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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
変わりゆく世界編

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各地からの営業の感想 其の二

 報告を聞く限り、リーリエ嬢達はきちんと各国に営業に行っている模様。

 と、いうか。

 営業はキヴェラ王直々に与えられた『お仕事』なので、逆らえる状況にないとも言う。

 ……。


 後がないって、大変ね……! ざ・ま・あ!


 お気の毒ですね、辛いですよね、私とグレンは大爆笑してるけど。

 ええ、同情なんてしませんよ? するはずないよね、全ては彼女達の自業自得なのだから。

 そもそも、今回は加害者・被害者共に『過去の行ないが、自分にとって助けにも、攻撃にもなる』という状況。


『被害者代表:ローザさん(と言うか、アルベルダ勢)の場合』

・下心なくクリスタ様とお友達だったため、『リーリエ嬢という、【共通の敵】の出現』に、王家が味方へ。

・ウィル様やアルベルダに対する、リーリエ嬢の所業にキレたグレンが、ローザさん救済の建前でイルフェナを巻き込み、更に魔導師を召喚。

・イルフェナの商人を軽んじられた魔王様が激怒し、私にお仕事を依頼。

・被害を被った商人が、日頃からお世話になっている商人の小父さんの兄上様と聞き、私はやる気を出す。

・グレンは魔導師を使い、キヴェラ王の真意を確認。魔導師主導の下、共闘体制を確立。


 ローザさん単体だと報復どころか、自分を含めた家の今後さえも暗雲が立ち込めるだろう。

 その未来をぶち壊したのが、クリスタ様との友情。そこから、わらしべ長者の如く縁が続き、他国を巻き込み、魔導師が出てくるまでになった。

 対して、リーリエ嬢の場合。


『加害者代表:リーリエ嬢の場合』

・以前から身分や血筋をひけらかし、多くの人々の恨みを買っていたため、味方ゼロ。

・キヴェラ王含む、キヴェラ王家を激怒させていた……が、リーリエ嬢は『第二王子の最大の後ろ盾である以上、処罰できない』と思っていたため、諫められても反省なし。

・自国の恥を隠そうとするのが一般的な在り方だが、以前から繋がりのあった魔導師が動いていること、そしてキヴェラ王も我慢の限界を超えたため、制裁方向へ。


 リーリエ嬢の場合、キヴェラ王の妹である公爵夫人によって、歪んだ選民意識っぽいものを植え付けられた可能性もある。そこから更に甘やかされたため、ああなったという見方もあった。

 ……が、当のリーリエ嬢はそういった状況すらも利用する性悪女。これが決定打となり、彼女への同情は皆無になったと思っている。


 善良な者には、巡り巡って、とてつもなく大きな幸運が。


 悪意をもって人を虐げてきた者には、自業自得の結末が。


 まさに、リアル御伽噺の世界ですよ……! 絵本としても、教訓としても、十分納得してもらえる展開です。

 是非とも、このまま『お強請り姫シリーズ』として、人々の教訓と商人達の懐を潤す商品になってもらいたいものだ。

 なお、サイラス君からの情報提供――当事者の一人として、お友達のサイラス君が『個人的に』お手紙で教えてくれた。ええ、個人的なことですよ――によると、リーリエ嬢達は夜会以降、とても大人しくなったらしい。


『陛下に【これまでの行ないが、許されたわけじゃない】と突き付けられましたからね。リーリエ嬢は多少は頭が回りますから、今後、おかしなことをすれば速攻で処罰……と判っているんでしょう』

『あの女、自分がやっていることの自覚がありましたからね。それが彼女に優越感をもたらしていたんですが、逆に言えば、派手に遣り過ぎたから、処罰から逃げられないんですよ』

『今回とて、陛下には【営業先で何を言われようとも、反論するな。商品を売り込むとは、時に自分を抑えることでもある。……どこぞの商人達に理不尽なことをした以上、お前達がどんな目に遭っても、文句は言えん。売り込んで来い】と言われています』

『陛下としては【少しでも、商人の苦労を知れ】っていう意味合いがあるようです』

『……そんなわけなので』

『文句を言われようが、言葉でいびり倒されようが、営業先の国や人に対してのお咎めは【絶対に!】ありません。ああ、これ拡散してくださいね。アンタの【お友達】は色んな所にいるでしょうし』


 以上、サイラス君からの暴露……じゃなかった、お手紙より抜粋。意訳すると『遠慮は要らん、やっちまえ!』だと思う。リーリエ嬢達は冗談抜きに、味方がいない状況らしい。

 お馬鹿さんなら、『営業を機に、別の国に繋がりを……』とか考えるかもしれないが、自己保身一択のリーリエ嬢は絶対にやらないだろう。


 だって、それは罠だもん。


『営業だけをやって来い!』と言われている以上、勝手なことはできないのですよ。寧ろ、それが当たり前なので、わざわざ忠告もされていないだろう。

『自分のお家に帰るまでが遠足です』という言葉の通り、『営業終了の報告をするまでがお仕事』です!

 余計なことをした時点で、お仕事失敗が確定&営業先から報告という名のチクリ実行。これを罠と言わず、何と言う?

 勿論、サイラス君のお手紙の内容も『お友達』には通達済み。外交問題になる心配はないぞ、心行くまで遊ぶがいい。

 と、いうわけで! 各国からの報告を簡単に紹介。



『カルロッサの場合』(報告者:宰相補佐様)

「営業の内容としては、当たり障りのない言葉を選んでいるわね。状況的には仕方がないのでしょうけど、売り込む側としては失格よ! 売り込む気がないのかしら?」

「私が夜会に居たせいもあるけど、どうも薔薇の装飾品……いえ、魔道具だったわね。魔道具がアンタの手に成った品であり、薔薇姫の味方の証と思っているせいか、出来る限り触れたくない内容みたい」

「父上も魔道具自体には興味があったから、色々と聞きたかったはずなのだけど……すぐに『聞くだけ無駄』と悟って、興味を失くしていたわね」

「だって、彼女達は営業に来たのでしょう? いくら魔術師でなくとも、客の質問に答えられる用意くらいはすべきだと思わない?」

「絵本の内容は知ってるし、私が夜会の時に得た情報もあるから、彼女達から得られる情報に期待はしていなかったのだけど……ちょっと酷いわね。彼女達に指南してくれるような商人とか、いなかったのかしらね?」

「そうそう、ジークも営業の場に居たんだけどね。あの子ったら、『他国にまで男漁りをしなければならないほど、自国に相手がいなかったのか』っていう、ズレた感想を述べていたわ。まあ、そう思うわよね……普通は婚約者がいるはずだもの」

「父上も退屈だったせいか、『婚姻相手としてはありえなくとも、飼い殺さなければいけない存在……という場合もありますからね』なんて言っちゃうし!」

「当たり前だけど、ジークに悪意なんて欠片もないわ。あの子、自分の兄弟や従弟達のことがあったから、『王家の血を引いていたら、婚約者がいるのが普通』って思い込んでいるのよ」

「まあ、リーリエ嬢達はそれを聞いて顔面蒼白だったわね。自分のことに当て嵌めでもしたんでしょうけど」

「カルロッサはこんな感じね。……ところで、絵本では『心優しい乙女達は、薔薇の花を身に着けた』ってあるけど、あれが薔薇を模した石が付いた装飾品のことなんでしょ?」

「どうして、私にも贈られてきたのか、聞いてもいいかしら? 小娘……」



『バラクシンの場合』(報告者:ヒルダん)

「僭越ながら、私、ヒルダが報告をさせていただきますわ。絵本の内容を拝見しましたが、我儘が過ぎる貴族令嬢達の抑止力としては十分と思います。最終的に薔薇姫様の幸せを願う内容ですから、民間に流れても問題ないでしょう」

「そうそう、営業についてでしたわね。営業に来た皆様は何故か、酷くお疲れのようでした。……いけませんわね、あのような覇気のないお顔をなされては」

「買い手に売り込みつつも、押し売りをしない。話術をもって購買意欲を持たせる……というのが、やり手の商人と聞いています。私も商人達から勧められた品を買うことがありますが、彼らは流行や相手の好む話題をよくご存知です」

「あの方達はキヴェラ王より、営業を命じられているのでしょう? 今のままですと、『営業する気がない』と受け取られてしまっても不思議はありません」

「ですから少々、お手伝いをさせていただきました」

「私が知っている商人の一面など、本当に些細なものですが……今のままよりマシになるはずです。事情を知らされている者の一人として、私は彼女達が見事、絵本の営業を遣り遂げることを願っているのです!」

「そうそう、これはレヴィンズ殿下も協力してくださいましたの。陛下や皆様には『ヒルダに躾けられて、心が折れなければいいが』などと言われてしまいましたが……何故でしょう?」

「数日とはいえ、『厳しく』指導させていただきました。他国へ赴く頃には多少、マシになっているかと思います。ご安心くださいね」



『コルベラの場合』(報告者:セシル)

「ミヅキに『遊ぼう!』と誘われて行った夜会。あれは楽しかったな。こっそりと侍女に混じっていたエマも『嫁いでも、たまにはこういった場に呼んでいただきたいですわ』と言っていたぞ。また、誘ってくれ」

「さて、営業に来た者達の報告だったな。夜会での印象が強過ぎたせいか、私の目には別人のように見えたんだ」

「……というか、これまでコルベラを見下してきたキヴェラの公爵令嬢と公爵夫妻が自ら、絵本の営業に来ると広まってな。その、結構な数の見物人がいたんだ。ギャラリーの多さに、照れていたのだろうか?」

「ああ、勿論、王妃様や側室の皆様方は全員参加されていたぞ? 皆様、ミヅキから贈られた薔薇の装飾品を身に着けていらしてな、非常にお気に召していらっしゃるようだった」

「そんな感じで、王妃様方は機嫌が宜しかったんだが……何故か、営業に来た彼女達は顔面蒼白になっていた。関連商品を王妃様方がお気に召すなど、営業に来た側としては誇らしいだろうに」

「勿論、王妃様方も絵本が作られた経緯は知っている。だが、わざわざそれを表に出すほど、愚かではない。薔薇の装飾品……魔道具も、ミヅキからの贈り物という認識が強いはずだ」

「リーリエ嬢達は、そうは思っていなかったのだろう。そう思ったら、つい不機嫌になってしまってな。我ながら厳しい目を向けてしまったと、反省している」

「私は装飾品などが苦手なんだが、私の分は薔薇の石を埋め込むようにしてあるせいか、どこかに引っ掛けてしまうこともない。侍女達には、私が装飾品を進んで身に着けていると驚かれたぞ」

「装飾品は『人を飾るもの』だと思っていたが、『実用性重視の暗器』と考えると、重要性が判るな。私はまだまだ勉強不足だ」

「また、そちらに遊びに行く。その時は、鍛錬に付き合ってくれ」



「とりあえず、三国からの報告ですね」

「……。ミヅキ、ちょっとこちらに来なさい」


 無言のまま報告書を読んでいた魔王様は、徐に私を手招きし。


「この馬鹿猫が!」

「痛!?」

「君ね……この報告書を読む限り、君達は遊んでいるだけだろう!?」


 いつもの如く、頭を叩いた。ちょ、脳細胞が死ぬ……!


「いいじゃないですか、楽しそうで。別に、リーリエ嬢達に暴力を振るったとか、暴言を言ったわけじゃないんですから」


 嘘ではない。勝手に、リーリエ嬢達がビビっているだけだ。

 だが、魔王様は怒りの籠もった笑顔のまま、報告書を指差した。


「まず、カルロッサ。……これ、営業の態度について呆れているけど、割と言いたい放題だよね? 特に、ジーク殿」

「ジークに悪意はありませんよ! 純白思考の脳筋なんです、思ったことを馬鹿正直に言っちゃう子なんです……!」


 宰相補佐様も書いているけど、マジでジークに悪意はない。さらっと口を滑らしただけである。


「宰相閣下もかなり遊ばれたようだけど……」

「暇だったんじゃないですか? 真面目に営業やってりゃ、色々と聞きたいことはあったでしょうけど……本人達に説明する気が皆無みたいですし。宰相補佐様からも『営業終了後、結果報告だけ宜しくね』と言われてるんで、宰相親子はそれが本音かと」

「……」


 呆れないでくださいよ、魔王様。あの人達、無駄な話とか、嫌いなタイプじゃないですか。

 ほれ、次行きましょう、次!


「……で。次はバラクシンなんだけど……」


 言いながらも、困った顔をする魔王様。あ……あはは、まあ、そうなりますね!


「ヒルダんは真面目なんですよ」

「ほう」

「彼女は『人に厳しく、自分にはそれ以上に厳しくしまくり!』がデフォルトなので、純粋に、リーリエ嬢達の営業態度に不安を抱いたんだと思います」

「で、こうなったと」

「純粋な好意からの、営業指導ですよ。……心が折れてるか、疲れ果ててるかもしれませんが」

「……」


 真面目人間、ヒルダちゃん。彼女はとても真面目で、気配りもでき、同時に妥協を許さない人である。

 素のまま、悪意ゼロのまま、リーリエ嬢達を泣かせたんじゃないのかねー?


「で、コルベラ、と。エマ嬢もいたのか……」

「セシルの護衛として、傍に居たみたいです。私も騎士sとかいたじゃないですか……。っていうか、魔王様? その投げやりな感じは一体」


 突っ込めば、魔王様は生温かい眼差しを向けてきた。


「君と仲がいい、セレスティナ姫の国じゃないか。彼女は非常に好意的な目で王妃様達を見ているようだけど、絶対に、彼女達は狙ってやっていると思うよ?」

「あはは、そうですねー……うん、私もそう思う」


 乾いた笑いをしながら、そっと視線を逸らす。賭けてもいいが、絶対に王妃様達は牽制のため、薔薇の装飾品を身に着けていたに違いない。

 何せ、コルベラは小国。色々と理不尽な目に遭ったり、苦難の時を乗り越えてきた国である。

 特に、キヴェラは最愛の愛娘を無理矢理婚姻させやがった憎き国。和解が成されようとも、それを表立って口にすることがなかろうとも、過去がなくなることはない。

 それなのに今回、実に丁度いいカモ……じゃない、八つ当たり対象が『怪我させなきゃ、何してもいいよ♪ 寧ろ、やれ』と言わんばかりの状況で、ドナドナされてきた。


 そりゃ、ささやかな復讐を考えちゃいますよね!

 地味にダメージが来る嫌味や態度で、お迎えしたくなっても仕方ないよね!


 セシルにとっては、母亡き後、自分を我が娘として可愛がってくれた母上達。セシルがそんな認識をしているなら、彼女達にとっても可愛い一人娘のはず。

 セシルよ、王妃様達は薔薇の装飾品のことだけを喜んでいたわけじゃない。『別の意味』でも、大いに喜んでいたんだよ。


「セレスティナ姫は鍛錬よりも、そういった方面を鍛えた方がいいんじゃないかな」


 遠い目で言わないでくださいよ、魔王様。

 っていうか、ガニアとサロヴァーラの報告も残っているんですから!

真面目に相手をする人もいれば、生温かく見守る人もいます。

営業は『様々な意味で』とりあえず成功している模様。

※アリアンローズ5周年企画が開催中です。詳細は公式HPをご確認ください。

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※11月より、『平和的ダンジョン生活。』の続編がスタートする予定です。

 正式に告知され次第、詳細を活動報告に載せますね。

 https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6895ei/

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