招待は突然に 其の八
さすがに『聖職者を押し倒して脅迫しました☆』は予想外だったのか、騎士様達は唖然としている。
……。
まあ、そうだろうね。騎士様達、王太子殿下直属の騎士と言っていたもの。
実力至上主義とは言え、半数くらいは貴族、それも高位貴族出身者が居るはずだ。
つまり、それなりに『お育ちの良い人々(=生まれも育ちも貴族)』が居るわけですよ。
これ、別に『王太子付きの騎士だから』といった理由ではない。相対する相手によっては、王太子殿下の身を守るため、ある程度の身分が必要になってくるせいだ。
それでなくとも、日頃から接しているのはお貴族様なので、『女が聖職者を押し倒して脅迫』という場面に遭遇することはないだろう。
騎士様達にとっては、吃驚の事実なわけですよ。私がハニートラップを得意とするならまだしも、それらしき要素って皆無だもん。
……まあ、そういった背景事情があったからこそ、今回の『招待』(意訳)に繋がったんだろうけどね。
非常に残念なことだけれど、実力至上主義と言われるイルフェナであっても、『身分の壁』というものはなくならない。
言い方は悪いが、身分を振り翳された場合、相手に押し切られたり、取れる対処方法が限られてしまうのだ。
だからこそ、彼らは私の功績が不思議だったのだろう……『魔導師と言えど、民間人。何故、あいつは王族・貴族相手に勝利できるんだ?』と!
『魔王殿下や彼の騎士達が功績を盛っている』とか、『過保護なまでに手を貸している』と言われていたのは、それが主な理由だろう。
魔王様が私のために動き、騎士達を動かしてくれたからこそ、勝てたのだと。……それが最終的に『魔導師の功績』になったと、そう思われていたのだろう。
なお、これは他国も割と同じ予想を立てていたと予想。ただし、私の遣り方を直接目にするまでのこと、だが。
当たり前だが、現在の評価は全く違う。と言うか、魔王様の親猫ぶりや、騎士寮面子のアレな様子がバレたとも言う。
(予想)
『異世界人を守るため、保護者や彼の騎士達が動き、功績を仕立て上げているんだろう』
(現実)
『魔導師、超ヤベェ! 何、あの珍獣。怖いものないの!? って言うか、騎士寮面子も魔導師に同調してない? 寧ろ、同類じゃない……!? 飼い主ー! 飼い主様ー! お宅の馬鹿猫と猟犬が暴れてます! 管理! 管理をお願いします! あいつら、貴方の言うことしか聞きません!』
現状は多分、こんな認識よ? だから魔王様が『常識人の救世主』とか『親猫』って呼ばれているんだもの。
……そうは言っても、我らは『出来る子達』という評価を落とす気はないわけで。
お仕事はきっちりしますよ! 無能振りを晒せば、飼い主たる魔王様の恥になりますからね!
つまり、『結果を出すことが全て』なのです。己の評価なんざ、二の次さ。
その過程で、私が『異世界人凶暴種』とか呼ばれても、仕方のないことなのですよ。お仕事、大事。結果はもっと大事。
魔王様はよく頭を抱えているけど、結果を出していることだけは事実なので、『止めろ』とは言えんのだ。
文句は仕事を依頼してきた奴に言え。多分、依頼してきた段階で、ある程度の説明(意訳)はされているだろうし、承諾した時点でそいつの責任ですよ。
精神的な被害が出る? ……あはは、知らねぇな!
私に求められたのは『結果』であって、周囲への気遣いまで含まれません。
「それじゃ、次に行きますね」
「君、女性だろう。そんなにさらっと済ませなくても」
「そうは言っても、今後はこれ以上のことが起きますが」
『え゛』
騎士様達はぎょっとするけど、私も嘘を言っているわけではない。
いや、だってさー……これから話すのって、例の『魔王様を侮辱しやがった騎士が、本当に慕われているのかを確かめる方法』ですぜ?
どう頑張っても、罰ゲーム感溢れる内容です。
寧ろ、私は最初から奴を笑い者にするよう仕組んだし!
「『魔王様を侮辱した教会派の騎士がいた』っていうのは、報告書にも書かれていますよね。まあ、そいつはその直前に私にも色々言っていましたが、きっちり報復はしたので、私の分は相殺されています」
異世界人に対する暴言その他なんて、些細なことだ。バラクシン王的にはそちらの方が拙かったろうが、私にとっては魔王様の方が大事。
「あ、ああ、そう書かれていたね。アルジェント達も激怒したと聞いている」
「そうそう、それです。で、他国の王族を侮辱したわけですし、そいつらの保護者……所謂、当主といった立場にある人達に来てもらったんですが。そいつらもクズでした」
素直に『ごめんなさい』すればいいのに、奴らは見苦しく言い訳してくださった。自国の王ですら謝罪をしているのに、だ!
「いやぁ、自国の王さえ謝罪しているのに、まともな謝罪すらできないんですもの。しかも、該当騎士を『民を守った実績があり、慕われている』とか言い出しましてね。それじゃあ、それを証明してもらおうということになったんですよ。なお、発案は私です」
「ほう」
「ちなみにバラクシン王や魔王様の前でそれを言いやがったので、『これで民に慕われていなかったら、二国の王族に対する虚偽も追加ね♡』ってことにしました」
「それって、誘導……」
「最初に言い出したのは奴らです」
「いや、だからって……」
「あいつらが自ら言い出しました。嘘偽りない事実です」
微妙な表情になるでない、騎士様よ。誘導したとて、私は嘘など吐いていないのだから。
そもそも、私は民間人。民間人に誘導されて墓穴を掘る貴族なんて、誰が聞いても恥ずかしい存在だろうが。
「で、折角の機会なので、聖人様に『教会は教会派貴族と同じではないって、証明したら?』と提案。その後、教会関係者達との話し合いを経て、聖人様は教会代表として『我らは貴様達と違う!』と突き付けることになりました。……物理的に」
「待って、待って、『物理的に』って、どういうこと!?」
意味が判らなかったらしく、騎士様から待ったがかかる。他の人達も、頭にクエスチョンマークとかが浮かんでそうな表情だ。
そっかー……うんうん、首を傾げる気持ちも判ります。聖職者だもの、普通は冷静に諭したり、言葉による抗議が精々だろうし。
でもね、当時の聖人様の様子を思い出す限り、『説教』『抗議』『物申す』っていう風に言葉を変えても、もれなく物理的な行ないになると思うんだ。
「王族でさえ見下す奴に、聖職者の言葉なんて届きませんよ。だから、誰の目から見ても判り易い抗議の方法を伝授しました。言葉と行動の二つがあれば、誰が見ても『ああ、仲悪いんだな』と判りますし」
「え……そこまでする必要が? その、聖人殿は一応、聖職者だよね? 教会派貴族も一応、信仰という繋がりがあると思うんだけど」
「真っ当な信者ならば話が通じますが、信者(笑)では無理ですね。でも、聖人様が真っ当な聖職者だからこそ、信者(笑)の言動にブチ切れてたんですよ。教会に蔓延るクズを追い出したと思ったら、次の事件が起きてますからね。決別したと判る態度を見せ付けない限り、クズな教会派貴族は勝手な解釈を口にするでしょう。それを防ぐ意味でも、抗議は必須だったんです」
実のところ、聖人様がどれほど立派な言葉を連ねようとも、教会派貴族達にとっては『民間人の戯言』で終わる可能性・大。
と言うか、『教会への寄付』という切り札がある限り、教会が逆らえないことを知っていたのだろう。
……が、教会派貴族に利用されていようとも、教会の存続が危うくなる可能性が出てきたならば、話は別。
どちらにしても逃げ道がないならば、魔導師主催のイベント『クズに天誅を!』(仮)に乗ってしまった方がまだ、後悔は少ない。
だって、行動すれば漏れなく、魔導師が味方になるから。
少なくとも、バラクシン王家やイルフェナからの好印象は期待できる。
「見ている方が気の毒になるくらい、聖人様は嘆いていましたからねぇ……。だから、提案したんですよ。『どうせなら物理攻撃込みの抗議でもしてこい』って」
「ちょ……っ」
「勿論、相手は騎士です。対する聖人様は聖職者。戦闘能力差は歴然なので、聖人様が手を痛めてもいけないと思い、廃棄予定の本を強化し、『これで殺って来い』とささやかな応援をしました」
「やって……。……。殺って……!?」
「聖人様と心が通じ合った瞬間でした。芽生えた共闘意識のまま、教会の人々への説明も裏方としてお手伝い。あ、彼らに『自分達にもできることはないか』と相談されたので、『妨害は許されるけど、本人は暴力を振るえないよう誓わせる予定だから、聖人様のお説教をきちんと聞けるよう、皆で囲んだら?』とアドバイス」
嘘ではない。『非力で暴力を良しとしない教会の人々が、彼ららしく聖人様を手伝える方法』とくれば、『逃げ道失くせ』以外にない。
そもそも、これは奴らの言い分が正しいかを確かめるためのイベントなので、妨害や援助といったものは許されている。
恨まれていれば、敵となる者達が続出し。
慕われていれば、庇う者が続出する。
ただそれだけのことじゃないか。あいつらの言い分が正しいと確かめる意味でも、有効なイベントですぞ。
何より、私が超楽しい……!
どのみち、罰ゲームにしか見えない内容――全裸で街中を闊歩――なので、聖人様以下教会の皆様が盛り上げてくれると言うなら、最高のエンターテイナーたる魔導師として、より面白くなるよう動くのは当たり前。
人はそれを『見世物』という。
どんなに立派な言い分を連ねたところで、全裸の男が町中を闊歩している事実は変わらない。
そこに聖人無双&教会の皆様の囲みをプラス! 『信仰を侮ってはいけません』という教訓と共に、『聖職者や信者達がブチ切れる状況だった』と知れ渡るだろうさ。
「まあ、結果は予想通りでした。聖人様は相当頭にきていたらしく、抗議の言葉と共に殴る蹴るの大活躍だったらしいです」
「いや、『大活躍』って」
「ちなみに、治癒魔法や監視担当の騎士達は、聖人様達の勇気ある行動に大変感動したらしく、奴は生かさず、殺さずという状況が続いた模様。騎士仲間にも嫌われていたから、気絶するまで逃げられなかったみたいですね」
マジでーす。監視や治癒の役目を持った騎士達、『誰も』聖人様を止めなかったらしいから。
「その後は『教会は教会派貴族の味方じゃないよ!』って、バラクシン王にも納得してもらいました。煩かった教会派貴族達も、今後は信仰や信者達を言い訳にできないと気付かされ、顔面蒼白なのが愉快でしたね」
「……それら全てが君の策略であり、教会も無事に財源確保、フェリクス殿とサンドラ嬢も教会に身を寄せることとなり、王家も長年の憂いを晴らせた……と」
「大まかに言えば、そんな感じです」
「……」
「利害関係の一致って、素敵な絆ですよね。今回は教会派貴族以外の勢力が手を組み、其々が望んだものを得られましたから」
「うん、そうだよね。そのシナリオを考えた功労者として、何か言うことはないかい?」
呆れを多分に含んだ生温かい視線に晒されながらの質問に、私はにやりと笑う。
「『毒を以て毒を制す』っていう言葉を知らなかったことが、教会派貴族の敗因ですよ。……世の中には、『己の利がなくとも、敵を弄ぶことを楽しむ愉快犯が居る』と知らなかったみたいですし」
最高に強い相手だろうと、挑むことこそを楽しむ輩は一定数居るだろう。
自身の勝ち負けに拘るのではなく、『圧倒的な強者を敗北させ、屈辱に歪む顔を見たいがために頑張る』という、どうしようもない連中が。
その一人である私に喧嘩を売ったのが、運の尽き。魔王様には怒られたけれど、楽しゅうございました。
悪党に敵対するのが、正義の味方とは限りません(笑)
主人公は結果こそ出しますが、自分も当然、楽しみます。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




