招待は突然に 其の七
「それじゃあ、次はバラクシンのことを話してほしい」
「バラクシン、ですか……」
「そう。ああ、君がフェリクス殿のことで、エルシュオン殿下達とバラクシンを訪れたところからでいいよ」
騎士様はさらっと言ったが、『誤魔化すんじゃありません』と言っているように聞こえるのは、何故だろう……。
まあ、これは仕方がないのかもしれない。聖人様爆誕(笑)に関する『あれこれ』(意訳)って、報告書と現実ではとんでもない温度差があるのだから!
キヴェラの次はバラクシン……多分、一番聞きたいのは聖人様と知り合った経緯だろうか。
ただ、これに関しては沈黙した方が良いと言うか、聖人様のためであったりする。
だ っ て 、 最 初 に 脅 し て ま す か ら ね 。
聖人様爆誕(笑)の発端は、私と聖人様(予備軍)が知り合い、手を組んだことである。寧ろ、それがなければ始まらない。
魔王様はフェリクスの行動に怒っただけなので、イルフェナからの抗議はそれオンリーだ。教会派への攻撃は内政干渉扱いになるだろうしね。
誰だって、不審に思うだろう……『何故、見知らぬ女性、それも【異世界人の魔導師】を自称する生き物に協力してくれたのか?』と!
疑り深い性格じゃなくても、そう思って当たり前。いきなり出てきた繋がりを、不審に思うのが普通です。
そもそも、当の聖人様はその際、教会に巣食う愚物――貴族と癒着し、私腹を肥やしていた教会上層部の連中のこと――を追い出している。
それだけでなく、その後も精力的に動き、見事、教会の平穏と正しい在り方を取り戻しているのだ。
そんなことが可能な奴が、たやすく他人を信じるか?
答えは当然、『否』だ。自称・味方をあっさり信じるお馬鹿には不可能です。
百歩譲って、『聖人様がバラクシン王家と手を組んだ』とかならば、まだ信じられる。王家と聖人様の敵は共通だったのだから。
だが、私はバラクシンの人間どころか、フェリクスの愚行の抗議に訪れたイルフェナの魔導師。
どう考えても、王家に好意的という認識にはならないだろう。寧ろ、バラクシンという『国』に不信感を抱いていても不思議はない状況だ。
そんな状況なのに、何~故~か聖人様は魔導師と手を組んだ。
裏を疑って当然ですね! 私が魔導師ということもあり、おかしな魔法を使って洗脳した……とか疑われても、全く否定できない状況です。
「まず、確認なんですが。多分、一番疑問に思われていることって、私と聖人様の出会いと言うか、繋がりですよね?」
「うん。こう言っては何だけど、あまりにも接点がなさ過ぎるんだ。と言うか、その、申し訳ないんだけど、君の性格上、他国の聖職者が苦悩していたところで、助けないような気がしてね」
私 の 性 格 を 理 解 し て や が る … … !
「そもそも、あの当時、君はバラクシンに対して良い感情を持っていなかった。アリサ嬢のことも含め、これは正しい解釈だと思っている」
騎士様達、大・正・解☆
「そうなると、聖人殿が君に縋ったという可能性が浮上してくるんだけど、現在の彼の姿を見る限り、たやすく他者、もっと言うなら部外者に頼るようには見えないんだよね」
で す よ ね ー !
ええ、めっちゃ正しい解釈です! 教会の恥を部外者に晒すことになるから、聖人様の性格上、『よほどのこと』(意訳)がない限り、絶対にやらないだろう。
「だからね、私達はこう考えたんだ……君、何かしただろう?」
「何故、疑問形なのに、確信をもって問われますかね?」
「日頃の行ないを顧みなさい」
温い笑みを浮かべる騎士様の言葉を受け、大人しく胸に手を当てて、これまでの日々を邂逅し。……そのまま、そっと顔を逸らした。
う、煩いですよ!? 全ては結果を出すためですからね!?
生温かい視線が集中する中、騎士様はそっと私の頭を掴んで顔を正面に向けた。
「さ、大人しく吐け」
「言い方!」
「心当たりがありまくるらしき子猫の姿を見せられたら、こちらも手加減なんてしていられないだろう?」
「……」
「……」
「それもそうですね」
「いや、それで納得するのかい……」
良い子のお返事をしたというのに、疲れたような声で突っ込む騎士様。ぐったりと首を垂れるあたり、呆れているのかもしれないが。
まあ、いいか。だって、これはどちらかと言えば『私以外の人達が頭を抱える事態』ってことですからね!
喋った私、悪くない。無理やり喋らせたのはこいつらだ。絶対に、絶対に悪くありませんからね!? 後で文句言うなよ!?
「だって、どちらかと言えば『私以外の人達のために詳細を話したくなかっただけ』ですし」
『は?』
騎士様達が盛大にハモる。その大半が、訝しげな表情だ。
「やらかしたのは私ですが、私って民間人で異世界人の珍獣じゃないですか? だから、どんな奇行をしても、ある程度は見逃されるんですよね。勿論、説教はされますけど、傷になるようなものはないって言うか」
「あ~……ま、まあ、地位や役職じみたものはないよね。醜聞になるようなことでも、結果が出ている以上、必要なことだと、割と認められているし」
これ、マジなのである。魔王様が庇うだけでなく、そう判断されるものが多いから。
結果ありき、とは言わないが、『その決着に辿り着く過程で必要だった』(好意的に解釈)と判断されるものが大半なので、『泥を被ることになろうとも、結果を出すことを優先した』と言われているのだ。
判り易いのが、セシル達の救助を兼ねたキヴェラとのあれこれ。普通なら、凶悪犯罪者扱い、待ったなしですぞ?
ただ、私の行動にそれなりに納得できる理由もあるため、『遣り過ぎだけど、仕方ない』的な扱いをされていたり。
なお、魔王様には遊び心ゆえの行動ということがバレているので、しっかりとお説教される。『人で遊ぶんじゃない!』と。
「実際に必要なことなんですけどね。まあ、五割以上が遊び心と個人的な感情ゆえの行動ですが」
「自分でばらさなくても」
「黙ってたって、バレてるじゃないですか。大丈夫、魔王様には『騎士様達に白状させられました』って言うから」
「ええ~……」
「嘘は言ってません!」
魔王様からのお小言を予想したのか、騎士様は苦い顔になった。対して、私はいい笑顔。
はっは! 誰が、私一人の説教コースで済ませるものか! この際、ここに居る全員を元凶扱いして、道連れにしてやらぁっ!
「それじゃ、話を進めますね。聖人様に会ったのは、王城での夜会の後ですよ。まあ、そこでもフェリクス関連のイベントがありましたが、そこは報告書に書いてある程度のことしか起こらなかったので、スルー」
「……。まあ、そこらへんに違いはないだろうからね。しいて言うなら、君が『ライナス殿下の監視の下、部屋で大人しくしていた』ってことかな。これ、明らかにバラクシン王家サイドが君の協力者になっているだろう?」
そこは思い至ると思ったので、素直に頷いておく。
……が、その際、私と彼らの間に大きな擦れ違いが起きていたことまでは思い至るまい。
バラクシン王やライナス殿下は、私がお礼参り(意訳)に行く程度にしか思っていなかったはず。
その対象は勿論、教会の愚物ども。『魔導師が動いたと理解すれば、教会派貴族達共々、多少は大人しくなるだろう』と。
……実際は、『教会における歴史的な出来事』(笑)を仕掛けに行ったのだが。
まあ、どうせすぐに話すんだ。今はそこまで説明する必要がないだろう。
「そうですよー。ただ、その後の行動があまりにもアレ過ぎて、ライナス殿下は協力者扱いに頭を抱えていましたが」
「ん? 君、頭を抱えさせるような被害でも出したのかい?」
魔導師=魔法の被害甚大的な発想があるのか、即座にそんなことを口にする騎士様。
「いえ、その方が遥かにマシだったかと」
『は?』
騎士様達、ハモり再び。
そうですねー、『その方が遥かにマシ』なんて言い方されれば、どんな被害があったのか想像つきませんよね!
しかし、世の中は無情なもの。『最悪の事態』の更なる下は存在するのだ。
「ぶっちゃけて言うと、教会に奇跡を仕立て上げて、聖人様を作り出しました。その際、神罰に見せかけて教会の一部を破壊し、愚物どもに恐怖の一時をプレゼント!」
「え゛」
「聖人様には事前に打ち合わせをし、使用した物の効果が無効になるような魔道具を渡しておいたので、彼だけが特別に許された存在のように見えたと思います。まあ、元から真っ当な信者達の希望の星みたいな扱いだったようですし、説得力は抜群でした」
「あの、それって詐欺……」
「細かいことは気にしてはいけません。重要なのは『神に選ばれた正しき指導者の誕生』と、『信仰を汚して私腹を肥やす愚物が神罰を受けた』という二点だけですよ」
「神罰じゃないよね!?」
「私の神じゃないですし、問題ありませんよ。そもそも、信仰を正すお手伝いじゃないですか! 一人で泥を被ったと言ってください」
「……自分のために、だろう?」
「当たり前じゃないですか」
素直に答えたら、騎士様達は沈黙した。何さー! そんなの当たり前じゃないー!
「……君の遣り方はともかくとして。聖人殿はよく、君の計画に乗ってくれたね?」
騎士様が頭痛を堪えるような表情で聞いてくる。結果的には聖人様爆誕が良い方向に動いたため、怒るに怒れないのだろう。
そんな騎士様に、追い打ちするのは心が痛む(笑)のだが。
「聖人様が一人で自室に居る時、窓から入って押し倒しました」
「……。はい?」
「ほら、向こうは聖職者ですから、そういうことって致命傷に等しいでしょう? 加えて、私はこの世界の魔法が使えないので、詠唱をしても魔法が発動せず、『侵入した魔導師』という言い分も説得力がない。そもそも、見た目からして暗殺者にも見えないと評判です」
「……えっと……」
「で、人が呼べない状態に持ち込んで、脅迫……いえ、交渉したんですよ。『このまま人を呼ばれるか、私の協力者になるか選べ』って。勿論、協力者になった際に得られるものも提示。聖人様は綺麗事だけではやっていけないと理解している人だったので、めでたく協力を取り付けました」
「いや、『脅迫』って言ってるよね!?」
「最終的に望んだ状況に持ち込んだので、文句は出ませんでした。だから、問題なしです」
正しい行いです! と主張する私の耳に、周囲の呟きが聞こえてくる。
「……報告書に嘘は書いていない。書いてはいないけれど……」
「え、この子、聖職者を押し倒してたの……?」
「誰だ、『後に聖人と呼ばれる聖職者は教会の現状を憂い、魔導師と手を組むことを決意した』っていう一文に収めた奴……!」
煩いですね、都合の悪い事実は闇に葬るのが『お約束』でしょう?
この件を隠しておきたいのは主人公ではなく、聖人以下付き合わされた人々。
特に、魔王殿下は頭の痛い思いをした一人。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




