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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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招待は突然に 其の五

 さて、続きを語ろうじゃないか。


「で、キヴェラに着いたんですが。どうやって後宮に入ろかなー、とか考えてたら、あっさり侵入……いや、招待かな? どっちでもいいですけど、目的のセレスティナ姫の下へと到達。なお、苦労は全くしていません」

「待って? 最初からおかしいからね!?」

「まあ、いいじゃないですか。本当に何の面白みもないんですから。詳しくは報告書を参照、ですよ」


 さらっと流せば、顔を引き攣らせる騎士様達。

 いいじゃん、マジで何もなかったんだから。戦闘どころか、向こうから来てくれましたよ。頼れる侍女・エマが丁度、買い物に出ていたタイミングだったみたいだし。


「そこから二人を拉致するまで、部屋にお世話になったりしていたんですが。マジで! 誰も! 気付きませんでした……!」

「ああ、うん、そこは我々も呆れた」

「酒盛りとかやったりしてたんですけどねぇ」

「……いや、そこまで自由に過ごさなくても」


 さすが騎士様、呆れ果てていても突っ込みは忘れませんか。


「で、結局、『王太子妃逃亡!』というタイミングまで、そこを拠点に活動してました。灯台下暗しとは言いますが、誓約書を奪ったり、キヴェラ王城にちょっとした仕掛けをしたりと、充実の日々でしたよ」

「そこは『真面目にお仕事をした』と言う場面じゃないのかい……」

「そうは言っても、気付かれなさ過ぎて、キヴェラ王敗北の決め手である『王城陥落の小細工』ができちゃったんですよ? 当初からの目的も果たせましたし、私的には嘘偽りなく『充実した日々』ですってば」


 嘘ではない。笑いと遊び心に満ちてはいるが、きちんと自分の役目は果たしていましたよ!

 そうでなければ、コルベラでの謝罪とかセシルの解放が無理だったんだし。


「相手はキヴェラ……もっと言うなら、キヴェラ王ですよ? 手持ちのカードはいくらあっても困りませんって」

「うん、それは納得する。確かに、その言い分『は』正しい。私が呆れているのは、君の態度と言うか、方向性であってね……」

「人生には笑いが必要ですよ。真面目に生きるだけが全てではありません」

「……」


 騎 士 様 、 困 っ て や が る … … !


 ですよねー! この一件において、私はガチで先手を打ちまくった(=目的達成&嫌がらせ連発)ので、『真面目にやりなさい!』と叱れないのよね。

 うん、その気持ちも判るよ。同行してくれた商人の小父さん達どころか、魔王様も困ってたし。

 ……。

 まあ、いいや、次いこ、次。


「やるべきことを終えたら、その後は商人の小父さん達と合流。セレスティナ姫が黒髪なので、『黒髪の娘』という条件で探す騎士様にヒントを与えてみたり、自己アピールして目立ってみたりしたんですが、あっさり脱出成功しましたね」

「何故、そんな真似を?」

「こそこそしたって、怪しいだけですよ。寧ろ、イルフェナ出身という設定を活かし、自発的に目立ってみました。勿論、小父さん達には『騎士様に迷惑かけちゃ駄目だろ』と叱られ、生温かい目で見られましたが、逆にそれが良かった模様」

「うん、そうだね……そうだろうね。私達でも、君は愉快犯に見えるかもしれない。……で、本当の目的は?」

「周囲の人達に情報をばら撒くためですね。『王太子妃の逃亡』なんて民間人には他人事ですけど、面白い出来事なら不敬罪に問われず、人々の話題に上がるんですよ」


 にっこりと笑って、良い子の回答を。騎士様達が視線を眇めるけど、口にしている内容が可愛くないのは承知の上さ。

 ただ、これは事実なのである。『王太子妃様が逃げた』と噂をすれば、緘口令や不敬罪が怖いかもしれないが、『面白い子がいた』という方向で話せば誤魔化せる。

 話のメインになるのが私の行動なので、ギリギリ引っかからないと言うか。


「それに普通、自分から『私も黒髪です!』ってアピールしないでしょ。誰が見ても、事態を面白がっているようにしか見えませんよ」

「まあ、普通は隠すだろうからね。髪や瞳の色を変えることは可能なんだし」

「なお、小父さんを含め、周囲の気の良い人々からは『お前が姫とか無理だろ。気品ないだろ』と諭されて終わりました。協力者の小父さん達以外からも、アホの子に見えた模様です」

「アホの子……」

「人々に一時の笑いと、気が抜ける安堵感をもたらしたと言ってください」

「君、それでいいのかい……」


 騎士様達も若干、脱力しているようだ。すいませんねー、緊張感に欠ける逃亡劇で。


「それからは国境付近の砦を落としたり、追っ手を二人と一緒に弄んだりと、楽しく過ごしました。あまりにも楽しい逃亡旅行だったせいか、コルベラに着く頃には、すっかり二人の表情も和らぎましたよ」


 私、偉い! と自画自賛すれば、騎士様達は顔を見合わせる。


「……。まず、国境付近の砦を陥落させた意味について聞きたい」

「『キヴェラを狙っている勢力が居る』と思わせるためですね。まあ、セレスティナ姫達が自力で逃げられるとは思ってなかったでしょうから、それと合わせて誤認させたかった感じです。警戒されれば人員を割かれて、私達の追手も減るでしょうし」

「ほう、中々に考えられて……」

「なお、半分くらいはキヴェラをコケにしたい気持ちで立てた作戦でした。実際、指差してセレスティナ姫達と笑いましたよ? 『騙されてやがる! 次の襲撃なんてないのに、お・つ・か・れ☆』って」

「ちょ!?」


 面白かったです! と笑いながら暴露すれば、騎士様達は一気に私をガン見した。


「……。途中までは……途中までなら、凄く納得できたんだけど……」

「でも、最初から計画してましたからね。まあ、アルベルダやカルロッサで追い付いてきた連中は、キヴェラ王が画策……不要な家ごと処罰したかったみたいだったので、どんな扱いをしても構わなかったでしょうけど」

「一応、聞いておこう。その根拠は?」

「キヴェラにお知らせした時の、キヴェラの対応の早さですよ。まるで『処罰が最初から決まっていたかのような、手際の良さ』でしたから」

「……」

「そこで初めて、キヴェラ王の噂が事実だと確信したんですけどね。だから、安堵しました。『色々と仕掛けておいて良かった』って。あの後から色々画策したところで、すでに警戒心を持っているキヴェラ王が騙されてくれるか怪しいですもん」


 あの当時はぼんやりと思っていただけだけど、今は確信を持って言える……『キヴェラ王はそこまで甘くない』と。

 現在、私は良く言えば認められているが、悪く言えば『警戒対象』なのだ。しかも、私の遣り方は色々と知られている。


 ……で? そんな輩を野放しにしてくれるか?


 答えは勿論、『否』だ。私の行動自体は読めなくとも、私が有言実行の人と知られている以上、必要以上に警戒し、手を打ってくるだろう。

 あの当時、私がキヴェラに勝てたのは偏に『私の情報が全くなかったから』。

 キヴェラは常識前提と言うか、これまでの経験前提での行動だったため、対処が全くできなかっただけなのだ。

 それを素直に言うと、騎士様は複雑そうな表情で見つめ返してきた。


「君さ、それを私達に言ってもいいのかい? 確かに、私達はイルフェナの騎士ではあるけど、エルシュオン殿下直属ではない。今後、敵対する可能性もゼロじゃないんだよ?」

「その時は、貴方達を出し抜ける策を思いつくまで、ですよ! 人の評価が変化するように、情報や人脈だって増えていくんです。『時間の経過とともに、打てる手は増える』んですよ。警戒対象、上等です。私は勝利して見せますよ」


 ――まあ、理由なく魔王様がイルフェナの敵になるとは思えませんけどね。


 そう締め括って笑うと、騎士様達は何故か安堵したような笑みを見せた。

 当たり前でしょ? 私は『自称・超できる子』であり、『魔王殿下の黒猫』なんだから。

 ……飼い主が望む未来を勝ち取って見せますよ? 自分が悪になろうともね。

楽しい楽しいキヴェラからの逃亡旅行。悲壮さなんて欠片もありません。

騎士寮面子よりも常識人な騎士達も、主人公の逞しさに精神的疲労は免れず。

ただし、魔王殿下への懐きっぷりは事実と、確信できた模様。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 君が笑ってくれるなら、私は悪にでもなる 君とは基本的に魔王様と護衛対象と観客 なお魔王様はお小言ばかりで笑ってくれたかどうか
[一言] 騎士様方、王太子殿下の翼の騎士でイルフェナの騎士だけど、 魔王様の事も気にかけてない訳ではない、っと。 アルやクラウスは翼になった時点で魔王様の味方・配下であることが第一義ではあると思うけど…
[一言]  ――まあ、理由なく魔王様がイルフェナの敵になるとは思えませんけどね。 逆に言えば、なんらかの理由のもと魔王様がイルフェナの敵に回った場合、魔王様と一緒にイルフェナと敵対する、と
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