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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
イルフェナ編
43/699

守護役=婚約者=災厄

 予想外の家庭事情暴露の後。


『うちの子を御願いね(意訳)!』


 ……という台詞と共に御家族は退室していった。忙しいらしい。

 アルさんのお姉さんも役職に就いているようだし、本当にこの国は性別家柄関係無しに実力重視なんだと思い知らされますね。

 まあ、お姉さん曰く


「私を女だと嘗めてかかった相手が涙目になる瞬間が物凄く楽しいですわ!」


とのことなので、御自分の趣味も兼ねているっぽい。愛の無い、結果のみを求める交渉はどれだけ恐ろしいのやら。

 私のゼブレストでの行いの数々も絶賛されることはあっても批難されることはないとか。いいのか、この国。


「ゼブレストの事で君はこの国の実力者達に認められたと思っていい。煩いのは小物だよ」

「小物?」

「子爵・男爵あたりだね。実力があれば爵位を賜わることもあるからその位の立場はそれなりに多い。だけど実力者の血を引いた者が優秀とは限らないだろう?」

「ああ、なるほど。爵位だけ残って気位が高い無能もいる、と」

「うん」


 なるほど、実力者を尊ぶからこその弊害か。

 外交させるなら対外的な地位が必要だから与えられるけど、騎士みたく一代限りってわけにはいかないんだね。


「功績で爵位を与えられた家は、その後三代何の功績もなければ潰れるけど」


 ……さすが実力者の国、国内だろうと容赦なしです。


「逆に伯爵以上は昔からこの国の在り方が判っているから妙な事はしないんだ。迂闊に手を出して報復されたら目も当てられないからね」

 

 恐ろしさを身に染みて判っているってことですか。まあ、その場合の報復って家名に連なる全てが対象だろうしねえ。

 『実力で乗り切ってみせろ』ってことでしょうか。乗り切れば言うだけはあると認められる、と。


「だからアルやクラウスみたいな家柄・実力共に申し分ない人物は取り込もうと必死になるんだよ。君に手を出す愚かな連中もいるだろうから気にせず報復なさい」

「私は民間人ですよ? 身分的に無理では」

「だからこそ、だよ。小物連中にしてみれば君は取り込み易い位置にいるんだ。身分制度が完全に無視されているわけじゃないからね」


 身分とかいらないです。お貴族様の一員になることにも憧れてません。面倒だし。

 しかも報復って私の場合って武力行使一択なのですが。だって権力とか無いもの。

 決闘とかするんでしょうか? 


「アルやクラウスが君を特別だと吹聴したのもその為だよ。二人を敵に回す意味を理解できない愚か者はそれでも居るのだろうけど」

「アホですか、公爵家を敵に回すなんて」

「単純に君が羨ましいだけの輩だろうからねえ。政治的な面に疎ければ個人の感情で行動するんじゃないかな?」


 つまり二人に憧れる御令嬢ってことですね。親が賢ければ説得するけど煽る奴も居そうですな。


「今度こそ女同士の泥沼展開でしょうか。勢い余ってマジ泣きさせそうです」

「やり返すのはいいけど自分からはやめなさい」

「はーい」


 ぺし! と軽く頭を叩きながら魔王様が釘を刺す。

 保護者として一応警告はするんですね。でも、止めないところが素敵。



※※※※※※


「ところで。二国以上から守護役選出ってことはもう一つはゼブレストですよね? 誰です?」


 そういえば、と切り出すと魔王様は意外そうな顔をする。


「あれ? 聞いてないのかい?」

「ええ。守護役のことも聞いてなかったです」

「あ〜……一応、この国に戻ってから聞いたほうが良いと判断したのかもね」


 まあ、いきなり派遣先から聞かされるよりはそう考えるかも。

 でも今のゼブレストに守護役派遣する余裕なんてあるのかね?

 そんなことを考えていたら魔王様が二通の手紙を差し出してきた。


「はい、これ君宛。ゼブレストから目標達成の報告と一緒に送られてきたんだ」

「……私宛をわざわざ送ったんですか?」

「そう、何故か送られてきた」


 何故だ。

 ここで『言い忘れたことでもあったのね』なんて思うほど素直な子じゃありませんよ。

 ルードールーフー? 一体、何を隠してやがった!?

 とりあえず開封してみますか。まずはルドルフの方から。


「……」

「……」


 無言で閉じた。一緒に見ていた魔王様も微妙な顔になっている。

 うん、手紙といえば手紙だね。ただし中身が『ごめんなさい』でびっしり埋まってるだけで。


 人はそれを反省文という。書き取りでもいいかもしれないが。


 だからここまでする理由って何!? 何があるの!?

 宰相様からの手紙を見るのが怖くなってきたんだけど!?


「とりあえず宰相殿からの手紙を見てみたら?」

「そうですねー……」


 魔王様に励まされつつ宰相様からの手紙を開く。それにはこう書かれていた。


『ミヅキ。何も告げずに後から知らせるようなことになってすまない。

 これを読んでいるということは守護役について説明があったのだと思う。

 だが異世界人、この世界双方の為にもこのような防衛措置は必須なのだ。

 そしてゼブレストからの守護役だが。

 本人の強い希望という名の脅迫によりセイルとなった。諦めてくれ。

 誤解の無いよう言っておくが立候補はエリザを筆頭に協力者ほぼ全員が名乗りを上げた。

 勿論、私もだ。お前は本当に信頼を得ていたのだと嬉しく思う。

 だが、紅の英雄を出されては我々としても退かざるをえない。下手をすると命の危機だ。

 オレリアの時の事を考えると非常に不安だが能力・家柄的には十分だ。

 イルフェナの守護役とも釣り合いが取れるだろう。時には妥協も必要だ。

 健闘を祈る。

 追記 何かあったらすぐに逃げて来い。いいな?』


 ……。

 宰相様。事情は判りましたが不安は増しました。正直過ぎる内部暴露感謝です。

 いや、心配しまくる『おかん属性』が嬉しくはあるんですけどね?


 守護役ってセイルなんだ……まだ続いてたんかい、あの嫌がらせ。


 求婚騒動やらかした後だったからルドルフは何も言えなかったわけですね!

 あの『ごめんなさい』はこの所為かい。

 うん、血濡れになりかけたよ? セイルに抱きこまれた所為で。

 オレリアの殺意の的になったよ? セイルが求婚かました所為で。

 腹の中は真っ黒だって本人自覚してるじゃん、私に平穏ってあるのかな!?


「セイルリート将軍がどうかしたのかい?」

「腹黒です、ヤバイ人です、野郎にしては美人過ぎます」

「……。何があったか知らないけどもう決定してるから。後で詳しく聞かせてね」


 魔王様がとっても優しく、且つ楽しそうなのを視界の端に映しながら。

 私は手にした手紙をぐしゃりと握り締めたのだった。



 せめてものお返しにセイル充てに『絶世の美女』『男なのが惜しまれる美人』『腹黒』などなど素敵な単語オンパレードの手紙を送ってやりました。

 即座に来た返事の『ありがとうございます。愛しい婚約者殿』の文字に敗北感を覚えたのは秘密。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] これ嫌がらせではなく本当にほれ……ぅわまてなにをするやめ(ここで途切れている)
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