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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
予想外の災厄編

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423/705

忠誠あらば憤れ!~利用しないとは言っていない~

 ――イルフェナ・牢獄にて


『ルドルフ様の証言もあり、エルは【ミヅキが新たに制作した魔道具の効果を試そうとし、わざと一撃を受けた】ということになっています。傷の治癒が完璧だったこと、何よりゴードン医師の証言もあって、その主張はほぼ受け入れられています』


『護衛に付いていた騎士達が謹慎程度で済んでいるのも、それが一因です。まあ、最近のエルの様子を知っていれば、納得もできますよね』


『こう言っては何ですが、エルも魔法を使うことに憧れていた時期があるのですよ。それを知られているからこそ、エルの好奇心からの行動という点も否定できないと言いますか……』


『そもそも、エルの行動も間違ってはいません。今回、招いたのはイルフェナ側なのです。友好国の王であるルドルフ様と己ならば、第二王子であるエルが庇うのが当然でしょう』


『エルは疲労で眠っているだけなのですが、やはりと言いますか……その、ルドルフ様は少々、落ち込んでいらっしゃるのですよ。セイルが騎士寮に顔を出さず、ルドルフ様の傍に付いているのも、それが理由です』


『そのような状況ですので』


『我々としても、非常に憤りを感じているのです。誰も止めませんから、どうぞお好きになさってください。最終的に、傷が癒されていれば何の問題もありません』


 以上、アルからのありがたいお言葉であ〜る! さりげなく聞こえていない振りをしてくれた聖人様は、マジで空気が読める人。咄嗟の判断ができるその有能さ(意訳)に乾・杯☆


 さすがです、それでこそ教会の救世主・聖人様。

 今後も是非、大人のお付き合い(意訳)をしていきたいものですな。


 実のところ、騎士寮面子が私に襲撃者の尋問を任せようとしたのは、か〜な〜り個人的な感情によるところが大きい。

 ぶっちゃけると、『あの凶悪外道娘ならば、情報を聞き出す過程で【絶対に】襲撃者のプライドを木っ端微塵にするだろう。寧ろ、苛め抜いて泣かせるに違いない』という、妙な期待からなのだよ。

 騎士寮面子が激おこなのは当然として、アル達はルドルフやセイルのことについてもお怒りなのだ。まあ、それも当然だろう。

 アル達にとってルドルフは、魔王様の威圧を恐れなかった超貴重な逸材。当時の魔王様にとって、それがどれほど慰めになったのかは想像にかたくない。

 そして、同じ守護役として仲間意識を持つセイル。私の目から見ても、彼らは本当に仲が良いので、セイルのプライドを踏み躙った――護衛という任を果たせなかったばかりか、役立たずだった――ことも許しがたいのだろう。

 そうは言っても、彼らはイルフェナという国の騎士。その立場ゆえ、騎士にあるまじき行動などできまい。


 そう、『やってはいけない』のだ……『個人』ではないのだから。


 だけど、それはあくまでも一般的なお話であって。

 当然、例外は存在する。忠誠厚い騎士だからといって……いや、忠誠厚い騎士だからこそ、汚れ仕事を任されるのは各国共通。ゆえに、割と『バレなければ問題なし』という状態だったりする。

 なお、『騎士にあるまじき行動が許されない』のは他国が関わったり、人の目があったり、記録が残ってしまうような場合のみであることは言うまでもない。

 翼の名を持つ騎士達は『最悪の剣』なんて渾名が付くくらい、『主の命による秘密の行動』が多い。要は、ちょっとばかり非道と言うか、外道と言うか、そういった方面になることが珍しくはないのだよ。

(様々な意味での)裏工作上等! な立場なのです、騎士寮面子。『善良? 何それ美味い?』がデフォルトです。

 それでも前述したように『一般的な認識』として、騎士様は正義の人。

 記録に残ってしまったり、襲撃者の口から尋問の様子が暴露される可能性がある以上、『異世界人であり、魔導師でもある私が適任』なのだ。異世界人凶暴種という渾名があるくらい、私の凶悪っぷりは有名だもんね。

 アルのありがたいお言葉を受けた私は、いい笑顔でアルと固く握手を交わしましたとも。アルも私の考えを読み取ったのか、笑みを深めて頷いてくれたしね。うむ、私達の関係は相変わらず良好です。

 こういった時の連携を外したことはないので、『異世界人と守護役達は互いに信頼し合っており、とても仲が良い』と認識されていくのだろう。……事実を知らない人達との温度差が凄まじいだけで。


 ……そんなわけで。


 やって来ました、襲撃者が隔離されている牢獄に! 私と聖人様の姿は、激しく浮いておりますとも!

 ……。

 聖人様は当然としても、私はこれでも実績持ちの魔導師なんだけどな? 牢に入る側にしろ、尋問に協力する側にしろ、もう少し場の雰囲気に合っていてもおかしくはないはず……なんだけど!?


 同行してくれたクラウスがいなければ、摘まみ出されそうな雰囲気ですよ。

 見張りの人がぎょっとした顔で『私を』見たもん。気のせいじゃねぇっ!


「仕方がないだろう、ミヅキ。そもそも、お前に縁がない場所だ」

「そうだけどさぁ……」

「見た目からして、魔導師と思われないんだ。日頃のお前を知っていなければ、迷子にしか見えんぞ」

「く……! 隔離生活の弊害か……!」

「いや、単なる見た目の問題だ。無駄だとは思うが、賢そうに見える顔でもしていろ」

「無駄って言い切ってるし! さりげに酷くね!? フォローの一つくらい、あってもいいと思う!」

「喚くな、子猫。ほら、前を向け。転ぶぞ?」

「ちょ、頭を掴んで無理矢理前を向かせないでっ……」


 私の抗議をさらりとかわし、クラウスは私の頭を掴んで前を向かせる。その遣り取りに、聖人様が呆気にとられた顔をしているが、今の私に説明する余裕はない。

 ……威厳皆無なせいで、誰が見ても『偶然迷い込んじゃったお嬢さん』的な印象なのよね、私。そんな生き物が、無表情が常の黒騎士様とじゃれ合って(?)いれば、大抵の人は固まるだろうさ。

 現に、私達の遣り取りを見ていた見張りの人達が物凄い顔でガン見中。そのうち『私は見た! 一般人らしき少女とじゃれ合うクラウス様!』といった感じに、噂が出回ることだろう。


 なお、この手の噂はこれまでも何回か出回っている。

 それが私と判明した時点で、一気に下火になるのもいつものことだ。


 クラウス母のコレットさんは一度、こういった噂に狂喜――「あのクラウスに浮いた噂が!?」と感動した模様――したらしいが、周囲は『魔導師相手なら当然では?』と言わんばかりに冷めた反応だったそうな。魔術狂いならば当然、と。

 もはや、誰もクラウスに色事など期待していないと判明した瞬間だった。コレットさんが崩れ落ちたのは言うまでもない。今回とて、似たような状態になるだろう。


 クラウス君は常に平常運転、両親の心配を綺麗にスルー。

 なお、『人の夢』と書いて『儚い』だ。嗚呼、無情。

 

「本当に、仲が宜しいようで」


 聖人様、そう言いつつも生温かい目で見るの、止めてくんね?


※※※※※※※※※


 そして、私達は襲撃者の一人が捕らえられている牢の前に来た。別室で取り調べするのかと思ったら、あくまでも面会扱いなので、牢でそのまま話すらしい。

 まあ、私達にその権限はないものね。他国の聖職者と何の役職にも付いていない魔導師では、面会させるだけでも十分特別扱いか。

 牢の内側から、襲撃者は私達を窺っている。クラウスの姿が見えたせいもあるだろうけど、場違いな聖職者と小娘の登場に、警戒心が募った模様。


「一応、俺が監視と言うか、立ち合い人だ。だが、俺は奴に警戒されているだろう。少し離れた場所に居た方がいい」

「了解。『多少は』見逃してくれるんだよね?」


 にこりと笑って確認すれば、クラウスは軽く片眉を上げ。


「……。まあ、それなりにな。鉄格子越しである上、奴が牢から出るわけじゃないんだ。『普通は』会話以外、できないだろうな。ああ、魔法の行使も止めておけよ? 一応、禁止されているからな。……例外もあるが」

「『一応』って、どういうこと?」

「拘束されている罪人が暴れたり、脱獄を企てる場合もあるからだ。だからこそ、そういった場合の魔法の使用は禁止されていない。咎められるとすれば、脱獄の手助けといったものの他に、罪人の精神に影響を与えるといった類のものだな。口封じや、意図的に罪人に仕立て上げようとしたことを疑われる」

「へぇ……」


 つまり、『魔法による脱獄の手助け・洗脳・操ることは禁止』ってことか。なるほど、『言葉と態度で煽り、相手を挑発することはギリギリOK!』ってとこかな? 自白目当てだし。

 この会話も当然、見張りの人に聞かれている。クラウスがわざわざ忠告してくれたのは『忠告はしました』という、事実を作り出すためだろう。自己保身というより、私達を連れて来たことを咎めさせないための布石だ。

 ちらりと視線を向けると、聖人様も私と同じ解釈をしたらしく、小さく頷いた。それを見たクラウスも頷き返しているので、この認識でいいのだろう。


 だって私、クラウスに『罪人をいびるな』って言われてませんからね……!


 守護役として、数々の私の所業を見てきたクラウスならば、真っ先に忠告するのはそこだ。それがないということは、『咎められない程度に頑張れ』ということ。

 哀れな見張りの人は『魔導師は異世界人凶暴種』程度の噂と功績しか知らないだろうから、警戒心ゼロだろう。それを踏まえて注意事項はしっかり口にしているので、クラウスも中々に小賢しい真似をする。

 ……。

 褒め言葉だよ、勿論。私の意図を的確に察してくれる、頼もしい共犯者ではないか。


「では、用が済んだら教えろ」

「はいな、ありがと!」

「感謝いたします」


 離れていくクラウスに、ひらひらと手を振りつつ見送る。そして、頭を下げて感謝を口にしていた聖人様と視線が合うなり、私達は揃って口元に笑みを浮かべた。

 さあ、話し合いといきましょうか!


「えーと、貴方がエルシュオン殿下の襲撃者……魔王様に怪我を負わせた人なんだってね? 合ってるかな?」

「……」


 念のために確認するも、牢の中の人は沈黙したまま。その目には私達への警戒が色濃く見て取れ、彼が素直に自白する気がないことが窺える。

 まあ、そうですねー。これで素直に吐くくらいなら、王族襲撃の手駒になったりしないわな。


 でもね、私も退く気はないの。

 つーか、私も襲撃に激おこですからね……?


「あ、無理に言わなくていいから。だぁって……」


 一度言葉を切り、聖人様の方を向く。


「黙っていれば、言い訳の余地がなくなるだけだもの」

「何だと……?」


 余裕のある態度に、襲撃犯が怪訝そうな顔になった。見るからに聖職者である聖人様の方を向いたことも、襲撃犯を困惑させた一因か。


「この人、バラクシンの教会の現トップ。聖人様と言えば、判るでしょう? 少し前にあった『大掃除』で、欲に塗れまくったクズが教会から淘汰されたのよ。その時に、ちょっと気になるものを見つけたそうなの」


 にこにこと笑顔で話す私に、襲撃犯は益々訝しげな表情になる。上機嫌のように見える私の態度が心底、理解できないのだろう。

 そして。

 私は徐に、一枚の封筒を取り出し、ひらひらと襲撃犯の目の前で振ってみせた。


「……ハーヴィス」


 襲撃犯は動かない。


「『血の淀み』を受けた王女の誕生、乳母は彼女の未来のために、あらゆる可能性に縋った」

「……っ」


 まだ襲撃犯は動かない。ただ、僅かに視線が鋭くなった気がする。


「御伽噺には『優しいお姫様』。だけど、それが許されるのは『御伽噺の中』だから。現実的に考えれば、あり得ないほど愚かで偽善に満ちた『物語の中でしか存在できない生き物』」


 くすくすと私は笑う。襲撃犯を煽ることになると判っているからこそ、楽しげな態度とヒントのような断片的な言葉で揺さ振っていく。

 対して、襲撃犯は随分と憤っているようだった。鉄格子を握り締める手に込められた力と、敵意に満ちた視線がそれを物語っている。そんな姿に、私はひっそりと笑みを深めた。


 あと少し。もう少しで、襲撃者の沈黙は崩れ落ちる。


 忠臣だからこそ、こんな風に言われることは許せまい。何の関係もない、『取るに足らない存在』に、主を憐れまれる……そのように『評価される』など、忠臣ならば黙っていられまい。

 私はこの襲撃者達を『あまり賢くない』と判断している。ならば、彼らの『唯一』への侮辱を前にして、感情制御ができずとも不思議はない。

 襲撃者が精霊姫の傍に居たというなら、彼女とその周囲の状況くらいは知っているだろう。憤ったこととて、あるかもしれないじゃないか。


 だから……そこを突く。忠臣と呼ばれる者が怒るのは己のことではなく、主に関することなのだから。


「愚かで、哀れな、お姫様。物語の中でしか存在できないのに、現実でもそれが通じると思った愚かな乳母によって、そう位置付けられてしまった……哀れな、哀れな――」

「あの方をそのように言うな! 貴様如きに何が判る!」


 ガシャン! と、鉄格子が音を立てる。その力の強さに、殺意が宿ったその目に、私は成功を悟る。そして更に煽るべく、蔑みを含んだ表情でとどめを刺した。


「愚かで、自分勝手な『精霊姫』。自分の世界を壊されたくないならば、あるものだけで満足して引き籠もっていればよかったのに」

「貴様ぁぁぁぁっ!」

「あはははは! どう? 悔しい? 声を挙げることしかできない自分が、惨めで情けない?」


 怒りのままに踊ってちょうだいな。貴方が騒げば騒ぐほど、こちらに有利な展開にできるんだからさ!

主人公「精霊姫ってば憐れ! お馬鹿さーん!」

襲撃者「貴様ぁぁぁっ!」

尋問には耐えられても、主への暴言には耐えられず。

煽って手を出させるのが常の主人公にとって、襲撃者はチョロイ相手でした。

※Renta!様にて、『平和的ダンジョン生活。』のコミカライズが配信中です。

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