七不思議の後日談 其の一
全ての準備を終え、私は室内を見渡した。
「さてさて、一人かくれんぼの始まりですよー!」
※※※※※※※※
『七不思議の会』――実際には人形に自覚を促すための会だった――を終えた後、私達は『彼』の葬儀をし。折角だからと、私達は呑気に酒盛りをしながら雑談をしていた。
あれです、葬式の後の精進落としの代わり。
残念ながら、私達には『彼』や『彼の先生』の思い出がないので、そのままオカルト談議に突入したのだ。
そこで騎士達に聞かれたんだよねぇ……『怪異って、何ぞ?』と。
まあ、疑問に思っても仕方ない。私の話では『怖い話を語り終え、最後の蠟燭が消された時、何かが起こる』というものだったのだから。
今回の『七不思議の会』は蝋燭を消したり、百話話したわけではないので、私の世界で言い伝えられている『百物語』とはかなり違う。
よって、『別物になったから、何事も起こらなかったのでは?』と考える人が一定数は居たのであ~る。
なお、その殆どが黒騎士であることは言うまでもない。
黒騎士達は怪異やオカルト方面のものを『降霊術のようなものではないか?』と考えており、その前提から『そんなに簡単なことで、降霊術ができるのか?』という疑問を覚えたのだ。
う、うん、まあね? 魔法がある世界で死霊術師なんてものが実在――ただし、アンデッドを使役しているとこう呼ばれることが大半なので、非常に曖昧らしい――する以上、そう思われても仕方はないのかも。
いや、だってねぇ……系統はともかく、それらは魔術師的にエリートでないと不可能らしいから。
それが、ある程度の準備と怖い話だけで可能と聞かされれば、疑問に思っても仕方ないよね。
「言っておくけど、呼んだり、帰ってもらうだけで、使役することとは別物だよ?」
「そもそも、死霊を呼ぶこと自体が難しいんだが。どういった存在か、明確にされていないからな」
以上、私の指摘に対するクラウスのお答えである。
なるほど、ろくにオカルト文化のないこの世界的には、そこが最難関に該当するのか。
……。
確かに、魔法はイメージが重要だ。そこで躓くと、降霊術とかの難易度は上がるのかも。
「呼び出す場合は、その対象の情報をより多く入手しておく必要がある。最低限、『死因』と『存在した国』程度は必要だろうな」
「えーと……つまり、戦場で死んだ人を呼び出すなら『いつ起きた戦で、どこの国の人』くらいの情報は必要ってこと?」
「それでも最低限だろうがな。文献によると、『呼び出される死者の記憶に強く焼き付いた情報』というものが重要らしい」
「うわぁ、激ムズじゃん!」
「それでも来てくれるかどうか。……特定の個人でない限り、こちらの声は届かないと思った方が良いらしい」
つまり、完全にゴースト側の気まぐれと言うか、運任せに近いことになる模様。
しかも、クラウスの言ったことが事実だった場合、『強く焼き付いた情報』とやらがないと呼び出しは不可能ってことじゃないか。
確かに、黒騎士達の疑問は納得です。
それがこの世界の常識なら、『そんなに簡単に呼べるわけないだろ!』と思うのが当然か。
……で。
そんな黒騎士達に対し、つい言っちゃったんだよねぇ……『魔法のない世界でも、ほぼ確実に【何か】が来ると言われる方法があるんだけど』って。
その後のことは、お察しである。判りやすく言うと、以下の通り。
黒騎士達の目が光った!
クラウスは魔導師を捕獲した!
黒騎士達は魔導師から話を聞き出し、実行しようとしている……!
なお、実行者が私なのは『遣り方を知っている異世界人』という一言に尽きる。
……多分、成功した暁には黒騎士達による検証が行われ、彼らも試す気だと思われる。
そんな私達を白騎士達は微笑ましく見守り、騎士sは呆れた目を向け。
唯一、魔王様だけが『危険はないのかい』と案じてくれた。……日頃の私への認識が判る一幕です。
「私、そういったものには全敗なんだけど。この世界なら、いけるかな?」
「とりあえず、実行する価値はあると思う。何かが来ても、それは重要なサンプルになるだけだ」
「……」
「いいから、やれ」
お 前 ら 、 怪 異 を 何 だ と 思 っ て や が る 。
完全に獲物扱いです。捕獲する気満々なので、『何体来てもいい』とか言ってるし!
あれですね、この世界的には魔術師が一番のオカルトってことでしょうか。もしくは天敵。
下手に降霊術が成功しようものなら、簡単には帰らせてもらえない気がするんですが。
……そうは言っても、私も興味があることは事実なので。
「場所を用意してくれたら、実行してもいいよ。後始末が必要な場合は手伝って」
「了解した」
そうして、『一人かくれんぼ』の開催が決定した。
……危険性とかが判っていないからこそ実行を許されたんだな、と思わなくもない。
※※※※※※※※
さて、『一人かくれんぼ』のおさらいを。
遣り方自体は簡単だし、今現在は米の入手も可能なので、元の世界と同じ方法でいいだろう。
『用意するもの』
・手足がある、ぬいぐるみ
・米
・縫い針と赤い糸
・爪
・ナイフ
・塩水
『遣り方』
1・ぬいぐるみに名前を付け、中に米と自分の爪を入れ、赤い糸で縫い合わせる。
2・塩水を用意し、隠れ場所を決めておく。
3・ぬいぐるみに『最初の鬼は【自分の名前】だから』と三回言い、浴室に行って、水を張った浴槽にぬいぐるみを沈める。
4・建物中の明かりを消し、目を瞑って十数える。
5・ナイフを持って浴室に行き、『【付けた名前】見付けた』と言って、刺す。
6・『次は【付けた名前】が鬼』と三回言ってから、塩水を持って隠れる。
テレビがないけれど、そこは仕方ない。それ以外はほぼ、私が知っている進行方法が可能だろう。
なお、ここは騎士寮ではない。少し広めの一軒家――戦闘が想定されたため、騎士寮は不可だった――であり、騎士寮面子の持ち家だったり。
そして、私一人で行なわなければならないため、要所要所に暗闇でも見える魔道具が仕掛けられ、待機している騎士達に中継されることになっていた。
魔王様が許可するはずですね! 監視要員が一杯居るもの。
寧ろ、彼らは私の心配よりも、『何か』の確保に動く可能性・大。
ただ、私としてもちょっと期待していたりする。魔法のある世界ならば、ワンチャンスあるんじゃないかなー? と思うのですよ。
と、言うか。
これは終わらせ方が明確なので、もしも『何か』が来ても、それほど心配していない。今の私には魔法もあるし、護身の術はそれなりに用意してあるもの。
余談だが、騎士sには『お前達、深夜にこんなことをやるのか』と生温かい目で見られた。
ぬいぐるみを刺したり、爪を使ったりといった不気味な要素もアレだが、わざわざ深夜にいい年をした大人達が挙ってやらかすことに盛大に呆れたそうだ。
しかも、それが魔導師やら、この国のエリート様達。騎士sが呆れるのも当然か。
「さて、さくっと準備をして始めますかね」
さあさあ、是非ともおいでませー♪ 異世界の怪異様?
黒猫&黒騎士「ワクワク☆ドキドキ☆」
白騎士達「楽しそうですね」
親猫「気を付けるんだよ」
双子「……(馬鹿がいる……深夜だぞ、お前ら)」
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




