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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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小話集33

小話其の一『黒猫は遊び始める』(ミヅキ視点)


 目の前の騎士様に視線を向けつつ、私は周囲の騎士様達をこっそりと窺った。

 ……。

 うん、皆さん非常にお行儀が良さそうな印象ですね! だけど、素直に『素敵な騎士様達ね♡』という印象を抱くかと言われれば……間違いなく『否』だ。


 だって、人当たりの良さそうな笑みがアルを彷彿とさせるもの。


 アルは魔王様の側近であり、公爵家のご子息であり、口調も丁寧な、人当たりの良い好青年……というのが、『何も知らない人からの評価』。

 その内面は、極一部以外はどうでもいいと考える人嫌い。

 いや、そこまでならいいんだ。そこまでなら!

 問題は、アルが貴族どころか王族相手でさえもその態度を貫き、時には『バレたらヤベェ!』と言わんばかりのことをさらっと行なっちゃうことだろう。

 これ、可能性の話ではない。実例を出すなら、サロヴァーラのリリアンだ。

 幼気な王女を誑かした――本人にその気はなくとも、情報収集のために確実にやっていると思われる――事実がティルシアにバレれば、報復必至である。

 ……で。

 そんな困った面がある『問題児・アルジェントさん』だけど、本性を知らなければ、本当に『身分を問わず、人当たりの良い青年』なのですよ。

 私の目の前に居る騎士様って、どことなくアルを連想させるんだよねぇ……私を拉致しに来たもう一人――魔王様の所に行ったのか、今はこの場に居ない騎士様――もそんな感じだったし。


 警戒するなって言う方が無理なのですよ。

 寧ろ、アルを知っていたら、警戒するのが当たり前。


 騎士様達もどことなくそれを察しているらしく、私が警戒するような態度を見せても気にしない。

 と言うか、私の馬鹿正直な受け答えの方が予想外だったらしく、時には素直な驚きを見せていた。

 私としては、彼らがイルフェナ所属の騎士、それも『翼の名を持つ騎士』と呼ばれる忠臣だからこそ、下手な誤魔化しをしない方が良いと判断しただけなんだけど。


 だって、彼らは『騎士寮面子の同類』じゃん?

 一芸特化の、『天才と何とかは紙一重』を地で行く皆様(予想)じゃん……?


 騎士寮面子に馴染んだ私としては、そう判断せざるを得ないのですよ。ほら、近衛だって、クラレンスさんみたいな人が当たり前のように居るんだし!

 そんな人達相手に、誤魔化そうとしようものなら……まあ、普通に考えて、拘束時間が長くなるだけですからね!

 さくっと全部喋りますとも。聞きたくないこと……いや、『聞かない方が良かったこと』が多大に含まれる内容だったとしても。


「君さぁ……馬鹿正直に全部話しているみたいだけど、エルシュオン殿下から口止めとかされていないのかい?」

「別に言われてないと思いますよ」

「……。本当に?」

「本当ですって。まあ、好き勝手に生きているので、私が気付いていない可能性もありますけど。だって、常に『最善の対応』を心掛けているなら、そういった制限は邪魔にしかならないでしょう?」

「君はその判断ができる……そう思われているっていうことかい?」

「そのくらいのことができなければ、他国で立ち回りなんてできませんって」


 からからと笑えば、騎士様は何とも言えない表情で押し黙った。その沈黙に、私の考えが正しかったと知る。

 はは、嫌ですね、騎士様? 私はそんな判りやすい手には乗りませんよ?

 ちなみに。

 この問いかけ、実は『魔王様がそういった指示を出していたか、否か』ということを知るための罠である。『飼い主の傀儡になっているか、否か』という確認ですね。

 だから、『はい』や『いいえ』といった、明確な回答はNGだ。私が魔王様の手駒になっていると思われてしまうもの。

 対して、先ほどの私の答えは『あくまでも、私がどう考えているか』というものであり、魔王様自身の考えは不明なのであ~る! 『指示を出された』とも言ってないしな……!

 さて、ではもうちょっと遊んでみましょうか。


「言っておきますが、受け答えの全てはあくまでも『私個人の解釈』ですよ? 『ご存じだとは思いますが』、魔王様は誰の目から見ても、私に対して過保護ですから」


『知ってるよなぁ? 「知らない」とか言わないだろうなぁ?』と言わんばかりの脅しを込めれば、騎士様の顔が判りやすく引き攣った。


「あ……ああ、勿論、知っているとも」

「そう、良かった! いやぁ、これまでぶつかった人達の中には、よっぽど私に負けたことが悔しいのか、『魔王様の指示』を疑う人も居まして! ……『イルフェナの騎士様が、そこまで馬鹿だったらどうしよう!?』とか、ちょっと心配になっちゃいました!」

「へ、へぇ……?」

「ですが、違ったみたいで安心しました。でも、疑ったのは事実なので謝罪しておきますね。ごめんなさい」

「……。いや、君の言い分ももっともだ。こちらこそ、すまなかったね」


『疑惑を抱いたのは、これまでの経験のせいなのよー!』と主張しつつ謝罪すると、騎士様達もさすがに咎めるわけにはいかないと思った――嘘は言っていないからだ――のか、謝罪の言葉を口にした。

 ……チッ。


 揶揄って遊んでいるのが、バレたようだ。さすが、選ばれし騎士。


 寧ろ、ここで互いに謝罪などせず、このまま会話を続けていたら、ガンガン不敬罪への道を突き進んだと思われる。

 私の立場は元から民間人だが、騎士様が疑いを向けているのは魔王様――『王族』だからね。互いに『不敬』なのですよ。

『魔導師だろうと、民間人だろうが!』という言い分に対し、『貴様がエルシュオン殿下にくだらん疑いをかけるからだろうが!』と怒鳴り返され、泥沼化すること請け合いだ。


 なお、その時に争うのは、私と騎士様ではない。魔王様VS兄上様ということになる。

 互いの子飼いに端を発する、兄弟喧嘩勃発。多分、互いの騎士達にも飛び火する。


 それはそれで楽しそう(?)だけれど、後から魔王様の説教が確定なので、ここで止めておくのがベストなのだろう。

 向こうもそれが判っているからこそ、深追いはしなかったんだろうな。空気が読める騎士様相手だと、騒動が不発に終わるらしい。

 ……。

 ちょっと、残念。


 ――その後、私と騎士様達の言葉による攻防戦が勃発。


 互いに決定打を言わず、言葉の裏を読み取って回避……という、非常に地味な争いが始まった。

 そろそろ退屈してきた私にとっては『相手を知る、楽しい遊び』だが、それは挑発に乗ってきた騎士様達にとっても同じだろう。

 多分、この話し合い以降は私の評価がろくでもないもの――『噂』ではなく、『事実』として認識される――になるだろうけど、後悔はない。

 後悔は全く! これっぽっちも! ないのだけど!

 ……。

 そろそろ、お迎えが欲しいなー?



※※※※※※※※



小話其の二『親猫、何やら不穏な気配を察知』(魔王殿下視点)


「……」


 沈黙が続くティータイムだが、私は何故か……非常に嫌な予感がしてならなかった。

 その対象は、目の前のファレルではないだろう。彼は私の抑え役(予想)なので、下手な手を打ってはこないはず。

 ならば。

 ならば、この『嫌な予感』はやはり……。


「……そろそろ、ミヅキが退屈して遊びだすような気がする」

「は?」


 無意識に呟けば、ファレルが怪訝そうな顔で私を見つめていた。

 ……。うん、普通はそうなるだろうね。『退屈する』はともかくとして、『遊びだす』とか、訳が判らないだろう。

 しかし、そんな反応をしたのはファレルだけであり。


「ああ……確かに、そろそろ飽きてきたかもしれませんね」

「自業自得では?」

「知らなかったとはいえ、気の毒に……」


 アルと双子に至っては、納得の表情で頷いていた。

 そもそも、いつもならば私の休憩に合わせ、ミヅキもここに来ているはずなのだ。

 それなのに拉致に近い形で招待され、おやつの時間も潰されている。そして、今なお拘束が解かれないとくれば……。


 犠牲者は当然、兄上を含めた彼の騎士達。

 まあ、彼らも優秀なので、そう簡単にやられはしないだろうけど。


「あの、『遊びだす』とは? あの子は我が騎士寮に居るのですが」


 困惑したまま、ファレルが問いかけてくる。私だけならば『心配している』で通るのかもしれないが、アル達までもが同じ反応をしたことに違和感を感じたらしい。


「そのままの意味ですよ」


 アルがとても優しげ……いや、楽しそうな表情で会話に加わってきた。


「子猫は遊び盛りですから、退屈がとても嫌いなのです」

「子猫!? ああ、あの子のことか。いや、まあ、確かに、楽しい時間とは言い難いと思うけれど……」

「いえ、それはいいのですよ。寧ろ、ミヅキからすれば、隠すことなど何もないのです。彼女は己の行ないを何一つ恥じてはおりませんので、正直に話していると思いますよ」

「う、うん? そうなのかい?」

「はい」


 言い切られ、ファレルの困惑は益々深まったらしい。訝しげに目を眇めている。

 ……。


 確かに、己の所業を何一つ恥じてないな、あの馬鹿猫。


 寧ろ、少しでも恥じる気持ちがあるのならば、多少なりとも大人しくなるはずだ。

 しかし、そんなことは夢のまた夢。叱ろうが、叩こうが、ミヅキの『あの』性格が矯正されることはない。

 それほど簡単に性格矯正が叶うならば、私は親猫呼ばわりされていまい。双子とて日々、『少しは自分を見失え!』と口にしているではないか。

 だが、そんなことを知っているのは、ミヅキと親しい極一部の者達に限定される。

 結果として、ファレルは私達の言葉の意味が判らず、首を傾げているのだった。哀れなことである。


「ミヅキはね、言葉遊びを好むんだよ」


 溜息を一つ吐いて、私は話し出した。


「君達はきっと、ミヅキから話を聞き出そうとするだろう。その中には当然、引っ掛けのような質問が含まれると予想される。だけどね」


 一度言葉を切って、ファレルへと哀れみの籠もった目を向けた。


「ミヅキはそんな手に乗るほど愚かではないし、気付かないはずがない。だからね……自分からも仕掛けて『遊ぶ』んだよ。性質の悪いことに」

「え゛」

「勿論、聞かれたことには素直に答えていると思うよ? だけど、君達はそれで済ませているのかな。そうでないならば、ミヅキの玩……いや、遊び相手にされても不思議はない」


 しまった、つい本音が。

 さすがに『玩具』扱いを口にするのは宜しくない。あれは一方的にミヅキが『遊ぶ』だけじゃないか。

 彼らは仮にも兄上の騎士なのだから、ミヅキの言葉を上手くかわしているだろう。……そう思いたい。

 それでも、腹立たしいのは事実なので。


「無事だといいねぇ?」


 煽るくらいは許されるだろう。……アルと双子が、笑いを堪えるかのように顔を背け、肩を震わせていたとしても。

子猫「退屈になってきたから、あーそぼ♪」

親猫「……(不穏な気配を察知)」

不穏な気配を察しても、助けに行かない親猫様。

肩を震わせているアル達同様、立派に子猫の同類です。

※来週の更新はお休みさせていただきます。お盆ですねぇ……。

※活動報告に『魔導師は平凡を望む』特設サイトの詳細があります。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、今まで魔王さまが子猫の相手をしてる騎士達の心配してても同時進行である子猫視点ではそう心配する程の精神ダメージを受けてないと思ってましたが、ここからだったんですね。
[一言] 更新お疲れ様です。 この国の「優秀な騎士様」=変人か、変態か、サイコパスな人、もしくはその全部が当てはまる人かと思っていたので、王太子様の所の翼の騎士様達は、エルシュオン第二王子殿下の所に…
[一言] わー…。ミヅキちゃん、すっごい気をつかってますねー。一応『敵』扱いする訳にはいきませんしー。せいぜい猫らしく『飽きたー。違うことしよっと』になりますよねー。魔王様ーそろそろお迎え行かないと子…
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