招待は突然に 其の四
ゼブレストでの楽しい思い出――一般的には殺伐とした日々であったとしても、私的には『楽しい思い出』である――を語り終え、次はイルフェナでのこと。
……が。
順番的には、イルフェナでの『あれこれ』だとは思うのですが。
「どうせ、騎士様達が調べ尽くしていると思うので、イルフェナでのことは省略で」
「いや、さらっと流さないでくれないかな……?」
すぱっと切り捨てようとしたら、どことなく疲れた声でストップがかかった。
ええ~……いいじゃん、別に。
「必要ないでしょうが、今更」
「何故」
「貴方達が『翼の名を持つ騎士』だからですかね。それくらい調べてあって『当然』でしょう?」
「……!」
言い切ると、騎士様達は沈黙した。そんな彼らの姿に、私の予想は的を射ていると悟る。
「この国の気質を知っていたら、その騎士服が飾りだとは思えませんよ」
「それは君の経験からの言葉かい?」
「勿論」
事実であ~る! 騎士寮面子、性癖やぶっ飛んだ性格はともかく、優秀であることは事実なのだから。
例を出すなら、時々お願いしている『他国へ赴く際の玩具やお土産』(意訳)だろうか。
自国ならばともかく、他国の情報や必要な証拠を確保してくるんだぜー……『翼の名を持つ騎士』に恥じない優秀さですよ。変人多数だけど。
「個人的には『特定の分野に秀でるあまり、常識その他が欠如した皆様』だと思っていますが、仕事仲間としてはとても頼りになります! 『潰してこい!』とばかりに、私が欲しい玩具(意訳)を用意してくれますし」
「待って? それは誉め言葉……なのかな?」
「とても褒めてます! 私、馬鹿は嫌い」
いい笑顔で言い切ると、騎士様達は呆気にとられたようだった。対して、私はいい笑顔。勿論、そう思うだけの理由があるのだ。
私に任される『お仕事』(意訳)って、基本的に『柵のある人達が動けない案件』なのよね。
だから、どうしても処罰に持っていく切っ掛けと言うか、事態を動かすような騒動が必要になってくる。
判り易く言うと、『私(魔導師)VSお馬鹿さん』。
互いの持てるカードを駆使し、人生を賭けたデスマッチの開催です。
柵や身分なんて関係ない、負けたら(社会的に)即退場という状況なので、間違ってはいないと思う。
まあ、ともかく。
異世界人であり、魔導師という『異端者』は無駄に目立つため、ある意味では適材適所なお仕事、というわけだ。
「だって、私に求められるのって、『結果』なんですよ? それも、『仕事を依頼した人が望んだ結果』! 私自身に身分や伝手がない以上、それを補ってくれる人が必要じゃないですか」
「うん、それは判る。その言い分は正しいだろう。だけど、君は毎回、それ以上のことをしていないっけ?」
若干、顔を引き攣らせながら『遣り過ぎじゃね?』と聞いてくる騎士様。
それに対し、私の答えは――
「毎回、私個人に喧嘩を売ってくる人が絶えないもので」
だった。
『は?』
「いや、魔導師って『世界の災厄』とか呼ばれているし、無暗やたらと強いことが定説みたいになってるじゃないですか。そのせいか、潰そうとしてくる奴が多いんですよね」
「魔導師、なのに?」
「見た目が小娘なので、『こいつなら勝てる!』って、夢を見るみたいです。まあ、どれだけ貧弱でも魔導師を名乗っている以上、勝てたら『魔導師を倒した』っていう称号が手に入りますからねぇ……」
頭の痛い話だが、実のところ、一定数はこういった輩が居たりする。だからこそ、必要以上に、私に構ってくるのだろう。
なお、アルベルダにはグレンがいるため、割と最初から警戒モードであった。
と言うか、ブリジアス王家の生き残りを抱えていたウィル様が最初に腕試し紛いの提案をしたため、他の人達が仕掛ける必要がなかったとも言う。
その後に仕掛けてきた奴らにはそれらの情報が提示されていなかったみたいなので、『別に、居なくてもいい』と思われていたと推測。
ウィル様は陽気な親父様だが、意外とこういうことはシビアなのだ。
人当たりの良さと大らかさに騙されると、痛い目を見る典型です。
「……。つまり、イルフェナでは仕事として提示される以外にそういったことがないから、情報収集は成されている、と?」
「それができなければ、この国でやっていけないでしょう? 勿論、魔王様や騎士寮面子達の守りもあるでしょうけどね」
こっくりと頷けば、騎士様達はそれ以上、追及しては来なかった。多分、あちらも深く追及されると詳細を話さなければならなくなるため、さらりと流したい話題なのだろう。
「判った、イルフェナについてはそれでいいだろう。次はキヴェラ……これはセレスティナ姫達の救助、という方向について聞きたいんだけど」
「逃亡旅行のことですか? それとも、キヴェラ王にゼブレストで謝罪させたり、ボコったことについて?」
「……。両方で頼む」
「了解です」
素直にお返事したのに、騎士様達はお疲れな模様。嫌ですね、さっきから喋っているのは、ほぼ私なのに。
「ええと……発端は狸様……じゃなかった、レックバリ侯爵からの依頼なんですが。私にとってはチャンス到来! って感じだったんですよ」
「何故かな?」
「ルドルフ達と仲良くなっていたので。どうにも、ゼブレストの状況が不自然だったんですよね。国があそこまで疲労しているのに、側室達の実家が力を持ち過ぎでしたし」
普通、幾度となく繰り返されてきた戦に『国』が疲労しているなら、側室達の実家もそれなりにダメージを受けているはず。
それなのに、奴らは元気一杯だった。しかも、『国の現状に、不安さえ抱いていない』。
そして、割と温情を見せる性格のルドルフにしては、家をあっさり潰しまくっている。
……不審に思って当然でしょうが、これ。
「潰された家……厳しい処罰をされた家には、それなりの理由があったと思うんですよ。だけど、私は部外者のせいか、そういったことは殆ど知らされていないんです」
「他国の人間だからとか、君に必要以上に罪悪感を抱かせないためかもしれないじゃないか」
「そういった意味もあったとは思いますよ? だけど、ルドルフと仲良くなっていた私としては、もう一歩踏み込んでしまいたかったんですよ」
一言で言ってしまえば、私の勝手である。だけど、折角、私という使い勝手の良い駒がいるならば、徹底的に関わらせるべきだろうに。
それが成されなかった理由は……私に対して、彼らが過保護だったからだろう。
これは魔王様も同様。ルドルフの状況を正しく理解し、改善を望むならば、最後まで関わらせるべきだった。
「魔王様にしろ、ルドルフ達にしろ、己の庇護対象に甘いんですよね。関わらせないように情報を制限するから、私が不自然に思ってしまう」
確かに、あの時点の私ではそういった扱いも仕方ないと思う。だけど、彼らにとっての最優先のためならば、私も巻き込むべきだった。
そういった意味では、守護役達は私に遠慮がない。彼らの最優先が『主』と判り切っている以上、私としても動くことに不満はないし。
「だから、レックバリ侯爵の提案はありがたかったんですよ。私が動く口実になりましたから」
「……」
騎士様達は何とも言えない表情のまま、押し黙る。単なる異世界人ならともかく、私がゼブレストの状況改善を成し遂げた事実がある以上、動くな、とは言えまい。
だって、騎士様達にとっても、私が動くのは都合がいいから。
方向性はアル達と同じ、ということだろう。非道と言われようとも、彼らの立場からすれば、どちらを選ぶかは明白だ。
ただし。
私には『悲壮な覚悟』やら『友の苦境を見かねて動く健気さ』なんてものは、欠片もないわけで。
「だからこそ、私は決意しました……『首を洗って待っていやがれ、必ず国単位で貶めてやらぁっ!』と!」
『は?』
「だって、報復の機会ですよ? あの時点では私の性格も全く知られていないだろうし、『異世界人だから』っていう理由で誤魔化せるじゃないですか! さすがに予想外過ぎて、他国も魔王様に責任追及なんてできないだろうし」
はっきり言って、グレン以外は予想不可能だったと思われる。ルドルフだって、私の行動が読めてなかったし。
「そう決めてからは、わくわくしながら準備を整えました。『あれもやりたい♪ これもやりたい♪』って浮かれていたら、皆も快く準備に協力してくれましたよ!」
例外が魔王様と騎士sだけというあたり、私がいかに期待されていたか判るだろう。騎士寮面子は元より、ゴードン先生も協力者さ。
「その、目的はセレスティナ姫の救出だよね……?」
「そうですけど、何故に疑問形?」
「目的がすり替わっているようにしか聞こえなくてね……」
「勿論、最重要項目として覚えていましたよ? 大事な大義名分じゃないですか」
「すでに建前扱いじゃないか……!」
がっくりと項垂れる騎士様。煩いですね。当時はセシル達と仲良くなかったし、仕方がないと思ってくださいよ。
「建前だろうと、ちゃんと考えていましたよ? 普通に助け出したらコルベラに迷惑がかかるだろうから、『姫と侍女の苦境を見かねた魔導師が、二人を問答無用に拉致した』ってことにしようと決めてましたし」
建前は重要です。私の報復に正当な理由をくれたお礼に、コルベラに非を持たせまいと決めていましたとも。
そう言うと、騎士様達は複雑そうに顔を見合わせた。
「……。君、不真面目なのか、真面目なのか、本当によく判らないね……」
「何事も全力投球と言ってください」
嘘ではありません。私は超できる子なので、アフターケアも万全にしようと考えますよ!
主人公によるキヴェラ編解説。
セシル達とは知り合ってもいないため、最初は大義名分扱い。
※来週はお休みさせていただきます。確定申告……orz
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




