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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
幕間

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402/704

年末年始 IN ゼブレスト 其の四

――ゼブレスト・夜会会場にて(ミヅキ視点)


「今年は様々なことがあったが、ゼブレストが大きく変わった年でもあった。これも俺を信じ、付いて来てくれた者がいてこそ。ささやかだが、労いの宴を楽しんでくれ」


 真面目な表情で挨拶をするルドルフは非常に凛々しく、普段、私とじゃれ合っている人と同一人物には見えない。貴族達もその違いが判るのか、いつになく神妙な顔で聞き入っている。


 やればできるじゃねーかよ、お前ら。普段から王様に敬意を示さんかい!


 普段からこの状態を維持できるようになればいいんじゃ? と宰相様に尋ねたところ、宰相様はどこか微妙な表情で首を横に振った。

 曰く、『非常に厳しい判断を下す姿こそ、あの状態のルドルフ様なんだ。だから、心当たりがある者ほど警戒し、畏怖する。疑心暗鬼になる状況を招きやすいんだ』とのこと。

 普段は割と気さくな王様……というか、素の状態でいることが多いので、この『粛清王モード』が余計に警戒されてしまうらしい。

 そこで『じゃあ、そいつらをスパッとやっちまえよ』と思うのは当然なんだけど、それは国にとって良いことではない。

『国とは、清濁双方があってこそ成り立つもの。様々な意見があり、時に対立、時に理解し合いながら、共に国を作り上げていく』というのが、好ましいんだとか。

 要は『イエスマンだけじゃ駄目だよ! 独裁になっちゃうし、視野が狭くなっちゃうよ!』ってことですな。

 本当に国を傾けそうな輩はすでに淘汰されているため、今残っているのは『処罰までは行かないけれど、反発しがちな連中』だそうな。


 しかし、私は言いたい……『そんな事情、知らねーよ』と!

 私のカエルを虐めておいて、ただで済むと思ってるのか?


 タマちゃん達はルドルフを守っているだけである。良くも、悪くも、あの子達は一途な面がある上、あの体だもの。出来ることが少ない以上、出来ることに対しては全力投球なのですよ。

 ――だから、本来ならばカエル達が警戒を示す人間達への対処をするのは、人間であるルドルフ達の役目だった。

 それを見越して、『魔導師のカエル』と紹介されていたはずだ。『あの魔導師に属する者だから、虐めるんじゃねーぞ?』という警告と共に。

 後宮破壊では私が目立っていたけれど、その騒動に関係していた貴族達を処罰したのはルドルフだ。それに加えて、私達は互いを親友と言って憚らない。

 普通は手を出せない……というか、以前と同じ態度は取らないだろう。身分差から言っても、普通はルドルフに失礼な態度は取れないはずだしね。


 ところが、王を見下すことに慣れたゼブレストの貴族達は予想以上に愚かだったわけでして。


 喉元過ぎれば何とやら……な如く、ルドルフへの態度が徐々に元に戻ってしまったそうだ。更には、良からぬことを画策する始末。

 タマちゃん達はそれを察知し、そういった輩を『敵』と認識したらしい。ある意味では間違っていないので、誰もカエル達を納得させられず、セイルを筆頭に一部の騎士達はカエル達を応援し始めたんだとか。

 セイル達からすれば、『処罰できるほどの明確な証拠がないから、動けなかった』という状況なので、カエル達の行動が嬉しかった模様。

 まさに、カエルの恩返し。『人間が処罰できないなら、自分達が狩ればいい』という、弱肉強食な自然界のルールに則った『当たり前の行動』なのですよ。最初にやらかしたのは、カエル達に攻撃された奴らの方。

 ……。


 タマちゃん達、何も悪くなくね?


 どう考えても、それに尽きる。お馬鹿さんは立場も、状況も理解できてない奴らの方でしょうが。

 それを馬鹿正直に言ってみたところ、ルドルフと宰相様に揃って遠い目をされ、『本当にな』と返された。どうやら、二人も本心では、カエルに攻撃される奴らの方が悪いと思っているらしい。

 ただ……未だ、そいつらが行動を起こしていない以上、どうしても『カエルが人を襲った』ということになってしまうんだと。


『どんな状況であろうと、証拠がない以上、個人的な感情を優先することはできないんだ。……それをやってしまったら、父上と同じだろう?』


 ルドルフの父親は立場や国よりも、個人の感情――自分より出来のいい息子が気に食わない、といったもの――を優先したクズだったはず。ルドルフは自分が被害を被ったからこそ、それを戒めとしているのだろう。

 それなのに、愚か者達は処罰を下さないルドルフの態度を『やはり、何もできない腑抜けだったか』と嘗めている。これはエリザから聞いたので、確実な情報だ。

 ……ここまで聞いて、私の目が据わったのは当然のこと。


『死ななきゃいいよね、死ななければ!』と、私は決意表明し。


 エリザはそんな私の態度を非常に喜び、協力を約束してくれ。


 セイルは『ご存分に』と、いい笑顔で頷き。


 宰相様は『程々にな』と溜息を吐き。


 ルドルフは『遊ぼうぜ、ミヅキ!』とはしゃいだ声を上げた。


 以上、悪戯のことを話した際の皆の態度である。今は『粛清王モード』で真面目にお話ししているが、内心では獲物達の出席状況を再確認しているに違いない。

 悪戯は獲物がいなければ成り立たない遊びなのだ……できるだけ普段通りの態度を見せ、誘い込むしかない。

 これが今回のルドルフの役割りだったりする。最重要とも言える役目であり、同時に罠。しかも、私がやらかすのを間近で拝めるベストポジション。

 この状況に、ルドルフが興奮しないはずはない。ただ、『粛清王モード』では、本当〜にそんな素振りを見せないので、事情を知らない人達は全く気付いていない模様。

 なお、主様(白い蛇)&タマちゃんも重要な役目を持って夜会に参加。今は私共々、こっそり隅の方に隠れているけどね。


「ミヅキ」


 挨拶を終えたルドルフが話しかけてくる。こういった場は、高位貴族達から王へと挨拶に赴くのが普通――顔を覚えてもらう意味もある、ご機嫌伺いですな――なので、挨拶終了と共に、速攻で私の所に来るのは駄目だろう……本来ならば。

 今回はご挨拶に来たところを捕獲、という予定なので、勿論、ルドルフはわざとであ〜る。


「お疲れ!」

「わざわざ来てもらって済まないな。……お前が我が国にしてくれたことは小さくない。感謝を示す意味で、呼ばせてもらった。気楽にして、楽しんでくれ」

「ええ、『楽しませて』もらうわ」


 二人揃って、にこやか・和やかに会話。私の姿にざわついている奴らの声なんざ、雑音さ。

 そんな私達の間に割り込むのは――


 くーぇっ!


 ちょこん、とルドルフの肩に居場所を決めたタマちゃんと。


『ご立派でしたよ、ルドルフ様』


 私の腕に体を絡ませ、顔のすぐ近くに頭を出した主様だ。その目は優しく細められ、先ほどからルドルフを見守っていた。


「今宵はそこが貴方の定位置か」

『ええ。魔導師様とご一緒させていただこうと思います』


 ゆらりと僅かに体を動かし、主様はルドルフの言葉を肯定する。ルドルフの視線が主様に固定されているのは、押さえ切れない主様への好奇心からだろう。

 判る。その気持ちが判るぞ、ルドルフ。というか、私はすでに堪能した。

 主様、ひんやり・すべすべのお体なのである。物珍しさもあって、思わず、その体を撫で回してしまったくらい。

 それでも全く怒らないどころか、微笑ましいものを見る目で見られたので、本当に優しい保護者なのだろう。……単に、アホの子に思われたのかもしれないが。

 穏やかそうな性格と表情(?)のせいもあり、恐ろしさよりも神々しい印象を受けるんだよねぇ……割と博愛主義っぽい感じだし。

 なお、尻尾の方が薄紫色をしていることが特徴なので、一目見れば『恵みの蛇』と呼ばれる種だと判るらしい。

 今回は『魔導師と一緒に居たら、使い魔扱いで気にされないんじゃね?』という自論の下、私と一緒に居てもらっている。

 タマちゃんのように『愛らしい』という印象はないけれど、宰相様に『お前よりも、蛇の方が賢く見えるぞ』と言われたほどなので、これまで向けられた視線も大半が魔物というより、『魔導師の使い魔』に向けたもの。

 こちらの思惑通りに、周囲は誘導されております。これだけでも、悪戯の半分は成功です……!


「周りの声を聞いたか? お前、『カエルに続き、恵みの蛇を使い魔にした』って言われてるぞ?」

「聞いた、聞いた! あはは、単純すぎるでしょ。チョロイわねー」

「だよなー! まあ、主殿が賢そうに見えるから、ただの蛇に思われないだけだと思うが」

「文句言われて、追い出そうとしないだけいいじゃない。私達の目的は『タマちゃん達を虐めた連中』だよ。興味本位でも、苦情でもいいから、あんたに嫌味の一つでも言ってくれなきゃ困るわ」

「そのうち、来るだろ。魔導師との繋ぎを得る機会なんて、そうそうないんだし」


 小声とはいえ、言いたい放題の私達。本日、黒い子猫と茶色い子犬は悪戯に夢中です。フォローその他を宰相様以下側近の皆様に任せ、狩りに勤しむ所存です。


 遊びたいお年頃なのです。子犬や子猫は悪戯するものさ。

 その無邪気さに、恐れ慄くがいい……!


『ふふ、お二人は本当に仲良しなのですね』


 なお、主様は微笑ましげに私達を眺めているだけなので、ストッパーには成りえない。

 心優しい常識人(蛇)だろうとも、一番可愛いのは我が子のように可愛がっているカエル達。そのカエル達を虐めた時点で、主様の博愛からは自動的に外れているのだった。


※※※※※※※※※


――一方その頃、イルフェナでは。


「……。これ、本当に慰労のための夜会なのかい? 気楽な場だから、是非ともミヅキを呼びたいってことだったけど」


 これまでの経験からか、ルドルフからの手紙を手にした魔王殿下が実に鋭い勘を発揮していた。さすが、『魔導師のストッパー』『最後の良心』と称される保護者。己が庇護する生き物の性格を熟知している模様。

 この時点で、日頃の苦労が知れるというもの。そもそも、見目麗しい王子様は普通、『親猫』なんて呼ばれない。

 ……が、そんなことはゼブレスト勢とて、予想している。というか、警戒されることが前提になっているあたり、『どれだけ親猫扱いが定着してるんだよ!』と突っ込まれるのは当然であった。

 なお、突っ込んだのは騎士sと呼ばれる双子である。彼らは第六感が冴えまくる性質のため、最初から巻き込まれ済みだったり。

 まあ、その巻き込み方が『アルジェント、クラウス、セイルリートの三人に囲まれ、騎士寮の裏でお話し』というものだったので、拒否権なんて最初からないだろう。

 権力と己が立場の使い方を熟知している三人を相手に立ち回るなんざ、彼らと同等の権力を持つか、ミヅキのように柵が全くない状態でなければ不可能だ。

 この時点で、下級貴族である双子の敗北は確定であった。彼らには家族がいるのだ……無駄な抵抗はするべきではない。


「ミヅキの功績を考えれば、呼ばずにはいられなかったのでは?」

「そうだぞ、エル。いくらミヅキだろうとも、ルドルフ様に迷惑をかけるような真似はしないさ」


 快くセイルの呼びかけに応じ、共犯者となった二人はしれっと主――エルシュオンへとそう返す。彼らはエルシュオンの配下ではあるが、同時に幼馴染でもあるので、今回は幼馴染としての立場を優先したということだろう。

 なお、この二人は『今回の主犯はそのルドルフであり、宰相であるアーヴィレンも納得済み』ということも知っている。

 エルシュオンはミヅキを主犯と決めつけているので、彼らはバレるまで黙っているつもりなのだろう。勿論、自発的にその誤解を解くつもりなどない。

 こんな奴らでも一応、ミヅキの婚約者達なのである。ただし、守護役という『お仕事』として。

 信頼関係が築かれていることは事実だが、遠慮のない関係ということもあり、ミヅキの扱いは割と酷い。女性というより、状況を覆す切り札的存在として認識されている。

 まあ、ミヅキも彼らに負けず劣らず酷い扱いをすることがあるので、文句は言わないのだろう。問題児集団……ではなく、互いの価値観に理解を示し、強固な信頼関係を築きまくっている(善意方向に意訳)のが、ミヅキとその守護役達なのだから。


 そこで『信頼ってそういう風に使うもの?』などと言ってはいけない。

 別方向に突き抜けた難あり物件を一纏めにした以上、まともさを期待する方が間違っている。


 顔も、地位も、能力さえも併せ持ちながら、一気にマイナス評価に叩き落とす難あり事故物件。それがミヅキの守護役達の実態であり、各国の極一部のみが知る真実であった。

 辛うじてまともなのが、女性であり、裏事情から守護役の一員になっているセレスティナ姫のみ。そのセレスティナ姫とて男装の麗人であり、ミヅキと仲が良いのだから、誰もストッパーになりはしない。

 結果として、後見人である魔王殿下がその良心を発揮せざるを得ないのであった。哀れなり、保護者。


「う〜ん……君達の言い分も判るんだけどね」

「宰相殿の提案だそうですよ? あの方がそのようなことを許すのでしょうか」

「それは……まあ、そうなんだけど」

「エルの懸念が事実ならば、宰相殿は速攻で叱るだろう。心配は要らないさ」

「……」


 いまいち納得できないながらも、ゼブレストの宰相の気性は知っている。ゆえに、エルシュオンは胸にもやもやとしたものを抱えながらも、頷くのであった。

 そんなエルシュオンを眺めながら、二人はひっそりと笑みを深める。

 かの宰相殿は確かに、そのような悪ふざけを許す性格などしていない。してはいないのだが……彼はミヅキに『おかん』と呼ばれるほど、保護者根性に溢れた人でもあって。

 ――己が庇護すべき者と認識した相手に対しては、割と甘い一面もあった。

 特に長年、苦労し続けてきたルドルフに対しては、その傾向が強い。異世界人として、様々な騒動に巻き込まれているミヅキに対しても同様。

 今のゼブレストになるために欠かせなかったという意味もあって、二人がもたらした利に報いてやりたいと思う気持ちが強かったりする。


 厳しくも、二人を案じる姿はまさに『おかん』。

 そんな姿は立派に親猫の同類なのだが、当事者達は気付かない。


 ゼブレストの惨状(予定)をよそに、イルフェナの夜は更けていった。主犯がルドルフと思わないあたり、エルシュオンも彼に対しては甘いのだろう。


『この件に関しては、エルシュオン殿下は一切悪くない』


 後に、ゼブレストの宰相はそう語った。……問題児達を正座させ、説教しながら。

黒猫&茶色い犬:『キャッキャ♪』

白い蛇:『仲良しで微笑ましいですね』

親猫:『……』(言い知れぬ不安に葛藤中)

多分、こんな感じです。親猫、問答無用に主人公を主犯認定。

※『魔導師番外編置き場』ができております。IFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も続編がスタートしました。

 現在、毎週水曜日更新となっております。宜しければ、お付き合いくださいね。

※活動報告に『平和的ダンジョン生活。』の2巻の詳細を載せました。

 https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6895ei/

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