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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
幕間

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527/705

番外編 たまには秘密のお茶会を 其の一

「ミヅキ、姉上がお茶を共にどうかと言っていたのですが、如何ですか?」

「シャル姉様が?」

「ええ。カトリーナ殿のことは姉上の独断でしたから、それについての話もあるかと」

「ああ……まさか、『バラクシンの教会派貴族、その最後の希望を潰してきました』とは言えないものね」


 実際には、シャル姉様達がヤバいことをした……ということはない。そもそも、『カトリーナに会いたい』とは言ったものの、きちんと最高権力者に許可を得ているのだから。

 その理由も『魔導師に話を聞いて興味を持った云々』的な言い方をしたらしく、不自然なことはない。


 だって、私はガチでカトリーナを道化扱いしたんだもの。突くと楽しい玩具です。


 実弟であるアルも参戦していたので、シャル姉様は当時のことを詳しく聞いていたんだろう。……元側室相手とは思えない扱いをしているけれど、他に言い様がないのよね。

 なにせ、高位貴族は自分の地位や人脈、才覚を活かしてなんぼ、という皆様なのだ。これはどこの国でも同じ。

 寧ろ、それができなければやっていけない可能性とてあるだろう。派閥もあるし、蹴落とし合いは世の常じゃないか。


 で。


 そんな中、王子を産んだことで教会派貴族達の希望となり、その期待を一身に背負っていたのが側室『だった』(過去形)カトリーナ。

 教会派貴族達のバックアップも完璧、第四王子とは言え『継承権を持つ王子の母』となったことで立場も安泰という、まさに至れり尽くせりの状態だったのだ。

 はっきり言ってしまうと、ここまで好条件が揃っていれば、よほどのことがない限り、追い落とされることはない。

 バラクシンは教会派が半数を占める上、本当に信仰を尊いものとしている人達も含まれるからだ。……一概に『教会派は王家の敵対勢力』と言えないのよね、これ。

 まして、国民の多くは教会の掲げる信仰を尊いものとして受け入れ、信者達もそれなりに多い。

 そういった事情もあり、王家はろくなことができなかったのだが。


 教会派の希望カトリーナ、彼女は教会派の思惑を粉々にするクラッシャーだったのである……!


 何が凄いって、カトリーナにその自覚はないってこと!


 自分が恋をしたいと願うのは、『無理やり側室にされたから』。

(※彼女の父親が画策したのであり、国王は全く望んでいなかった)


 婚約者以外に恋をしている息子を応援するのは、『理解ある、優しい母親だから』。

(※祖父であるバルリオス伯爵には、従順な駒にする目的有り)


 国王一家に疎まれ、王城で寂しく過ごしているのは『自分が教会派貴族だから』。

(※仕事もせず、王命の婚約さえ蔑ろにした挙句、教会派の利になることをしていないため、呆れられていただけです)


 どうよ、この凄まじさ。前向きを通り越して、どう解釈しても道化確定です。まさか、狙ってやっているわけじゃあるまいな?

 まあ、そんな暮らしも彼女の息子であるフェリクスが母親の歪さに気付き、思い込んでいた家族からの認識も間違っていたと理解したことで、めでたく終☆了。

 フェリクスは恋人を妻に望み、王籍こそ失ったけれど、今は教会で穏やかに暮らせている。元々が素直な性格みたいだし、妻共々、王族や貴族といった暮らしが合わなかったのかもしれない。

 そして、カトリーナもめでたく(?)側室という立場から解放された。今の彼女は、理想の王子様(笑)を探し、素敵な恋を夢見る日々である。


「聞いた時も思ったけど、よくシャル姉様はカトリーナから言質を引き出せたね? あの人の性格上、クラレンスさんを連れているシャル姉様に嫉妬しそうなんだけど」


 カトリーナが私を敵視する理由、それは『素敵な騎士達に愛を乞われる存在だから』! 勿論、事実と異なることは言うまでもない。

 なお、『騎士』という言葉からも判るように、素敵な騎士とはアルとクラウスのことだったり。

 何のことはない、二人が悪乗りした挙句、カトリーナを煽っただけなのだが……奴の敵意はばっちり私に向いた。さすが夢見る乙女(笑)、単純である。

 そんな経験がある私からすると、クラレンスさんを夫に持つシャル姉様は嫉妬を向けられそうに思える。

 クラレンスさん、『近衛の鬼畜』とか言われている性格さえバレなければ、穏やかで聡明そうな美青年だしね。


「ああ……やはり、多少は興味を引かれたようですよ?」


 思い出したのか、アルが笑いを堪えながら頷く。


「ですが、そこは義兄上ですから……。姉上の思惑も察していたようですし、誘導を担ってくれたようです」

「あ、やっぱり興味は示されたんだ?」

「ええ、それは勿論。ですが、姉上は義兄上に求婚された時の状況を踏まえ、『素敵な男性に乞われる幸せを知るからこそ、貴女を応援する』というようなことを言ったらしいですよ」

「あ~……『カトリーナの理想、その成功例』みたいな言い方をしたのか」

「はい。嘘ではありませんし、調べられても問題ありません。ただ、姉上の場合は公爵令嬢という身分だけでなく仕事の功績もあったので、騎士の義兄上はそれなりにご苦労されたと聞いています」

「騎士が功績を得ることって、主に戦場だものねぇ……」


 クラレンスさんが優秀であり、将来有望であったとしても、シャル姉様は公爵令嬢。

 大きな戦もなかっただろうし、身分差を埋めるための功績はそれなりに厳しいものがあったに違いない。

 この場合、『高嶺の花』はシャル姉様の方なのだ。だから、カトリーナが望むような展開になった。

 ……つまり、『カトリーナがそうなるためには、シャル姉様並みの高嶺の花になる必要がある』ってことなんだけどね。

 まあ、教会派貴族の中には、『側室だった女性』という点を評価してくれる人もいるだろうから、もっと難易度は下がるかもしれないけれど。年齢的なこともあるし。


「それに、いくらカトリーナ殿でも、自分を応援してくれる人の夫への横恋慕はできなかったのでしょう」

「……いや、意外と本能で『理想の王子様』から外したかもしれないじゃん」

「まあ、そういった可能性も否定しません」


 義兄への認識を否定しないとは、酷い義弟である。思わず生温かい目でアルを眺めると、「義兄上ですから」で済まされた。

 なるほど、騎士だからこそクラレンスさんの本性を正しく知っていると。


「今回は追い詰めると言うより、相手を持ち上げる方法にしたようです。カトリーナ殿ならば、無自覚に失言しそうですし」

「確かに」

「その果てが、『フェリクスを利用しない』という宣言ですからね。彼女は息子を利用している自覚に乏しいですから、余計に誘導しやすかったとか」

「その頭がなかったから現在の状況になったとか、思わなかったのかな」

「無理でしょうね……認めてしまえば、『自分は役立たずな上、お荷物だ』と、理解してしまいますから」


 あっさりと言い切るアルに、悪意は感じられない。どうやら、単なる事実として話している模様。

 基本的に、アルは人嫌いと聞いている。『例外』が居るだけであり、柔らかな口調と穏やかな微笑みのまま、さらっと毒を吐くことも珍しくはない。

 そんなアルからすれば、カトリーナは『利用価値のない、夢見がちな女』程度の認識であり、どれほど酷い扱いをしても構わないのだろう。

 ……。


 私 も そ う 思 っ て い る け ど な 。


「それじゃ、シャル姉様に話を聞いてくるわ。どうせ、魔王様から報告書を出せって言われるだろうし」

「お願いします。お茶会という形を取っていますし、宜しければお茶菓子などのリクエストを聞いてやってください」

「あら、本当にお茶会はするんだ?」


 建前だと思っていたので、少し意外に思う。すると、アルはどこか優越感を滲ませて笑った。


「異世界レシピを使った料理やお菓子が食べられるのは、基本的にここだけですから。義兄上はともかく、やはり令嬢が気安く騎士寮を訪ねるわけにはいきませんので」

「まあねー、そこらへんの気遣いはできるでしょうし」

「あと、先日の南瓜料理を私が自慢したことが原因かと」

「おい」

「いいじゃないですか。珍しい料理と言うか、非常に面白かったもので。ああ、味も良かったですよ」


 思い出したのか、アルは酷く楽しげだ。その気持ちも判るので、私は無言。

 私が少し前に作ったもの、それは『丸ごと南瓜のグラタン』!

 あれですよ、小ぶりな南瓜を丸ごと器にして、中にホワイトソースを絡めた野菜や肉を詰めた一品。個人的には、上に乗せるチーズたっぷりが好みです。

 バラクシンで南瓜料理作ってたら、思い出したんだよねぇ……初めて目にした人は驚くこと請け合い。事実、騎士寮面子にも大いに受けた。

 魔王様も最初は固まってガン見していたけれど、そのうち楽しく食事をしていたので、問題なし。

 なお、レンジの代わりに、野営用の大鍋を借りて南瓜を丸ごと下茹でしたため、目撃した人達は誰もが二度見していた。

 ま、まあ、鍋一杯に南瓜が丸ごと茹でられていたら、普通はビビるよね。使うにしても、量が多過ぎだし。

 余談だが、どこからか話が漏れたため、何故か魔王様経由で調理の依頼が来たりした。誰の依頼かは秘密だそうな。

 一体、どこに運ばれていったのだろう……丸ごと南瓜のグラタン。お貴族様が召し上がるにしては、かなり遊び心に満ちた代物(※好意的に解釈)だと思うのだけど。

 頼むから、解毒魔法などの対策だけはしっかりしてくれと願って止まない。私は無実ですからね……!


「とりあえず、シャル姉様に会ってくるわ。特に用事もないから、私が合わせた方が良いだろうし」

「お願いしますね。姉上なら、今日は午後にエルを訪ねるそうですよ」

「判った」


 さて、どんなお話が聞けるかな?

イルフェナほのぼの日常話。今回はお姉様とのお茶会です。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 騙すほうが悪いのか、騙されるほうが悪いのか……( ´_ゝ`) さすが毒夫婦といえばいいのでしょうかねえ……( ´∀`)
[一言] 更新お疲れ様です。 確か「希望者がいれば下賜もやぶさかではないが、カトリーナの下賜希望者が誰もいなかった」みたいな事を、以前バラクシン王が言ってたような・・・ 誰もが憧れるシャル姉様と、下…
[一言] シャル姉様とのお茶会……たぶん、きっと。 ミヅキの事で揶揄われたアルの反撃が、ミヅキの最近のお料理自慢だったんだろうなぁ~と推察。 で。未来の妹(希望)のお菓子を食べたくて、お茶会になったと…
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