巻き込まれる人々 其の一
――あれから。
『偶然』、部屋にやって来たキヴェラ王の目の前で、ルーカス達と計画について話し合った。キヴェラ王はその場で聞いていただけなので、私達が勝手に雑談に興じていただけ、とも言う。
だって、キヴェラとイルフェナは共同事業を行なうだけですからね!
それも本という、娯楽方向の試みです。
『サイラス君を訪ねたついでに、キヴェラ王にそのお話をして、快諾してもらった』
今回はそれが全てなのです。暈した言い方をしているという自覚はあれど、嘘なんて吐いていませんとも……!
……。
いいんだよ、それで。正式にキヴェラを訪ねたわけじゃないんだから。そもそも、私の身分ではキヴェラ王を個人的に訪ねることなんてできん。
その際、キヴェラ王の勧めでルーカスの顔を見に行っただけだ。キヴェラというより、エレーナを挟んでの因縁の相手という印象が強いため、顔を合わせればそれなりに会話が弾む(?)のも不自然ではない。
ちょっとばかり、ルーカス相手に『あんたの従姉妹姫、どうなってるのよ?』と、最近アルベルダであったことをチクったけどな!
ついでに『色々と』愚痴ってしまったが、ルーカスどころか、同席していたヴァージル君達も私の憤りに同調してくれたので、『若者達がある特定の人物達に対して憤り、呆れただけ(意訳)』という一言で済ませてしまっても問題なし。
私は異世界人であり、この国における『部外者』。
ルーカスはキヴェラ敗北の原因となった『元王太子』。
どちらもキヴェラの政に口出しなんてできないし、その権利もない。それは誰もが知っていることであり、私達自身にもその自覚がある。
ルーカスに割り当てられている仕事とやらも、国の運営方針に関わるものではないだろう。今現在、彼の立場や未来といったものは、非常に不鮮明なのだから。
そう、『私どころか、ルーカスでさえも、おねだり姫達をどうこうする権利はない』のだよ。ただ……私達の不穏な会話を、キヴェラ王が聞いていただけなのだ。
それこそ、キヴェラ王の狙いだったのだろう。私とキヴェラ王が揃って元凶どもの追い落としの詳細を話し合うなんて、できないものね。
せいぜいが、『あいつらムカつく、ボコりたい』と言い合う程度。詳しいプランなんて練った日には、『魔導師とキヴェラ王による、公爵夫妻とご令嬢の隔離計画』になってしまうもの。
あくまでも『共同事業とその営業の果てに、次代にとって都合のいい結果になった』という方向で行かねばなるまい。茶番だろうとも、意図的な排除とされないためには、そういった建前は重要だ。
なお、私達の会話を聞いていた時のキヴェラ王の表情が、始終、凶悪そうな笑みだったことは余談である。私達を諫めるどころか、楽しそうに頷いていたのも余計なことだろう。
「興味深い話だな? ふむ、一通り紙に書いてくれまいか。中々に楽しめそうだ」
……などと言われて調子に乗った私が、事細かに計画書を書き上げてきたのは、もっとどうでもいいことさ。帰り際に「捨てておいてくださいね」と言ってきたので、『最終的には』ゴミになったと思われる。
サイラス君がひっそり懐に仕舞っていたような気がするけど、気のせいだ。
それを見ていた皆が無言で頷き合い、その行動を黙認していたとしても、私には関係ない。キヴェラの人間でも、政に携わる立場でもないもん、私。
それに。
私には他に、やるべきことがあるのよねー! 寧ろ、キヴェラ王の許可が出たこれからが本番です!
それは本の製作。優しい心を持った薔薇姫の物語。
文章とイラストをお願いできる人の選定は、イルフェナの商人さん達に任せておいた。彼らとしても、これは一大プロジェクトなので、気合いが入りまくっていることだろう。
石を薔薇の形に加工することと同時進行で行なわれているはずなので、私がイルフェナに寄って、イラスト担当者をアルベルダに拉致……じゃなかった、強制連行する予定だ。
そこでクリスタ様経由で話を通し、ローザさんに会わせるつもり。
本の出版に必要な許可をキヴェラ王から貰った以上、後はローザさんの許可だけだ。最悪の場合、ウィル様に許可を貰って押し切ってしまうことも考えているため、キヴェラ王に許可を貰った時点で、本の出版は確定と言ってもいい。
……そして私は、イラスト担当者を連れていた商人さんとイルフェナで無事、再会。
「彼は無名で年も若く、これまで本の出版などに携わった経験はないのですが、人の要求に応えて望まれた絵を描き、金銭を稼いでおりました。今回のような場合は最適でしょう。説明はしてありますから、存分に要望を言ってください。彼も納得していますので」
そんな頼もしい言葉と、商人さんの輝かんばかりの笑顔に見送られ。
一人の青年は私の手に渡り、アルベルダへとドナドナされることになったのだった。
「あいつが今回の犠牲者か……」
「どう見ても、ミヅキ達に捕獲された挙句の拉致なんだが」
「兄貴、楽しそうだな……」
再びアルベルダへ向かう際、見送りにきてくれた騎士ズと商人の小父さんが口々に呟き、絵師の青年へと憐みの目を向ける。青年は彼らの反応にビビるも、私は彼の腕をしっかりと掴んで離さない。
逃 ガ サ ナ イ ヨ 。 諦 メ ロ 。
「え……あ、あの、本の挿絵の仕事、ですよね……?」
「はは、当たり前じゃない!」
そう、仕事内容に偽りはない。ただ、キヴェラの公爵夫妻&令嬢の追い落としに利用されるだけだ。
その利用方法も『口コミで広め、本が広く売れるようにする』というものなので、犯罪ではない。
脅える必要はないぞ、青年絵師よ。君は真面目にお仕事をすればいいだけだ。勿論、君が関わる予定の本も、きちんと許可を得ているから、問題ない。
ただ、ちょっと元ネタが実在の出来事に激似なだけで。
私が事前に根回ししている上、薔薇の装飾品の進呈と共に事情を暴露するから、各国では『様々な意味で』話題になることだろう。
魔道具方面の興味でも良し、ゴシップ好きの野次馬根性でも良し、イルフェナとキヴェラの共同事業に注目するも良しという、王族・貴族の皆様大注目の本になるに違いない。
アルベルダとて、そのつもりでスタンバイしていることだろう。少なくとも、グレンは元凶達に報復する気満々なのだから。
「さあさあ、噂の薔薇姫様に会いに行きましょうね」
「あの、何故、あの人達に憐みの目で見られているんでしょう……?」
「……」
「……」
「初の試みで、嫌でも注目されるからかな?」
嘘じゃないぞ、青年よ。だから、そんな疑いの眼を向けるんじゃない。これは真っ当なお仕事ですよ!?
……。
その『お仕事と成果』を利用する予定の奴らは、今からそれらを各自の裏工作に使うべく、嬉々として動いているけどな。
大丈夫! その中でも一番の大物はキヴェラ王だから! 褒められることはあっても、怒られることはないぞぅ。……多分。
短めですが、区切りの良い所まで。
キヴェラが色々と準備をしているうちに、主人公も動きます。
気の毒なのは、寝込んでいるうちに色々と話が進められていたローザ嬢の両親。
※活動報告にフェア小冊子の詳細を載せました。
※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。
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