七不思議の合間の雑談 其の二
「……」
魔導師殿の世界における『怖い話』。
全く馴染みがないにも拘らず、この場に居る全員がある種の異様な雰囲気に飲まれていた。
馴染みがないどころか、この世界にはない技術のものであることも大きいけれど……私は少しだけ『オカルト』と呼ばれるものに恐怖を感じてしまった。
魔導師殿の世界には魔法が存在しない。
その代わりとでも言うように、様々な優れた技術があるという。
しかし。
そんな世界であっても、そのような不可思議なことが起こるのだ……!
この世界には魔法がある。しかも、クラウス殿の話を聞く限り、不可思議な現象などは『魔法でやろうと思えば、不可能ではない』。
言い方は悪いが、『魔法のある世界ならば、人の手によって引き起こされたもの』という解釈が可能なのだ。
だが……魔法がない世界ならば、『それ』はどのようにして引き起こされたのか?
ついつい、そう考えてしまう。高い技術を持っている世界においても、解明できない物事なんて。
「俺達の話に出てきた『森の主様』は、『別の世界から来た存在』っていう考え方もできるけど……」
アベル殿が呟けば。
「ミヅキっていう、実例を知ってるからな。だけど、ミヅキの話だと『解明できない【何か】』ってことになるもんな」
カイン殿が引き継ぐように、その可能性を口にする。
魔導師殿の世界にも不可思議な生き物の報告や、伝承などにしか残っていない存在が居るらしいけど、どうにも、魔導師殿の話に出てきたものとは違うような気がする。
半ば、無理矢理に解釈するならば……『疑似世界、もしくは疑似世界の住人が命を持った』とでも言うのだろうか。
命を作り出すなど、人の技ではない。だが、人のように暮らしてきた存在ならば、自我を持っても不思議ではないような気がした。
例を出すなら、先ほどの話に登場した猫のぬいぐるみだろう。
エルシュオン殿下と魔導師殿を模した物ということもあるが、周囲の人間達がまるで生きている存在であるかのように接していたと言うじゃないか。
その結果が、自我の芽生えならば……魔導師殿の言う疑似世界で同じことが起きても不思議はない。
……そこを訪れる『プレイヤー』という多くの人間達に、人として扱われているのだから。
「クラウス、魔法でもやっぱり可能なのかい? その、人形に人と思い込ませることって」
エルシュオン殿下の問いかけに、クラウス殿は肩を竦めた。
「判らん。そもそも、人形に自我……最低限、自分の意思を示せるような機能がなければ、それを確認することができないからな」
「ああ、それもそうか」
「ただ動くだけなら、可能なんだがな。まあ、人形を呪物に仕立てて、ターゲットを狙わせる……というものになるが」
それは少し違うような。
そう思ったのは私だけではなかったらしく、何人かが顔を引き攣らせた。
「いや、それは単なる暗殺目的の呪物じゃないかな」
「そうだ。だから、『初めから目的を組み込んでおく』という状態になる。この世界で人形が動いた場合、こちらの方が疑われるだろう。わざわざ人形に自我を持たせる……という研究でもしていない限りは」
どうやら、『人形に自我を持たせる』という研究はあまりされていないらしい。
「暗殺とか労働に使うなら、動く人形って便利そうだけど」
疑問に思ったのか、魔導師殿が声を上げる。だが、クラウス殿は首を横に振った。
「そう思われていた時期もあったんだが……自我の形成には至らなかったんだ。単純な命令を組み込むことなら可能なんだが、状況に応じた判断ができない」
「えっと……?」
「判りやすく言うなら、人間のような対処ができないんだ。例えば……農作業を一通り命令として組み込んだとする。その場合、その命令通りにしか動かないんだ。雨が降っていようとも、水をやる……といった感じにな」
「ああ……そういうこと」
「状況に応じた判断というのは、やはり自我が必要になる。そして、人形という無機物相手にそれを形成させるのは至難の業だ。成功例を聞いたことがない」
誰もが納得の表情になる中、クラウス殿は『不可能に近い』と言い切った。
それでも完全に否定しないあたり、クラウス殿は魔法の可能性を信じているのだろう。
「ってことは、クラウスでも私が話したやつの解明はできないってこと?」
「実際にどういったものか経験していないから、何とも言えないが……お前の話だと、その疑似世界の住人とやらは最初から性格などが組み込まれているんだろう?」
「うん」
「だったら、今、俺が話した内容と一致する。命令以外の行動を取っている以上、『誰か』の介入があったか、組み込まれた命令そのものに変更があったか。そのどちらかを疑うだろうな」
魔導師殿の話では、制作した側も意図しない出来事……ということだったはず。
ならば、クラウス殿が提示した可能性はどちらも違うということになるだろう。
しいて言うなら……その『介入した第三者』とやらが、魔導師殿曰くの『オカルト』に該当するということだろうか。
愉快犯が故意に手を出す可能性もあるだろうが、そのためには『疑似世界が存在している』ということが必須になる。つまり、不可能。
そう考えると、やはり『説明のつかないこと』になってしまうのだろう。
「ミヅキの世界の方がそういった案件は多そうだね」
「ですねー。クラウスでも解明できないあたり、オカルト案件はそれなりに存在してそうです」
「正直なところ、君が居た世界とは技術の差があり過ぎてよく判らないけれど……『魔法でも不可能なこと』、もしくは『意図しない出来事』が発生する場合があることだけは理解できた」
そう言って皆の考察を締め括ると、エルシュオン殿下は次の話を促した。
「さて、最後だ。最後に話をしてくれるのは誰かな?」
黒騎士「しかし、興味を引かれる出来事だな」
黒猫「だよね! 一度は遭遇してみたい!」
親猫「……(二人の会話にズレがある気が)」
※番外編やIFなどは今後、こちら。
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※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




