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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
予想外の災厄編

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お出かけの準備

『とりあえず、ハーヴィスに【ご挨拶】に行ってくるね! グレンと宰相補佐様は魔導師の凶暴性暴露を宜しく!』という『お願い』は、皆にとても好意的に受け入れられた。

 曰く、『それくらい遣らないと、ハーヴィスは理解できないと思う』とのこと。

 情報だけじゃなく、当事者になってこそ理解できると、かつて『魔導師の凶暴性……もとい、有能さを目の当たりにした人々』(意訳)な皆様は声を揃えて言い切った。

 なお、最も説得力があったのはシュアンゼ殿下の言葉の数々である。


『あの一件の際、ミヅキはエルシュオン殿下から【私を守れ】と命を受けていたけれど……その方法も、遣り方も、ミヅキに一任されていたんだ』


『しかも、断罪の場で告げられた王弟夫妻や私への処罰に至っては、私を含めた誰も察せていなかった。【個人の功績】とか【能力の証明】ならば、これが一番納得できると思うよ。だって、ミヅキは【それが可能な状況に持ち込んだ】からね』


『今更、こんなことを言うのも申し訳ないのだけれど、私達は当初、ミヅキにあまり期待していなかった。ミヅキが魔導師と知っていたテゼルトでさえもね』


『だから、一度は痛い目に遭わないとハーヴィスも危機感を抱かないと思う。そもそも、ミヅキの遣り方って魔法で大規模な被害をもたらすわけじゃないから、外部からは判りにくいんだよね』


 ……。


 確 か に 、 解 決 策 を 黙 っ て い ま し た ね 。


 どちらかと言えば、隠したかったのは王弟夫妻への断罪から連座で発生するシュアンゼ殿下への処罰。

 シュアンゼ殿下本人も覚悟していたように、男性王族である以上、次代にまで派閥争いを持ち込みたくない人達は徹底的に排除方向に動いただろうから。

 ただ、国王夫妻やテゼルト殿下がそれを良しとせず、中途半端に飼い殺しにされる可能性も高かった。もっとも、彼らがどれほど頑張っても国が一枚岩ではない以上、『命は取らない』程度までしか許されまい。


 だから……『全ての処罰』を、私があの場に居た全員に納得させる必要があった。


 各国の王を呼んだのは、私の味方に引き込むためと、『貴族達から反対の声が上がらなかった』という証人になってもらうためだ。

 まさか、『あの時は何も言わなかったけれど、不満です!』なんて後から言えまい。自国の王すら納得しているものね。

 ただ、そこに至るための過程が割と酷いことは自覚していた。特に、ろくに歩けないシュアンゼ殿下を自分の足で歩かせ、テゼルト殿下に忠誠を誓わせるあたりは。晒し者にした、と言われても否定できん。


 よって、私が事前に取った行動は『黙秘』であ~る!

 悪意・善意関係なく、私の邪魔をしそうな輩への情報漏洩は徹底的に防がせていただいた。


 これ、テゼルト殿下や国王夫妻からストップがかかる可能性があったことが最大の理由。彼らはシュアンゼ殿下とて被害者だと、誰よりも知っていたから……言い方は悪いけれど、一番邪魔だったんだよね。

 これらを考慮した上で策を練った結果、私は見事に望んだ決着を勝ち取った。魔王様の依頼も完遂できて満足です!

 だが、割と私と一緒に居たシュアンゼ殿下からすれば『ちょ、何それ知らない! 一体、いつの間にそこまでの道筋を整えた!?』となること請け合い。

 シュアンゼ殿下を残す唯一の方法である以上、これは誰にも悟られるわけにはいかなかった。そこには当然、当事者であるシュアンゼ殿下も含まれる。

 というか、ここが策の肝だったと言ってもいい。事前に何も知らなかったからこそ、あの場でのガニア王とシュアンゼ殿下の選択が活きてくるのだから。


 あの場に参加していた各国の王達を、私は納得させなければならなかった。

 当然、そこには王弟夫妻の処罰や、ガニア王達の対応も含まれる。


『ガニア王は信頼できないし、不安要素は全部殺っちまえよ』とか王達に判断された日には、間違いなくシュアンゼ殿下の命がない。

 そもそも、魔王様の誘拐未遂で迷惑が掛かっている以上、温情だけで王弟一派を見逃してくれるほど、イルフェナは甘くないだろう。

 シュアンゼ殿下を哀れと思う気持ちはあっても、これは完全に別問題。自国に被害が出る可能性がある以上、王達は絶対に見逃してくれない。

 シュアンゼ殿下自身に王弟のような野心がなくとも、彼を利用しようとしてくる貴族達への抑止力がない以上、存在するだけで『次代の害悪』扱いなのだ。シュアンゼ殿下排除派の貴族達は、あながち間違っていないのである。

 シュアンゼ殿下もそれを理解していたから、後の憂いとなる可能性が高い――王弟の代わりに旗頭にされる可能性があったため――自分の未来を望まなかったのだから。

 それを踏まえて『テゼルト殿下の補佐』という役目を与えてみた。シュアンゼ殿下が死にたがりとは思わないけれど、自分の存在がガニアの未来に影を落とすならば、あっさり自害しかねないんだもの。


 ――そんなわけで。


 そういった背景事情を補足として説明したら、皆はあっさり『一度は痛い目を見せて来い!』という方向になった。自分達とて、実際に目にするまでは信じられなかったから、と。

 あくまでも『ご挨拶』程度と言っている以上、ある意味、これは皆の優しさなのだろう。国を守ろうと動いたハーヴィス王妃――ただし、イルフェナ側から見れば悪手――に同情しているのかもしれない。

 ……。


 誰も『ハーヴィスを許してやれ』とは言っていないけどな。


 皆の協力を取り付けた後、私は早速『遠足』の準備を始めた。……『遠足』ですよ、『遠足』でいいの!

『お礼参り』とか『報復』なんて言ったら、ハーヴィスの未来がなくなっちゃうじゃないですかー。(棒)

 私はあくまでも『保護者を襲撃されたから、ご挨拶に行っただけ』というスタイルを貫きますとも。被害を受けたイルフェナが賠償なり、謝罪なりを要求した時、毟り取れなくなっちゃうからね!

 なに、イルフェナとて鬼ではない。誠意を見せれば、それなりに手加減してくれるだろうさ。

 何せ、私の所業に目を瞑ってくれる懐の広過ぎる国(意訳)ですよ! ……何らかの旨みがあるとか、残しておく価値があることが条件だけど。

『実力者の国』と呼ばれる以上、これは仕方がない。というか、どこの国でも同じだろう。自国に貢献できる存在には、どんな国も基本的に優しいのです。拗ねたら働かないからね。

 今回も例に漏れず、その『誠意』をハーヴィス側がどう示してくるかが重要なポイントになる。少なくとも、現時点では誠意なんて欠片もない。

 なお、ハーヴィス王妃からの書に関しては『内部の情報提供をしてくれたこと【だけ】は評価できる』という方向らしい。

 あれですよ、『どうしようもない状況だと判っているけれど、王妃ちゃんは精一杯の頑張りを見せました。その努力【だけ】は評価できるんです! 自分達が悪いって、理解できてるんです……!』的な扱いです。

 喩えるなら、『結果には結びつかないけれど、姿勢だけは評価できる努力賞』。

 これでも他の奴らより遥かに立派に見えるというのだから、その他ハーヴィス勢の評価が知れる。イルフェナへと謝罪に赴く奴、本当に大丈夫か? それなりにキツイことを言われると思うんだけど。


「楽しそうだな、ミヅキは」

「ええ、本当に」


 嬉々として遠足の支度をする私に、セシルとエマは苦笑気味だ。この二人は魔王様用足止め要員……所謂、居残り組なので、今回は同行せず。

 その代わり、今度はコルベラの森付近でキャンプ紛いをしよう! ということになっていたり。

 コルベラは山の幸の宝庫なのだ……山菜の天ぷらくらいなら、何とかなりそう。なお、見付けた食材は調理法の伝授と引き換えに、私にも流してくれる約束だったりする。

 そのうち竹でご飯を炊いたりしてみたいと思う、今日この頃。同調してくれる友人達の全面的な協力のお陰で、徐々に食生活が潤っていきます。和食を伝えるなら、コルベラが最有力だな。


「こういったことは準備する時間も楽しいものじゃない」

「まあ、その気持ちも判るが。今回は特に、な」

「ですわねぇ。ミヅキがあまりにも楽しそうな様を見せるものですから、サイラス様やシュアンゼ殿下、ヴァイス様は即座に自国への報告に走りましたもの」


 マジである。あの三人、私が超楽しそうな様子を見せた途端、報告に動いたのだ。

 ただし、サイラス君は顔を青褪めさせ、シュアンゼ殿下はとても良い笑顔で、ヴァイスは真剣な表情で……といった感じに、三者三様ではあったけど。

 まあ、其々の国の位置を考えれば、それも仕方がないのかもしれない。キヴェラは南の大国なので、ハーヴィスが仲裁を頼んでくる可能性を考慮したか。

 余談だが、警戒心を強めることに一役買ってしまったのが、ハーヴィス王妃からの書。やはり、誰が聞いても『あの内容はない。つか、火にガソリン注ぎやがった!』と言いきれてしまうものだった模様。

 そんなわけで、ガニアとサロヴァーラは警戒モード……もとい、『ハーヴィスが何か言ってきても、シカトしよう! モード』になるらしい。

 多少の火の粉が飛んできても無視、何か言ってきても無視、魔導師が暴れたって私達には関係ございません……で通すんだとさ。

 まあ、それが一番賢いわな。無関係であることは最強なのです。シュアンゼ殿下とヴァイスは個人的にイルフェナを訪ねたことになっているので、『偶々、情報を得られた』ということになる。これも嘘じゃないしね。


「警戒心が強いねぇ。私の目的地はハーヴィスなのに」

「ですが、その目的が『ご挨拶』ですもの。仕方がないと思いますわよ?」

「そうだな、私もそう思う。中途半端にハーヴィスに関われば、即座にミヅキの標的にされるじゃないか」


 ですよねー! 二人とも、大・正・解☆


 自分のことですが、私もそう思います。魔王様への悪意も、この騒動に便乗したと受け取る気満々なので、ガニアやキヴェラ、サロヴァーラあたりはそこも警戒してるんだと思います。

 あの三国の貴族達と私、仲悪いんだもん。こちらの殺る気を知っていたら、魔王様や私への悪意を口にしそうな奴らの口を噤ませようとするだろう。『大人しく貝になっとれ!』と。

 ……。


 お 喋 り し て も い い よ ?

 … … 会 イ ニ 行 ク カ ラ ネ ?(ホラー調)


「今回は止める人がいないからねぇ……あと、割と皆が怒っているから、いつにも増して協力的というか」


 言いながら眺めるのは、私の手元にある品々。これらは騎士寮面子を始め、居残り予定の人達からのありがた~い餞別の品なのだ。


 おこづかい(貨幣や換金用の宝石)の準備よーし!


 玩具(魔石や役に立ちそうな魔道具各種)の準備よーし!


 おやつ(食べながら戦闘をこなせるような物)の準備よーし!


 地図(シュアンゼ殿下提供・ハーヴィス&周辺のマップ)の準備よーし!


 ほうら、とっても遠足感満載。目的はともかく、『遠足』扱いも間違いではないじゃないか。

 なお、食料は基本的に現地調達。水は魔法で何とかなるので、強化済みのフライパンと調味料セットだけあればいい。移動中の食生活とて、楽しみますよ! セシル達との旅を思い出しますね!


「旅慣れた大人が二人も同行者だし、遠足というよりはキャンプに近いかも」


 荷物を詰めながら口にすれば、セシル達もかつての旅を思い出したのか、顔が綻ぶ。


「今だから言えるのかもしれないが、あの旅は楽しかったな。そうか、あんな感じになるのか……」

「少々、同行される方を羨ましく思ってしまいますわね」

「今回の件が終わったら、コルベラでキャンプしようって話になってるじゃない。もしくは、セシルのお兄さんに野外訓練に混ぜてもらうとか」

「それはいいな!」


 キャッキャとはしゃぎながら、私達の会話は弾む。……そんな私達へと向けられる、何とも言えない視線。


「いやいやいや! 『遠足』って何ですか、『遠足』って! もっと物騒なものでしょうが!?」

「サイラス殿、気にしたら負けだと思うよ? いいじゃないか……私達は『三人が楽しく今後の予定を立てているのを聞いただけ』なんだから」

「いや、あの、あれは年頃のお嬢さん方が楽しそうに予定を立てるのとは別物な気が……」

「さてね? 私はずっと引き篭もっていたから、年頃のお嬢さん達がどういったことを楽しむかなんて、知らないな」

「ちょ、シュアンゼ殿下!?」


 顔を引き攣らせたサイラス君と、いい笑顔でスルーしているシュアンゼ殿下。君ら、結構仲良しだな。

主人公の認識=遠足。

現実、もしくはその他の人々の認識=ちょっとしたお礼参り。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] グレンたちは魔導師の恐怖伝説暴露と同時に努力賞の王妃様の悪手についても暴露するのでしょうね。事実に気付けばますます追い込まれるだろう王妃様ですが高貴なる者の義務ですから死に物狂い…否、死んだ…
[一言] まぁ王妃は現状は努力賞だけど、 流石に黒猫がやらかす事を見たら「これは駄目だ、もう少し自力で何かしないと(ある意味)国が更地になる……!」とか思考を発展させる可能性自体はまぁありますしね。 …
[一言] 行く途中に運の悪い(笑)盗賊とか出ないといいですねw
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