『イルフェナであった怖い話(?)』其の六
「……それ、別におかしな話じゃないかも」
エルシュオン殿下の話の後、説教を受けていた魔導師殿は……ぽつりと呟いた。
『あの、【おかしな話じゃない】とは?』
思わず疑問を口にすると、魔導師殿は肩を竦めた。
「魔王様の話にあったでしょ。『ぬいぐるみに自我ができて、守り手になっている』ってやつ。あれ、私の世界的に言うと……まあ、オカルト方面のことになるんだけど。似たような話は沢山あるの」
『何と……!』
魔導師殿は魔法のない世界出身だと聞いている。ただ、魔力を持った人は居るらしく、彼女自身の魔力は高いと聞いていた。
黒騎士達の予想では、『【魔法がない】と言うより、【魔法が発動しない世界】なのではないか?』となっているらしい。
魔力を抑制されるのか、魔力が何らかの要因で打ち消されるのかは判らないが、とにかく『個人』ではなく、『世界』に原因があるのではないかと。
その仮説を裏付けるのが、魔導師殿自身の存在と……彼女曰くの『オカルト』という文化。
魔導師殿によれば、『魔法のない世界では説明がつかない怪奇現象』とのことだった。
……。
確かに、魔法のない世界であったならば、『不可思議な出来事』や『怪奇現象』と称するしかないだろう。
例を出すなら、先ほどから要所要所で説明を求められている黒騎士達の見解だ。
彼らはこの場で語られる話に登場する不可思議な出来事に対し、『魔法を使えば可能か、否か』という方向で考えていた。
勿論、これは黒騎士達だけではなく、この場に居る全員が同じ方向で考えていただろう。
言い換えれば、『この世界において、魔法ならば説明がついてしまう出来事』なのだ。
だが、魔法がない世界であったならば。……『魔法が発動しない世界』という前提であったならば。
先ほどから語られている話のどれも、説明がつかない出来事としか言いようがあるまい。
辛うじて、占いや簡単な予知――ある程度の情報や条件が揃えば、予想ができるもの限定――が可能だったとしても、それ以外は無理な話だ。
人の手に成る呪術のようなものが魔法とは全く別の方法で確立しており、魔力を使うことなく、それを行使できなければならないじゃないか。
そもそも、アルジェント殿達の話にあった『存在しないはずの人』など、どう考えても不可能である。
アベル殿達の話に出てきた『神にも等しい存在』は……『異世界より来たもの』、『我々とは全く違う存在』という二点が事実であれば、可能なのかもしれないが。
まあ、こちらも限りなくゼロに近い確率だろう。そもそも、世界中に『オカルト』とやらが目撃されている場合、それなりの数が魔導師殿の世界を訪れているはずじゃないか。
「ミヅキの世界では、ぬいぐるみが動いたりするのかい?」
「ん~……ぬいぐるみに限定されずとも、『生き物を模したもの』は動いたとか聞きますね。『依り代』になって『何かに憑依されている』という場合と、付喪神のように『長い年月を経て魂が宿る』場合、後は……周囲の認識によって、『生きている』と思い込む場合とか」
「最後のはどういうことかな? 無機物……命なき【物】なんだろう?」
「周囲の認識が多大に影響する……といったやつだったと思います。人形を恋人のように扱い続けた結果、人形自身もそう思い込んで魂が宿る、みたいな?」
「……」
皆の脳裏に思い浮かんだのは、きっと、猫のぬいぐるみ。それも、日頃から『猫親子』と言われている二人を猫に例えたもの。
魔導師殿の話が事実ならば、その猫のぬいぐるみ達に自我が宿っても不思議ではあるまい。
なにせ、周囲からは『猫のぬいぐるみ』というより、『人間の二人が猫になった姿』的な認識をされているのだから。
しかも、常にエルシュオン殿下や魔導師殿、黒騎士達の魔力に晒されている。
言い方は悪いが、自我のある呪物になっていても不思議ではないような。
「ま、まあ、あの猫達に関しては問題ないじゃないですか!」
「そうです! 殿下の話が事実ならば、殿下を守っているようですし!」
どこか慌てた口調で双子の騎士達がフォローすると、人々――エルシュオン殿下と魔導師殿以外――は揃って『人間版猫親子』(意訳)に視線を向け。
「問題はなさそうだな」
「性格すらこの二人を模しているようですし、大丈夫でしょう」
あっさりと『問題なし』という判断を下した。どうやら、それが呪物であろうとも、守りとなっているならば問題はない模様。
……。
本 当 に い い の か 、 そ れ で 。
「ま、まあ、クラウス達が問題ないと判断したんだ。次の話に行こうか」
私の微妙な表情に気付いたエルシュオン殿下が、慌てたように話を打ち切り。
私は気分を切り替え、次の話を聞くことにした。
……呆れたとか、常識的な見解を諦めたわけではない。ないったら、ない!
※※※※※※※※
第六話『存在しないはずの場所』(語り手:ミヅキ)
次は私だよ! だけど、私はどうにもそういった『得体の知れない存在』って奴と相性が悪いらしくてね……。
うん、ほぼそういった存在とは遭遇しないし、怖い経験もない。
……あ゛? 『向こうだって、相手は選びたい』? 『存在自体がオカルト一歩手前』……?
そうか、そうか、そういうことを言うんだね♪ ……騎士s、後でちょっと騎士寮の裏に来い。言葉と物理でのお話があります。拒否は勿論、認めない!
さて、気を取り直して! あ、そこで固まっている双子は無視していいよ。自業自得です。
まず、大前提として。改めて言うけど、『私の世界には魔法が存在しない』。
ここ重要。だって、魔法があったらどうにかできちゃうって、私自身が思うもの。
この世界に来て、かなり強引な方法で魔法が使えるようになったからこそ、黒騎士達の仮説を否定できないんだ。
そう、『魔法が発動しない世界』ってやつ。言い方は悪いけれど、魔法って『魔力を持っている人間が試行錯誤すれば、何とかなっちゃう』からね。
証拠は私自身だよ。魔法がこの世界に伝わる遣り方でしか発動しないなら、私は魔導師どころか、魔法が全く使えないだろうからね。
それで、だ。
魔法がない代わり、私の世界では『科学』とか、この世界にはない知識や技術が発達しているんだよ。
判りやすい例を出すなら、医療技術かな。人の体の構成とか仕組み、自然治癒とはどういったものかという知識……この世界にはないでしょ? 細胞といった言葉なんかもね。
だって、そんな知識は必要ない。そういったものより、治癒魔法の研究をした方がずっと確実なんだもん。
私は医者じゃないけれど、ある程度の知識ならあるんだよ。簡単なことなら、誰もが習うからね。
……え? 『凄い』?
うーん……確かに、そういった知識を身に付ける機会が誰にでもあることは凄いと思う。
だけど、私の世界の人間から見た場合、魔法があることの方が凄いんじゃないかな? 治癒魔法や解毒魔法が私の世界にあったら、間違いなく歴史が変わっているだろうからね。
と、言うか。この世界の魔法……もっと言うなら詠唱って、本当に凄いものだと思うよ? ……術者の負担や魔力が暴走する可能性を考慮し、安全性に優れたものなんだから。
どんなに凄い技術であっても、安全性が確立されなきゃ使えないでしょ? 被害だって洒落にならないもん。
そりゃ、発動しない場合もあるし、術者が有する魔力量に威力が比例するけど、『誰でも安全に扱える』っていうことは変わらない。
まあ、魔術師は研究職だから、それを自分で改良するんだろうけど……その場合に伴う危険は自己責任でしょ。
……話を戻すね。
まあ、そんなわけでね。私の世界にはその高い技術力を利用した娯楽なんてものが多数存在する。
体感型ゲームもその一つ。これは疑似世界に自分の分身となるアバターを作り出して行なうもの……って感じかな。
うん、そのアバターは自分の分身だから、感覚なんかも共有してるよ。見た目も弄れるから、様々な外見のアバターが存在する。
逆に言うと、そのアバターの設定になりきって遊ぶ人も居るんだ。本体は凄く礼儀正しい人なのに、アバターの時は自由奔放、とかね。
だけど、あくまでも娯楽だから、現実とは違う要素っていうのもある。
魔法が使えたり、通常ではあり得ない身体能力を発揮した剣技とかが一番有名かな。後は……痛覚なんかは、現実の何分の一かに設定されているよ。
『娯楽』だからね、これ。現実離れした世界を楽しむものだから、そういった面で明らかな違いがある。
それでね、当たり前なんだけど、参加者……プレイヤーは『アバター同士の交流になる』。
勿論、本体同士の交流がある人達だっている。だけど、基本的には『疑似世界において、自分の分身同士が知り合っている』という感じ。まあ、仲良くはなれるんだけどね。
で、ですねー……それに纏わる『怖い話』というのが幾つか存在しているんだよ。
その一つが『閉鎖されたはずの疑似世界に行くことができる』ってやつ。
疑似世界は技術によって作り出されているものだから当然、維持費がかかる。メンテナンスだって必要。
だから、人気がないゲームは割と容赦なくサービスを終了したりする。これは仕方ないよね、慈善事業じゃないんだし。
だから、サービスを終了したゲームの疑似世界は削除される『はず』なんだよ。
それなのに、サービスの終了を知らずにログイン……その疑似世界に行ってみたら、普通に存在していた、とかね。
――ただ、そういった世界は『奇妙と言うか、違和感を感じる』といった共通点があるらしい。
プレイヤーが居ないのは当たり前なんだけど、見たことがない敵が出現した、とか。
元からその世界に存在する『住人』の言動が、物凄く不穏なものになっていた、とか。
とにかく、不気味な仕様になっている……というのが、怖い話における定番かな。だけど、当事者であるプレイヤーは疑似世界がそういう仕様になったと思っているから、最初は全く気付かない。
疑似世界でそれを経験して驚き、現実世界に戻ってから仕様変更の確認をしようとしたらサービスの終了を知って、慌ててもう一度行こうとしても行くことができない。
だから、『検証できない』。何故か、その時に撮った画像なんかもバグっているから、証拠になるものが存在しないんだよ。よって、開発会社への問い合わせも無理。
ちなみにこれ、幸運な方の話ね。
不幸と言うか悲惨な話になると、『そのまま現実世界に帰って来れない』とかになってるし。
……ん? そう、『本人が帰って来れない』ってことになってるの。当然、『その話は誰から聞いた?』ってことになる。
だから、『怖い話』なんだよ。
誰かの創作でもない限り、『故意に広めた輩が居る』ってことなんだから。
それ、何のためだと思う? 私はね……『興味を持った人を、疑似世界に来させるため』だと思っている。
さっきも言ったけど、疑似世界を使ったゲームは『遊んでいるプレイヤーが必須』なんだもの。
それにさ……元からその疑似世界の住人として作られている存在だって居るんだよ? 人と変わらぬ受け答えが出来、多くのプレイヤー達と交流してきた存在がね。
彼らが設定されたもの以外の意識を持ち、消滅に納得していなかったら?
感情が芽生えた彼らが、『寂しい』という気持ちのまま、現実世界の友人を呼んだら?
そして……呼ぶだけでは満足せず、閉じ込めようとしたならば。
疑似世界内とは言え、人として扱われてきた存在なんだよ。それも『数多くのプレイヤー達がそう認識してきた存在』!
自我を持っても不思議はないし、疑似世界はある意味、彼らのテリトリー。外部からの干渉を遮断してしまえば、助ける術はない。そもそも、『すでに存在していない世界のはず』だしね。
『被害者』が居なくなってしまえば、真相は闇の中。接点だった疑似世界がすでに失われている――少なくとも、現実世界ではそうなっている――以上、他のプレイヤー達への警告も不可能でしょう。
そして、噂のみが伝わっていく。新たな『住人』を招くために。……なんてね?
猫のぬいぐるみ達ってさ、皆に本物の猫のように可愛がられているし、私と魔王様の猫版みたいな認識をしている人達が大半じゃない?
だからさ……本当に『そういう存在』になっても不思議はないと思う。魔王様の魔力を常に浴びている状態だし。
……。
あのですね、実は私、一つの噂を聞いたことがあるんですよ。
それは『王城内で猫を見掛ける』ってやつ。目撃情報によると黒い子猫らしいよ?
まあ、黒い猫なんて沢山居るから、どこからか入り込んでいるって思っている人が大半みたい。
だけど、魔王様の話を聞くと……ガチで動いているかもしれないな~、なんて。
その猫も『夜、たまに見かける程度』という話だから、どちらかと言うと、野良猫が入り込んでる説が有力なんだけどね。
でもねぇ……本当に動いてたりしませんかねぇ?
親猫「ちなみに、ミヅキがそういった経験をしたことは?」
黒猫「ない! 一度くらい経験してみたい!」
黒騎士「この世界に来たことで我慢しろ」
白騎士「異世界転移ですよ、凄いじゃないですか」
黒猫「私は!ゴーストとかを見てみたいの……!」
親猫「……(君、動く骨を『人型カルシウム』とか言ってなかった?)」
(※書下ろしの17巻参照)
※来週の更新はお休みさせていただきます。
※本日『魔導師は平凡を望む 30』が発売予定です!
今回は全編書下ろしですよ♪ 宜しくお願いします。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




