騎士寮で『楽しい』一時を 其の一
――騎士寮の食堂にて
「さあて、場所移動もしたし! 話し合いの続きを始めよっか」
「は、はあ……」
「……。移動した理由を聞いてもいいかい? まあ、何となくは予想がつくけど」
上機嫌で話す私に、ヴァイスは困惑気味。対して、シュアンゼ殿下は生温かい目で私を眺めている。
あはは! まあ、そりゃそうなるよね!
ここは騎士寮の食堂。つまり……『ここに暮らす騎士達が居ても不自然じゃない』上、『私の友人が居てもおかしくはない』のだよ。
だって、私はここで暮らしていますからね! 勝手に他の場所になんて、行けませんからね……!
そう、『ここに皆が集っていたとしても、仕方がないこと』なのだ。たとえどんな面子が私達の話を聞いていようとも、食堂は閉鎖空間ではない。『仕方のないこと(強調!)』なのですよ。
そこに加えて、シュアンゼ殿下はガニアの王族。いくら個人的な理由でイルフェナに来たにしろ、ヴァイスとてサロヴァーラの公爵家の人間だ。
『イルフェナとしては』、護衛を付けないわけにはいかないじゃないですかー。(棒)
『何を仕出かすか判らない世界の災厄』がいる以上、見守る人がいても当然ですよねー。(棒)
私達のお話が聞かれてしまっても、それは仕方のないことなのです。近衛騎士が混ざっていたとしても、彼らの身分を考えたら当然のことじゃないですか。
私は騎士のお仕事に理解ある異世界人ですからね、彼らが職務に忠実なだけだと判っていますともっ!
こちらを監視するかのように見られていようと、全く気にしませんよ。彼らに協力するのは義務です、義務。
「……ここに移動して来た理由? だって、これからは『お友達同士の会話』だもの。顔合わせがあの部屋になったのは、訪ねて来たヴァイスが本人か判らなかったからだよ?」
当然とばかりに答えれば、シュアンゼ殿下は益々、温〜い目になった。
「うん、そうだったよね。それは私も知っている。だけどね? 『ここは妙に人が多い』とか、『明らかにこちらを窺っている人ばかり』とか、『どう考えても、私達の会話を聞かせたいとしか思えない状況』とか思ってしまうんだ」
「やだ、何を言ってるの!? 私が飛ばされた頃のガニアじゃあるまいし、護衛の騎士達が付くのは当然でしょ!? シュアンゼ殿下は王族、ヴァイスは公爵家の人間じゃない! イルフェナとしても、おかしな対応はできないわっ!」
力一杯、『原因、お前ら』と責任転嫁をすると、シュアンゼ殿下は深々と溜息を吐いた。
「うん……まあ、そういった事情もあるよね。それも『ある意味では』正しいから、否定できない。だけどねぇ……」
ちょいちょい、とシュアンゼ殿下は私を手招きする。訝りながらも体をそちらに近付けると、シュアンゼ殿下は私の額にデコピンした。
「ちょ、結構痛い!」
「君さぁ……勝手なことをしている自覚があるから、盾代わりに私達を巻き込んだよね? もっと言うなら、エルシュオン殿下からのお説教対策」
「……」
「横を向くんじゃない」
「……」
「下も上も駄目。視線が合わなければ誤魔化せるというものでもないよ、ミヅキ」
「チッ」
「女の子が舌打ちするのは感心しないね。君が普通の女の子として認識されているかは別として」
「化け猫扱いされてます。よう、猫仲間!」
「……」
ガニアでずっと一緒に居たせいか、灰色猫は容赦も遠慮もない。不敬罪という意味では私の方が問題だけど、妙に馴染んでいるシュアンゼ殿下の砕けた態度も如何なものか。
見ろ、ヴァイスは呆気に取られているじゃないか。ラフィークさんだって……あれ?
ラフィークさん、涙ぐんでますけど……!? ど、どうした!?
「あの、シュアンゼ殿下」
「ラフィークのことは気にしないでやって。辛い時間が長過ぎて、私以上に現状を喜んでいるんだ」
「そ、そう」
その割に、遠い目をしているのは何故なんでしょうね? シュアンゼ殿下。多分ですが、ガニアであの三人組にもドン引きされてやしませんか?
そうは言っても、私はこの主従が過去、ガニアでどんな風に過ごしてきたかを知らない。ただ、聞いてもさらっと流されるか誤魔化されたので、『言う気はない』ということなのだろう。
……。
まあ、私がガニアに滞在していた時の状況からして、お察しだけどさ。
「あ、あの、そろそろ話し合いをしませんか!?」
空気を読んだのか、ヴァイスが話題を切り出した。その途端、主従はこれまでのふざけた雰囲気を消し、即座に表情を改める。彼らの変化を目の当たりにしたヴァイスは驚いているが、周囲からは感心したような声が聞こえた。
……こういった切り替えの早さこそ、彼らの強みだろう。いや、強みというより、これができなければかつてのガニアでは誰かに利用されていた可能性が高い。
なにせ、シュアンゼ殿下にはろくに護衛すらいなかった。そんな状況で訪ねて来る『敵』に、本性を悟らせず追い返していたならば、それを可能にしたのはシュアンゼ殿下達の言葉選びの上手さ。
多分だけど、気持ちや立場に伴った思考の切り替えもできていると推測。嘗めてかかった相手が突然、雰囲気や態度を変えたら、誰だって警戒するもの。
おふざけは『個人としての態度』、真面目な時は『ガニアの王族としての態度』。
会話の掘り下げや前提となる常識、そして目指す目的がガラッと変わるのだ。
なお、王族モードのシュアンゼ殿下には喧嘩を売らない方がいい。国王一家の全面的な後押しがあることに加え、『北の大国ガニアの王族』という立場をフル活用してくるだろうから。
性格が宜しくない腹黒灰色猫に、身分としては最上級の『王族』というステータスが付いている。これだけでも怖過ぎる要素だろう。多少の理不尽があったとしても、最強の能力『身分制度』で全てをなかったことにされるのだから。
私がよく喧嘩を売られる理由って、この身分差で勝てると思う人が多いからなのよね。それだけ貴族階級には浸透している『常識』なのですよ。
た だ し 、 私 は 除 外 さ れ る が な 。
だ っ て 、 異 世 界 人 で 魔 導 師 だ も ん 。
化け物扱い上等! と自己申告しているので、『一応』、事前に警告モドキは行なっている。私を魔導師呼びした時点で、『理解できている』とみなすのは当然。
だから、超有名な『魔導師は世界の災厄』ということを忘れ、喧嘩を売ってくるお馬鹿さんは玩具扱いでいいと思う。
……で。
「じゃあ、話を進めよっか。とりあえず、可能性を書き出してみたら判りやすいと思うんだ」
という私の言葉に、残る二人は頷いた。さて、それでは書いていきましょうかね。
いくつかパターンがあるので、一個ずつ話し合っていけばいいだろう。外野から情報が来るかもしれないし、三人で話し合うより、大勢を巻き込んでしまった方が確実な気がするもの。
・パターン1『御伽噺に依存しているアグノスの独断という場合』
「ヴァイスの情報を完全に無視してるけど、これが一番最初の認識だよ。襲撃者はアグノスに心酔しているっぽいシェイムだし、魔王様の評判の変わりようを考えたら……まあ、受け入れられはしないかな、と」
「そう、でしょうか? エルシュオン殿下は悪意ある噂があった時から、その優秀さは認められてきましたし、好意的な評価を得られたならば、良いことでは?」
ヴァイスは否定的だが、それは『現実』という前提があるからだ。
「違うよ、ヴァイス。君の意見は『現実的に見た場合』ということが前提になっている。この場合は『御伽噺の王子様』という意味だ。こう言っては何だけど、御伽噺に出てくる王子はあまり詳しく語られない。見た目くらいじゃないかな?」
「ああ……王子が主役になるなら、英雄譚の方が適切ですからね。女性が好むかは別問題ですが」
「っていうか、『御伽噺の王子』って碌なことしてねーよ。寧ろ、現実的に見たらヤバイ。顔しか褒めるところがない」
ズバッと言い切ると、二人は暫し、思案顔になり。
「確かに」
「あまり褒められた行動はしておりませんね」
揃って納得した。自分達も王族、もしくは王族に近い立場だからこそ、私の意見に納得できてしまった模様。
「っていうか、その場合は君が間接的な原因じゃないのかい?」
「う……!」
煩いぞ、灰色猫。魔王様の周りの人達からは『今の魔王様の方がいい』って言われているもん!
・パターン2『アグノスとハーヴィス王の排除が目的という場合』
「問題があると言えばあるみたいだし、一応、入れてみた。アグノスの奇行の被害に遭っていれば、考えられないことはない。恨みを晴らす機会を待っていた可能性はある。あと、国の未来を憂う者として排除を試みている場合かな」
「うーん……ハーヴィス王がアグノスを溺愛していたら、『王、もしくは二人が恨まれている』という可能性の方が高いかな。言い方は悪いけど、『自分の手を汚さずにアグノス王女を排除でき、進言を聞かずに彼女の管理を怠った王を糾弾する』っていう流れにもできるよね。勿論、逆もある」
「ああ、ハーヴィス王も恨まれているという可能性がありましたね」
「王の言葉が全てだったなら、色々ありそうよねぇ……」
可能性としては、割とあり得そうだ。特に『アグノスを切っ掛けに、ハーヴィス王に責任を問う』というところ。
ある意味、アグノスは『仕方ない』と割り切ってしまえる理由がある。管理を推奨されるほどに、『血の淀み』は問題視されているのだから。
それでも身分制度を前提に婚姻を結んでいくため、閉鎖的な国では血が濃くなることが避けられない。皮肉なことだが、身分制度に理解がある立場の人達ほど、アグノス一人の責任にはしないと思う。
だって、明日は我が身じゃん?
閉鎖的な国という自覚があるなら、全員が爆弾を抱えているようなものだろう。いつ自分の家に降りかかるか判らない『不幸』である以上、寛容にもなろうというもの。
――その分、批難の矛先は管理を怠った者へと向く。寧ろ、こちらの方が厄介。
事の重大さを理解していなかったゆえの管理の甘さならば、責任重大。こんな奴が王として権力を持っているなんて、怖過ぎる。
それ以前に、王が再びアグノスを庇う可能性もあるじゃないか。一番安心・確実なのは、王と共に消えてもらうことだ。
「『王に不安を感じている』という括りならば、それなりの人数が居ると思うよ。『血の淀み』の厄介さは、否定しようがない『事実』だからね」
「ええー……個人的に、それは嫌なんだけど」
シュアンゼ殿下の言葉に、一気に不安が湧き上がる。
……あれか? マジでこれが正解だった場合、『抗議はするけど、処罰もなしね☆』ってのが、一番ダメージを与えることになるってこと?
「そもそも君、自分で『一つの可能性』として提示したじゃないか」
「だけど、一番楽しくない! 私や報復上等とばかりに控えている面子の憤りはどうなる!? ……。いや、待て。私は『世界の災厄』じゃないか。すでに仕掛けられた以上、城の一つや二つ壊しても……」
「魔導師殿、落ち着きましょう。ハーヴィスならば、次の機会があると思いますよ?」
宥めているようで、さり気なく毒を付け加える――次の機会がある、と明言していること――ヴァイス。
なお、周囲からは何人かの舌打ちの音が聞こえた。私同様、『仕掛けないことが一番です』という方向には不満な模様。
ただ、ヴァイスの言葉に期待してもいる。理由は簡単、『目的が達成できなかったのは、向こうも同じ』なのだから。
チッ、この場合は第二ラウンド以降に期待するしかないのかぁ……。
目的がパターン2で正解だった場合、どこかの国で似たような事件が起こるはずなのだ。事前に通達し、万全の態勢で迎え撃てば、次はもっとマシな展開に持ち込めるだろう。
「とりあえず、『可能性が高い』ということだけは、頭に入れておくべきね。自分で暗殺を狙わず、外に始末を押し付けようとする奴がいる可能性も含め、それなりに警戒が必要じゃない?」
「我が国に火の粉が降りかからなければよいのですが」
「同じく。というか、イディオ以外には降りかかって欲しくないかな。理想はイディオとハーヴィスの潰し合いだよ」
……。
……灰色猫? もしや、ガニアはその二か国のことで結構、苦労しているのかい?
騎士寮でのお喋りは、とても楽しい模様。
特に猫二匹はキャッキャッと大はしゃぎ・言いたい放題。
※2月12日に『魔導師は平凡を望む 25』巻が発売されます。詳細は活動報告にて。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
https://ncode.syosetu.com/n4359ff/
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。
二月に連載再開予定となっております。
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6895ei/




