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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
予想外の災厄編

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報復の時、来たる 其の一

 ――イルフェナ・謁見の間


「此度のことは、我が国にとっても軽いものではない。よって、そちらの提案通り、謁見の間での謝罪とさせてもらう。また、魔道具によって、こちらとハーヴィスの謁見の間を繋いでいる。これは双方、合意のものである」

「感謝する」

「配慮いただき、嬉しく思います」


 イルフェナ王の言葉に、ハーヴィス国王夫妻が揃って頭を下げる。提案を受け入れてもらえたことに安堵しているようだった。そんな様を、私はどこか冷めた目で見つめた。


 ……ぶっちゃけ、これはハーヴィス側の自己保身の表れなのよね。


 普通は対等な立場であるはずの『国王夫妻』が、イルフェナ側に対し、一段下がった状態なのだ。ある意味、判り易い反省の構図なのである。

 言うまでもなく、これは『非はハーヴィス側にありますよ』という自己申告。無言の『ごめんなさい』だ。

 彼らの先触れとしてイルフェナに来たハーヴィスの使者は、状況を正しく伝えたのだろう。すなわち、『他国もハーヴィスに非があると知っていますよ』と。

 それならばと、先手を打った結果が現状なのだ。最初から『イルフェナ側に許しを請う』という姿勢を見せ付け、誠意を示そうということだろう。

 ……。


 誰が考えたか知らんが、上手い手だな。

 言い訳を口にせずとも、態度で『心底、反省しています』と言っているもの。


 ここまでされると、イルフェナ側としても大人の対応をしなければならないのだろう。一国の王に誠意を見せられた以上、感情的に振る舞うわけにもいくまい。

 ……が。

 イルフェナ王はさすが、魔王様の製造元だったわけで。


「私達も思うところはあるが、それ以上に怒っている子が居てね。折角だから、この場を任せてみようということになったのだよ。なに、とても賢い子だから心配はいらない」

「「は?」」


 笑みさえ浮かべて告げるイルフェナ王に、ハーヴィス国王夫妻は困惑気味。

 まあ、それが普通の反応だろう。身分的な意味でも、第二王子が襲撃されたという意味でも、王自身か宰相クラスがじわじわと言葉で締め上げ……じゃない、言葉を交わすことになる案件なのだから。


「ああ、君達もすでに会っているよ。……魔導師殿、頼むね」

「喜んで!」

「「え゛」」


 唐突な指名に、ハーヴィス国王夫妻の顔が判り易く引き攣った。ただ、イルフェナ側にもこれを知らない人達は結構いたらしく。

 事情を知らなかった貴族達はざわめき、ひっそり紛れていたルドルフはいい笑顔で頷き、魔王様は……遠い目をして黄昏ていた。

 なお、特別ゲストとしてこの場に居ることを許された――許されているだけで、発言権はない――我が友人一同も意外そうな顔になっている。

 魔王様はともかくとして、イルフェナ王が私と親しいなんて聞いたことはないはずなので、彼らも困惑気味と言った方が正しい。


「その……魔導師様、はこういった場を任せるほどに信頼を得ているのでしょうか?」

「息子はともかく、私と話したことはないよ」


 困惑を露にしながらも尋ねたハーヴィス王妃に、イルフェナ王はあっさりと否定。

 王の言葉に益々困惑する人が続出する中、イルフェナ王は「ただし」と言葉を続けた。


「彼女は今回のことに一番怒っていると言っても過言ではない。それはハーヴィスの砦を落としたことからも判るだろう?」

「え、ええ」

「そして、私達も憤っているんだ。だからね、私はこう思ったのだよ。『言葉で報復することくらい許そうじゃないか』と」

「「な!?」」


『言葉での報復』という言葉に、ハーヴィス国王夫妻は判り易く反応した。だが、イルフェナ王の穏やかそうな笑みは全く崩れない。


「この場ならば、魔導師殿も私の顔を立ててくれる。それ以上に、エルがいるんだ。遣り過ぎと判断すれば止めるし、状況によっては退席させることも可能だ。少なくとも、この場への参加で彼女の気が済めば、ハーヴィスへの報復は今後、起こらないだろう」

「……我が国のため、ということか。魔導師殿を抑え込める場において、言葉によって報復させる。それ以降の報復を封じる意味でも、この場を任せることにしたと」

「その通り。少なくとも、そういう約束になっているからね。ハーヴィスという『国』がこれ以上、壊されることはないだろう」


 イルフェナ王の言葉に、ハーヴィス国王夫妻は顔を見合わせた。公の場においては異例中の異例とも言える人選だが、そういった取り決めが裏で成されているならば……という心境みたい。

 実際、私がこういった場に出て来ることはかなりおかしいので、それなりの理由が必要になる。

 その『理由』が『魔導師を納得させ、ハーヴィスをこれ以上、壊させないため』というものであるならば、イルフェナ側が気を使ったのはハーヴィスの方。

 要は、『ハーヴィスのために、魔導師に怒りの発散場所を与えました』ってことですな!

 他国の面子の目もあるので、イルフェナが『争いを好みません! 魔導師も大人しくさせます!』と主張したとも受け取れる、高度な言い回しである。

 少なくとも、開戦の回避は確実だ。イルフェナはとても平和的な解決を望んだ、ということだろう。誰が聞いても、そう見える状況が整えられているのだから。


 ……ただし、場を任された私の性格を知らなければ。


「受け入れよう。感謝する」

「彼女が多少、キツイことを口にしても許されよ」

「言葉で人は死なん。非はこちらにあるのだ、甘んじて受けよう」


 ハーヴィス王からの了承の言葉に、イルフェナ王は満足そうに頷き、そして。……ひっそりと私を見て、笑みを深めた。

 まるでイルフェナ側が魔導師を諫め、ハーヴィスの滅亡を回避したような展開だ。砦陥落という事実がある以上、ハーヴィス勢は一様に安堵の息を吐いている。

 そんなハーヴィス勢の姿に、私は内心、大笑い! 多分、隠された本音を察したルドルフも同様。

 普通ならば、その認識は正しいだろう。国の滅亡回避ってのも、嘘じゃない。しかし、彼らは勘違いをしているのだ……『魔導師の狙いはハーヴィスという国』なんて、私は一言も言ってないのにね。


 当たり前だが、親切を装った罠である。


 今回の件、事前の対処はありえたのだから。事が起きたのは全て、ハーヴィス側の怠慢のせい。

 そもそも、若かりし頃のハーヴィス王の自分勝手な行動が長い時を経て、今回の件に繋がっている。

 部外者、もっと言うなら政やその他のことに興味のない民間人からすれば『御伽噺のような恋物語』なのかもしれないが、関係者からすれば、将来的に問題が起こること請け合い。そりゃ、必死で止める。

 それでも我侭を押し通し、何の対処も取らなかったのは、ハーヴィス王自身。彼はアグノスの起こした一件の被害者ではなく、元凶なのだ。


「ご安心を。……この場で暴力なんて、振るいませんよ」

「おや、わざわざ口にしてしまっていいのかい?」

「これも一つの『誓約』ですから。『口にすることに意味がある』でしょう?」


 意味を正しく感じ取ったのか、イルフェナ王が満足そうに頷く。そんな私達の遣り取りに何かを察した人達は……誰も止めに来なかった。


「本来ならば、君はこういった場を任されるべきではない。だが、私だけでなく、ハーヴィス王からも了承の言葉を貰った。これ以降、この件に対する不満は認めない」

「……それも口にされますか」

「勿論だ。君とて、『誓約』と言ったじゃないか。後から文句を言うなんて真似はさせないよ」


 ――言葉にして証拠を残すのは、とても大切じゃないか。 


『この場でストップをかけなかった以上、納得したとみなすからね? 文句は言わせないよ』と、暗に告げたイルフェナ王に、ひっそりと胸中で感謝を述べる。

 さすが、魔王様のお父上。後から『魔導師であろうと、あんな子に任せるなんて云々』と言ってくるだろう輩への対処も万全です。


「まあ、言われても仕方ありませんよ。こういった場を任せるのに相応しくないのは、事実ですから」


 それが、まさかの大抜擢。私のイルフェナ王への好感度は爆上がりした。


「ふふ、お手並み拝見といこうか」

「ご期待に応えられるよう、頑張ります!」


 万全のバックアップと、『心置きなくやれ』と言わんばかりのイルフェナ王の態度に、私も笑顔で了承を。

 事態を察した人達の様々な期待を背負っている以上、魔導師として無能な様は晒せません!


「それでは、始めさせていただきますね」


 そう言って、ハーヴィス王へと向き合う。吹っ切れた様子のハーヴィス王妃――一体、何があった?――は私の態度に警戒を強めたようだが、ハーヴィス王はこれまでの言葉をそのまま受け取っているらしく、少しだけ安堵しているようだ。

 彼からすれば、『国の滅亡、及び魔導師が暴れる事態の回避』という言葉が全てなのかもしれない。

 ……が、イルフェナはそんなに大人しい国ではないし、私も素直に振り上げた拳を下す性格ではなかった。繰り返すが、これは『罠』である。

 さっき、魔王様の達観した表情が見えた気がするけど、気のせいですよ、気・の・せ・い。私は与えられたお仕事を頑張るだけさ。

 そんな気持ちを胸に、私は獲物――もとい、ハーヴィス王へと笑みを向けた。


 さあ、報復の時は来た! 言葉は暴力よりも性質が悪いと、証明して差し上げますよ?

イルフェナ王「言質は取った」

主人公にとっても協力的なイルフェナ王。

一国の王として、寛大さを見せ付けたように見えますが、

実際には主人公に玩具を与えただけです。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あらやだ、イルフェナ王陛下すてき……!!(※主人公サイドとして見た場合) なおミヅキに対応させた裏の意味を警戒している王妃はまだしも、全く気づく様子もないハーヴィス王は本当に無能だなこれ…
[一言] 今は国王夫妻はイルフェナ国王の様々な罠や言質を取られてる事に気づいてないようですが王妃様はミヅキの処刑時間の途中でその事に気づきそう。 ハーヴィス王は言われなければ最後の最後まで気づかない…
[一言] ネズミが逃げないように丁寧に逃げ道を塞ぎ、隠れる場所を作りつつどこに逃げても爪が届く様にロケーションを整えた密室に猫を放り込む様は流石の一言である。
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