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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
変わりゆく世界編

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始まりの場所で決着を

――アルベルダ・謁見の間にて(ウィルフレッド視点)


 絵本の営業に来た奴ら――アロガンシア公爵夫妻とリーリエ嬢、そして我が国の騎士であるリュゼ――は一様に、蒼褪めていた。

 ……。

 いや、蒼褪めているだけじゃないか。

 俺の気のせいでなければ……随分とやつれている。ここ数日の間に何があったのか、実に気になるところだ。


「随分とお疲れのようだ。転移法陣を駆使しての強行軍と聞いていたが」


 そう、それは事実だった。王家が管理しているような転移法陣を使えば、すぐに目的の国へと行くことができるだろう。

 そういった転移法陣は概ね、王城にも近い。最低限の日数で営業はこなせたはずだ。ただし……これは商人どころか、騎士でさえも滅多にやらないような強行軍となるだろうが。

 ぶっちゃけ、奴らの負担や疲労を欠片も考慮していない。死ぬほどの疲労にはならずとも、騎士であるリュゼ以外はそんな状況になったことなどないはず。

 それを判っていながら、敢えてこの方法を取らせるあたり、キヴェラ王の静かなる怒りが透けて見えるようだった。

 言うまでもなく、これらはキヴェラ王の采配である。当たり前だが、この措置は営業に赴く奴らの負担――馬車などで回った場合、移動時間だけでかなりのものになるだろう――を思い遣ったわけではない。

 思い出すのは、この営業活動が通達された時。その時のことを思い出し、俺は少々、遠い目になった。


※※※※※※※※※


『奴らの都合で、各国の王達に時間を取らせるわけにもいくまい』


 以上、この方法を提示した際の、キヴェラ王のお言葉だ。営業される側に対し、非常に気を使ったと言えるだろう。

 ……が。

 この時、キヴェラ王が大変いい笑顔だった(魔導師殿からの暴露)ことに加え、営業面子にブチ切れていたという前提もあって、そのままの意味だけで受け取った奴は皆無だったと思う。

 多くの者達はこう思っただろう――


『これ、営業する奴を精神的に追い込む意味もないか!?』と!


 精神的・体力的な疲労を回復させることなく、次の営業の場へ。外交に携わるものならば、それが本番――この場合、営業の場――に影響することを知っている。

 ただでさえ、自分達の今後に脅えているのだ……そこに肉体・精神双方の疲労が蓄積されれば、必要以上に重圧を感じたはず。倒れていても不思議はない。

 営業の日程が知らされた時、俺と側近達はその悪質さに恐れ慄いた。


 これ、魔導師殿発案じゃないのか? 本当に、キヴェラ王が考えた?

 って言うか、グレンが薄笑いを浮かべて邪悪な顔してるんだけどな!?


 そんなことを思っても仕方がないと思う。何せ、グレンを筆頭に、俺達は比較的魔導師殿と親しい。その結果、魔導師殿の『仕事』が、グレン経由で情報として流れて来る。

 それらは何と言うか……まあ、その、保護者たるエルシュオン殿下の苦労が窺えるようなものばかりなのだ。勿論、きっちり結果は出しているし、協力者も利を得ているのだが。


 はっきり言って、魔導師殿は性格が悪い。いや、どちらかと言えば『性質が悪い』と言った方が正しいか。

 

 確実に結果を出す手腕は凄いが、その遣り方が大問題。中には『聖職者を押し倒し、その状況を逆手に取って脅迫し、協力を要請した』などというものもあるくらい。

 グレン曰く『ミヅキは努力する外道です! 突き抜けた自己中だからこそ、あらゆる手段を躊躇いません!』とのことだが、ものには限度があると思う。

 国のために非道な選択をすることがある立場の者達が、揃って恐れ慄くなど……絶対に普通ではない。魔導師という言葉に誤魔化されがちだが、魔導師殿の場合は本人の性格が問題だろう。

 そんな状況を知っているゆえ、俺の中では『営業は魔導師殿の発案』説が濃厚になっていく。顔色の悪い側近達とて、似たような心境に違いない。


 黒猫の祟り、おっかねぇ……! 親猫はこのことを知ってるのか!?


 だが、俺達の声なき疑問が聞こえたかのように、グレンは全く違う解釈を口にしたのだ。


『クク……実にお優しいではありませんか。血の繋がった妹君と姪姫だからこそ、転移法陣を使って移動させるとは』

『い……いや、グレン? 移動時間は短縮されるかもしれないが、各国の王族相手に慣れない営業活動が続くってのは相当、酷だと思うぞ?』

『……』

『……』

『ふ……ははは! 面白いことを仰いますなぁ、陛下。これは【キヴェラ王ご自身が指示されたこと】ですぞ? 誰の目から見ても、慣れない長旅となることを案じたようにしか見えないでしょうが』


 そう言いつつも、にやりと笑うグレンは怖かった。その目は明らかに、彼らの状況を面白がっている。

 そんな姿に、俺は改めてグレンの苛烈な面を思い出した。日頃はともかく、やると決めたら容赦ないのはグレンも同じ。容姿は全く似ていないのに、こんなところは魔導師殿と被って見える。


 ああ、うちにも黒猫の弟分がいたっけな。あれか、魔導師殿とグレンの世界では、これが普通の対応なのか。


 ……何てことは、口が裂けても言えないけどな! あれこれ理由をつけて論破されるのが目に見えてるし、グレンの言っていることは間違っていないのだから。

 そう、『グレンの言ったことは間違っていない』。だからこそ、『該当人物達は不満を訴えることができず』、『周囲からは厚遇されているように見える』。

 実に性格が悪い遣り方というか、どこぞの魔導師殿が得意としそうな方法だ。その魔導師殿と亘り合えるキヴェラ王もまた、大概だったということか。

 キヴェラ王への理解が少しだけ深まった気がした。……少しだけ親近感が湧いたのは秘密だ。


※※※※※※※※※


「お……お気になさいませんよう」


 震える声で返された言葉に、我に返る。そして、今の状況を思い出した。

 目の前にはアルベルダへと絵本の営業に来た者達。少し前の出来事……特にグレンとの会話を思い出したせいか、つい、彼らを生温かい目で見てしまう。


 ――疲労してはいるが、仕事をこなさなければ未来がない。


 そう思っていることが読み取れる表情と声音に、『リーリエ嬢ならばその程度の判断ができると、キヴェラ王は推測したのか』などと思ってしまう。

 自分の置かれた状況を理解できぬほど、リーリエ嬢は愚かではない。だからこそ、この『営業』の成功に必死になる。

 そこまで計算されていたならば、これは正しく『罰』だろう。他国の目もある上、キヴェラ王が何も言わずとも……勝手に自身を追い詰めていくのだから。

 ちらりと、グレンへと視線を向ける。大はしゃぎしているだろう内心を押し隠し、敢えて厳しい表情を作っている弟分に呆れつつも、俺は茶番を始めることにした。


「そうか。営業は我が国で最後と聞いている。……キヴェラに戻り、ゆっくりと『休まれる』が良かろう」

「……っ、は、い。お気遣い、ありがとうございます」


『休む』という言葉に様々な意味を含ませれば、顔を強張らせながらも、感謝の言葉を口にするリーリエ嬢。

 リュゼは気付いているようだが、何の反応もない公爵夫妻は含ませた意味に全く気が付いていないのだろう。成程、これでは戦狂いの『遊び相手』には選ばれまい。


『休む』とは、『政に関わらない』ということであり、引き籠もるだろう今後を示唆した言葉であり、最悪の場合は『永遠の眠り(意訳)』という意味を持つ。


 何せ、今回のことはアルベルダが発端だ。意味が分かっていれば、『キヴェラ王より、今後のことを聞いているのではないか?』と思っても不思議はない。

 実際は何も聞いていないので、少々、からかっただけなのだが。……俺とて、多少は腹を立てているし、これくらいは許されるだろう。

 さて、本題に入ろうか。


「……ところで、リーリエ嬢。そして、リュゼ。そなた達二人は我が国において騒動を起こしておきながら、婚約を解消したな。それは何故、と聞いてもいいか」


 尋ねた途端、リーリエ嬢の顔から血の気が引いた。さすがに上手い言い訳が思いつかなかったらしい。

 だが、ここでリュゼが前に進み出た。顔色は悪く、顔を強張らせてはいるが、不思議と以前のような傲慢さ――俺に対する敵意めいたものが消えていた。


「それは私にも責任がございます。私から説明させていただいても宜しいでしょうか」

「ああ、構わん」

「ありがとうございます」


 頷けば、リュゼは感謝を述べ、跪く。


「まずは謝罪を述べさせてください。私どもの勝手で国を混乱させ、不快な思いをさせたこと、大変申しわけございませんでした。許されるとは思いませんが、この場にて謝罪させていただきます」

「ほう? 随分と謙虚になったな」


 以前の態度と比較し、意地悪く告げれば、リュゼは苦い笑みを浮かべる。


「自分の愚かさを自覚したからです。上を目指すことばかりに躍起になって、その先を全く考えていなかった……自分の望みさえも理解していなかった。だからこそ、婚約の解消にも大して思うことがないのでしょう。中途半端だったのです、全てにおいて」

「……」


 予想外の言葉に、俺は僅かに目を眇めた。だが、同時に『リュゼは嘘を言っていない』とも理解できてしまう。

 リュゼが生まれた頃、アルベルダは荒れていた。その最たる理由が俺が王位に就いたこと。

 言い方は悪いが、王位継承において番狂わせが起きたのだ。当然、次代を見越して派閥を形成していた家は混乱した。

 リュゼの家もその一つだったはず。その結果、子供達に対する教育方針も『上を目指せ』というものになったのだろう。

 親として、子の将来を案じたばかりではない。家の存続という意味でも、『簡単に潰されないだけの力を手に入れる』ということは重要だったのだ。


 ある意味、リュゼの将来を歪めた原因は俺にある。

 俺が……俺達が『国』と『民』を選んだからこそ、その煽りを受けた者達がいた。


 リュゼの目標が明確でないのも、それが一因だろう。『有力な派閥に属していようと、確実な未来などない』と、彼の両親は知っているのだから。

 そこに、そんな未来を招いた俺への反発が加わって、ああなったのだろう。

 リュゼの考えが変わったのは、『リーリエ嬢と彼女に伴う様々な物が、予想外だったこと』、そして『他国のことを知ったから』。

 この営業では遠慮なく痛いところを突かれ、騎士としての矛盾を指摘され、他国の歴史に触れたはず。そこで彼らは知ったはずだ……『結果を出した者には、強い信念があった』と。

 魔導師殿、エルシュオン殿下、キヴェラ王、バラクシンの者達、ティルシア姫……この時代には己が信念を貫くために足掻いた者が多い。彼らは一度や二度の挫折では、挫けまい。

 たやすく手に入るものは脆い。ゆえに、彼らはそんなもので満足しなかった。真の意味で強者となるには、苦難の道を制するだけの覚悟と明確な目標が必要なのだ。

 魔導師殿やグレンが強いのも、これが原因だろう。自由に生きたかったら、自分を取り巻く柵を捻じ伏せなければならないのだから。

 俺やエルシュオン殿下が保護者として手を差し伸べようとも、それはあくまでも助力に過ぎない。本人が結果を出さない限り、決して認められることはないのだ。

 そんな在り方に触れれば……自分と比べたならば。何が悪かったかに気付くこともできよう。


「そうか、お前は自覚できたか」

「はい。今後、望める未来は限られたものになるでしょうが、今度こそ、自分が何をしたいか見極めたいと思います」


 しっかりと頷くリュゼに頷き返す。これならば、大丈夫だろう。


「リュゼ。俺は決まっていた婚約の解消と、リーリエ嬢との婚姻を許すと言った。ゆえに、お前に対して何らかの罰を与える気はない」

「え……?」


 そう告げれば、リュゼは呆けたような表情になる。ぎょっとするのはリーリエ嬢だ。リュゼの婚約者としてアルベルダに来た方がマシだったのでは……とでも考えているのだろう。

 だが、それも今更だ。リュゼの処罰に巻き込まれることを恐れ、婚約を解消したのはリーリエ嬢の方なのだから。


「勘違いするなよ? それは『今後を自分で考えなければならない』ということだ。……ああ、リーリエ嬢もキヴェラで同じ状態になるのだったな。キヴェラ王は、『此度のことでは処罰しない』と言ったそうじゃないか。貴女も両親共々、努力されよ」

「は、はい」


 ちらりと視線を向け、リーリエ嬢達に釘を刺す。アルベルダは何もしないと知り、どこか安堵を滲ませる素直な反応に内心、笑いが込み上げる。


 安心するのはまだ早い。彼らは間違いなく、リュゼと同じ状況にはならないだろう。


 リュゼの場合、処罰の対象は今回の一件のみ。『上を目指す』という野心があったせいか、職務態度も問題なかったので、友人や同僚達からの嘆願も来ているのだ。

 対して、リーリエ嬢は以前から色々とやっていたようだしなぁ……まあ、向けられる目が厳しいどころか、味方なんていないだろう。キヴェラ王の怒りが知れ渡っている以上、救い手は現れまい。


『陛下。リュゼの処遇を言い渡す際、リーリエ嬢達にもお言葉をかけてやってください』


 彼らと会う直前、グレンから言われていた言葉が脳裏を過った。何を言ってるんだと思っていたが、リーリエ嬢達の反応を見る限り、これは営業を終えた後を見越した布石だったのだろう。

 リュゼと同じ状況のように思わせておいて、明確な差は告げぬまま。絶望の前の、ほんの僅かな希望……それを与えろとは!

 ――だが、気分が良いのも事実だった。

 恐れ慄きつつも、俺も心のどこかでグレンに同調している。それだけで終わるはずはないと判っていながら、ついついグレンの言葉に乗ってしまうのだから。

 だが、久々に見たグレンの一面に、複雑な心境になるのも事実だった。

 ……。

 グレンは相当、頭にきていたんだろうな。徹底的に絶望させるために一手間かけるとか……これ、完全に魔導師殿の教育だろ!?

 内心、冷や汗をかきながら、こっそりとグレンを窺う。グレンは……僅かに口角を上げていた。その目は『今は安堵してろ、馬鹿が!』とでも言うように、僅かに眇められている。


 どうしよう、俺の弟分が怖過ぎる。いや、頼もしいんだけど!

 魔導師殿と再会してから益々、魔導師殿寄りの思考になってないか?


「あ……ありがとうございます!」

「この場で、王たる俺の前で、お前自身が口にした言葉は重い。……頑張れよ」

「はい!」


 僅かに涙を滲ませながら礼を述べるリュゼに頷きつつ、心の底から激励を送る。今後、どのような試練が待ち受けているか判っていない『後輩』に、ついつい同情してしまう。

 世間的には、リュゼは救済されたように見える。周囲に多少はいびられるだろうが、未来がないよりはマシだろう。


 ……が、本当にそうだろうか?


 リュゼ自身がこの場で決意表明した以上、彼は絶対に逃げられまい。グレンはそんなことを許すほど、甘くはないからだ。

 というか、この場で言質を取った以上、正義はグレンにある。すでに『枷』は嵌められているんだよ、リュゼ。

 グレンの真面目さ(意訳)の被害者……いやいや、経験者として言わせてもらうなら、今後リュゼは『自分が望んだ未来への道』を歩まされるに違いない。

 脱落? 余所見? そんなものを、グレンが許すはずはないじゃないか!

 文句を言おうにもリュゼ自身に前科がある上、グレン自身が仕事一筋とも言える道を歩んでいるため、意地悪どころか、面倒を見ているようにしか見えないのだ。文句を言えば、逆に非難されるだろう。

 たやすく予想がつく未来に、俺は本気で感謝しているらしいリュゼへと生温かい目を向ける。


 死に物狂いで頑張れよ? 今後は鬼教官から、ビシバシ指導がいくからな?

自分にも人にも厳しい弟分を知るからこそ、達観しているウィルフレッド。

ある意味救済ですが、逃げ道もないという……。

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