『イルフェナであった怖い話(?)』其の三
「……」
クラウス殿の話と、黒騎士達に疑いの眼差しを向ける者達を見て。……私はどう言って良いか判らなかった。
特に、双子らしき騎士達は『まさか……』『いや、クラウス殿達にはストッパーが居るから!』と、こそこそと話し合っている。
……。
つまり、優秀な魔術師は皆、今言ったようなことをやらかす可能性があるのですね?
口にこそ出さないが、私は顔が引き攣るのを止められない。
た……確かに、『怖い話』ではあった。ただ、アルジェント殿の話を聞いた後だと、クラウス殿の話はどう聞いても『魔術師が怖い話』と言った方が良いような。
民間に語られている話は多分、『正体不明の魔術師が味方をしてくれた』といったものだろう。
だが、どうやら一部の人々、特に魔術師達の間では別の解釈が成されているようだ。
しかも、誰もそれに異議を唱えていないような。
え、魔術師って……そんなにヤバい奴認定されているのか!?
「さて、それじゃあ次の話にいこうか」
『そ、そうですね』
気遣うようなエルシュオン殿下の提案――微妙に顔が引き攣っていたように思えるのは、気のせいか――に、私は即座に頷き。
次の話が始まったのだった。
※※※※※※※※
第三話『訪ねて来たのは』(語り手:アベル)
あ~……、次は俺か? そうは言っても、あんまりそういった話を知っているわけじゃないんだが。
……。
いや、一応、話は用意してあるぞ。しかも、俺自身の経験談。
まあ、それが『オカルト』と呼ばれるものかは判らないんだが、とにかく不思議と言うか、不気味だった経験だ。
……ん? 『【オカルト】と呼ばれるものかは判らない』って、どういうことかって?
いやぁ……関わった奴らからすればオカルトと言えるのかもしれないんだけどさ? その、単なる犯罪の方かもしれないんだよなぁ……。
まあ、いいか。それは聞いてから判断してくれ。
あれは俺がまだ子供と言える年齢だった頃のことだ。
うちは貴族と言ってもあまり身分差を気にするような家じゃないから、近所の子供達と遊ぶことも珍しくはなかったんだ。
『子供は身分を気にせず子供らしく遊び、多くを学べばいい』……そんな教育方針なんだよ。だから、民間人とも距離が近いって言うか、割と気安い関係なんだ。
まあ、貴族としては珍しいかもしれないよな。イルフェナであっても、身分制度はしっかり根付いているしさ。
下級貴族は特に、そういった傾向にあるような気がする。あれだ、功績なんかで爵位を貰って、『特別になれた』って思う奴が多いと言うか。
逆に、高位貴族は『身分に沿った実力を身に付けねばならない』っていうこの国独自の方針から、身分制度を忘れることができないんだろうな。
まあ、俺としては良いことだと思うよ。それなら、下の奴らも特権階級の在り方に納得できるだろうし。
それで、だ。
俺達兄弟は家のそういった方針によって、身分差なく、『誰か』と付き合うことが当たり前だった。
……うん、今ならそういったことの重要さも理解できる。
『立場が変われば、見方も変わる』――身分差なく接することだけじゃなく、そういったことも学ばせたかったんだろうな。
ミヅキを見てると、その重要さがよく判るよ。だって、ミヅキは『様々な視点から考察し、相手を追い詰めて行く』からな。
……ん? 『それが重要なのか?』って?
自分から見た一つの出来事が、他者から見ても同じ解釈をするとは限らないだろう?
ミヅキはさ、そういった複数の視点から考察して逃げ場を奪っていくのが得意なんだよ。だから……ターゲットになった奴は『逃げられない』。
追い詰められてから逃げ場を探そうにも、すでに手段が潰されているんだぞ? 気付いた時には手遅れさ。
まあ、ミヅキのことはどうでもいいんだ。あいつのことは『敵になるな、危険』って覚えておけばいい。
実際、敵になったり、興味を抱かない限り、ミヅキは手を出さない。飼い主たる殿下のこともあるし、本当に『報復専門』なんだよ、あいつ。
それを判っていない奴らが、勝手にミヅキを敵認定してくると言うか、巻き込むんだよなぁ……。
俺とカインは毎回、呆れているからな? 『自分から玩具になりに行くなんて、馬鹿か』ってな。
……話を戻すぞ。
そんな感じでな、俺達の周囲には比較的人が多いと言うか……気安く声を掛けてくれたりすることが常だったんだ。
それが前提となる。本題はここからだ。
その頃、子供達の間では所謂『秘密の隠れ家』が流行っていた。
ああ、勿論、王都でのことじゃない。ディーボルト家が所有する別宅がある地域でのことだ。
『のんびり過ごしたい』という目的で作ったらしくてな、周囲は森に囲まれ、すぐ近くには村一つといった、のどかな場所だよ。
『村』とは言ったが、商人達が立ち寄るせいか、寂れた印象はない。何て言うか……そこそこ活気のある村、といった感じかな。
ただ、こういった言い方は悪いが……まあ、田舎ではあるんだよ。だから、子供達の遊び場は専ら森とかだったんだ。
森と言っても、子供の遊び場になるような場所は拓けていると言うか、明るいというか、大人達が心配しない程度のものでさ。
子供だけで遊んでいることなんてしょっちゅうだったし、俺達もそこに混ぜてもらっていたんだ。
それでも、それだけだと退屈してくるのが子供だろう?
だから、少しだけ足を延ばして、森の中を探検したり、小屋がある場所まで行ったりしていた。
この小屋も、子供達が遊び場にすることを想定していたのかもしれないな。管理人みたいな人が居ることもあったけど、笑顔で迎えてくれたし。
……ああ、小屋の管理人らしき人はいたんだよ。小屋と言っても、複数の部屋がある小さな家って感じ。
やっぱり、子供が無茶をすることを想定されていたんだろうな。まあ、それ以外にも、森の見回りといった仕事はあっただろうけど。
『人が迷うような森じゃない』って言っても、それはあくまでも地元の連中とか、ある程度は慣れている奴にとってのこと。
それにさ、どこからか入り込んで、迷った果てに村の近くまで来た……なんてこともあるかもしれないよな。
そんなわけで、子供達の行動範囲内ならばそれほど心配されていなかったんだ。子供達だけで小屋まで行く……なんてこともざらだったし。
だから、『秘密の隠れ家』なんて言っても、大人達にはバレバレだったんだ。
洞窟とか、隠れられそうな場所なんて、子供時代に大人達が使ったままみたいだったし、『今度はあの子達が使うのか』みたいな感じで微笑ましがられていた。
管理人が居る森の小屋も、子供達にとってはその一つ。
誰かと喧嘩をした、とか。
家に居たくない、とか。
本当に、少しだけ姿を隠したい時なんかにも、その小屋は使われていた。まあ、ある意味、大人達にとっても安心な隠れ場所だったんだろうさ。いざとなったら、管理人も居るし。
――俺の経験は、そんなある日のことだった。
その日は小雨が降っていた。普段はそんな日に出歩かないのに、あの時、俺達はもうすぐ王都に帰ることになっていたんだ。
それも、いきなり朝食の席で『王都への帰還を早める』なんて言われてさ。
ぶっちゃけて言うと、俺はそれが不満だったんだよ。事情を聞こうにも、使用人達は準備に追われて、慌ただしく動いていたし。
俺はそれも不満で、それ以上に退屈で。
だから、ひっそりと館を抜け出して、森の小屋を目指したんだ。あそこなら大丈夫――そんな想いもあったんだろうな。
俺が小屋に辿り着いた時、管理人は居なかった。小屋の鍵は開いていたから、少しだけ外に出ていたのかもしれない。
そんなことも珍しくはなかったから、俺はいつも子供達が遊ぶ部屋に行ったんだ。そこには子供達が持ちこんだ物があったし、誰かが居れば良いと思ってな。
……残念ながら、その日は誰も居なかった。雨が降っていたから、俺も特に気にしなかったよ。そんな日もあるだろう、って感じで。
ただ、他の子供に会ったとしても、俺は少し気まずかったと思う。漸く仲良くなれたと思ったら、『王都に帰らなきゃならない』って言わなきゃならないんだし。
最初はやっぱり、俺達が貴族だってことで、どうしても壁があったんだ。それを思い出させるようなことを言わなきゃならないなんてな。
……暫くして、部屋のドアを叩く音が聞こえたんだ。
『アベル? そこに居るのか?』
聞こえてきたのはカインの声だった。俺を心配して追ってきたのかと思ったけれど……何故か、俺は応える気にはならなかったんだ。
『アベル、居るならドアを開けてくれ』
カインは……いや、『カインの声』はそう言ってきた。だけど、俺は返事をするどころか、息を潜めて不在を装った。
どうしてだか判らないけど、俺はどうしようもなく違和感を覚えたんだよ。
『アベル……居ないのか』
そう言って、声は去っていった。今の俺なら、気配が去っていくのも判っただろうな。
そのことに安堵して……俺は違和感の正体に気が付いたんだ。
何故、カインは自分でドアを開けなかったんだ?
この部屋に鍵なんてないことを、あいつは知っているはずなのに。
そう思うと同時に、俺は『この小屋の決まり事』を思い出した。
……そう、その小屋には『必ず守らなければならない決まり事』があったんだ。
曰く、『ドアは部屋に入ってくる者が開けなければならない』。
『入室の許可を取ること』ではなく、『部屋に入る時は一声掛ける』でもなく、部屋に入ろうとする奴がドアを開けなければならないんだ。
最初、俺は室内で遊んでいる子供達の手を煩わせないためだと思っていた。
だけど、今の出来事を思い返すと、それは『決まり事を守らない奴は、【内部に招いてはいけない存在】だから』という意味だったんじゃないかと思ってしまったんだ。
……気付くと同時に、背筋が寒くなった。
俺はその決まり事を知っていたのに、声を掛けられている間は欠片も思い出さなかった。
違和感を覚えても、何故か『相手がカイン』だってことは疑わなかった!
あの声の主が去ってから、色々と思い出したんだよ。だからこそ、こう思う……『それがあの声の主の能力じゃないか』って。
ミヅキ曰く、俺には危機察知能力があるらしい。それが違和感という形で俺に警告を与え、災厄から遠ざけたとするならば……。
それにな、この話はこれで終わりじゃない。
そのすぐ後に管理人が帰って来たんだけど、その時、判っちゃったんだよ。……小屋に入ってくる音がしなかったって。
森にある木造の小屋だから、入る時はドアが少しだけ軋むって言うか、音が鳴るんだよ。事実、管理人もその扉を修理しようと思って、道具を取りに行っていたらしいし。
だけど、俺には扉が軋む音は聞こえなかった。
それどころか、足音すら聞こえなかったと思い出した。
そう気づくと、俺にはここがとんでもなく怖い場所に思えたんだ。管理人も何となく察したのか、『雨が酷くならないうちに帰れ』って追い出したし。
そうして、館に帰ってきて……俺は一番の違和感を思い出した。
その日、カインは体調を崩して寝込んでいたんだ。
だから……俺は一人であの小屋に遊びに行ったはず。
丁度カインは起きていたから、俺はその違和感を含めてカインに話したんだ。俺一人で抱え込むには、あまりにも怖かったから。
カインは黙って俺の話を聞いていたけど、やがてぽつりとこう言った。『それ、俺の所にも来たかも』って。
『アベルが小屋に行っていたのに、アベルの声で【起きているなら、ドアを開けてくれ】って言われたんだ』
『俺はドアをノックする音で目が覚めたんだけど、アベルは俺が寝込んでいることを知っているし、心配だったら、そっとドアを開けて入ってくるだろ?』
『それに……アベルの声だったけど、何て言うか、開けたくなかったんだ』
『夢かと思っていたけど、今のアベルの話を聞いて、夢じゃないと思えた』
……カインも同じ目に遭っていたんだ。いや、もしかしたら、俺が応えなかったから、カインの所に行ったのかもしれないな。
カインの体調は翌日、あっさりと全快した。……オカルト的に考えるなら、俺達を一人にしたかったのかな、なんてな。
これがオカルトと言い切れないのは、不審者という可能性もあるからだ。
館内は帰る準備で慌ただしく、こっそりと忍び込むことも不可能じゃなかったかもしれない。
俺は魔法に詳しくないけど、声なんかも魔法でどうにかなるかもしれないしな。
勿論、俺の方にもその可能性がある。俺達が貴族だってことは、皆が知っていただろうからな。子供ならば簡単に騙せると思われても、不思議じゃないだろう。
だけどさ、これが『オカルト』だって言うなら、ちょっと怖いよな。
だって、危険を回避できる俺達であったとしても、こんなことが起きたんだぞ?
……『向こうから来たら、どうしようもない』ってことじゃないか。
勿論、俺達は違和感を抱いて、そいつの思い通りにはならなかった。
だけど、その違和感を抱けないような場合は。……誘導されるように、呼び声に応えたり、ドアを開けてしまったら。
その時は……どうなっていたんだろうな?
親猫「ミヅキだったら、嬉々として開けそう」
黒猫「殺る気満々で、相対しますね! 獲物は向こうの方です」
黒騎士「待て、まずは捕獲して詳しく調べるべきだろう?」
双子「……(こいつらの所に行かない理由が判った)」
※10月12日に『魔導師は平凡を望む 30』が発売予定です!
今回は全編書下ろしですよ♪ 宜しくお願いします。
※活動報告に『魔導師は平凡を望む』特設サイトの詳細があります。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




