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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
全ての始まり
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魔法使いになってみよう

 魔法――存在しない世界出身の私からすればある意味憧れです。

 幸い魔力はあるようなので(高い方だと言われましたよ! )早速チャレンジです!

 ところが……


「あれぇ……?」


 何も起こらない。別の世界から来た人間には無理なのか??


「ふむ……詠唱に問題はなかったようだが」


 首を傾げるゴードン先生。どうやら手順に間違いはない模様。

 ちなみに魔法の手順は


 魔力を集中する

    ↓

 魔法をイメージする

    ↓

 呪文を詠唱する

    ↓

 『力ある言葉』で発動


となってます。

 最初聞いた時に何て危険なんだと思ったのは当然だと思う。だってヤバくね?

 魔力持ちが本を読みながら口ずさんでも発動可能じゃないかと。

 ところが先生曰く『力ある言葉』さえ口にしなければ大丈夫なんだとか。

 あとイメージすることも重要だそうな。


「発動しても認識できないほど魔力は低くない筈だがね?」


 そうですねー、明らかな不発だと思います。

 魔力が高い方だと判っているわけですし。


 実はこの魔法というもの、生まれ持った魔力に威力が比例するらしい。

 なので魔力が低いとどんなに努力しても無理だとか。

 発動していないのではなく、はっきりとした効果が現れないんだって。

 まあ、魔力の宿った護符や魔石といったドーピングを施せばできるようにはなるみたい。


 が。


 その場合は制御がし難くなるという弊害がでるので注意が必要。

 魔力不足は何とか出来てもコントロールする才能がなければどうにもならないわけですか。

 つまり身の丈に合った魔法を使え、と。


「詠唱は合ってた筈なんですが……」


 改めて開いたままの魔導書を覗き込む。

 呪文は全てアンシェスと呼ばれる古代語で書かれているので詠唱も勿論その言語。

 教科書らしく上に共通語で読み方がふってあるので問題は発音か。


「えーと……『我が手に宿る力を糧とし一時の光を我が前に……』」

「何だと!?」


 あれ、先生が凄い顔でこちらを見た。訳して口にするのはまずかった?


「読めるのか?」

「はい、異世界人の特権であらゆる言語がわかるみたいです」


 これはお茶の時間に確認済み。チート能力万歳。今のところ全ての言語問題なしですよ!

 読むだけで書けないから覚えなきゃならんけど。

 先生との会話も普通にできているので自動翻訳されていると推測。

 私が話しているのは勿論日本語だけど、先生の言葉も日本語に聞こえてるからね。

 文字が違う以上は言葉も違うでしょうよ、絶対。


「今の言葉は光の初級魔法かね?」

「はい、そうですよ。『光の珠』ですね」


 先生は何やら考え込んでしまいました。

 あれー? これ、教科書にある内容だよね? 初心者用だよね?

 でもその認識は間違ってたっぽい。


「実はな……我々はその魔法を使うことは出来てもアンシェスは解読できておらん」

「は?」

「古代の魔導国家アンシェスで使われていた言語らしいことからアンシェスと呼ばれているのだが……それさえ正しいのか判っていない。人の歴史全ての始まりであると解釈し創世語と呼ばれることもある」

「でも読み方は伝わってますよね?」

「アンシェスと交流のあった国が滅びて後、その生き残りが各地に散らばり様々な国の祖となったと言われている。その頃なら解読できたのだろうな。滅びたとされる古代都市にもアンシェスからと思われる技術が残っていたそうだ」


 先生曰く、魔法だけでなく様々な方面にアンシェスの名残らしきものがあるのだと。

 それが今でも十分使えるなんて随分と高度な文明を持った国だったんだね。凄いな、アンシェス!

 ……凄過ぎて他国はろくに理解できなかったんじゃないのかと思ったけど言わない。

 私は空気を読む子ですとも、ええ。


「つまり自分達で作ったわけじゃないから理解できず、意味も解らないまま呪文としてそのまま伝わってきたと」

「必要なのは魔力と正しい発音だからな、言葉の意味までは理解できておらんのだよ」


 意外な事実判明です。おいおい、魔法世界がそんないい加減でいいのか!?

 自力で問題を解かず答えだけ写したから理解できていない、なんて学生の宿題じゃあるまいし。

 呆れながらも本を眺めるうち……ある可能性に思い至った。


(……ん? これはもしかして)


 とりあえず実験。『光の珠』なら明るいだけだから問題はないよね。

 では、早速。


 パチン!


「な……!?」


 指を鳴らすと同時に目の前に輝く球体が出現しました。成功!

 あ、お悩み中の先生に説明しなかったので驚いてる。

 驚かせてごめんなさい。とりあえず説明しますか。


「あのですね、呪文って魔力制御の文面が大半なんですよ。『光の珠』なら掌サイズくらいでしょうか」


 掌に魔力を集中させる。見えないけれどそこには魔力があるはず。


「憶測ですが呪文の詠唱は術者本人の何割の魔力を使う、という意味だと思います。最低ラインが設けられているので術者の魔力自体が低ければ不発に見える」


 意味の判らない呪文は魔力量の調整と制御の為。ならば必要なのは明確なイメージ。

 これなら私が魔法を使えなかった説明がつく。


 だって私は『魔法のない世界』の人間。

 魔法がないことが当たり前なんです。無意識の拒絶と言ったらいいだろうか。

 本来の世界で『出来ないこと』と知っているからこそ不発に終わった。

 この場合は『何が起きるか想像できなかったから』ということでしょう。

 ……だから今私が成功させた『光の珠』も私の勝手な想像の産物なんだけど。

 指を鳴らしたのは単に切っ掛けというか合図。意味なし。


「そして『力ある言葉』はどれも魔法そのものを表しています。だから『力ある言葉』を紡ぐことで魔力が具現化するのではないでしょうか」


 魔法とはどれも術者の魔力から成る物。光でも炎でも魔力が具現化したものだということです。

 ならば明確なイメージさえあれば魔力量の調整も『力ある言葉』も必要なし。

 起こる現象を最も強くイメージする切っ掛けが『力ある言葉』。

 力ある言葉で魔法が発動する、と認識しているのだから。


「なるほどな。あらゆる言語を理解し魔法の原理を追及できる君ならではの発想だ! だが……」


 そう言うと先生は難しい顔をして己の手を見つめた。


「おそらくこの世界の人間には不可能だろう。私も納得は出来てもその方法で魔法は使えん。魔力を暴走させるのがオチだろうな」

「難しいですかね?」

「呪文に頼りきったこの世界の魔術師達は自分で制御することをしない。迂闊にこの方法を広めればとんでもないことになると思った方がいい」

「試したり自分で魔法を組み立てる人はいなかったんですか?」

「魔法を自分で組み立てる連中は魔導師と呼ばれる。彼等は自分の道を追及するばかりで地位や名声に興味を示さんからなぁ」


 どうやら自分で魔法を組み立てられる人はとってもマイペースなようです。

 一種の研究職なのでそれは元の世界にも通じるものがありますな。


「それに今まで学んできた知識がある限りそう簡単に認識が覆ることはあるまい。君も魔法が使えなかっただろう?」

「確かに……」

「思い込みと言われればそれまでだが、ある意味自己防衛本能なのかもしれん。君は魔導師になるしかなさそうだがね」


 魔術師すっとばしていきなり上級職の魔導師になったようです。

 レベルが足りてないのにジョブチェンジしていいのか、私。

 でもさっきの解釈で魔法が使えるなら私も色々とできるかもしれない。

 しっかりとイメージできていて魔力が足りてさえいれば思い通りの魔法が使えるって証明されたからね!

 基本的に魔力は『何かをする為の動力』と捉えた方が理解し易いかもしれん。


 自然治癒能力を爆発的に上げて治癒魔法、化学式からの分解・合成も多分できる。これを利用して炎や水の魔法を使えば魔力消費も少なくて済むんじゃないだろうか。

 ……威力を間違えたら死にそうだけど。練習練習。


 おお、何やら一気に魔導師っぽくなってきました!

 大半が私しか使えないオリジナル魔法になりそうだけど、これなら十分生きていけそうです……!

 雑学と理系だったことが魔法世界で役に立つとは思わなかった。意外です。


「君は異世界人というだけでなく魔術の面でも異端だ。できるだけ周囲に溶け込むよう努力なさい」


 はしゃぐ私を微笑ましそうに見ていた先生がふと表情を引き締めて忠告してくれました。

 暗に『妙なこと仕出かすんじゃねえぞ』と言っているように聞こえるのは気のせいでしょうかねー?

 まあ、ある意味私は珍獣。野放しは危険。魔法世界も色々と制約があるのかもしれないし。

 今度詳しく聞いておこう。先生なら答えてくれる。


「当面は私のところで一般常識を学びなさい。何かあったら遠慮なく聞くといい」


 ありがとうございますっ!!

 私の脳内で保護者認定されましたよ、先生。

 御世話になります。


「まだ十代だろう。私を親がわりに頼ってくれると嬉しいね」


 深々と下げた頭に降りかかる先生の御言葉は私にザクザク突き刺さる。

 ごめん、先生。私は二十代後半デス。

 童顔で十歳は若く見られてるから今更ですけどねっ……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 若く見られるにも、限度があると言うことかな。実際に若返っているわけでは、ないんだね。
[一言] その場での魔法陣や詠唱しか使えない場合頑丈でどんな攻撃喰らっても倒れない盾役が居ないとメッチャ弱くね?
2021/04/27 20:44 退会済み
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