婚約者=異世界人の御守役?
二ヶ月ぶりぐらいに帰ってきました、イルフェナ!
先生や騎士sに無事に帰って来た事を喜ばれつつ、ゼブレストでの行動にお説教されました。
ええ〜? 別にいいじゃん?
どうせ一族郎党処罰確定だったんだしさぁ!
※※※※※※※
「お帰り。君は予想以上の結果を出してくれた。ゼブレストでも説明があっただろうけど報酬は戸籍と旅券、それから私の後見だ」
「ありがとうございます」
戸籍の二重取得なんじゃ? とか思ったけど、異世界人にとって戸籍はその国に身柄を保証される証明という意味合いになるらしい。つまり国が保証人になるってこと。旅をする時に必須の旅券もこれで発行可能だそうな。
そのままだと不審人物ですからねー、異世界人って。
そんなことはどうでも良くて。
嬉しそうに魔王様は話しています。機嫌も良さげでやり過ぎとか咎める気はないみたい。
……。
え、それでいいの?
イルフェナの後見があることをいいことに散々やりたい放題でしたが。
いいの? マジで!?
てっきり説教から来ると思っていたので意外です。
やっぱり楽しめる事も評価に繋がってましたか、そうですか。
私の様子が判り易かったのか、魔王様は苦笑する。
「怒ったりしないよ? 君は十分役目を果たしたのだからね」
「やり過ぎとか怒られると思ったんですが」
「彼等は法によって罰せられるゴミだからね? 君が気にする必要はない」
えーと。
ゴミとか言いましたか、この人。
何か恨みがあるとでも言うんでしょうか? 王子様の発言にしては問題ありですがな。
そんな私を無視して魔王様の爆弾発言は続く。
「でね? アルとクラウスが君の婚約者になったから」
「ちょーっと待てい! 何故いきなり婚約者!? どこからそうなった!?」
「私の心の中で」
「横暴です!」
「でも見知らぬ相手よりマシじゃないかい?」
「……はい?」
え、何どういうこと?
「まずはこれを読んでもらいたい。異世界人がこの世界で暮らす上での決まりごとみたいなものかな」
ぴら、と一枚の紙を私の目の前に差し出す。
『異世界人のこの世界における位置付け』? 何これ?
差し出された紙を手にとってざっと目を通す。
ふーん、異世界人てやっぱり珍獣扱いかぁ。
「あの〜……」
「何だい?」
「何故に婚約?」
『この世界で利用されない為に二つ以上の国から複数の守護役を異世界人につけるよ。婚約者という立場になるから問題があったらさっさと婚約破棄してチェンジしちゃえ! 国が信用できなかったら他国へ逃げて新しく婚約をしちゃえば手が出せなくなるよ(意訳)』
簡単に言うと婚約の真相はこんな感じ。ある意味納得です、いきなり放り出された状態だから保護者が居ないと生きていくのは厳しいもの。
婚約とか言われたから驚いたけど、守護役っていう意味だったのね。
契約ではなく婚約にした意味もあったらしい。いや、婚約というものを利用して成り立っている、ということか。
でも、随分と異世界人優遇な措置だと思うのですが。
契約では駄目なのかね?
「婚約における『無条件の認識』を利用して定められたものだからだよ。これを唱えた魔導師は異世界人を利用しようとする輩を嫌悪していたみたいだからねぇ」
嫌悪と言われて妙に納得する。うん、確かに責任はこの世界の住人達が背負うことになるだろう。
ただ、そこまで異世界人を特別扱いをしなくても良いような気もするのだが。
だってこの守護役になると自分の結婚できなくないですかね?
アルさんとクラウスさんも中身はアレでも顔や家柄に群がる女性は多そうだ。本人達はそんな連中に好意を持たなさそうですが。
はっ!……私は盾か?
私の所為ってことにして逃げるつもりか?
魔王様って二人と幼馴染だっけ、それならば二人の逃げ道を確保するくらいやりかねん!
「えーと、保護者として先生が居るので将来有望な若者を犠牲にするのはどうかと思います」
「二人のことを気遣ってくれるのかい? 優しいね……で、本音は?」
「女性達の恨みを買いたくありません!」
「取り繕う気は無いんだね」
「ここで綺麗事を言って婚約者になった場合はハイエナもどきの女達と泥沼展開確実じゃないですか!」
ゼブレストは後宮っていう特殊な環境でしたからねー、日常でも陰湿デスマッチが展開されるってどうよ?
負けるつもりはありませんが『婚約者の為に健気に戦った』という脳内フィルター越しの評価をされて恋愛方面に話を持っていかれそうです。
そんなことになれば二人を狙う御嬢様方は更にヒートアップするだけでしょう。
なに、その無限ループ。平穏な生活は何処へ行った!?
「残念だけど手遅れだと思うよ?」
「は?」
「アルが君に求婚したのは誰でも知ってるから」
「権力行使して止めろや、飼い主」
「クラウスも君の事を絶賛していたからねぇ」
「それ技術に対して。女として評価したわけじゃないから!」
人が派遣されている間に何やってるんだ、二人とも……。
いや、でも変人ぶりを隠さないから誰だってどこを評価されたか気付くんじゃ?
本人達も変人だし、二人を狙う人達はそこは許せるんだろうか。
「変人はこの国では珍しくは無いよ? むしろ実力者の証明だね」
「心を読まないでくださいよ、魔王様……。評価された部分が判っているなら嫉妬されませんかね?」
「どのみち二人に執着されてることは事実だから無理だろうね。それに『我々に認められた実力者』という意味でも逆恨みはされるんじゃないかな」
がっくりと首を垂れる。
そういえば変人の産地でした、ここ。変人=天才な認識だと凡人からすれば羨む要素なのか。
ちょ、私も同類認定!? 類友ですか!?
頭を抱える私を綺麗に無視したまま、優しげな笑みを浮かべた魔王様の追撃は続く。
「守護役で妥協しておいた方がいいと思うよ? この話を断ったらアルに所構わず抱きつかれたり求婚されることになると思うから」
「張り倒して逃亡……」
「アルは喜ぶだけじゃないかな、それ」
「……」
その未来予想に物凄く納得した。うん、絶対にそうなるね。
「しかも惚れ込んでるから諦める選択なんて無いだろう。これはクラウスもなんだけどね。それに……いくら優しくても公爵家の人間だよ? 格下に譲るほどお人好しじゃないと思うけど」
「クラウスさんは!?」
「だからクラウスは認められてるんだって。ちなみにクラウスも公爵家の人間だよ? 私達は幼馴染だって言っただろう?」
クラウスさん……そんな家に生まれて何故職人に。
ああ、でも年齢だけじゃなく身分的な意味も含めて幼馴染として引き会わされたんだね。
納得です、将来的に支える存在になるよう親世代からの思惑があったわけですね。
単に類は友を呼んだのかと思ってました。誰も口出しできないからそのまま育って何処に出してもドン引きされる立派な変人に……
「何かな?」
「ナンデモアリマセン」
さすが魔王様、私の発想を読むくらい容易いのですね〜……ではなくて。
つまり他の候補は権力と『個人的な御願い』によって軒並み退けられているってことかい。
何て性質の悪い連中だ。そんなことに権力や実力を発揮するんじゃない!
諦めが悪いどころかロックオンされたら最後ですか。間違っても『見初める』とか『一目惚れ』なんて可愛らしい表現じゃねえぞ? 何その執着ぶりは。
二人のことは嫌いじゃないよ、嫌いじゃないけどね!?
「大丈夫だよ。君に何かあったら私だけじゃなく、あの二人が動くから」
「え、それって」
「愚か者はこの国に要らないよ」
「それは死亡フラグですか、それとも家の取り潰し……」
私の言葉に魔王様は一切答えず、天使の微笑を深めただけでした。
背中に冷たいものが流れたのは気の所為じゃないと思います。
魔王様と幹部二人を敵に回してこの国で生きていけ……るのかな?
「ゴミ掃除が終わるまでお茶をどうだい? 報告の義務もあるよね?」
魔王様、わざとらしく足止め工作しないでください。
報告って……ずっと面白がってこちらを見てたじゃん!? 手紙も遣り取りしたし!
いや、だから手首を掴んで引き摺らないで下さいよ!
誰か止め……侍女さん、「諦めてくださいませ」って笑顔で言わないで!
下らない事を画策してる皆様、貴方達に危険が迫っているようです。
つーか、あの二人がこの場に居ないことを不思議に思うべきでした。
命は一つしかないんです、逃ーげーてー!!
逆ハーレムは人を侍らせる事を喜ぶ人種じゃないと成り立たないよ、というお話。
(役目があったとしても)周囲の同性から反感買いまくることを覚悟しないと無理でしょう。
白騎士・黒騎士の家族の反応は次の話で。