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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
予想外の災厄編

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443/705

黒猫と灰色猫は仲良し

先週は申し訳ございませんでした!

 私から猫耳(灰色)を渡されたシュアンゼ殿下は、それはそれは複雑そうな顔になっていた。

 ……。


 まあ、そうだろうね。君、成人男性だし。


 魔王様がこの場に居たら、速攻で叩かれる案件です。その後は強制的に頭を押さえつけられ、謝罪させられるだろう……魔王様も一緒に謝ってくれるだろうけど。


「お嬢様……」


 さすがに主が気の毒になったのか、困惑気味のラフィークさんが声を上げる。……が、私は全く悪びれなかった。


「友好の証ですって」

「いや、別の物でもいいよね? 何故、猫耳」

「……他にはないような物をセレクト?」

「君、今、疑問形で言ったね!? それ、明らかに後付けの理由じゃないのかな!?」


 煩いぞ、灰色猫。そもそも、『他にはない友好の証』ってのも間違いじゃあるまいよ。

 なにせ、灰色猫ことシュアンゼ殿下には本当〜にお友達が居ない。妙な繋がりを作ることを避けたり、実の両親である王弟夫妻に利用されないためとはいえ、引き籠もり過ぎなのだ。


 これ、王族としては割と致命的……というか、困る事態なのである。


 話す切っ掛けとか、相手を会話に引き込む理由になりそうな『共通の話題』というものがないからね。

 勿論、シュアンゼ殿下は自分が動けない分、情報収集はしっかりしている。だが、『姿が全く見えなかった割に、持っている情報だけは正確』なんて奴なんざ、普通は警戒対象だ。

『相手の情報をある程度知っているからこそ、相手に自分の情報を知られていても安心できる』――交渉や探り合いの時、こういった要素が意外と重要なのだから。

 私で言うなら『異世界人』、『魔導師』、『エルシュオン殿下に懐いている』といったところだろうか? そこら辺の情報は『知られていてもおかしくはないもの』……もっと言うなら、『嘘ではない』と判断できる情報だ。

 そこを話題にするならNGワード的な地雷が存在しない上、更に掘り下げての探りが可能。そこから派生する情報――過去の功績や交友関係、各国に対する印象といったもの――だって得られるかもしれない。

 ところが、シュアンゼ殿下はこういった要素が『一切』存在しない。

 本当に表舞台に出ていなかった上、辛うじて話題になりそうなものが『先のガニアの一件』とか『実の両親である王弟夫妻に関すること』。

 普通は話したくないというか、シュアンゼ殿下を不快にさせること請け合いです。そもそも、ガニアの件に関しては十年計画で自浄が行なわれる予定な上、ガニア王の不甲斐なさが嫌でも浮き彫りになってしまう。

 シュアンゼ殿下個人の感情はともかく、世間的には『魔導師の意向により、従兄弟であるテゼルト殿下に忠誠を誓った王子』なのですよ、彼。当然、国王一家を貶めるような話題は許すまい。

 そこで私は考えた。『シュアンゼ殿下にとって、安全かつ不利にならない情報って何よ?』と。


 前提:ガニア国王一家を貶めるものではなく、黒歴史に接触しない。

 結論:『魔導師と(様々な意味で)仲良し』と広める。


 現状、これが一番安全だ。その上、まるで私が背後に控えているかのように見せかけることもできるじゃないか。

 例の『シュアンゼ殿下お姫様抱っこ事件』――やはりと言うか、こちらの方がインパクト絶大だった模様――の映像を見るがいい……シュアンゼ殿下、嫌がってないじゃん? いや、最初は死んだ目になってるけど!

 私との繋がりを明確にした場合(=猫耳所持)、きっと皆は生温かい目を向けながら同情してくれると思うの……! 『難儀な友人が居ると、大変ですね』って。

 今はそれでいい。向けられるのは憐みでいいんだ、そのうちシュアンゼ殿下の本性を知って評価が変わるから。


 現時点で予想されるシュアンゼ殿下の評価:魔導師に気に入られた哀れな猫。

 今後、予想されるシュアンゼ殿下の評価:女狐二号、もとい黒猫の同類。


 多分、こうなる。そのティルシアとて私に女狐呼ばわりされる人物であり、私の口から『一緒に裏工作に興じることもある仲良し』と公言済み。十分、ヤバい生き物認定されております。

 というか、ティルシアはガニアでの王弟夫妻断罪の際、あの状況を狙って『そういえば、例の毒はガニアから入手したわ。魔法を使わないと、上手く育たないらしいわね(意訳)』などと言っている。

 あれを見ていたら、『魔導師とお友達』『魔導師と仲良し』という言葉がどんなものを意味するか判るだろう。ぶっちゃけ、『怒らせるな、危険』的な解釈をされるのが普通。

 ファクル公爵のような立ち位置を目指すならば、シュアンゼ殿下はティルシア同様の扱いを受けた方が何かと便利だろう。

 勿論、それなりの実力を見せなければならないが、シュアンゼ殿下(+労働力として愉快な三人組)ならば問題ない。


 なに、仕掛けてきた奴を返り討ちにすればいいだけだ。簡単、簡単♪

 愚かな玩具や生贄どもは、勝手に向こうから寄って来る。


「今後を考えたら、『今は』憐れみを向けられることも我慢しなきゃ」

「どういうこと?」


 肩を竦めて暈した言い方をすると、含まれるものを感じ取ったのか、シュアンゼ殿下が表情を変えた。


「無関係な人達が、それを私から贈られたと知ったとして。……まず、貴方の状況をどう思う?」


『それ』と言いながら指差したのは勿論、灰色の猫耳だ。シュアンゼ殿下は訝しがりながらも、考える素振りを見せる。


「……魔導師に遊ばれている、かな。好意的ではあるけれど、からかいの対象というか……」

「うん、そうだね。多分、そう考える人が一番多い」

「ただ、君の場合は遠慮のなさも親しさに含まれるみたいだからね。『友人』という位置付けではあると、判断する要素だと思うよ」


 告げられた見解はかなり正確だ。やはり、シュアンゼ殿下の情報収集はかなりのものだったのだろう。


「そう認識された場合、考えられる行動は?」

「魔導師への繋がりを目的とした、私への擦り寄り。もしくは、自分自身が魔導師との繋がりを持つための要素を、私から探る。他には……。……! あ、ああ、そういうことか!」


 はっとして、シュアンゼ殿下は私をガン見した。それに応えるように――正解と言わんばかりに、私もにっこりと笑う。


「理由はどんなものでもいいの。まずは、シュアンゼ殿下と接触してくる人間の数を増やす。そこから印象操作をするなり、人脈を作るなり、好きにすればいいと思うよ?」

「なるほど、お嬢様は『とにかく、主様は人と接するべき』とお考えなのですね」

「まあね。『魔導師と親しい』って判っている人の中で、今のところ全く情報がない……もしくは『一番扱いやすい』と判断されるのは、シュアンゼ殿下だろうしね。こちらだって、それを利用すればいいじゃない」


 ラフィークさんも私の言いたいことが理解できたのか、感心したような表情だ。うむ、相変わらず理解が早いようで何よりです。

 実のところ、シュアンゼ殿下が人との繋がりを作ろうとした場合、どう頑張ってもテゼルト殿下繋がりの人達が大半だ。

 ただ、テゼルト殿下寄りの人達はシュアンゼ殿下に良い印象を持っていない可能性もある。テゼルト殿下の味方だからこそ、シュアンゼ殿下を中々受け入れられない可能性が高いと私は思っていた。

 シュアンゼ殿下やラフィークさんとて、それは判っているはず。今回、イルフェナへの訪問を決めたのは、まずは他国での人脈作りという意味もあったんじゃないかね?


「他国の人間に認められても、持ち上げられ過ぎても拙い。だから、『今は』憐れみとか同情でいいのよ。少なくとも、それならガニアで煩いことを言う奴は居ないでしょ。どう考えても、魔導師の被害を食らったようにしか見えないもの」

「まあ、ねぇ……」


 シュアンゼ殿下がちらりと、猫耳へと視線を落とす。……うん、成人男性に猫耳ってないわな! 『これを魔導師に貰ったら、周囲に同情されました』と言ったところで、羨ましがる奴は皆無だろう。

 それに。

 これ、『シュアンゼ殿下自身は行動していない』ということも重要なのです。猫耳を贈ったのは私、それに同情して構ってきたのは周囲の人達。ほれ、どこにシュアンゼ殿下の意思があろうか。


「……。ミヅキ。君、ガニアの貴族達を全く信用していないだろ」

「うん」


 即答。問いかけてきたシュアンゼ殿下は私の答えに、やれやれと溜息を吐いた。


「それで、こんな遣り方を思いついたんだね。テゼルトの対抗になれてしまう以上、私が国王派の貴族達にすんなり受け入れられる可能性は低い。人脈作りも難航するだろう。それを考慮して、これなのか」

「私がガニアで受けた扱いを覚えていたら、当たり前でしょー! だいたい、忠誠心がある癖に、王弟一派に好き勝手させた役立たず連中なんて、信じないって!」


 からからと笑いながら言い切ると、シュアンゼ殿下が顔を引き攣らせる。


「いや、その……一応、彼らにも事情があったし、私も仕方がないことだとは思うよ?」

「言い訳無用。魔導師に敵意を向けたり、シュアンゼ殿下に嫌味を言う根性があるなら、王弟一派の有力者の一人や二人、陥れて力を削げっての! それがあっただけでも、状況改善には繋がったはず」

「「……」」


 無言になるなよ、そこの主従。対抗勢力の力を削ぐのは基本だろうが。

 それにね、私にはこう言うだけの理由もあるの。


「私が魔王様に命じられたのは『シュアンゼ殿下の護衛』、そして個人的な目的は『魔王様誘拐を企てた奴の滅殺』。……ガニアの権力争いの仲裁とか決着じゃねぇんだよ。ただ働きなんだよ。唯一、お米様という報酬をくれたシュアンゼ殿下の味方をして、何が悪い!」

「ええと、その……至らなくて、ごめんね……?」

「大丈夫! シュアンゼ殿下『には』怒ってないから! シュアンゼ殿下が守ろうとするものも判っているから、テゼルト殿下達にも何もしないよ。だけど、傍観者を気取ってた貴族共だけは許さん。私は国王派の味方じゃなくて、『シュアンゼ殿下の友人』です」


 状況を理解できている主従は顔を引き攣らせるが、当たり前です! だいたい、それがあるからこそ、彼らの憂いは杞憂に終わる。だって、特大の地雷が控えてますからね!


「きっとね、今後も勘違いする『お馬鹿さん』が出ると思うの! 『魔導師は国王派の味方』とか言い出しかねないじゃん? そこで! 私がきっぱり、はっきり、『私はシュアンゼ殿下の友人であって、ガニアはどうでもいい』と暴露。魔導師は『世界の災厄』……都合よく利用できる生き物に非ず!」

「ごめん。本当に、ガニアの者達が迷惑をかけたね……!」

「申し訳ございません、お嬢様!」


 当時の状況を知る主従は、揃って頭を下げて謝罪。うふふ……君達には怒ってないよ。本当に謝罪すべきは、私を無自覚のままに利用しようとした大馬鹿者達だけだから!

 ただ、シュアンゼ殿下達はそこに『ガニア国王一家も含まれる』と気付いているのだろう。テゼルト殿下はともかく、ガニア王は絶対、私を都合のいい駒のように捉えていただろうしね。


「別にいいの。あの時のことは、決着がついてるから。だけど、次もあるなら大変ね! さぁて、お馬鹿さん達はどれだけシュアンゼ殿下に借りを作ることになるのかなぁ?」


 そこを仲裁するなりして恩を売れば、シュアンゼ殿下への見方も変わるだろう。将来的にファクル公爵のような立場を目指すにしても、まずはシュアンゼ殿下の本質というか、野心皆無な姿を知ってもらわなきゃね。

 今後、シュアンゼ殿下が足場を築く程度のことはありそうだよね! と楽しげに言えば、シュアンゼ殿下は生温かい目を向けてきた。


「ミヅキ、私が言うのもなんだけど。君、性格悪い。利用する気満々だったから、ガニアの貴族達は無事だったのかな? いや、味方をしてくれること自体は嬉しいんだけど」

「あるものは何でも利用すべきだと思う。玩具は自分で見つけて、遊ぶものだよ」

「少しは否定しようか。親猫様が泣くよ?」

「もう慣れ過ぎて、諦めてると思う」

「……」


 マジですぞ。うちの親猫様は学習能力が高いので、『理解させようとするだけ無駄』→『無駄なことはしない』という流れに至った後、『叩く』という方向になったのだから。


「まあ、いいじゃない。折角、囮としてイルフェナに来てくれたんだもの。それに見合った『お土産』があってもいいでしょ」


 ひらひらと手を振れば、シュアンゼ殿下達は顔を見合わせた後、呆れたように笑った。


「やれやれ……君の評価が複雑なものになっている理由が判る気がするよ。私は得難い友人を得たようだね」

「お褒め戴き、光栄♪ これからも宜しく? 灰色猫」

「ああ、勿論」


 そのうち、共闘するようなこともあるかもしれない。だけど『今』は力をつけるための時間なんだから、大人しく守られていなさいな。私も同じ道を辿ったんだからさ!

仲良しな猫二匹。猫耳にも意味があったり。

囮としてイルフェナに来てくれた灰色猫のため、黒猫は罠を張ります。

評価を上げるべきは灰色猫。黒猫は踏み台となることを厭いません。

※今回が今年最後の更新となります。来週はお休みさせていただきますね。

※『魔導師番外編置き場』ができております。IFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

 https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6895ei/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シュアンゼ殿下はいつネコ耳を付けてくれるのでしょうか? ネコ耳 はやく~
[一言] きっと、あのネコ耳には集音機や盗聴器が仕込まれてると思うんだ。 黒騎士謹製だし・・・・・
[良い点] お姫様だっこ事件思い出し笑い。 [一言] 今年一年楽しい物語をありがとうございました。 来年も黒猫達の賑やかな物語楽しみにしております。 作者様の体調は最優先で。
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