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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
イルフェナ編
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類は友を呼ぶ

 あれから。

 とりあえず白黒騎士達に事情説明しておくかー、と思い寮に戻ってきました。

 いや、だって私一応ここの職員扱いですからね? 一言言っておかなければマズかろう。


『魔王様の教育の一環で騎士s妹の誕生日のメニュー作りに協力しつつ、悪役のグランキン子爵家を〆てきます。クリスティーナ嬢のデビュタントまで警戒態勢が続くと思ってください』(意訳)


 ……間違ってはいない。

 私達とクリスティーナ達の間に認識の違いがあるだけで。

 騎士sも怒らないあたり状況は理解できていると思われる。


「とても楽しそうなお話ですね?」


 にこやかにアルが言えば。


「ほう、あの悪党ついに駆除されるのか」


 クラウスが相変わらずの無表情で納得と言わんばかりに頷いた。

 おいおい、本音が駄々漏れしてるぞ? 駆除って害虫扱いなのか、既に。


「あれ、グランキン子爵家を知ってるの?」

「黒い噂が絶えない国の恥だな。金をばら撒いて周囲を固めている所為で簡単に潰せなかったんだ」

「貴族同士の繋がりは厄介ですからね……ですが、何らかの功績を残さねば現当主の代限りで爵位剥奪の筈です」

「へぇ、だから余計に必死なのかね?」

「何かあるのか?」

「騎士sの妹さんと同じ歳の娘がいるから多分、社交界のデビュタントに合わせて仕掛けてくる」


 今回の娘のデビュタントはグランキン子爵家にとってある意味最後の望みなのだろう。

 騎士達の話から察するに爵位剥奪を免れる為に色々やってきたけど全て実力者達に潰されてきた、というところかな。だから娘の評価が高まる機会を逃せないに違いない。

 それに加えて娘がどこぞの貴族でも捉まえてくれれば生まれながらの貴族の親戚である。その相手が国にとって重要な人物であれば婿にとり、爵位剥奪回避も狙うとみた。

 

 ……有能な人達がそんなに甘いとは思えないけどね?


 何せアルもクラウスも私の話に目を眇めているし、周囲の騎士達も不快感を露にしている。

 ああ、言い忘れましたがここは騎士寮の食堂。『重要なお知らせ』という名目で状況説明してます。

 嘘は言ってないよ? 暫くこちらでの仕事が疎かになるもの。


 情報暴露の手口が姑息? 嫌だな、白黒騎士達に貴族の子弟が多いのは偶然ですって! 

 ただ、『お家に帰って広めてくれたら嬉しいな♪』とは思うけど。

 『何か情報があったら教えてくれんかな』とか期待するけど。


「それでこそこそ動いてたのか」

「何かあったの?」

「最近グランキン子爵家に人が出入りしてる。また下らない悪企みかと思っていたが」


 クラウスの言葉に黒騎士達は得意げな表情になる。……盗聴でもしたのか、お前ら。

 それにしても歪みねぇな、グランキン子爵! まさに悪役の鑑のような人ですね。

 冗談紛いに騎士sと話してた展開が全部きたら指差して笑うぞ、私。

 というか、既に黒騎士に目を付けられてたのか。 


「大半が金で繋がってる奴等だな。援助でも申し出られれば断りきれんだろうよ」

「貴族というのもお金が掛かりますからね」

「そんなもん?」

「ええ。世間体もありますし、歴史ある家を自分の代で没落させるというのも受け入れ難いでしょう」

「援助と引き換えに婚姻関係を結ぶこともあるしな。社交界は情報収集と品定めの場だ」


 色々と大変そうです。怖い世界だ。


「観察眼に優れ、微笑みと話術で主導権を握れなければ社交界の華とは呼ばれませんからね」

「お前の母親と姉もそう呼ばれてなかったか?」

「ええ、一体何人の男女が泣かされたのか……」


 ……お姉さん達も怖い人でした。

 何をやってるんですか、シャルリーヌさん……やはりS属性なのですね。

 バシュレ家が女傑揃いなのか、公爵家はそれくらいじゃなきゃやっていけないのかは知らないが。

 男を泣かせる社交界の華なんて居るのかよ!? 絶対、振ったとかじゃないよね!?


「えーと。とにかく仕掛けてくるのは確実ってことね」

「ああ。寧ろ派手に動いてくれれば処罰までもっていけるんだがな」

「派手に動く、ねぇ……」

「ミヅキも参加した方がいいと思いますよ? 追い詰められているならば何を仕出かすか判りませんから」

「あら、いいの?」

「喜ばれると思います。会いたいと思っても貴女の行動範囲は限られていますから」

「基本的に動き回らないからね、私」

「それもある意味正しい選択なのですが……姉も貴女の手料理を食べたいと零していましたよ。流石にここに来ることはできませんしね」

「じゃあ、今度ケーキ作って持っていく」

「約束ですよ?」


 嬉しそうに微笑むアルに頷きながら今後の計画を思い浮かべる。

 そんな背景事情があるなら誕生日ではなく社交界へのデビュタントを特に警戒すべきだろう。それを考えれば私も参加するという選択肢があることはかなり幸運かもしれない。

 参加が許されるなら近くに居た方がいいかもね。しかも実力者な皆様が私の存在を認めてくれるならば、もう一つ打つ手がある。


 金で繋がっているあたり向こうの味方に実力者はいまい。ならば実力者達に予め『お祭りがあるよ♪』と教えておいたらどうだろうか。


 ……。

 きっと楽しんでくれる! 行動範囲が限られている異世界人と接する貴重な機会だし、興味のある人は見物に来るだろう。

 何せ変人揃いだ、更に楽しむべく参加者になる猛者も出てくるかもしれない。

 向こうに付くという選択肢もあるけど、クラウスの言葉からしてその可能性は低い。変人どもは愛国者ばかりだと聞くから国の恥を駆除することに躊躇いはないだろう。


 嗚呼、何だがわくわくしますね! 

 可憐な御嬢様達が初々しく社交界の一員となる素敵な舞台の片隅で私VSグランキン子爵の陰湿バトルが展開されるのでしょうか。

 人気の無い所へ呼び出しての脅迫や暴力やイジメなんてのも展開的にありかもしれん。

 お約束どおり素敵なヒーローが助けに来るかもしれないしねー、主に私を止めるために。今のところそのヒーローになれそうな常識を持ってるのは騎士sくらいだけど。他は誰も止めないだろう。


 まあ、何をやらかしても私は貴族ではないので痛くも痒くも無い。

 ゼブレストでの行いが知られているなら今更だ。猫は不要。

 素敵な紳士・淑女の皆様は生温い目で見守ってくれるでしょう……娯楽が少ないし。

 見世物ですよ、み・せ・も・の! 面白おかしく噂されても被害はグランキン子爵オンリー。

 そのまま悪役の相手を私が引き受けていればクリスティーナは安全だろう。後は本人の頑張り次第。

 『離しませんよ、勝つまでは』『泣かぬなら泣くまでいびろう、ホトトギス』という言葉を胸に足止め工作頑張りますとも!



 ……と、熱く語ってみたら白黒騎士全員が私の協力者になりました。お祭りに参加したいようです。


「初の共同作業ですね」

「お手並み拝見といこうか」

「「我々も協力しますよ!」」 


 彼等が協力者ってことはあの人に許可を取らねばなるまい。


「と、いうことになってきました。許可して貰えるんですか、魔王様?」


 本日もキラキラしてる人が混ざっております。いや、ここは貴方の親衛隊が居るから安全ですけどね?

 

「いいよ。ただし条件がある」

「条件?」

「君が指示を出すこと。彼等の立場や人脈を利用するのはいいけど、策は自分で考えなさい」


 なるほど、『協力者』としては許すけど其々が勝手に動くことは許さないということですか。

 ……。

 好都合です……!

 貴族といっても彼等はかなり善良なのだ、『国の恥を駆除する』ことはするだろうが『国の恥をできる限り痛めつけ徹底的に貶めて駆除する』方法は取らないだろう。


 非道? 敵に容赦など必要ありません!

 鬼畜? 今更ですが、何か?

 

「了解しました! 『協力者』であればいいんですね」

「うん。だから誰かを意図的に関わらせたければ君が何らかの形で接点を作るしかないね」

「こういう時って珍獣扱いは便利ですよね、興味を引かせることが出来るし」


 その言葉に魔王様は何もいわず笑みを深くした。ええ、そう言う発想が大事ってことですよね。

 ゼブレストの時みたく国の後見という圧倒的な権力は無い。だからイルフェナでは別のやり方じゃないと私個人の力は暴力しかないわけです。意味無くそれをやらかしたら犯罪者一直線だがな。


 私自身は何の権力も無い。だから協力者が必要。

 協力者を得る手段は興味であり、利害関係の一致であり、私怨なのです。

 それに『最良の結果』を出せれば今後も良好な関係を築けるかもしれないし?


「じゃあ、皆宜しく! まずは候補になってる料理の試食から御願いします。あ、魔王様も参加しますよね?」

「おや、私もかい? 早速利用する気だね?」

「ええ。……ちなみに今まで出したことが無い物も何品かありますけど」

「……」

「……」


 お互い笑顔のまま固まること暫し。


「参加させてもらおう。食べた後に評価をすればいいんだね?」

「評価を書きやすいように専用の紙を用意してあります!」

「証拠か。考えたね」

「名前を書く場所もありますから」

「……まずは私が新たな協力者の一人だね」


 日頃から感謝してますよ、魔王様。

 ですが。

 今回の事はある意味貴方が持ってきたのです、傍観者でいることは許しませんよ?

 ここに来たのは貴方の意思なのです……餌も用意してました、逃がしません。


 そんなわけで試食会場と化した食堂に料理が運び込まれていくのだった。

 初めから騎士達にはこの協力を頼むつもりだったけど思わぬ大物が釣れたようです。




「なあ……何かとんでもなく大事になってないか?」

「エルシュオン殿下に相談した時点である程度は覚悟してたが、な」

「……」

「……」

「「俺達、子爵家なんだけど!? 何で王族まで出てくるんだ!?」」


 私が説明する間、隅で静かにしていると思ったら双子は混乱していただけだった模様。

 いいじゃん、クリスティーナ達の為なんだぞ?

 それに、お祭りは盛大に皆で楽しむものですよー?

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