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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
変わりゆく世界編

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忠誠抱きし者の矜持 其の一

 私とルーカスの遣り取りを聞いていたリーリエ嬢、そして近衛騎士は暫し、無言だった。予想外のこと――ただし、ルーカスが言ったように、彼らは察しなければならなかったはず――を言われて、頭が追い付いていないらしい。

 ……が、私は自分のことで手一杯らしい彼らを、生温かく見つめていた。


 おーい……この場には『この一件を知らない人達も居た』(注:過去形)って忘れてない?


 ルーカスは単にウィル様の対応を解説し、彼らに自覚を促しただけではない。『この場に居る人々へと、アルベルダの一件を暴露した』のだから。

 勿論、詳しいことは判らないだろう。さすがに、あれで全てを察せるとは思えないし、明らかに情報が不足している。

 しかし! 最重要……というか、『これだけは理解しとけ!』という一点は、バッチリ理解できるようになっていた。


「ルーカス様もやりますね。『あの者達が、アルベルダ王に喧嘩を売った』と知らしめるとは」

「いやいや、聡い人は『それが原因で、キヴェラ王の怒りを買っている』と判るでしょ。これで、今後は味方が出ないよ。キヴェラ王は『この国の王』なんだし」

「なるほど。キヴェラ王への忠誠心があるならば、彼らを庇わない。庇うならば……」

「アロガンシア公爵家同様、何らかの思惑があって次代に……第二王子に擦り寄っている、もしくはその予定があるってことじゃない? まともな息子達はともかく、あの公爵夫人とリーリエ嬢はアウトだわ。だいたい、ここまで暴露してるのに庇う場合って、共倒れする可能性がある時だけじゃない」

「そうですよね。……少し、ルーカス様の評価を改めなければなりません」


 こそこそと会話を交わしながらも、ちらりとルーカスへと視線を向ける。セイルは予想以上の働きを見せるルーカスに対し、かなりの高評価を下しているようだ。ただ、それは今までの会話を聞いていたこちらの面子も同じだろう。

 単に『お前ら、アルベルダに喧嘩売っただろ!?』と責めるのではなく、私という『部外者』――立場は民間人なので、基本的に、政には関わらない――を会話の相手にすることによって、『他国に借りを作ることなく、場を制した』のだから。

 これ、明らかに他国の人間である他面子を使ってしまうと、ちょっと面倒なことになるからだよね?

 彼らが『主の命に従って、この場に居る』以上、報告の義務がある。そこで『常識知らずの令嬢達の断罪に、一役買いました』なんて報告してしまえば、『キヴェラに対する貸し』になってしまう。


 セイルではないが、これは『キヴェラのみが得をすること』。

 他国が何かをしてやる義理なんて、あるはずがない。


 それに引っ掛からない唯一の例外が、『多くの国に【個人的なお友達】がいる魔導師』である私。

 ルーカスを『ルーちゃん』呼びする時点で、十分に『ルーカスと魔導師はお友達』という認識がなされるだろう。『咎めても無駄』なんて言っていたけど、これらのことを見越して『ルーちゃん呼び』を許していた可能性は高い。

 この事実がある以上、他国は『魔導師がキヴェラに貸しを作った』なんて言えまい。ぶっちゃけ、他国でも似たようなことをやらかしているため、追及できないとも言う。

 ルーカスは私がやらかしたことの報告を受けているみたいなので、間違いなく、似たような事態があったことを知っていると推測。それに加え、リーリエ嬢の怒りを煽る意味でも、最良の人選をしたのだろう。


 抜け目ねぇな!? やるじゃねーか、ルーカス!

 側近の皆様が益々、己が所業を悔いてしまいそうだ……!


 私だけなら、都合よく使われても問題なし。こちらとしても、リーリエ嬢を煽れるだけ煽りたいし、ルーカス達に都合よく動いてもらったりしているからさ。お互い様です。共犯ですよ、きょ・う・は・ん。

 ただ……リーリエ嬢も、近衛騎士も、この程度で崩れてくれるほど甘くはないらしい。近衛騎士の方は後がないと判っていることが原因みたいだけど、リーリエ嬢は違う。彼女は絶対、まだ自分の方が強いと思っている。

 その絶対的な自信は、『第二王子が王太子になる可能性が高い』ということと、『自分の家が第二王子の生母の実家であり、最大の後ろ盾になるから』という二点。

 今は庇う人が出なくても、その二点をどうにかしない限り、この一件は有耶無耶にされてしまうだろう。


 ただし……今回のことに激怒しているキヴェラ王がいなければ。


 キヴェラ王は未だ、夜会会場に姿を見せていない。というか、ルーカス以外の王家一家は全員、この場に居ない。彼らは魔道具を介し、この騒動を別室で見ているのだ。当然、リーリエ嬢達の悪足掻きも絶賛、観・賞・中☆

 あの人達が怒らないはずないだろ、こんな光景を見て。裏があると知らなければ、速攻で奴らを退場させるに違いない。自国の恥というか、弱点を晒しているようなものだからね。

 そもそも、キヴェラの次代と目されている第二王子は、ルーカス以上に気が強い。成人前という幼さもあり、感情のままに、殺意さえ抱いてそうだ。

 ……。

 いや、弟王子達は兄上の勇姿にはしゃいでる可能性もあるか。もしくは、『何も見えません』とばかりに、お馬鹿さん一同を綺麗にシカトしているかもしれないね。どちらにせよ、リーリエ嬢達を助ける気がないことだけは確実だろう。

 そんなことを考えつつ、彼らを眺めていたら……何〜故〜か、リーリエ嬢のターゲットが護衛騎士へと移ったようだ。守護役は動かないと判断したのか、胸の前で手を組み、縋るような目を護衛騎士へと向けていた。


「サロヴァーラの騎士様とお見受けします。同じ騎士として……いえ、魔導師様に助けられた者として、どうか、魔導師様に口添えしていただけないでしょうか?」

「!?」


 唐突に表舞台に上げられ、護衛騎士はぎょっとしてリーリエ嬢を凝視した。……安定の不幸ぶりに、私が護衛騎士へと生温かい目を向けているのは秘密。

 なるほど。とりあえず、ウィル様のことを何とかしようと判断したか。この一件がある限り、キヴェラ王はアルベルダに対して、誠意を見せなければならないものね?

 リーリエ嬢、少しは頭が回るらしい。だが、甘い。この場での遣り取りを見られている以上、彼女のそれは悪手だ。反省していないようにしか思えん。

 現に、こちらの面子の纏う空気は物凄く冷たい。演出の都合上、あからさまな嫌悪こそ見せてはいないけれど、目は全く笑っていない。誰もが呆れと蔑みを含んだ視線を、リーリエ嬢へと向けている。

 護衛騎士へと意識が向いているせいか、リーリエ嬢はそんな微妙な空気に気付いていない模様。彼女は相変わらず、『健気なご令嬢による、感動の一幕』を続けていた。

 ……リーリエ嬢が必死になればなるほど、守護役達は冷たい目を向け、ライナス殿下や宰相補佐様に至っては、『白々しい』とばかりに、ジト目になっているのだが。

 空気を読めよ、リーリエ嬢。こういったことに、慣れてはいないのかもしれないけどさ。


「どうか、どうか。お願いします! 私達が愚かであったことは十分、理解致しました。謝罪も致します! ですが、私達のことにキヴェラの次代……王太子となられる方とそのご生母様を巻き込むわけには参りません!」



 あ、地雷踏んだ。



 思わず呟いた言葉は、セイル以外に聞こえなかったようだ。恐る恐る視線を巡らせると、我が守護役一同の皆様が揃って笑みを消していた。なまじ顔が整っているだけに、とてもホラーな光景です。

 ……などと言っている場合ではなく。


 ちょ、リーリエちゃん、お馬鹿! それ、一発アウトな発言だぞ!?


 お前、私の守護役達の大半が『騎士』だって、知ってるよね!? しかも、守護役に選ばれるような存在は、『揺らがぬ忠誠と高い能力を持った者』! あんた達とは真逆の存在!

 それ以前に、自己保身しかない彼女達と、真っ当な騎士を同列に扱う方が間違っている。護衛騎士にしろ、守護役にしろ、『揺らがぬ忠誠を持つ者』ですよ、忠誠心があるの!

 そうでなければ、私の傍に居るはずがない。『魔導師を個人的に利用することがない』という、信頼があるのですよ。だからこそ、過保護な魔王様が信頼しているのだから。

 そして当然、彼らは『自国の王族を、都合よく利用する』なんてことはしないわけで。


 貴族にしろ、騎士にしろ、お前達と同列扱いはないだろー!?

 何で、お前達の処罰を有耶無耶にするために、『忠誠を抱く対象の王族』を『利用』しようとするのさー!?


 ちなみに、このホラーな現象はキヴェラ勢にも伝染中。予想された展開であったとしても、目の前でやられて無視できるはずもない。

 ヴァージル君はこれまで以上に厳しい視線をリーリエ嬢に向け、サイラス君に至っては、剣の柄に手を添えていた。サイラス君はキヴェラ王の忠犬なのだ……目の前で王族を利用しようとしやがった輩に対し、向ける感情は殺意のみ。

 サイラス君、元からリーリエ嬢のことを嫌っていたものね。でも、今は落ち着け。これもキヴェラ王の計画の内だ。ステイ! ステイだぞ、サイラス君!


「……。発言の許可をいただけますでしょうか、ルーカス様」

「あ、ああ、許す」

「ありがとうございます」


 感情を削ぎ落した顔で護衛騎士がルーカスに尋ねれば、ドン引きしたルーカスが引き攣った顔で応える。ルーカスも護衛騎士の豹変っぷりに、どう対応していいか判らないようだった。

 ……。

 そだな、真面目な人が怒ると怖いもんね。無表情というか、感情が読めない表情のまま、何を仕出かすか判らないもん。

 だが、怒りゆえの茶番を見守る方は、たまったものではない。それに加え、護衛騎士を含めた騎士一同の殺る気満々な様が殊更に、警戒心を抱かせている。


『何とかならんのか!?』

『無理』


 以上、視線のみで成された、私とルーカスの会話である。首を横に振った途端、こちらから一歩引いたことは許そうじゃないか。

 だって、私も怖いもん!(本音)

 アルでさえ、いつもの微笑みを消しているのだ。ま、まあ、これはリーリエ嬢が自国の王族を利用しようとしていることだけが原因ではなく、イルフェナの商人や魔王様のことをスルーしたせいもあると思うけど。

 ふふ……今だけは心が通じ合っている気がしてならないよ、ルーちゃん。私達、この場から逃げられないものね……!

 ルーカス共々、騎士達の豹変ぶりに恐れ慄いていると、護衛騎士は私の方を向いた。


「魔導師殿、少々、護衛の任務を外れても宜しいでしょうか」


 わざわざ、私にまで許可を取るとか、護衛騎士の真面目な性格は相変わらず。キレていても、自分の仕事を忘れない姿勢はさすがです。

 でも、主直々の命を受けている以上、これが普通なんだろう。彼はあくまでも私の護衛としてこの場に居るので、この場では最高位にあたるルーカス、そして護衛対象である私に許可を取ったのだ。

 そんな彼の誠意に対し、私は――


「……。おう、やっちゃえー!」


 更 に 煽 っ て み た 。


「ばっ……馬鹿者、お前、何を煽って……!」

「やはり、お気づきでしたか。……後押ししてくださること、感謝いたします」


 ルーカスが慌てているけど、綺麗にスルー。私は基本的に、騎士の味方にございます。

 あと、個人的にもリーリエ嬢の発言は許しがたい。私が手助けしてきた人達は皆、自分の過失を誤魔化すために助力を願ったのではない。自分が泥を被る覚悟をした上で、事態を好転させるため、魔導師を頼ったのだから。


「ありがとうございます」


 表情を和らげて感謝を述べると、護衛騎士はリーリエ嬢へと向き直る。リーリエ嬢が肩を跳ねさせたところをみると、彼がリーリエ嬢へと向けた視線は殺気に満ちてでもいたのか。


「サロヴァーラ国、エヴィエニス公爵家が四男、ヴァイスと申します。……先ほどの貴女の発言について、抗議いたします」

「……え?」


 意味が判らない、と首を傾げるリーリエ嬢。そんな彼女に対し、護衛騎士……ヴァイスは厳しい姿勢を崩さない。

 無知と言ってしまえば、それまでだと思う。事実、キヴェラは男性社会であり、女性貴族に騎士の在り方を理解しろとは言えまい。

 ――だが、今回は事情が異なる。

 リーリエ嬢は自分の事情に絡めて、サロヴァーラ王家、もっと言うならティルシアを侮辱したのだから。護衛として傍に居たヴァイスは私と会話する機会も多く、ティルシアがどれほどの覚悟を以て改革を試みたかを知っている。

 私はティルシアのことしか知らないが、ヴァイスは近衛として、サロヴァーラ王の苦労も見てきただろう。そんな彼にとって、リーリエ嬢の発言は許しがたいに違いない。


「貴女達がどのような目で見られようとも……処罰されようとも、自業自得ではありませんか。間違っても、私が忠誠を誓う方達と同じではありません! 魔導師殿とて、そのようなことに手を貸してくださる方ではない!」

「……っ」


 静まり返った夜会会場に、ヴァイスの抗議の声が響く。あくまでもサロヴァーラと私のことのみを口にしているが、実質、ヴァイスは厳しい目を向けている者達の代表のようなもの。

 正確に言うなら、現状は『魔導師と組んだことがある国出身、かつ忠誠心を持つ者VSリーリエ嬢』。状況は違えど、ヴァイスの言葉は該当者達の総意だ。つーか、普通は怒る。

 どうやら、予想外の攻撃がリーリエ嬢に向いたようだ。さあ、リーリエ嬢? どこまで耐えることができるかな? 

無自覚に地雷を踏んだリーリエ嬢。

状況によっては『男性社会だから、無知でも仕方がない』となるでしょうが、

今回ばかりはそれで済まされません。

なお、『今は』ドン引きしている主人公ですが、基本的に彼らと同類。

そして、漸く護衛騎士の名が判明しました。正式な抗議なので、名乗っていたり。

※アリアンローズ公式HPにて、ドラマCDの視聴ができるようになりました。

 (http://arianrose.jp/otomobooks/)

 また、活動報告にTSUTAYAでの購入特典についてのお知らせもございます。

 TSUTAYAで購入したのに、特典を貰っていない方は、ご覧ください。

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