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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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とある王子様の独り言(王太子視点)

「……」


 騎士達の間に隠れながら、私は何とも言えない心境で魔導師殿を見つめた。『隠れている』などと言っても、今の私は騎士の一人を装っているだけだ。

 ただ、魔導師殿に直接会ったことはないから、きっと彼女は私の顔など知らないだろう。何より、過保護な我が弟は、この子を厄介事から遠ざける傾向にある。

 そういった意味でも、このように無理矢理な方法を取らなければ、今後、魔導師殿との接点はない。これは確信だった。


 彼女は異世界人、それも魔導師なのだ。

 そして、私はこのイルフェナの次代の王たる存在である。


 ゆえに、私と妃は異世界人――魔導師殿に関わることを避けていた。父上達とて、直接の関りを持ち出したのはつい最近である。

 エルと魔導師殿の距離が近いからこそ、いざという時に『押さえ役』を担える者まで、仲の良い姿を見せるのは宜しくない。厳しい対応ができないと、周囲に判断されてしまうから。

 ……が。

 魔導師殿とエルは、こちらの思惑を綺麗にすっ飛ばして、妙な方向に成長を遂げていた。


 何故、魔導師と言えども異世界人のあの子に、我々ですら吃驚の教育を施すのだ。


 何故、あの子はそれにあっさりと馴染めるのだ。


 何故、本来ならば、それを止める存在であるはずのアル達が後押ししているのだ……!


 ……。

 様々事情があったせいもあり、弟が異様に自分に対して厳しいのは知っていた。ある意味、それも仕方ないことだと理解もしよう。

 それはいい。そこまでならいいんだ。エルとて、『実力者の国』と呼ばれるイルフェナ、その王族の一人なのだから。

 問題は、どう考えても……エル発案らしき魔導師殿への教育にある。


 魔導師を名乗る以上、危険視されることは避けられない。『力』とは時に、畏怖されるもの。

 本人がよく判っていないならば、後見人たるエルが色々と教えるべきなのだ。


 しかし、何~故~か、エルはそういったことは教えずに、『一人で生きて行けるように』と言わんばかりの教育を施した。

 と言うか、どうも報告を聞く限り、最初から魔導師殿自身の選択を支持し、本人の意思を最優先にしてきたように思う。

 ……異世界人には『飼い殺される』という選択もあるというのに、あえてそれを教えなかったのだから、そう判断するしかない。

 言葉は悪いが、それもまた異世界人を守ることに繋がるのだ。たった一人で放り出された異世界、そこで生きていくのは簡単ではない。


 ……そう。

『簡単ではないはず』なのだよ、普通なら……!


 それが一般的な考えであり、大半の者達とてそう思っていたはずだ。イルフェナでさえ、民間人が貴族階級に馴染むには時間がかかるじゃないか。

 それを知っていたら、それ以上に大変だと……常識さえ違うことが壁になるのだと、思うことが普通だろう。


 しかし、魔導師殿――ミヅキは普通ではなかった。

 そして、その後見人たるエルも普通ではなかった。


 誰かが無理にでも距離を詰めておけば、その教育の異様さに気付いたのかもしれない。

 まあ……気付いたところで、二人の在り方を『(様々な意味で)良いもの』として捉えているらしい騎士達に脅は……いやいや、『説得』され、何もできずに終わる可能性も大いにあるが。

 エルやミヅキばかりが目立っているが、あの騎士達も相当なのだ。寧ろ、二人よりも厄介だと私は思っている。

 それは私の騎士達も同様で、『できれば揉めたくない』というのが本音だとか。

 ……。


 過去に何があったのか、非常に気になるところである。

 絶対に、爵位や功績を誇示されたといった、普通の嫌がらせじゃあるまい。


 他国ではどう思われているか判らないが、エルの騎士達は我が国においても群を抜いて優秀で、同時に性格が悪いと評判だった。

 なお、それが彼らに婚約者の一人もできない理由である。

 いくら顔が良くて優秀だろうと、将来がどれほど有望であろうとも、人間性に難ありでは、まともな信頼関係など築けまい。

 元より、騎士とは家庭よりも仕事と忠誠を優先する職業なので、女性によっては『憧れるけれど、恋人や家族としてはどうかと思う』と判断されがちだった。

 そこに更なる不安要素などが加われば……まあ、まず恋人からは振られるだろう。女性は存外、シビアな目を持っている。

 それを別にしても、エル達の評価はどんどんおかしなものになっていったのだ。当然、私も放っておくことはできず、それなりに調べている。



・『執務室で二人が仲睦まじく過ごしている』という噂について。


 さすがにエルがそんな真似をするはずがないと、手の者を向かわせてみた結果、『ある意味では正しい』という結論が出た。

 ……執務机に座ったエルの背に、ミヅキが張り付いているだけ、だが。

 その上、ミヅキはエルの手元を覗き込んでおり、時折、小声で会話を交わしている、と。


結論:ただの教育だった。ただし、私的には『何をしてるんだ、エルぅっ!』という心境である。

  おい、民間人でしかないミヅキに一体、何を教え込んでいるんだ!?


・『猫親子』という表現について。


 これも部下を向かわせてみたところ、帰って来た者は盛大に困惑した表情で、『二人して猫耳を着けていました』と報告。

 意味が判らず、その場に居た全員が首を傾げ、それが事実と判ると、大混乱に陥った。


結論:仕草や遣り取りが猫っぽいだけでなく、ある意味、事実だった。

   と言うか、仕事中に遊ぶな! お前ら。



 ミヅキの性格がかなり……その、変わっているという報告は受けていた。ただ、彼女は異世界人だし、多くの者は『そういうこともあるだろう』で済ませていた。

 常識さえ違う世界出身なら、性格その他に違いがあっても不思議ではないだろう、と。

 しかし、エルはそうではない。正真正銘、この国の王族なのだ。

 にも拘らず、エルはしっかり感化され、最近では後見人と言うより保護者、もっと言うなら、完全に親猫である。

『弟君って、何か雰囲気変わりましたよね』とは、私の騎士の言葉だ。……『親猫染みてきましたね』と言わないあたり、彼らの気遣いを感じる。

 ただ、以前のピリピリした感じのエルと比べると……今の方が感情を出すようになったと思う。

 そこだけは素直に感謝していた。ミヅキだけでなく、今までエルを守ってくれていた騎士達にも。

 ただ……。


「眠るのは死んでからでもできます! まずは報復ですよ! 嘗められたままだと、馬鹿は調子に乗りますし」


 ……。


「落ちるところまで落ちたら、後は這い上がるだけですよね。寧ろ、そこからが本番でしょう! そこから始まる快進撃! 弱者と侮られたからこそ、完膚なきまでに叩きのめした時は、気分爽快です。楽しい時間の始まりですよね」


 ……。


「隙がないなら作ればいい。落ち度がないなら、陥れればいいじゃないですか。貴族なんて、敵を陥れてなんぼですし、彼らの遣り方に付き合うまでですよ。正義や人としての良心とかを語られてもねぇ……」


 ……。

 ミヅキはその……かなり変わった性格(善意方向に解釈)をしているらしく。

 不安になるのも事実なんだ。と言うか、どうしてそう攻撃力高めの発想にしかならないのかな、この子。


 しかも、それを誰も止めない。清々しいまでに、野放しである。


 エルは一応、叱るけれど……それ以上に無事に帰ってくることを願っているので、色々と手を回しているに違いない。

 彼らが楽しそうなのは判るし、エルに対する評価が劇的に変わったことも喜ばしい。

 ただ、私はこう思うんだ……『エルの威圧が気にならなくなるくらい、ミヅキの言動その他にパニックを起こしているだけではないか?』と。

 と言うか、ミヅキの発言各種が中々にインパクトのあるものなので、それを諫めるエルの姿が輝いて見えるに違いない。

 そもそも、あの子の周辺にはエル以外に常識人が居ない気が。

 ……ああ、そろそろエルが子猫を取り返しに来そうな頃合いだ。過保護な親猫は子猫を拉致され、さぞ不機嫌になっているに違いない。

 そんな姿を予想し、頭が痛くなる。……だが、少しだけ楽しみでもあった。

 昔からエルは所謂『良い子』だった。本当に幼い頃は子供らしい姿も見せていたというのに、いつの間にか、あの子は素を出すことを止めてしまったから。

 それだけ、周囲の視線や心無い言葉に傷つけられたということだろう。

 だが、今はエルの傍に小さな守護者が居る。国に縛られることがない、自由で破天荒な子が。

 自分勝手で、自己中心的で、凶暴な元野良の黒猫は、飼い主への悪意を決して許さないだろうから。

 そんな黒猫を叱り、諫める姿を見せることによって、エルは世間に受け入れられていく。

 ……それこそが、黒猫の企みなのかもしれないけれど。

黒猫&猟犬「キャッキャ♪」

親猫「(軌道修正しとこうかな)」

第一王子「……(エル達はどこを目指しているのだろうか)」

多分、国王一家で一番の常識人は王太子。

※活動報告に『魔導師は平凡を望む』特設サイトの詳細があります。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王太子は常識者枠かこの世界有能な常識人=オカン枠まっしぐらな気がする。
[一言] やっぱり王太子さん 紛れてましたか〜(o^^o) そして多分ミヅキ、 氣付いてますよね? さぁて、どうなるやら??
[良い点] 真っ当な王太子ですし周囲にも忠誠心厚い配下もいますし家族の事も気にかけてる良い人ですね。 [一言] 今は平穏な状態ですから家族としての時間を過ごしてほしいです。 ちなみにエルの世代の王…
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