『遠足』、決行
――とある場所にて
「不気味なほど順調ねー」
これまで来た道を振り返りつつ口にすれば、同行者達は揃って肩を竦めた。
「まあ、仕方がないですよ。あれほど各国の要人達が集ってしまえば、どうしてもそちらを優先せざるを得ません」
「まあね。しかも、その場所がいくら『最悪の剣』の巣窟……もとい強さに定評のある騎士達の住処だったとしても、『騎士寮』ってとこが問題でしょ」
――セキュリティなんて、絶対に城に劣るじゃん。
そう続けると、銀髪の同行者――セイルは意味ありげに笑みを深めた。
別に『セキュリティ皆無』というわけではない。基本的に、騎士は王族・貴族を狙う輩の邪魔者なので、襲撃その他に備えてある程度の『守り』はあるのだ。
ただし……あくまでも『ある程度』。
騎士は戦ってなんぼという、所謂『暴力のプロ』に該当する職業なので、『これくらい助力すれば、後は自分達で何とかするよね』程度の認識なのだ。
当然、『守られる立場』である王族や貴族の多くが滞在する城の方が、守りが厚い。……もっとも、『護衛のため』という名目で、騎士やその他の城の住人達に監視される場合もあるけどね。
さすがに宰相補佐様やグレンは城の客室に泊まっている。彼らは其々が国の意向を受けた使者――表向きは違うかもしれないが、役目は同じ――なので、『身分に沿った対応』が適用されていた。
そんな中、完全にイレギュラーなのが『魔導師の友人一同』という人々。
普通は『監視も兼ねられるし、騎士寮に泊まればいーじゃん?』という対応になるはずなのだけど、それは身分が平民、もしくは精々が下級貴族クラスまで。
さすがに他国の王族相手に『お友達(=魔導師)と一緒でいいよね?』とは言えんのだ。ぶっちゃけた話、魔導師と悪巧みをされても困る。
なお、魔王様は心底、これを警戒していたらしい。
勿論、私が他国の厄介事に利用されるといった『イルフェナの許可を得ないまま、魔導師が利用される』的な意味ではない。
『魔導師が勝手に厄介事に首を突っ込んだ挙句、イルフェナ側が知らないうちに玩具で遊び倒す』という事態を警戒しているだけだ。
つまり、魔王様の警戒対象は『他国の人』ではなく、『何をしでかすか判らないアホ猫』オンリー。
『ミヅキが利用されるわけないだろう。逆に玩具扱いして、遊ぶだけだよ』とまで言い切りやがった。
これを聞いた騎士寮面子は、爆笑する者・真顔で私に反省を促す者・深く同意し頷く者の三パターンに反応が分かれた。
そして、当然のように否定の言葉は上がらない。騎士sに至っては、『少しは殿下を労われ』とばかりにお説教モード。
安定の信頼のなさに、乾☆杯。魔王様の中では『基本的にミヅキが元凶』という事実が根付いているに違いない。
……。
面白半分に尋ねたら、『当たり前じゃないか』って真顔で言われたしな。
余談だが、『胸に手を当てて、これまでを振り返ってみなよ』と言われたので、思い返し――『確かに、そうかも?』と納得したら叩かれた、という後日談がある。
言われたとおりにして、魔王様の言い分に納得したというのに、理不尽だ。酷い話である。
――まあ、ともかく。
本来は城で守られるはずの人々が、私の暮らす騎士寮にいるのです。必然的に、騎士寮に居る騎士達は彼らの護衛担当というわけだ。
そんなわけで。
本日、非常に……非常~にあっさりと、イルフェナを抜け出せてしまったのですよ。
勿論、これはシュアンゼ殿下達の協力があってこそ。彼らは今日に限って全員が別行動をし、私に向けられるべき視線(=監視の目)を引き受けてくれたのである。
そして、あっさり抜け出せた理由のもう一つが『守護役達が傍に居た』というもの。
『偶然』傍に居たジークと、ルドルフの命を受けて様子を見に来たセイルが『偶々』、私が抜け出そうとしているのを察し、そのまま付いて来てくれたからだったり。
端から見れば、『本日の魔導師のお守りはセイルリート殿とジークフリート殿か~』という風にしか見えないのです。
そもそも、彼らは他国の人間なので、証拠もなく『魔導師が抜け出そうとしているようですが』なんて、訴えることは不可能だ。普通はアルかクラウスを通す形になる。
今回はそういった事情も考慮し、この二人が同行者となった。彼らとしても守護役という立場があるため、突かれても言い訳ができるのであ~る!
いやはや、持つべきものは理解ある友ですね……! ろくでもない方面込みで理解があると、こういった時にとても助かります。
「今回は特殊な状況ですよ、ミヅキ。協力してくださった皆様とて、それは判っているのです。ですが、『友人達と悪戯を楽しむ一時』であることも事実。滅多にない機会ですから、ついついはしゃいでしまうのでしょう」
「ああ、うん、それは判る! 皆、めっちゃ楽しそうだったもん。死んだ目をしていたのはサイラス君くらい。ヴァイスに至っては、真面目に任務扱いしていたし」
「ふふ。彼らもそのうち慣れますよ」
「だよねぇ」
「ははっ! まあ、今回はかなり曖昧な命を受けているからな。キースに聞いたら、『お嬢ちゃんに従ってりゃ、いいんじゃね?』と言われたから、俺はミヅキに従うぞ?」
「ああ、私もです。ミヅキを案じての同行だと、ルドルフ様から言われております。判りやすく言うなら、『保護者の監視が外れた黒猫が何をするか判らないから、万一の時は付いて行け』ですね」
「……。つまり、基本的に私が悪い、と」
「はい」
「まあ、ミヅキが元凶だな」
「……」
お 前 ら 、 後 で 覚 え て ろ 。
後で一緒に叱られてはくれるけど、主犯を問われたら満場一致で『ミヅキです』になる模様。
でも、今後の行動はともかく、抜け出す際の『あれこれ』(意訳)は私じゃない。私の発案じゃないぞ!? 濡れ衣だ……!
「酷っ」
「いや、お前が元凶ってのは事実だろ。力業での脱出にならなくて良かった分、感謝しとけよ」
「……」
即座の突っ込み、ありがとーう! ……実は今回、『もう一人』同行者がいたりする。
「君も共犯者じゃないですか、双子の片割れ殿?」
「だよな。まあ、俺としては、君が片割れと共謀して付いてくるとは思わなかった」
「う……煩いですよっ! セイルリート将軍にジークフリート殿!」
やや顔を赤らめながら返すのは、騎士sの片方アベル君。何と今回、自発的にアベルが付いて来てくれました!
この双子は基本的にセットで行動するので、別行動はちょっと意外。でも、魔王様の意向よりも私を優先してくれたことの方がもっと意外だった。
ただし、彼らは基本的に小心者(自己申告)なわけでして。
残った片割れが、グランキン子爵事件(=クリスティーナ関連の騒動)の際に使った変装用の鬘を駆使し、一人二役を演じているのだった。協力者もいるんだってさ。
なお、休暇届は『出したけど、うっかり確認を怠っていた』ということにされるらしい。
この協力者は何と、団長さん。騎士寮でアベルから休暇届を受け取った際に、しっかりと懐に仕舞う姿を見せ付けるという徹底ぶり!
その休暇届を『うっかり』自分のところで止めてしまっていた、ということにする模様。まあ、実際に今は忙しいので、説得力は抜群だろう。
こんなことが裏で行なわれるあたり、イルフェナ……特に騎士達はガチギレしてるんだろうな。騎士sはその能力を団長さん達に知られているので、サポート役として同行させてくれたのだろう。
「照れるな、照れるな、あんたの能力を知っているから、純粋にありがたいと思うよ」
「うっせぇよ。……俺達だってなぁ、殿下が襲撃されたことには頭にきてるんだよ!」
ひらひらと手を振りながら言えば、アベルは照れ隠しとばかりにそっぽを向く。……だけど、私達はしっかりと彼の言葉を聞いていた。ついつい、笑みが深まってしまう。
「エルシュオン殿下は慕われているんだな」
「我らが魔王様だもん!」
どこまでも純粋に、事実だけを拾うジークの言葉。それを肯定しつつ、私達は足を進めた。
※※※※※※※※
――一方その頃、エルシュオンの私室では。(エルシュオン視点)
「……」
「……」
部屋を訪ねてきた友――ある『持ち物』を持ったその姿に、私は大いに困惑した。
それも仕方ないだろう。何故、ミヅキに『親猫様(偽)』と命名された、超大型猫のぬいぐるみを持っているんだ……? しかも、ご丁寧にも子猫付き。
そもそも、あれは私の執務室にあったはず。
そんな思いと共にアルに視線を向けると、さり気なく逸らされた。
……。
そ う か い 、 君 か ミ ヅ キ の 仕 業 な ん だ ね ?
私は深々と溜息を吐いた。うん、判ってた。あの子に大人しくさせるなんて無理だってこと。
何せ、今回ばかりは協力者達が多過ぎる。目の前のルドルフとて、その一人なのだから。
いくら何でも、アル達に全ての非を押し付けて、その責を問うなんて真似はできまい。彼らは各国の要人、下手をすれば友好国の王なのだ……どう考えても、ミヅキの方が有利だろう。
「一応、聞いておく。ルドルフ、『それ』はどうしたんだい?」
「ん? 俺が良く眠れていないことを察したミヅキから、お守り代わりに渡された。曰く、『ぬいぐるみでも親猫様なんだから、悪夢から守ってくれる』と」
「ほう。ちなみに効果は?」
「おお! もう、ばっちり! ガニアではこれに弱音……じゃない、殺意を聞かせていたらしいから、やっぱり呪いの一つや二つは掛かってるんじゃないか?」
「後半は聞きたくなかったよ……!」
思わず、頭を抱えてしまう。自分を模したらしいぬいぐるみが、友人の眠りを守っていること自体は微笑ましい。
そう、それはいいんだ。問題は『それなりに効果があった』こと。気のせい、もしくは偶然であることを信じたい。
「あ、そうそう。俺は今回、メッセンジャーなんだ。ってことで受け取ってくれ」
「は? いやいや、君は隣国の王であってね? 間違っても、メッセンジャーとやらにはならないんだが」
「ミヅキ相手に、そんな言い分は通用しないだろ」
「……」
「……」
「確かに」
「な? ってことで、受け取ってくれ」
そう言うなり、ルドルフは子猫のぬいぐるみを差し出した。小さな黒い子猫は、前足の間に挟むようにしてメッセージカードを抱えている。
……。
ど う し よ う 。 嫌 な 予 感 し か し な い 。
恐る恐るカードを裏返す。そこには見覚えのある字でこう書かれていた。
『家出します♪』
「あ……あんの、馬鹿猫がぁっ!」
「おやおや……」
「あちゃー……さすが、ミヅキ。立場上、エルシュオンが強く出れないからこそ、担当が俺になったのか」
呑気にカードを覗き込むルドルフとアルの姿に、頭痛が更に増した気がした。
ミヅキ……後で覚えていなさい!
親猫、大パニックの図。不幸は後からやって来る。
その一方で、元凶は呑気に遠足に出かけていきました。
※来週の更新はお休みさせていただきます。
※ダンジョン生活。3巻が八月に発売予定です。宜しくお願いします。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




