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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
予想外の災厄編

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好意も悪意も十倍返し

――アルベルダ・王城の一室にて


 ――それは本当に唐突な知らせだった。


 あれから雑談に興じていた私達だったが、暫くして、グレンへと『ある知らせ』が伝えられたのだ。

 聞いた途端、グレンだけではなく、ウィル様までもが怪訝そうな顔になった。というか、私も訝しんだ一人。


「……。ライナス殿下が儂を訪ねて来ていると? そのような予定はなかったはずだが……」

「はい。扱いはお忍びということです」

「「「……」」」


 伝えに来た人――グレンの館の使用人さん――も困惑気味だが、私達も同様。思わず、顔を見合わせる。

 えーと、確か……グレンが若かりし頃、ライナス殿下が派閥関連のことを相談したんだったっけ。その結果が、ライナス殿下の臣下としての制約だったはず。

 このことを知っているなら、二人に個人的な付き合いがあっても不思議ではないだろう。

 ……が、当のグレンまでもが怪訝そうな顔をしているならば、話は別。


「グレン、ライナス殿下と親しかったの?」


 確認するように尋ねれば。


「いいや? あちらは教会派関連のことで揉めていたし、下手に儂と付き合いがあると思われれば、そこを利用される可能性があったからな。顔を合わせれば挨拶程度はするが、親しい付き合いは皆無だ」


 速攻で否定された。


「だよねぇ。これまでの教会派の姿勢を考えると、ライナス殿下は自分に価値を持たせることはしないだろうし」

「そうだな、ライナス殿はそういったことに思い至らない方ではない。俺も彼がグレンとそこまで親しいなんて、聞いたことはないな」


 ウィル様も知らない以上、本当に付き合いはなかったのだろう。個人的なことであろうとも、あちらは王弟殿下。グレンの性格上、親しくなっているのならば、主であるウィル様に報告はしているはず。


 それが『お忍び』で訪ねて来ただと? 明らかに、おかしいだろうが。


「……。ミヅキ、お前も同席してくれ。場合によっては、お前を巻き込む。宜しいですね? 陛下」

「ああ。魔導師殿には悪いが、俺も何だか嫌な予感がする。そもそも、グレンを訪ねて来る時点でおかしいだろう。これは『アルベルダという国』に対してではなく、『グレンという個人』との対話を望んでいると見るべきだ。だったら、魔導師殿を巻き込んだ方が多くの手が打てる」


 そう言って頷き合うと、主従は揃って私を見た。勿論、私もその意見には賛成なので、了承の意味で頷いておく。

 ……。

 もしかしたら、ライナス殿下は『異世界人であるグレン』や『魔導師と懇意にしているグレン』に用があったかもしれないものね。

 ウィル様の右腕としてのグレンに用があるならば、最初から先触れでも出して、ウィル様に話が通るようにするだろう。ライナス殿下はそういった筋を通せない人ではない。


「いいよ、私も同席する。厄介な案件を持ち込まれても、私が……『偶然話を聞いてしまった魔導師が、面白半分に介入する』っていうことが可能だものね。用件が判らない以上、アルベルダが保険として私を付き合わせたとしても、文句は言えないでしょ」

「すまんな、ミヅキ」

「いいって! じゃあ、使用人さんには一足先に館に帰って伝えてもらおうか。いきなり私が現れても、心の準備ができないでしょ」


 ひらひらと手を振りながら快諾しつつも、一応の気遣いを。これもまた、アルベルダ側の保険なのですよ。

 暗にアルベルダ側から『魔導師に知られて困るようなことなら、言うなよ? 密談したいなら、最初からそう言うもんなぁ?』と言われているようなものなのです。警戒してるからね? みたいな感じ。


 厄介な案件を持ち込まれかけても、『部外者』がいれば、あちらとて口にすまい。


 要は逃げ道要員としても、私の存在が使われるわけだ。まあ、これくらいの危機感を抱くのは当然だろう。グレンとライナス殿下は多少の繋がりはあれど、そこまで親しくはないみたいだし。

 何より、私も今回はアルベルダを訪ねた理由がある。例の『治癒力爆上げの魔道具』の譲渡だ。今後の予定ができた以上、今済ませてしまった方がいいだろう。


「あ〜……ウィル様、グレン、ちょっといいかな? 私も二人に秘密のお話があるの」


 ちょいちょいと手招きして切り出すと、主従は揃って怪訝そうな顔になる。グレンに至ってはジト目だ。……う、うん、『お前も秘密の話があったんかい!』ってとこだろうね。

 とは言え、これはさっさと渡してしまいたい。のんびりとしているように見えるが、未だ、ウィル様に対して反発をしている貴族達がいるのだから。

 予想外のことだけれど、リーリエ嬢の一件はそれが浮き彫りになった案件ではあるのだよ。ただ、ウィル様が即位した経緯を知る者達は『こればかりは仕方がない』と言い切った。それも覚悟の上の即位だろう、と。


「ウィル様、この魔道具を身に着けて。そして絶対に、離さないで。勿論、他言無用」

「薔薇姫のと同じ奴……じゃないな。効果は何だ? 魔導師殿」

「治癒ですよ。ただし……ありえないレベルでの治癒、ですが」


 興味深そうに魔道具を手に取っていたウィル様は私の言葉を聞いた途端、目を眇める。『治癒』の魔法も、魔道具も、決して珍しいものではないことがその理由だろう。

 上級の治癒魔法は使える人が限られるのかもしれないが、彼は一国の王……当然、使える医師が居る。それなのに、治癒の魔道具なんてものを渡す以上、その効果に疑問を抱くのは当然。


「ミヅキ、詳しく話せ。『秘密のお話』などと言うからには、公にはできんことなのだろう?」

「そうだよ、グレン。ただ、これは言葉での解説よりも、実際に試してもらった方がいい。効果を実感できるからね」

「ほう? 個人的にはあまり許可できないが……」


 言いながら、グレンはウィル様へと視線を向けた。ある程度の理解を示すグレンとて、私の提案に素直に頷くわけにはいくまい。

 だが、そこは大らかさに定評のあるウィル様だった。


「いいぞ、試そう」

「陛下!」

「いいじゃないか、グレン。何らかの不都合があれば、謝罪するのはエルシュオン殿下だ。その前提がある以上、魔導師殿はおかしな真似をせんよ。そもそも……これはエルシュオン殿下も納得していることなんだろう?」

「ええ、勿論」


 頷けば、ウィル様は楽しそうに笑った。


「じゃあ、何の問題もないな! 俺の立場上、グレンが心配するのは当然だが……エルシュオン殿下が関わっている以上、そこまで警戒することはないだろう。すまんな、魔導師殿。グレンも悪気があったわけじゃない」

「納得してますから、お気になさらず」


 私に対する信頼という以上に、『エルシュオン殿下に迷惑をかけるはずがない』という方向からの信頼が勝ったと。

 ……。

 私という存在を理解しているようで何よりです。まさに、その通り! 多分、騎士寮面子も同じ扱いでいいと思う。

 それでは、判りやすく実践してもらいましょうか。


「魔石に血を一滴垂らして、これまでと同じように血の認証を行なってください。それから……ナイフを腕に走らせてもらえませんか? 血が出る程度……こう、傷に血が浮き出る程度の怪我であればいいんですけど」

「ふむ、つまりこういうことか」


 ウィル様は手早く魔道具を身につけると袖を捲り、血を出すために使ったナイフを腕に走らせた。当然、刃が通過した場所からは赤い血が滲み出し、腕を流れていく。

 浅いとはいえ、血が出るような怪我。痛みもあるし、ウィル様自身も皮膚や肉を裂いた感覚があるだろう。

 ……が。

 次の瞬間、ウィル様は訝しげに傷口を眺めた。


「……? 陛下、どうされました?」

「……グレン。俺は今、確かに怪我をしたよな?」

「え? え、ええ、ご自分で腕に傷を付けられました。その証拠に、傷からは血が滲んでいるではありませんか」


 奇妙な問い掛けに、グレンは律儀に答える。やがて、ウィル様は懐から出した布で傷の血を拭った。そこには傷があった跡すらない。

 まあ、ここまでは普通の治癒魔法でも珍しくはないだろう。傷自体も浅いので、『見ていた側からは』何も疑問に思うことはない。

 だが、傷を負った本人からすれば少々、奇妙な感じになるのだ。


「魔導師殿。俺は今、腕にナイフを走らせた。だがな、奇妙なんだ。痛みも、腕を切り裂く感覚も、ナイフが当たっている一点のみに感じていた。そうだな……まるで『怪我をした先から、治っていくような』感じだった」

「それで合ってますよ」


 正しい見解を口にしてくれたウィル様に、にんまりと笑う。


「治癒魔法は、魔力で欠けた部分を補うようなもの。だから、どうしてもタイムラグ……『再生された箇所が正しく機能するまでには、少しの時間がかかる』。馴染むまでの時間、とも言い換えられますね。この魔道具は『怪我をした箇所から瞬時に再生・機能させる』んです。ですから、たとえ短剣を胸に突き立てられたとしても、引き抜かれる過程で治ってしまう」

「な……」


 あまりな効果に、グレンが驚愕の声を上げる。……当然かな。この世界の治癒魔法って、怪我をしてからかけるって感じだもの。

 それでも術者の魔力で欠けた部分を補った状態になるから、即死に近い状態では間に合わないこともある。軽い怪我ならともかく、臓器などは機能が即回復するわけじゃないから。微妙に万能じゃないんだよね。


「私の治癒魔法はこの世界の治癒魔法とは違います。だから、この世界の治癒魔法と組み合わせて行なうことにより、ほぼ万能と言ってもいいものにすることができた。体を粉々にされるとか、再生のための魔力が足りないという状態でない限り、生還できますよ」

「そりゃ、凄い。……だが、それを黙秘する理由は何だ?」

「『体力や魔力が尽きるまで死なない戦力』といったものを作らせないためですよ。傍から見れば、そんな存在は化け物です。これはあくまでも『命を繋ぐもの』であって、『戦闘に活かすもの』ではないんですから」


 この世界の治癒魔法の欠点をなくした状態だが、用途はそれだけではない。というか、私やゴードン先生が危惧する事態を防ぐために、この世界の治癒魔法には欠点が備えられている気がする。


「異常な回復、とでも言えばいいでしょうか。効果は保証しますよ。ですが……これは後世に残す気はありません。この魔道具を所持するのは魔王様、ルドルフ、ウィル様の三人だけです」

「待て、魔導師殿すら持たないと?」

「私がこんなものを持っていたら、宣伝効果抜群ですもの。似たような術を開発する魔術師が出てくるかもしれないですし。あくまでも、『異世界人関連で狙われる可能性があり、失えない人達』限定です」

「なるほどなぁ……」


 納得はしてくれたようだが、ウィル様の表情は苦々しい。聡い人だからこそ、下手をすれば宜しくない方向に解釈する者が出ると判っているのだろう。

 今でこそ大陸は落ち着いているが、ほんの十数年前までは何時、何処で戦が起きても不思議ではなかった。その頃を知っている者達からすれば、『戦になった時の保険(意訳)』はいくらあっても困らない。寧ろ、欲しいと思うに違いない。


「これは私とゴードン医師の合作です。だから私の死と同時に、この術は失われます。私が使う治癒魔法と同じものが開発されても、ゴードン医師は口を噤みますよ。それが私達なりの責任の取り方です。私達は『生かしたい』のであって、災いの種を残したいわけじゃない」

「……本当に、俺達だけなんだな」


 呟く声音には苦いものが含まれていた。ウィル様としては、私やグレンさえも持たないことを案じているのだと思う。

 だが、それは駄目だ。王族は滅多に前に出てこないが、私やグレンはほぼ現場に居ると言ってもいい。つまり、『人目につく機会が多い』。

 そんな私達がこの魔道具を所持していれば、いつかは必ず誰かの目にその効果が晒される。そうなってしまえば、黙秘することは不可能だ。人の口に戸は立てられないのだから。


「だから、グレンも納得して。あ、そうそう。何かあっても『魔導師が元の世界の知識を元に作った』ってことにしておいてね。これなら、私の方に説明を求められても誤魔化せる。……っていうか、説明しても理解できないと思う」

「ああ、まず理解すること自体が無理だろうな。判った、儂は納得しよう」

「ウィル様もお願いしますね。これを悪用したりしない人と思っているからこそ、渡すんです。……魔導師の信頼を裏切るような真似はしないでしょう?」


 微笑んで、ウィル様へと返事を迫る。『今後も魔導師と付き合っていきたいなら、余計な真似しないでね☆』という脅迫じみたことを口にしている自覚はあるけれど、それでも確約が欲しいのだ。

 やがてウィル様は深く溜息を吐くと、表情を和らげて頷いた。


「判った、俺も魔導師殿達の意思を尊重しよう。俺自身も悪用する気はないが、魔導師殿から嫌われる方が国としての損失になるだろう。必要ならば、一筆書くぞ」

「理解してくださって、ありがとうございます」


 にこりと笑えば、ウィル様も呆れたように微笑んだ。


「まったく、異世界人てのはどうしようもないよな。自分勝手な忠誠心のままに生きて、俺達に与えるばかりとは」

「自己中なので。そもそも、私は日頃から何不自由なく暮らせてますから、十分かと」

「同じく。人に合わせるような生き方をしていれば、利用される未来しかないでしょう。それこそ、お断りです」

「お前らなぁ……」


 軽く睨むような素振りを見せるも、ウィル様の表情は穏やかだった。謝罪も、感謝も不要と判っているからこそ、『言うことを聞かない問題児』として扱い、いつものような雰囲気にしてくれたのだろう。


「さて、そろそろ儂らは行こうか。どのような用件かは判らんが、あまり待たせるわけにもいくまい」

「そだね、行こう」


 言いながら、席を立つ。ウィル様はひらひらと手を振りながら、見送ってくれた。


「またな、魔導師殿。グレン、何か面白い情報があったら、後で聞かせてくれ」

「陛下はきちんとお仕事をなさってくださいね」

「ええ……」


 ……優秀な右腕から、しっかりと釘は刺されていたけれど。これがいつもの二人の距離感なのだろう。中々に遠慮がないというか、グレンは鬼補佐官な模様。

 さて、ライナス殿下に会いに行こうか。一体、どんな用事でグレンを訪ねたんだろうね?

『見返りを求めない』と言えば聞こえはいいですが、

実際には自分勝手な好意を見せているだけ。

主人公とグレンは特にその傾向が強く、恩返ししています。

悪意を向けられれば当然のように祟る、異世界産猫達です。

※『魔導師番外編置き場』ができております。IFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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