騎士寮で『楽しい』一時を 其の二
さてさて、続きといきましょう♪
・パターン3『アグノスの周囲にいる奴らが誘導した』
「これまでと似てるけど、こちらは『勝手な忠誠心』とか『自分達の理想を守るため』って方向。『血の淀み』を持つ人って、何故か信奉者とかに恵まれるんでしょ? だから『アグノス自身が魔王様排除を望んだ』というより、『周囲が【そうしなければならない】と誘導した』って感じ」
いるよね、一定数は『自分勝手な忠誠心』とか『己の理想のため』に動く人。
シュアンゼ殿下もガニアでの出来事を思い出しているのか、苦い顔だ。
迷惑被ったものね、私達。当時の状況を考えると、味方に背後から撃たれたようなものでしょ、あれ。
「否定できないのが辛いね。ただ、私達の場合とは異なっているだろうけど」
「全く違うと思うよ? 彼らはテゼルト殿下への忠誠心から自滅覚悟で動いたけど、この場合は『アグノスに行動を起こさせている』からね」
悪く言うなら、『責任を押し付けた』ってことですよ。ただし、状況によっては――本人としても――『助言しただけ』になる不思議。言葉の使いどころって重要だ。
襲撃犯の様子からして、命じたのはアグノスで間違いないだろう。彼らとて、恩人と言っていたのはアグノスただ一人。
それに。
……いくらアグノスに仕える人からの言葉だったとしても、内容が『他国、それも魔王殿下と言われる王子の暗殺』となれば、迂闊なことはすまい。
最低限、アグノス本人に確認を取ることくらいはするだろう。
「この場合、『アグノスが御伽噺と現実を混同しているか、否か』が重要になってくる。アグノス自身が『思い通りにならなかったこと』に憤っていたならば、解決方法としてこれを提示している可能性がある」
「「……」」
シュアンゼ殿下とヴァイスは難しい顔をしている。実際、これは判断がつきにくい。
アグノスが一般的な王女としての教育を受け、それなりに常識を持っていたならば、まず実行しない。いくら何でも、リスクが高過ぎるもの。
だけど、アグノスが本当に御伽噺を信じているような子ならば、素直に頷きかねないんだよねぇ……その提案をした人物が、アグノスにとって『信頼できる人』だったなら、冗談抜きにやりかねない。
その場合、アグノスとしては『物語を正しい流れに戻す』程度の認識しかあるまい。『物語から退場させる』――それが『現実ではどういうことになるか、判っていない可能性がある』からね。
「今回の場合、基準となるのがアグノス様の認識ですからね。部外者には正直、予想がつきません」
「そうだね、ヴァイスの言う通りだ。我々の常識を前提にした解釈と、彼女の解釈。そこに大きなずれがあると、主犯が誰なのか判らなくなる」
ヴァイスに続き、シュアンゼ殿下も困っている模様。こればかりは非常に特殊な例であるため、アグノス本人を知らないと判断がつかないのだろう。
ですよねー、こればかりはアグノス本人と、周囲を固めている奴らを知らないと判らないよね。
しかも、『アグノス様の望みを叶えるために提案した』という場合と、『アグノスを利用した』という、二パターンに分岐する可能性あり。
判るかい、こんなもの! ハーヴィスという国のことなんざ、知らねぇよ!
アグノスに限定すれば糾弾はできるだろう。実行犯と元凶という意味では、間違っていないのだから。
しかし、こちらからすると非常にもやもやとしたものが残る決着だ。これでアグノスを誘導した奴の目的が『アグノス(とその周囲の者達)の排除』だった場合、こちらが踊らされた形になってしまう。
「ハーヴィス内におけるアグノス様の立ち位置が不明、ということも大きいですね」
「あ〜……確かに。普通ならば、それほど力を持たない、目立たない王女っていう立場だと思うけど」
ヴァイスの言葉に、アグノスの立ち位置を考えてみる。……が、どう考えても『強者』という発想にはならなかった。
母親がすでに亡く、最大の味方であった乳母も居ない以上、アグノス自身が力を持っているとは考えにくい。
『御伽噺のお姫様』なアグノスである以上、派閥を形成しているとも思えん。御伽噺に、そんな殺伐とした展開なんてないもの。
「と、なると。アグノス王女の周囲にいる者達の情報次第ってことになるね。もしも、そういった者達からの誘導があった場合は、彼らも処罰対象として組み込めるよう動くしかないのか」
溜息を吐きながら、難度を上げてくるシュアンゼ殿下。
「問題はハーヴィス王の出方だけどね。アグノス一人を庇うわけにはいかないだろうから、アグノスの罰が軽ければ、彼らだって『それなりの処罰』で済ませるでしょ」
ハーヴィス王に期待していない……というか、全く知らないので、処罰そのものを疑う私。
「もしくは、アグノス様を利用された被害者扱いするかもしれません。ですが、襲撃はアグノス様ご自身の命令です。それが判っている以上、イルフェナは納得しないでしょう」
一番ありえそうな可能性をヴァイスが口にすると、周囲からも溜息が聞こえた。
その場合、イルフェナとハーヴィスが険悪な関係になることは確実ですな。寧ろ、騎士寮面子が自主的に制裁に行きかねない。
「まあ、こればかりはハーヴィスの対応を知ったイルフェナ次第だね。ただ、イルフェナから仕掛けたことは殆どないから、甘く見られている可能性もあるけれど……」
シュアンゼ殿下は、ちらりと私、そして周囲の騎士達へと視線を向ける。
……私? 超いい笑顔ですよ!
「私達が大人しそうに見えるかなー?」
「……。何その笑顔」
「気にするな、灰色猫。そこまで馬鹿にしてくるなら、現実を教えてあげるのも優しさだと思うの。……次がないかもしれないけど」
「魔導師殿、落ち着きましょう。殺るにしても、あちらに責があると知らしめてからです」
落ち着かせようとはするけど、報復を止めようとは言わないんだね? ヴァイス。
・パターン4『密かに外部の介入があった場合』
「ある意味、アグノスやハーヴィスが被害者というか、踊らされた場合ってこと。特に、疑わしいのがイディオ。もしもイディオが誘導していたら、私は嬉々として狩りに行く。殲滅、上等」
「は!? いやいや、その可能性がないとは言えないけれど、何でそこまで攻撃的になるんだい?」
シュアンゼ殿下がぎょっとしているけど、私にとっては『いつかは起こり得る事態』であ〜る!
「魔導師殿、イディオの介入を匂わせるような情報でもあったのですか?」
「ないね! しいて言うなら、襲撃犯達の出身国がイディオらしいってことくらい」
「はぁ……では何故、そこまで嫌われているのでしょう?」
「魔王呼びを始めたのは奴らだから!」
きっぱりと言い切ると、シュアンゼ殿下達が無言になった。いやいや、これも一つの根拠なのですよ。
「魔王様が気に食わなくて、悪意ある噂を広めたのに、今は真逆の方向に行ってるじゃない? だから、アグノスやハーヴィスを利用した……とも考えられるんだよ」
なにせ、魔王様は現在、『魔導師の飼い主』という認識を筆頭に、『有能で面倒見のいい善良な王子』として広まりつつある。
その根底にあるのが『保護者として、魔導師の言動にストップをかけている』という事実。
これは噂を盛ったわけではなく、紛れもない事実――実際、魔王様が待ったをかける場に居合わせた人もいる――なので、以前の悪のイメージよりも浸透が早かった。
だって、魔王呼びする割に、酷いことをされた人っていないじゃん?
私が現在進行形で『色々と』やらかしている(意訳)ので、魔王様の善良さがより輝いて見えることも一因だ。
悪意ある噂の発端となったイディオからすれば、悔しくてたまらない状況なわけですよ。
「イディオからすれば、悔しくてたまらないでしょうよ。しかも、魔王様が私を教育したりしなければ、手に入れる機会があったとか思ってそう」
「無理だろう」
「それは、いくら何でも無謀かと」
「当たり前じゃない!」
肩を竦めてその可能性を指摘するも、二人は揃って否定した。私自身も彼らの意見を支持。
うむ、理解があって何よりだ。つまり、こう言いたいんだね? 『問題なのは教育ではなく、私自身の性格だ』と!
「でもね、私を直接知らなければ、そう思っても不思議じゃないの。異世界人って常識さえも違うことが当然だから、『飼い殺す機会はある』んだよ。使い物になるかは別だけどね」
「いや、君の場合、性格上の問題で不可能だろう? 従う振りをして、内部から崩壊させるくらいはするじゃないか」
「ああ……」
ジトッとした目を向けるも、シュアンゼ殿下は悪びれない。ヴァイスも視線を泳がせるばかりで、否定の言葉は上がらなかった。
……
良 い け ど ね 。 多 分 、 や る だ ろ う し 。
灰色猫よ、言うようになったじゃないか。ヴァイスも視線を泳がせるくらいなら、素直に頷いちゃって構わないよ?
今更、猫を被ったって無意味ですからね! 『親猫が監視してるなら安全』とか言われてますからね……!
魔王様はすでに、異世界人凶暴種のストッパーとして認識されているのです。私の外道認定もガンガン浸透中ですが、何か?
……が。
この『情報』を中途半端にしか知らないと、まるで魔王様が魔導師を子飼いにしたかのように聞こえるのだよ。
現実:教育熱心で過保護な親猫。
現実を知らない人からの認識:魔王殿下が魔導師を手懐けた。
多分、これくらいの温度差はあると思う。なお、普通は後者になる場合が多いことも事実と付け加えておく。
要は、魔王様が非常に真っ当というか、良い人だっただけ。私も規格外と言われているけど、保護者の方もかなりの規格外だったわけだ。
「ガニアやサロヴァーラでの私の扱いを思い出してよ。それが『当たり前』ならば、『使える手駒を独り占めした!』とか、魔王様へと見当違いの憤りをぶつけても不思議じゃないでしょ。……『魔導師を支配できる』とでも思っているならね」
馬鹿だなーという気持ちを隠そうともせず、呆れたまま、ありえそうな展開を口にする。
……。
うん、イディオならやりそうだ。だって、他国の王子に『魔王』なんて渾名を付ける国だもんな。
「……我が国の貴族達の対応を見ていたから、ミヅキの意見を否定できない」
「同じく。確かに、痛い目に遭わなければ、魔導師殿の本質は判りませんね」
二人ともリアルタイムで自国の対応を見ていたせいか、頭が痛いと言わんばかり。当然ながら、否定できようはずもない。
「基本的に『北』は異世界人の扱いが悪い。それが前提だと、イディオが黒幕って線もありだと思う。言い方は悪いけど、アグノスやその周囲って利用しやすいと思うし」
「「……」」
二人は考え込むが、この可能性だってありだと思う。だって、『御伽噺と混同させても、誰も止めなかった』んだもん!
まともな人がいたり、きっちり監視されていたら、この一件自体起きていまい。監視の目は緩かったと思うぞ〜?
私は改めて、書き出した紙を眺める。……このあたりかな。どれか正解に近いものがあればいいんだけど。
「とりあえず、こんな感じかな。暫く、各自で考える時間も兼ねて、お茶にしましょうか」
パン! と手を打って、お茶を用意するべく立ち上がる。周囲に視線を向けると、皆も考え込んでいるようだ。やはり情報不足は否めないらしく、裏付けになりそうな情報が少ないのか。
「可能性があり過ぎると、絞り込みが大変ですね」
「仕方ないさ。まあ、どれが正解でも、俺達のやることは変わらんぞ」
「ごもっとも!」
アルとクラウスが物騒な会話をしていようとも、気にする人は居ない。だって、それは決定事項だものね?
疑惑は広がるよ、どこまでも。
でも、やることは一緒。犬も、猫も、飼い主襲撃を許してはいないのです。
※2月12日に『魔導師は平凡を望む 25』巻が発売されます。詳細は活動報告にて。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。
二月に連載再開予定となっております。
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6895ei/




