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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
イルフェナ編
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親友を誘ってみました

親友=類友。国に不利益が生じなければ彼も当然協力者。

――ある日、ゼブレスト後宮の一室にて。

 

 久しぶりにやって来ました、ゼブレスト!

 魔王様が転移方陣使用の許可をくれたので親友を巻き添え……違った、協力を仰ぐ為にお邪魔しています。

 親友は身分が高いので、事前に私と魔王様から手紙を出し許可を得ました。

 ふふ……まさかこんな繋がりがあるなんて夢にも思うまい。

 グランキン子爵家よ、泣いて喜べ。

 お前達の好物をゼブレストの最高権力者から譲り受けてやろう。

 私の優しさに感激するがいい!



「……でね、ルドルフから直接分けて貰ったっていう証明が欲しいんだけど」

「おう、構わんぞ? 王族が使う紙に印付きで書いてやろう」


 とっても楽しそうに期待以上の返事をくれるルドルフ。宰相様は特に問題無しと思ったのか無言。

 ……ええ、貴方の胃を散々痛めた元凶の『御願い』ですからね、警戒して付いて来るのも判ります。

 部屋には二人の他にエリザも居る。エリザは引継ぎをする暇が無かったので、嫁ぎ先から許しを得て城に滞在してるんだと。

 いきなり拉致→救出→安全の為に嫁げ、だもんな。後任が決まっていたとは言えいきなりは無理だろう。

 なお、ルドルフによると後任の子への指導項目に『ミヅキ様を敬うこと』と追加されたとか。

 事情を知っているとはいえ、私の顔まで知らないんじゃないのかなー? 

 ルドルフ達と仲良しってことだけ知っていれば敬う必要ないよ?

 ……とか言ったら反論されました。

 『ルドルフ様が御自分と対等な関係だと言っている以上は立場を明確にすべきです』だそうな。

 要は他国の人間だろうと身分が無かろうと無下にするな、ということらしい。さすがルドルフ至上主義者。

 一応、粛清の協力者だということに加えて英霊騒動のお陰で私は王宮内で自由に動けるのだが。


「あと、食事会の日にセイル借りていい?」

「……何をする気だ?」

「守護役として傍にいてもらいたいだけだよ? ついでにルドルフ達と仲良しだと証言してもらおうと思って」


 にやり、と笑う私にルドルフも同じような笑みを浮かべ宰相様は溜息を吐いた。

 だって貴族ですらない異世界人が王族と知り合いだなんて信じないでしょう? きっちり証拠を揃えておきますとも、疑われること前提で。

 寧ろ疑って得意になった所を叩き落すことを狙ってます。落とすなら高い所からの方が威力高いし。


「よし、許す。セイルには後で伝えておこう。喜んで協力すると思うぞ?」

「うん、セイル本人も色々な意味で楽しむと思うわ」

「だろうなー」


 セイルのことだから自身がクレスト家の人間だということを暴露しつつ、微笑んで毒を吐くに違いない。嗚呼、綺麗な華には刺いっぱい。刺どころか毒さえありそうだ。


「ミヅキ、一つ聞くがそこまでする必要があるのか? 相手は子爵なのだろう?」


 今まで黙っていた宰相様が首を傾げながら聞いてくる。

 おお、宰相様の口調が通常モード&名前が呼び捨てに。めでたく身内扱いになったようです!

 ……ではなくて。

 そうですね、子爵相手というだけならここまでする必要は無いと思います。

 でもね?


「典型的な悪役なんです」

「は?」

「金をばら撒いて足場を固めているから中々潰せなかったらしいんですよ」

「ああ、援助を受けた貴族達がいたのか」

「他にも黒騎士に目を付けられることは一通りやってるらしく、地味に鬱陶しい存在なんです。なので今回、奴等を玩具に皆で遊ぼうという方向に……」

「待て待て待て! 何でそうなるんだ!?」


 あら、宰相様随分慌ててますね。今更です、慣れたんじゃなかったのかい。

 仕掛けてくるのは向こうなのです、どう返そうと向こうが悪いんですよ? 正当防衛です。


「ディーボルト子爵家の娘さんのデビュタントに合わせて色々やらかしそうなんですよねー、あの連中。他の人にも迷惑でしょう?」 

「まあ……それはそうだが」

「自分達の為に平然と他者を貶める奴等が今後同じ事をしないとは限らない。……他国の人間だろうとね」


 三人ともはっとした表情になった後に沈黙する。

 そう、これが一番マズイのだ。後が無いグランキン子爵家はイルフェナの貴族達からは相手にされていない。

 ならば何処に目が向く? 

 当然、他国だ。しかも『実力者の国の貴族』として売り込むのは確実だろう。間違いなく国の恥。

 初めは報復される程度で済むかもしれないが、それが何時までも続く筈は無い。そして問題はそこからだ。


 逆にグランキン子爵家を利用してイルフェナの内部に入り込もうとする者が出てくる可能性はないだろうか?


 『足場を固めた頭の足りない野心家』は使い方によっては良い駒になるだろう。本人達は気付かないだろうけどね。

 黒騎士達の監視はそれを考慮してのものと思われる。グランキン子爵家自体は小物みたいだし。


「今回の事は確かに私の友人達が言い出したこと。だけどそれに協力するよう『命じた』のは魔王様――エルシュオン殿下なんです」

「それは……」

「私が今回の事に関しては『適任』なんですよ。何をやらかしても不思議は無いし、白黒騎士達と繋がりもある。ルドルフ達との繋がりという面も考慮されているでしょうね」


 私は今、セイルに『とても楽しそうです』と言われた笑みを浮かべているのだろう。

 きっとそれは魔王様が天使の顔の下に隠しているものとよく似ている。腹黒とも言うだろうが。

 御伽噺じゃないのだ、賢く民想いの王族は間違いなく別の顔を持っている。そういう意味では魔王様はその典型。愛国者だからこそ結果を出す為に惨酷になれる。


 今回の事は私のイルフェナでの足場固めという目的もあるだろうけど、そんな単純なものである筈は無い。

 語らない部分まで悟り行動しろ、という魔王様なりの教育を兼ねた粛清の一環だろう。

 グランキン子爵は国に害を成す可能性のある存在として認識されたということか。

 恐らく騎士s以外は私を利用する今回の意図に気付いている。だけど騎士達は止めるどころか喜んで協力するのだ、彼等にとってはそれが当たり前なのだから。


「私が相手をすることで守護役達は強制的に巻き込まれる。遊びに乗った協力者達も同じく。その『遊び』のついでに色々な悪事が発覚したらどうなるでしょうね? 犯罪の現行犯にもなるかもしれませんし?」


 私は国の決定など『知らない』から自分の遊びがどんな結果を齎すかなんて『関係ない』。

 金で繋がっている貴族の事など『知る筈がない』のだから『敵の協力者』に報復するだけ。

 その最中、『偶然』多くの貴族や騎士達の目にグランキン子爵の悪事が発覚する。

 そこまで公になって隠し通すことなど出来ないだろう。実力者達からの糾弾も免れないだろうし。


「エルシュオン殿下は相変わらず容赦無いな〜」

「あの人それが標準仕様だからね」

「お前も相変らずで何よりだ、ミヅキ。判っていて派手に動くか」

「それでこそ『私』でしょ? それに……今私が話したのは私個人の憶測でしかないの。事実は違うかもしれないよ?」

「そうだな、お前が言った事で確実なのは『エルシュオン殿下の命令で友人達に協力するから食材を譲ってくれ』ということだけだな」

「そうそう、私は国の決定なんて知るはずないもの。あくまで個人の予想ね」

「相変らず殺伐とした発想してるよな、お前」


 何を今更。そもそもルドルフだけでなく宰相様やエリザも呆れこそ浮かべてはいるが嫌悪は欠片も無いじゃないか。


 ええ、魔王様の命令や騎士達から聞いた話を総合した憶測でしかありませんとも。

 だけどセイルが守護役である以上はある程度話しておかねばなるまい。放っておいても私と似たような推測をするのだ、だったら最初から個人的な解釈を話して協力者に引き込んだ方がいい。

 それに元々この面子と情報交換することは許可されているから問題無し。今回ゼブレストに行くことも許されたから協力要請も予想済みとみた。

 騎士達も話されて困る内容のものは絶対に私に聞かせていないだろう。金で繋がってる人物とか教えてもらってないし。


 潰せないなら潰せるだけの舞台を整えればいい。

 

 国に害を成すのならば排除を。


 グランキン子爵家の危険性を考えればその発想に行き着くのは当然。

 彼等は国の中核に関わる者なのだからある程度の惨酷さを持っているし、在り方も理解している。間違っているとも思わない。

 まあ、いつも試されてばかりだから魔王様も協力者に仕立て上げてみたけど。

 稀に報復したくなるのです。ささやかだから許せ。


「ミヅキ様がそうおっしゃるなら止めはしませんわ。いえ、ぜひ私にも協力させてくださいませ」

「あれ、いいの?」

「また仲間外れなんて酷いです! どうせルドルフ様も宰相様も協力なさるのでしょう?」

「エリザ……お前そんなに混ざりたかったのか」

「当たり前ですわ! ルドルフ様からの手紙の文面がとても楽しそうだったのですから」

 

 そう言うとエリザは拗ねたように横を向いてしまう。姉のことがあるから表舞台に出てこられなかっただけで協力したがっていたとは聞いていたけれど。

 単純に羨ましかったんじゃね? ルドルフは報告書じゃなく手紙として伝えていたみたいだし。


「じゃあ、エリザの所で肉を分けて貰ってもいい? できれば城へ納めるようなやつ」

「勿論です。伝えておきますので必要な時にお渡しできると思います」

「では、クレスト家からチーズなどを提供するか。晩餐会の時の定番だ」

「へえ、そういったものを作ってるんだ?」

「王族の口に入るものは基本的に信頼できる家の領地で生産される」

「と言うか、重要な所には信頼の厚い連中を置いておくのさ」


 なるほど。

 つまり内乱が起きても国を維持する為に必要な領地の領主は王を裏切らないってことか。

 逆に言えば王を裏切れば国からの食料供給その他が途絶えることになる。それに気付かず事を起こせばじりじりと自滅していくことになるのだろう。


「あ、俺からはワインな。祝いの言葉を書いたカードを添えよう」

「宜しくー♪」


 皆さん非常にノリノリです。あまりの豪華面子にディーボルト子爵が卒倒しそうなので事前に暴露しとくか。

 ああ、グランキン子爵が羨ましがる可能性大なのでちゃんと『私の為に用意してくれた』と言っておくけどね?

 民間人の私に高貴な友人が居るのだ、さぞ悔しがって敵意を私に向けてくれるだろう。


「さて、後は食べながら話しましょ」

「そうだな、ミヅキの手料理も久しぶりだ」

「ここに居る間はずっと作ってたもんね」


 現在地は後宮で私が使っていた部屋。当然、簡易厨房がそのまま残されていたりする。

 食材提供の御願いを手紙に書いたら『食事一回で手を打つ』という御答えが返ってきたのだ。勿論、私が作るっていう意味で。

 折角なので協力要請してみたら快く協力者になってくれた。あの一件以来、私達は相変らず仲良しです。素晴らしき哉、利害関係の一致も含む友情。


 その後、物騒な話題も楽しみつつ久しぶりにあの頃と同じような時間を過ごしたのだった。


※※※※※※※


「あ、言い忘れてた。エリザ、今回御土産持ってきたから領地の皆へ持って行ってくれる?」

「領地の者達へ、ですか?」

「うん。塩と胡椒」

「まあ! 皆喜びますわ!」


 海の近いイルフェナは塩が安い。対してゼブレストに海は無いので塩は結構高いのだ。

 あれだけ世話になったのだから何かお礼をしなきゃな、と考えていたら先生が「塩や胡椒はどうか」とアドバイスしてくれた。喜んでくれたようで何よりだ。


「だが、あの量はやり過ぎじゃないか?」

「だよな、結構凄い量だったがいいのか?」


 宰相様とルドルフにとっても予想外のものだったらしく唖然とされたのだ。個人の御土産の量じゃありませんね、確かに。

 いや、私だけじゃないんです。寧ろあそこまでの量になったのは今後を見越してのことだと思うよ?


「いやー、実は御土産に貰った腸詰って白黒騎士達に大人気なんだわ。貴族の子弟多数だから最終的に商人が動く事態になってね……」


 塩は安い。そして金に不自由しない連中が多数。

 結果として大量の塩と胡椒が用意されたのだった。当分困らないぞ、きっと。


「そんなわけで今後も定期的に購入したいです」

「あれくらいの量ならば事前に判っていれば大丈夫ですよ」

「ありがとう! あれは間違いなく『これからも御願いね』という意思表示だから遠慮せずに受け取って」


 ええ、受け取ってやってください。寧ろ他に思いつかなかった結果です。

 定期購入可能になったと知れば騎士達も喜ぶでしょう。


「あれは庶民の食べ物だと思うが……」

「いーんだよ、アーヴィ。美味けりゃ問題無し!」


 そのとおりだ、ルドルフ。宰相様も細かい事気にしないの!


お祭り騒ぎの裏側には当然事情がありました。

前話で騎士達が情報を教えたのは魔王様の指示。事情を察するか否かは主人公次第。

警戒心の強い主人公は魔王様の言葉をそのまま捉える事は絶対にありません。隠された意味を推測しての行動が基本。


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