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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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招待は突然に 其の十

「では、ティルシア姫について聞きたいのだが」

「……。ええと……」


 騎士様の問いかけに、私は思わず視線を逸らした。

 いや、だってねぇ……ティルシアの印象って、私と騎士様達とでは大きく違うもの。特に、騎士様達はあの一件の際、サロヴァーラに行っておらず、報告書を読んだ程度だろう。

 それを踏まえると……ティルシアの印象は『王族としての誇りと覚悟を持ち、手駒を切り捨てることさえ厭わぬ恐ろしい女』って感じじゃないかな。

 ところが、私の経験を元にするなら、『ヤバイくらい重度のシスコンな女狐様』になる。


 これは正真正銘、事実である。

 ティルシア本人に言っても、笑顔で肯定されること請け合い。



 なお、最重要事項が『ヤバイくらい重度のシスコン』であることは言うまでもない。



 女狐様は多くの人々の認識通り、『聡明』『王族としての覚悟を持っている』という人だ。

 そう、それはいいんだ。寧ろ、サロヴァーラとしては頼もしい限りだろう。

 ティルシアが『女狐』と呼ばれているのは、そちらの方の意味合いが強い。

『決して侮れない相手』――そういった意味で使われる渾名なのだ。ティルシアもそれを判っているから、誇らしい要素のように捉えているし。

 ……が。

 この女狐様、『妹が可愛くて仕方ない』なんて言葉じゃ収まらないほど、重度のシスコンでいらっしゃるのだ。

 リリアンを守るため、適切な距離を置いていた――それでも、『仲の良い王女姉妹』という評価である――反動とでも言うのか、最愛の妹であるリリアンに対する愛が半端ない。


 リリアンの前では只管に『美しくて優しく、頼りになる素敵なお姉様』。

 その裏では、妹溺愛日記を認める、どうしようもないシスコン。


 そんなシスコンなお姉様の胸には、最愛の妹に悪意を向け続けた奴らへの殺意が燃え上がっている。

 勿論、王女としてサロヴァーラを立て直したい気持ちも本物だけど、それと同じくらい報復に燃えていらっしゃったのだ。


 この場合、報復理由は『リリアンと共に過ごすはずだった時間を返せ!』である。

 妹を虐めた復讐とは別枠で、ティルシアは妹との時間を奪われたことを恨んでいる。


 私が友人ポジションを獲得したのは、ティルシアが諦めるしかなかった未来――ティルシアの立場からすると、確かに不可能だった――をもたらしたから。

 それに加えて、『継承権こそ剥奪されるけど、ティルシアをリリアンの補佐に』と進言しておいたことが大きい。

 と言うか、他国の皆様も『今後のサロヴァーラには、ティルシアが必要』と考えていたので、割と皆の総意である。

 ティルシアの優秀さは本物だし、残酷な決断が必要になったとしても、ティルシアならば下せるからね。

 こう言っては何だが、サロヴァーラ王ではちょっと頼りない。だからと言って、外部から補佐する人を派遣すると、サロヴァーラ王家を傀儡にしているような印象を与えてしまう。

 そこで白羽の矢が立ったのが、ティルシアだった。能力、性格、身分も申し分ないし。


 この決定が伝えられた時、ティルシアは……満面の笑みを見せた。

 なにせ、関わった国々公認で、夢を叶える役を与えられたのだから。



 なお、サロヴァーラ貴族達にとっては、地獄への片道切符が約束された瞬間である。



 ティルシアがあまりにも嬉しそうだったため、私に事情を聞きに来る人達が続出したのも良い思い出です。

 ……皆、怖かったんだよ、ティルシアが大喜びする理由が判らなくて。

 だって、『リリアンの補佐』という立場は、ぶっちゃけて言うと『苦労人』だから。寧ろ、苦労しかない。

 私は確かに、サロヴァーラ矯正プランを提示した。だけど、サロヴァーラの馬鹿ども全てが駆逐されたわけではないので、簡単にはいかないだろう。


『罰』なんだよ、いくらサロヴァーラの立て直しを望んでいようとも。


 それなのに、当のティルシアは目をキラキラさせて喜んだ。ついでに、私にも抱き着いて感謝していた。

 ティルシアの野望(意訳)を知らない皆様からすれば、異様な光景だったわけですよ。間違っても、喜ぶべきことじゃない。

 そんな皆様に、『どれほどティルシアが家族を大事に思っているか(善意方向に意訳)』を熱く語り、更には最愛の妹との時間を奪われたことを恨んでいる、と補足。


『他国のバックアップを受けて国の立て直しができる上、最愛の妹に尽くせるんです。苦労が待っていようとも、泥水を被ることになろうとも、ドンと来い! 的な心境なんですよ、女狐様』


 以上、魔王様達に追及された私が語った言葉である。嘘は吐いていない。

 魔王様達も何か思うところがあったのか、生温かい目をしつつも納得してくれた。

 ……多分、ティルシアとリリアンの『美しい姉妹愛』を見た後、『女狐様、行動の軌跡』(意訳)を知ったからであろう。温度差、凄いもん。


「ええと……そんなに悩ませるようなことを聞いたかな?」


 遠い目になって色々と思い出していた私に、騎士様の気遣うような声が掛けられた。騎士様としては、私とティルシアの間に何かあったのかと思ったのだろう。

 ま、まあ、サロヴァーラの一件の際、ほぼ全ての攻撃が私に向きましたからね。

 殺されかけたことも事実だし、断罪後に一番働いた自覚もありますよ! あの時、私は(ティルシアとの取引を現実にすべく)頑張った!

 その忙しない日々については報告書に纏められているため、『誘拐事件の囮にされて、サロヴァーラにも派遣されたからね。色々と大変だったろう』的な認識を、一部にはされていた。

 この騎士様達もそういった人達と同じ認識でいたらしい。……善良なことである。

 実際には『楽しい復讐計画・サロヴァーラ編』なんてものを企画・実行していたため、魔王様から『くれぐれも、はしゃぎ過ぎないように!』と釘を刺される始末だったのだが。

 私を未だ、『守られるべき者』と認識しているらしい騎士様の善良さに、ついつい、ろくにないはずの良心が痛む。


 違うんですよー、私が気にしているのは貴方達のことなんですー。

 貴方達が精神的なダメージを受けることが、判りきっているからなんですってばー。


「いえ、私の方は全く問題ないんです」

「え?」

「どちらかと言えば、貴方達のティルシアへの認識が変わる……と言うか、別の生き物に見えるようになるかと」

『は?』


 意味が判らなかったのか、騎士様達の声がハモった。ですよねー! 貴方達、未だにティルシアのことを『(狡猾とかそういった意味で)女狐』認定しているでしょうし。

 まあ、いいか。どうせ、数年以内にはバレるし、ティルシア自身も恥じていないから。


「ティルシアの行動理由は報告書にあった通りです。そこまでならいいんですよ、『王族として国を立て直し、悪となることを厭わず、家族を守ろうとした王女』ですから」

「あれ、違うの?」

「正しいと言えば、正しいです。ですが、ティルシアの最大の原動力はリリアン……『最愛の妹への溺愛』なんですよ。あれは重度のシスコンというか、病気レベルです」

「し……しすこん?」

「姉妹大好きってことです。だから、ティルシアは今の状態がベストポジションなんですよ。国の立て直しができて、自分の手で最愛の妹を守れて、報復もできる! その上、リリアンから尊敬の眼差しを向けられる『頼れるお姉様』という評価を不動のものにしてますからね」

「……えっと?」


 意味が判らなかったのか、騎士様は首を傾げた。私もそれに付き合いつつ、『マジです』と念を押しておく。


 女狐・ティルシア、各国から警戒される王女は、実のところ重度のシスコンなだけである。

 その愛情は海より深く、ドロドロとした得体の知れないものとなっていることだろう。


「ティルシアを殺そうとしても、『その事実を利用できる』って考えるだけですが、リリアンに暗殺者を向かわせようものなら、即座に滅殺対象ですね。楽に死にたければ、リリアンに慈悲を願い出るしかありません」

「ええ……」


 予想外の暴露に、騎士様達は盛大に混乱したようだ。当事者である私の言葉だから事実だとは思うものの、内容が内容なだけに、素直に信じたくもないらしい。


「君、なんでそんな人と仲良くなれたの」

「私も魔王様とルドルフを殺そうとしたら、即座に滅殺上等だからかと。さすがに、あそこまでのシスコンは理解できませんが。私の場合、処罰できる権限がないので、社会的に殺す気満々です」

「……一部とはいえ、同類なのかい」

「ティルシアは『そうよね、それは当然よ』って、言ってましたけど」

「……。少しは大人しくしていようね」


 煩いですね、人には絶対に譲れない地雷が存在するものなんですよ!

主人公「女狐様、シスコン。とっても、とってもシスコン」

騎士様達「まさかと思うけど、それで誘拐事件が起きたの!?」

ティルシアについては、地雷とシスコンということを覚えていれば

問題ないと思っている主人公。

騎士様達は困惑中ですが、割と正しいです。

※活動報告に『魔導師は平凡を望む29』の詳細があります。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 割とガチ目にリリアンが(色々問題点はあったけど)良い子じゃなかったら、 ティルシアが国家間で盛大な問題を引き起こしてた可能性も否定はできない危険物なんだよなぁ……w まあ現状ですら国家間にわ…
[一言] ティルシア姫って「妹=正義」の人だからね…… 彼女の心境に共感ができるのは、弟への愛を力に変えたバラクシン国王夫妻くらいでしょうね……
[良い点] やっぱりあのシスコン姫様面白いわ [気になる点] ティルシア様の背後に尻尾が9本ほど見える気がする件について [一言] 親猫様とリリアンで暴走機関車をどう止めるかの会が結成されてもおかしく…
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