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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
予想外の災厄編

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508/705

魔導師とアグノス、イルフェナへ

 ――イルフェナにて


 騎士寮の食堂には、皆が揃っている。勿論、魔王様も同席。

 さすがにルドルフを始めとした他国の人々は帰国しているけど、『進展があったら教えて欲しい』という伝言が残されていた。

 やはり、今回の一件の結末は皆も気になるのだろう。国として考えるなら、『血の淀み』持ちのアグノスの今後が。


 で。


 私は現在、絶賛、皆の視線を独占中。

 単純に、『家出娘が帰還したから、事情を聞こう』的な意味ではない。私が連れ帰った同行者――アグノスが居るからだ。


「……」

「……」

「……ミヅキ。私個人としても、いきなりの君の家出に思うところはあるし、何も知らないルドルフをメッセンジャーに使ったことも問題だと感じている」

「でしょうねー……」


 深々と溜息を吐く魔王様に、私はしれっとお返事を。その途端、ジトっと睨まれた。親猫様は激おこな模様。

 まあ、そうなりますよね。ええ、そこは言い訳しませんとも。

 ただし、私にもそうしなければならなかった理由があるから、反省しない。

 アグノスの保護&教育各種はあくまでも、『魔導師が個人的にやったこと』でなければならないのだから。イルフェナやゼブレストは勿論、他の国もアウトである。

 今回の事情を知っているのは、イルフェナやゼブレストといった当事国を除くと、各国の極一部の人々のみ。

 つまり、当事国以外で事情を知っている人がアグノスに手を出しちゃった――良い意味、悪い意味問わず、関わることを指す――場合、『利用する気じゃないか?』という疑惑を持たれてしまうのだ。


 ハーヴィスの現状を知っていれば、保護以外の何物でもない。


 ただし、それを知らないと、悪い方向に捉えられてしまう。


 まさか、『ハーヴィス王が無責任かつ甲斐性なしの、御伽噺の王子様モドキだからです』と説明するわけにはいかないしね。

 ……。

 いや、言ったところで、『は? 何それ?』で終わるだろう。

 誰だって、一番身近な王は自国の王なのだ……自国と違い過ぎて、想像できまい。どんな国だって、王が無能ならば追い落としが容赦なく行われるもの。

 少なくとも、貴族達から舐められることは確実だ。それが公然の秘密と言うか、噂になって、他国にも伝えられてしまう。

 結果として、王を交代せざるを得なくなってしまうのだよ。最高権力者が国の弱みになるなんて、怖過ぎる。


「とりあえず、確認させてもらいますが。『動くならば、魔導師しか該当者がいなかった』ということは、考慮してもらえるんでしょうか?」

「一応ね。そこは理解できているよ。なにせ、ハーヴィスへの処罰の考案者は君だ。魔導師を敵に回す危険性があるから、部外者は介入を控える。当事国はハーヴィスに関われない。消去法だけど、君が動くことが最善でもある。……君がアグノス殿を哀れみ、動く気があれば、だけどね」

「そっかー」


 それは何より。さすが、魔王様。理解のある保護者を持てて、私は幸せです。


「だからと言って、この状況はどうかと思うけど」


 魔王様が顔を向けた先、私の隣には、嬉々として私が作ったプリンを頬張るアグノスの姿。

 う、うん、まあ、いきなり問題の元王女を連れて来たら、ビビりますよね!


「ミヅキ、家出した間にしでかした『全て』を、詳しく言いなさい」

「追放されて、国から出た直後、アグノスを捕獲……もとい、拾いました」

「「おい」」


 即座に、近くで話を聞いていた騎士sから突っ込みが入る。

 いいじゃん、嘘は言っていないぞ?


「捨て猫や捨て犬じゃないんだから……」

「いや、そうは言ってもですね。あのままだと悪い人に誘拐されるか、野垂れ死ぬかの二択じゃないですか」

「それは判るけど……そういった可能性も踏まえ、君が処罰を決めたんじゃないのかい? ……あまり言いたくはないけれど、そういった末路を予想している者達も少なくはない」

「……」


 言葉を暈してはいるが、要は『【血の淀み】持ちで、問題を起こしたアグノスの死が望まれていた』ということだろう。

 確かに、どれほど力を削ごうとも、アグノスが新たな信奉者を得てしまえば意味がない。

 ぶっちゃけて言うと、『新たな問題を起こすことを警戒されている』ってこと。

 普通ならば、ハーヴィスで裁かれるなり、幽閉されるなりする未来が待っているだろうけど、誰からもそんな声は上がらなかった。

 ゆえに、表舞台から消える可能性が高い私の要望が通ったとも言う。『提案した以上、その後にも責任持てよ』的な意味を含め、許可が出たのだ。

 ……。


 さすが、イルフェナ王! と言うべきなんだろうな、これ。


 私の望みを叶えてはくれたけど、無条件に私任せにしたわけではないという、厳しさも見せております。

 それがイルフェナの気質であり、王としての判断であり、魔王様の父親として譲歩した姿なのだろう。勿論、文句はありませんとも。


「そちら方面の文句は私自身が受けるつもりですから、ご心配なく。まあ、リリアンにも頼まれてましたしね……私個人も色々と思うところがあるので」

「そうかい、それならば君に任せ……」

「あと、アグノスがハーヴィス以外で幸せになったり、私に懐く様を『温情として』! ハーヴィスに送りたがっている騎士寮面子が全面的にバックアップしてくれるそうなので、問題なしです」

「え゛」

「アグノス、ハーヴィス追放時には、悲しむ素振りすら見せませんでしたからねぇ……ハーヴィス王は心を抉られること請け合いですよ! 悲劇の父親ぶってますが、それすら独り善がりの妄想だと気付くでしょうね。ざ・ま・あ!」


 いい笑顔で、ぐっと親指を立てる。魔王様は唖然としているけれど、周囲の騎士達はにやにやとした笑みを浮かべているじゃないか。絶対に、私の予想は間違っていない。

 ふと、隣を見ると、自分のプリンを食べ終わったアグノスがスプーンを咥えたまま、残念そうな顔をしている。

 無言で私のプリンをアグノスの前に置いてやれば、笑顔で食べ始めた。「ありがとう!」という言葉が出るあたり、教育は順調です。感謝の言葉、大事。

 私達がほのぼのとした遣り取りをする中、魔王様は周囲の騎士達に確認を取っていた。


「ちょ、君達!? まさか、本当にやるつもりじゃないだろうね!?」

「いやですね、エル。折角、アグノス殿があのように成長されているんですよ? 一目でも見せてやりたいという、気遣いですよ」

「そうだぞ、エル。見ろ、ミヅキに懐く様の微笑ましいこと」


 クラウスの指摘に、魔王様が振り返る。そこにあったのは、追加のプリンを嬉々として食べるアグノスと、アグノスの口元を布巾で拭いている私の姿。


「……。ほ……本当に、随分と懐いているね……?」

「ほぼ、ゼロから教育の遣り直しでしたからね。多少の怒鳴り合いと喧嘩紛いを乗り越えられれば、自分に向き合ってくれている人だと気付いたんでしょう。精神年齢こそ幼女ですけど、聡明と言われる子でしたからね」

「ああ、なるほど」

「あと、私の飴と鞭は完璧です。褒めて、叱って、努力するよう仕向ける! ご褒美が待っているなら頑張れる子なので、割とチョロかったです」

「最後は要らなかったかな……!」


 いいじゃないですか、魔王様。切っ掛けは好物目当てでも、きちんと学習しているんですから。


「おやおや、微笑ましいですね。実の姉妹のようです」

「そうだな。数日程度でここまで懐くということは、ハーヴィスでの生活が偲ばれる」

「あの方が父親ですからねぇ……それはまあ、ある程度予想はできますが」

「そのくせ、父親という自負は人並みにあるみたいだがな」

「君達……」

「「何か問題が?」」


 息の合ったアルとクラウスの遣り取りに、魔王様は頭を抱えてしまった。幼馴染二人の態度から察するに、私が言ったことは確実に実行されると理解できてしまったのだろう。

 しかも、その名目は『ささやかな気遣い』。

 一般的に考えれば、それは確かに気遣いだけど、ハーヴィス王からすれば、心を抉る追い打ち攻撃以外の何物でもないわけで。


 ハーヴィスは今度こそ、騎士寮面子の陰湿さを知るってことですね!

 そのための費用や労力を、惜しまない連中を怒らせてますからね……!


 ハーヴィス王の心が折れる様を見られないのは残念だけど、今回ばかりは仕方ない。宰相さんや王妃様がちらっと暴露してくれることを願おう。


「はぁ……まったく」

「大丈夫ですって、魔王様。これから預けることも踏まえて、アグノスの教育もばっちりですから」

「いや、君の教育ってことが逆に不安なんだけど」

「大丈夫だって言ってるのに……。アグノス! 貴女が絶対に忘れちゃいけないことは何?」


 未だに不安がる魔王様に呆れつつ、アグノスへと問いかけを。

 すると、プリンを食べ終わっていたアグノスは、はっとして回答をする生徒の如く片手を上げ。


「はい! 私はミヅキの所有物です! 私は王女でも、物語のお姫様でもありません! 何かあったら、ミヅキに必ず相談します! エルシュオン殿下には絶対服従です!」

「宜しい!」

「「おい!」」


 騎士sが再び突っ込むが、魔王様はアグノスをガン見したまま固まった。対して、私ははきはきと答えたアグノスの頭を撫でて褒めてやる。

 何さー、超重要なことは徹底的に教えてあるに決まっているでしょー?


「あの、ミヅキ? アグノス殿にどういった教育を?」

「上下関係は絶対だと教えましたが、何か」

「……っ、百歩譲って、軍人じみた今の受け答えは容認しよう。だけどね? 『エルシュオン殿下には絶対服従です!』って、何かな!?」

「常識人の最後の砦を組み込んでおけば、暴走は防げるかと。多分、私個人の教育だと、各国の皆様が別の意味で不安になるんじゃないですかね?」

「く……! 否定できない!」


 事実なので、魔王様も否定できないらしい。アグノスが優秀であることは事実なので、私の類似品と化す可能性もゼロではないと、理解できているのだろう。

 騎士sは突っ込み、魔王様は頭を抱え、アル達はにやにやと今後の報復……いやいや、温情に想いを馳せる。

 そんなカオスな状況の中、アグノスが不意に私の袖を引っ張った。


「ねぇ、ミヅキ。私はどこに行くの?」

「ん? バラクシンっていう国にある教会だよ。そこにはアグノスみたいに、居場所を失った子達が沢山いるんだ。だから、その子達と一緒に学んだり、遊んだりさせるつもり」

「……ミヅキは来ないの?」

「月に何度かは会いに行くよ! 大丈夫! 優しい大人達も沢山いるし、教会を統べる聖人様は私のお友達だから」


 お友達=仲良し=共通の目的を持つ同志=共犯者。嘘は言っていない。

 と、言うか。

 これは聖人様も割と乗り気だったりする。アグノスを理由に支援物資を提供できるのは勿論のこと、聖人様自身もアグノスのことを気にかけていたのだから。


『教会の提案が元になった以上、全く非がないとは言い切れん。あの子の人生を歪める一因となった以上、今度は正しき成長を見守ってやりたいのだ』


 以上、聖人様のお言葉である。

 今回の事情を話したところ、聖人様は大いにアグノスに同情したそうだ。「大人達の思惑の犠牲者ではないか!」と。

 そこで現在、アグノスの精神がほぼ幼女に近いことを暴露。教会で育てられている子供達と共に生活させ、アグノスの情緒を安定させてほしいと願ってみた。

 アグノスは愚かではないが、その精神年齢は幼い。これは彼女が精神的な成長をする機会を奪われ、『御伽噺のお姫様』であることを強要されてきたから。

 言い換えれば、『それ以外は求められていなかった』。あの襲撃者達にしろ、信奉者達にしろ、自分達の理想を押し付けていたかもしれないじゃないか。


 アグノスの意思はどこにもない。これで、歪まない方がおかしい。


「むぅ……ミヅキは私の絶対者だから、言うとおりにするわ。だけど、絶対に会いに来てね」

「はいはい、約束するから、そんな顔しない」


 だから、三つ目のプリンは止めようね。夕食が入らなくなるから。


 そう言うと、アグノスは残念そうにしながらも、こっくりと頷いた。相変わらず、素直である。

 そんな私達の姿を、騎士達の一部は魔道具に記録し。

 魔王様は複雑そうにしながらも、これはこれでいいかと納得し。

 アル達は微笑ましそうにしながらも、今後の計画を練っていた。


「ミヅキが『良いお姉ちゃん』に見える……」

「今のところはまともだな」

「「って言うか、アグノス殿はマジで幼女か!?」」


 マジなんだぜ、騎士s。現状、アグノスは精神年齢幼女なお子様だ。

アグノスは最終的に、バラクシンの教会へ。

その前にイルフェナに寄って、親猫様達にご報告。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 基礎の教育がすんだらその後はミヅキの英才教育()が始まるんですねw いずれは猫の仲間入り・・・黒猫、灰色猫の次は何になるんでしょうね やったね魔王様、子猫が増えるよ!(目をそらし&震え声)
[一言] 何となく… リアル『プリンセスメーカー』(リモート) って言葉が頭に浮かんだw
[良い点] ミヅキから離れると知っても会いに来るの知ったら納得しててほっとした…精神年齢幼女だけど賢い子ではあるから必要性とかわかれば大丈夫なんかな…喧嘩してでも向き合ってくれたから信用もあるかもしれ…
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