入れそうだな……。(^o^;)
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