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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
予想外の災厄編

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共犯者の集いと悪い知らせ

『魔王様も御伽噺に出てくる王子様の定番・金髪に青い瞳だった』と気付いた後、私とグレンは――


「……。何故、エルシュオン殿下が抜けているんだ……」

「一番忘れてはいけない方だと思うのですが……」


 ライナス殿下と聖人様に呆れた眼差しを向けられていた。

 し……仕方ないじゃん! 私やグレンにとって保護者で後見人な王族――ウィル様も含む――は、憧れの眼差しで遠くから見るような存在じゃなく、もっと身近な人達なんだもん!


「いや、その、魔王様は『王子様』というより、『保護者』とか『親猫』といった扱いが定着してましてね。周りもそう扱うし、本人もその自覚があるせいで、誰も咎めないんですよ」

「……同じく。公の場はともかく、儂も相変わらず陛下に弟分のような扱いをされていますな」


 私に続く形で、グレンも似たようなことを口にする。だが、グレンの話には更に続きがあった。


「一応、言い訳をさせていただくならば、儂も主従としての関係を尊重しようとはしたのですよ。ですが……」

「ですが?」

「陛下が嫌がりましてな。いい年をした男が見苦しくも『嫌だ! 公の場はともかく、身内だけの場ならいいじゃないか!』とゴネまして。あまりの鬱陶しさに、周囲が『我儘を受け入れてやってくれ』と懇願する始末でした」

「お、おう……グレンの場合はウィル様が原因だったのか」

「縋りつかれては、仕事にならん。了承するしかなかった……」


 グレンよ、遠い目をするでない! そんな反応をする時点で、当時のカオスな状況が予想できちゃうでしょ!?

 ライナス殿下達もどんな反応をしていいか判らないのか、顔を引き攣らせて微妙に視線を逸らしている。……ぶっちゃけて言うと、ドン引きしている。

 ええ、ええ、そうでしょうね〜……ウィル様、南においてはイルフェナ王と並んで、対キヴェラの中核みたいな役割を担っていたでしょうし。

 王であるウィル様の大らかな性格もあって、実力至上主義のイルフェナよりは対話しやすい国だったと思う。先代を追い落としたこともあり、実力も十分と認識されていたはず。


 そんな人が駄々っ子宜しく、『弟扱いじゃなきゃ、やだ!』とグレンに縋りつく。(予想)

 側近達を困らせてまで貫く主張が、養い子の立ち位置とは……。


「……どこにも『兄』という立場に憧れる者がいるのだな」

「「「……」」」


 ぽつりと呟かれたライナス殿下の言葉にバラクシンでの『あれこれ』を思い出し、その他三名はそっと視線を逸らす。……そういや、この人の兄夫婦も大概だった。臣下の誓約をした当時、やはり盛大に縋りつかれたのだろうか?


 真実は闇の中。それは当事者達にしか判らない。


 ……判らないけれど、バラクシン国王夫妻は重度のブラコンだ。その怒りと悲しみを力に変え、教会派と敵対した強者なのだ。ある程度の予想はつく。


「ま、まあ、ともかく! 私にとって御伽噺の王子様と魔王様の存在がイコールにならないのは、『立場と色彩しか合ってない』ってこともあるんですよ」


 半ば無理矢理話を進めると、聖人様は不思議そうな顔になった。


「どういうことでしょう?」

「だって、どう考えても現実に居たらヤバイ生き物でしょ、御伽噺の王子様って」


 馬鹿正直に答えると、三人は微妙な顔になる。何故だ、あれは現実に居ちゃいけない生き物じゃん。

 そこでいち早く動いたのが、三人の中で最も私に理解があるグレンだった。


「……ミヅキ。お前にとって『御伽噺の王子様』とは一体、どんな存在なんだ?」

「愛と正義のお馬鹿さん」

「愛と……」

「正義の……」

「「お馬鹿さん……?」」


 ライナス殿下と聖人様が呆気にとられたまま呟き、最後は綺麗にハモる。対して、グレンは生温かい目を私に向けていた。


「理由を簡潔に言え。お前の解釈は独特過ぎて、理解できん」

「え、そう?」

「「「ああ」」」


 ……三人同時に、力強く頷かれてしまった。何だよー、感想は人其々じゃないかー。

 それでも気になるらしく、三人は先ほどの私の答え――『御伽噺の王子様は愛と正義のお馬鹿さん』というやつ――を待っているようだ。はいはい、素直に言えばいいんでしょ。


「まず、お姫様を助けるのに『単独で行く』。騎士はどうした? 護衛は? そもそも、それが可能なほど強いなら、化け物扱いされても不思議はない。国の評価にも拘わって来るし、勝手なことをしている時点で、王族としての自覚がない」


 魔王様は自分の立場を自覚できている。だから『自分が戦わず、配下達を使う』し、魔法が使えないなら『専門家に任せる』。

 相手を道具扱いするというより、立場を理解しているんだよね、これ。『適任者を選定した上で問題の解決を命じ、責任は自分が取る』って感じ。


「次に、片方の事情しか知らないのに『無条件で味方する』。身分のある人がこれやっちゃ駄目でしょ。いつも『助けを求めてきた人』とか『自分が気に入った人間、特に女性』の味方をしてるけど、明らかに情報不足。騙されたら、どうするんだよ。自国も巻き添えで、そいつに味方したと解釈される可能性だってあるのに」


 王族として言質を取られるのは、基本的にアウトのはず。それなのに、御伽噺の王子様は身分を簡単に明かす上、個人の感情で色々と行動しちゃってる。

 王子の言葉で国が動く、といった状況でない限り、国から切り捨てられる未来しか見えませんよ。でかい功績でも挙げない限り、国に受け入れられる可能性は低い。


 なお、『個人の言葉で国が動く』をリアルにやったのが戦狂い。ヤバさが判るだろ?

 これが可能だったのは、『他国への侵略上等!』という、キヴェラの気質に合った功績があったからだ。


 奴とて、かつては王子様だった。でも絶対に、『御伽噺の王子様みたい』とは言われなかったと思う……悪役なら、物凄く嵌りそうな気はするけどね。『血塗れの王子様』とか、暴力的な方向で。

 ……。

 個人的な予想ではあるが、ジークならば『単独でお姫様を救出する王子様』的な役目が果たせると思う。ただし、本当に『それだけ』。


 ジークの目的:国が敗北するほどの強者との一戦。

 救出を依頼した国の目的:姫の救助。


 戦利品とばかりに、連れ去られたお姫様を連れ帰ってはくれるだろうが、ジークの場合はそこでエンドロールが流れて物語は終了です。彼の目的は姫との未来に非ず。

『見事助け出してくれた礼に、姫と婚姻を』と王が言おうが、お姫様が頬を染めようが、馬鹿正直に『要らない』と言い切るだろう。

 いや、拒絶の言葉だけなら、まだマシだ。『強い奴と戦いたかっただけで、姫に興味はない。連れ帰れと言われていたから、連れて来た(=個人的にはどうでもいい)』と本音をぶちまける可能性・大。

 間違っても、御伽噺的なハッピーエンドにはなりません。下手をすると、侮辱されたと怒った国との第二ラウンドが始まってしまう。 


 無理。絶対に、無理。私の傍には、御伽噺のヒーローが似合う奴はいない。

 魔王様も含め、愛と正義を掲げるような平和ボケした思考の奴は皆無だ。


「そんなわけでね、実際の魔王様とかけ離れ過ぎて、御伽噺の王子様っていう存在とはイコールにならない。勿論、これはどの国の王族の人達も同じだけど」

「ああ、そういう認識をしていたのか。お前はエルシュオン殿下の遣り方を知っているから、除外するのが当たり前なんだな」

「うん。色彩しか合ってないし、飼い主としての認識が強いから」


『お手』も『待て』も言って来る飼い主様です。私だけじゃなく、魔王様も私を馬鹿猫――めでたく『うちの子』扱いに昇格した模様――扱いしております。


「なるほど。現実的に捉えているというか、冷静に比較してしまうと、色彩しか合っていない。確かに、エルシュオン殿下は御伽噺の王子様というイメージではないね」

「でしょう!? だから余計に、御伽噺と混同させる遣り方が理解できないんですよ。絶対に、『あのキャラはそんなことしない・言わない』っていう違いが出るもの」


 私の主張に、ライナス殿下とグレンは納得の表情で頷いていた。彼らから見ても、無理があるのだろう。

 修正できる範囲なら頑張れるかもしれないが、御伽噺の登場人物達は現実ではありえない言動をすることもある。完璧さを求められても、困るわな。

 だが、聖人様は首を横に振る。


「通常の思考であれば、それが普通なのでしょうね。ですが、それを提示したのは精霊姫が最も信頼する人物……乳母なのですよ。亡き母親の代から仕え、母の分まで慈しんでくれた相手の言葉なのです。狭い世界で生きて来たならば、情報が制限されている可能性もあります」

「あ〜……乳母だけじゃなく、周囲もグルになって思い込ませたってこと?」

「はい。だからこそ、彼女は『自分の世界が壊れることが許せない』のではないでしょうか。彼女にとっては自分の人生を否定されるも同然なのですから」


 それは洗脳に等しい状況なのだろう。だが、精霊姫はそれでも幸せに生きて来た。……様々な偽りが含まれていたとしても。

 他者から見れば人工的で、歪な箱庭なのだろうが、精霊姫にとっては正真正銘、自分のための楽園なのだ。

 その楽園の一角を担っている存在が『壊れた』ならば……切り捨てるなり、修復するなり、しようとするかもしれないね。

 しんみりとした空気が流れる。そんな中、私は聖人様の手を取り、真剣な表情で一つの決意を述べた。……目を据わらせたまま。


「とりあえず、精霊姫を〆よう。『魔導師に喧嘩を売ったらヤバイ』という認識を植え付ければ、今後は安泰だ。そのまま恐怖に苛まれようが、別の物語に依存しようが、対処はハーヴィスに丸投げする! 国が抗議してくるなら、これまでの対応の甘さを追及し、それでも煩かったら、国ごと敵認定」

「「「え゛」」」


 私 が い る 以 上 、 魔 王 様 達 を 害 さ せ は し な い 。

 そ ん な 真 似 は 許 し ま せ ん よ … … ?


 聖人様達の危惧が現実になった場合、大騒ぎになるじゃないか……私にだって、お呼びがかかるかもしれない。

 魔王様経由でのお仕事だった場合、問答無用に巻き添え確定だ。イルフェナの気質からして、解決するまで呑気な騎士寮生活は叶うまい。

 駄目、精霊姫が何かしようとしても、絶対に阻止! 気の毒だとは思うが、私は自分の人生が最優先。そのためならば『お気の毒ね』と涙を滲ませつつも、躊躇うことなく精霊姫一派を足蹴にして、再起不能に追い込もう。


 何故なら、彼女達は『私の』敵なのだから! 自己中、上等です。

『同情』と『本音』は別物です。私が選ぶのは常に『私自身』。


「ちょ、ちょっと落ち着こうか、魔導師殿!? まだ何も起こってないからね!?」

「おーい、ミヅキ……その覚悟は立派だが、未だに実害がない以上、お前の方が悪くなるぞ?」


 慌てるライナス殿下に、妙に冷静なグレン。グレンは特に反対というわけではなく、単純に『魔導師が悪になるけど、いいの?』と気になったのだろう。

 大丈夫、私には最強の言い分がある! 寧ろ、これが『正しい魔導師の在り方』だ!


「元から、『魔導師は世界の災厄』って言われてるじゃん。事前に各国に根回しをして、ハーヴィスの弱みを幾つか握った状態で喧嘩を売れば、誰もが自己保身から『仕方がない』で済ませてくれるよ。被害は精霊姫一派オンリーなんだから」


 国が傾いて、最も困るのはハーヴィスの皆様。もっと言うなら、国の上層部。他国の人々は自国第一なので、被害が来ないと判っていれば、かなりの確率で見逃してくれます。

 多分、一番騒ぐのが魔王様。『君が悪者になる必要はない!』という言い分の下、思い止まらせようとしてくるだろう。アル達は……魔王様が狙われる可能性があるなら、味方してくれるかな。


「そもそも、『いつかは被害が出る可能性がある』っていう状態なんじゃない。ハーヴィスに管理を促す意味でも、一度ガツンとやっておいた方がいいって」

「ああ、そういった意味もあるのか」

「うん。それにさ、おかしくない? 何かを企んでて、意図的に野放しにしている……って考えた方が自然だよ。それも踏まえて、ハーヴィスの意向を探る。第三者を挟んで交渉の場を設ければ、出て来てくれるでしょ」


『精霊姫が他国に迷惑をかけることがなくなりますよ』という餌を撒きつつ、『何かしたら、国単位で報復するからね☆』と脅せば、元から精霊姫に危機感を抱いていた奴が交渉のテーブルについてくれるだろう。

 逆に言えば、これで交渉の席に着くならば……『すでに何らかの兆候が見られていた可能性が高い』。精霊姫の情報が殆ど出回らないのは、そういった意味もあるんじゃないかね?

 ちらりと視線を向けた先、ライナス殿下とグレンは揃って思案顔になっている。やはり、私と同様の疑問を抱いたようだ。その表情はどことなく厳しい。

 ついつい『ハーヴィスに何らかの思惑あり』という考えに没頭し出した時、温かい手が私の手をそっと包み込んだ。視線を向ければ、穏やかな笑みを湛えた聖人様。


「貴女の勇気に感謝します。その案で行きましょう」

「「「……」」」


 賛 同 し や が っ た ぞ 、 こ の 聖 職 者 。


「やられる前に殺る……素晴らしい発想です! 後々まで気が抜けない不安要素など、残すべきではありません。最低限、ハーヴィスにはしっかり管理してもらわねば」


 先 手 必 勝 で す ね 、 判 り ま す 。


「『誰かがやらねばならない』……それはとても重要で、勇気のいる行動でしょう。被害がない以上、今は国が動くことができません。ですが……行動されてからでは遅い案件です。名の上がったお三方はどなたも失えない方達なのですから」

「教会は私に味方するって?」


 からかうように尋ねれば、聖人様は微笑んだまま目を眇めた。


「すでに処罰されたとはいえ、教会が発端と言われても仕方がない状況なのです。私には教会に属する者達を守る義務がある……どちらに付くかなど、明白でしょう?」

「私に味方すれば、その罪が『最強の切り札』になるものね?」


 視線をテーブルの上に置かれたままの手紙に向ける。私の答えが気に入ったのか、聖人様は笑みを深めた。


「この手紙は精霊姫の状況、及び、ハーヴィスにおける管理の杜撰さを証明するものとなるでしょう。何より、魔導師に危機感を抱かせるに至った事柄が、乳母自身によって綴られています。必要ならば、多少は内容を盛ることも考えましょう」

「それに対する見返りには何をお望み?」

「教会が『魔導師の協力者』という立ち位置にいること、そして黙っていることを良しとしなかったバラクシンの誠実さを認めていただきたい」

「おーけい、要は『教会も、バラクシンも、精霊姫の所業とは無関係』ってことね」

「ええ。我々は良心の呵責に耐え兼ね、かつて教会に属していた者達の残した物を貴女に見せたのですから」


 微笑む聖人様はまさに、慈悲深い聖職者といった雰囲気だ。

 だが、彼はすでに『教会を守ること』を己が最上位に定めている。悪と呼ばれる所業に手を染めようが、守るべきは教会に属する人々。

 そのためならば、どのような咎も受け入れるのだろう。彼は『個人的な正義感』よりも『教会の守護者』という立場を取ったのだから。


 ――その時、唐突にノックが響いた。


「失礼致します。魔導師様へと、イルフェナから通達が届きました」


 思わず、室内の人間達は顔を見合わせた。あまりにもタイムリーだが、まさか……という想いも捨てきれない。


「構わん、入れ」

「はい。失礼致します」


 グレンが入室を許可すると、入ってきたのは以前にお世話になった使用人さんだった。その手には、一枚の封筒が。


「グレン様のお部屋の掃除をしていた者が、魔導師様と直通になっている転移法陣に出現したと持ってきました。その、こう言っては何ですが、いくらグレン様と魔導師様が親しくとも、魔導師様宛ての手紙を送るなど考えられません。私の独断になりますが、お持ち致しました」

「ありがと。その判断で正解だと思うよ」


 お礼を言って、封筒を受け取る。確かに、この状況はおかしい。いくらグレンが同郷と知っていようとも、今はアルベルダの人間なのだ……まるで『グレンにも知ってほしい内容』みたいじゃないか。ただ、その判断は私に委ねられているみたいだけど。

 訝しがりながらも、封筒を開けて手紙に目を通す。そこには――


「あ゛?」


 私の機嫌が一気に急降下する内容が書かれていたのだった。


「ミ、ミヅキ?」

「ふふ……うふふふふ……! 精霊姫、すでに行動に出た後だったかも。魔王様が襲撃されて、負傷したってさ」

「「「な!?」」」

「ああ、こうやって連絡して来る時点で、大丈夫だってことだから安心して? 私とゴードン先生の意地が、襲撃者の殺意に勝ったって書いてあるから、命の危険はないよ」


 そのままを書くと拙いので、こんな風に暈したんだろう。今回、私は緊急連絡用と称し、グレンへの直通転移法陣を騎士寮の皆に託してきた。だから、これは騎士寮面子からの連絡だ。


 ――ただし、これは『魔王様負傷! すぐ帰れ!』という意味だけではない。


 折角、私がアルベルダに居るのだ。しかも、グレンやウィル様と会話できる環境に! それを活かして、情報収集や伝達をして来いというアピールだろう。

 同時に、私も安堵する。こんなことを騎士寮面子が指示できるくらい、魔王様は軽傷ってことだもの。


 でもね、私達にとっては『魔王様が襲撃されたこと』が重要なんだ。

 怪我の程度は重要じゃないの、『仕掛けた段階でアウト』なんだよ。


「ねぇ、聖人様? 私達、『お友達』よね? 確認したいことがあるから、一緒にイルフェナに来てくれない? もしかしたら、精霊姫関係かもしれないもの」


 にこりと微笑んで、聖人様へと協力要請を。手紙には『ハーヴィスかイディオからの刺客だと思う』と書かれているけど、個人的には精霊姫がいる方だろうと思えてしまう。

 ただ、確証がないらしい。よって、私の呼び出しとなったわけだ。どちらもよく知らないはずの魔導師というジョーカーをぶち当てて、ボロを出すことを期待している模様。

 それに加え、ここには『乳母からの手紙』という重要アイテムがある。もしもハーヴィスからの刺客だった場合、これは証拠の一つになってくれるはずだ。


「……! ええ、勿論です! 貴女だけではなく、教会のことを気にかけてくださった騎士様達も、我らの良き友です」


 私の意図を悟ったのか、聖人様が力強く頷いた。私の笑みも深まる。

 さて、それではできる限りの布石を打っておこうか。


「グレン、私は聖人様に同行してもらって、イルフェナに帰るわ。もしかしたら、聖人様達の危惧が当たっているかもしれないもの。だからね、グレンはこの件をウィル様に伝えてほしい」

「……伝えてしまって、構わないのか?」

「グレンの所に通達が来た以上、その可能性も考慮しているでしょ。『今はまだ』王族襲撃事件の一つだけど、状況によっては、『これまで雑談に興じていた内容が、懸念じゃなくなるかもしれない』じゃない。だったら、事前に伝えておくべきだわ」


 グレンは私がウィル様に渡した魔道具の存在を知っている。だから、先ほどの『私とゴードン先生の意地云々』という件で、その効果の確かさも理解できているのだ。『魔王様が襲撃された』と聞いても落ち着いているのは、それも一因だろう。

 ……あの魔道具の所持者が怪我を負ったとしても、滅多なことでは死なない。安心感が違うよね、やっぱり。

 ただし、『王族襲撃事件』という事実がある以上、ウィル様にも警告しておいた方がいい。精霊姫の関与が予想されていることも含め、アルベルダとしても警戒は必要だろう。いつ当事者になるか判らないもの。


「私も陛下に伝えよう。勿論、聖人殿が魔導師殿に味方していることも含めてな。一応、我が国におかしな動きがなかったかも調べておこう」

「お願いしますね、ライナス殿下。私としても、バラクシンに疑いの目は向けたくありません。アルベルダ、バラクシン、あとはゼブレストですが、この三国の協力を得られるだけでも、犯人の特定は楽になるでしょう」


 他の国は犯人の特定ができてから。ただし、特定でき次第、私が速攻で各国へと連絡を入れてやる。

 自国の無関係を主張するなら、何らかの動きがあるだろう。イルフェナからでは調べにくい情報さえ、迅速に押さえてくれるかもしれないじゃないか。

 さて、役割は決まった。次に私達がすべきことは、すでに捕らえられただろう襲撃者に面会し……確実な自白を引き出すこと。


「じゃあ、行動開始ね」


 頷き合って、其々、部屋を出る。手紙を持って来てくれた使用人さんが心配そうな顔で見送ってくれるが、今は不安に思う時じゃない。行動あるのみだ。


 ――魔王様。貴方がどんな状況を望むか判っているから、『今は』貴方の心配はしません。後回しです。

 だけど、目が覚めた時に望んだ状態になっていたならば……いつもみたいに、頭を撫でてくださいね。

襲撃を知る前に、『ヤバそうなものは始末しよう』な発想になる人々。

非道と言われようとも、大切なものが守れるなら問題なし。

聖人様も別の意味で成長したので、主人公寄りの発想。

倒れる直前の親猫の予感、大当たり(笑)

※魔導師コミカライズの二巻が6月に発売されます。詳細は活動報告にて。

※『魔導師番外編置き場』ができております。IFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

 https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6895ei/

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