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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
変わりゆく世界編

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359/704

魔導師、ルーカスを巻き込む 其の一

 やる気になった主従――ルーカスとヴァージル君――を前に、私は暫し、考えを巡らせる。

 基本的な方針は、キヴェラ王に語ったもの。これに変更点はない。ただ、ルーカスがこの状態なら、おねだり姫関連でも一働きしてもらえるんじゃないかなー? と思っているんだよねぇ。


「一応、確認しておくんだけどさ。ルーちゃんは問題の公爵令嬢……所謂、おねだり姫って嫌い?」

「当然だ。キヴェラにとって、今は一番の害悪だろう」


 即答。珍しいことに、ヴァージル君もそんなルーカスを諫める気配がない。

 訝しく思っていると、サイラス君が溜息を吐きつつ、事情を説明してくれた。


「仲良くした方が得だと思っていたのか、一時期ルーカス様に付き纏っていたんですよ。しかも、勝手に『お兄様』とか呼んでたこともありまして」

「……。そういや、妹はいなかったんだっけ? もしや、『お兄様に可愛がられる妹』的なポジションでも狙ってた?」

「……おそらく」


 ちらりと視線を向けた先のルーカスは、本当に不機嫌そうだった。相当、不快な状況だったらしい。


「普通ならば従姉妹に当たられる方ですし、仲が良くても不思議じゃありません。ですが、アレに慕われて嬉しいと思うかは、別問題でしょう」

「ちなみに、ルーちゃんの反応は」

「不快感を隠さず、拒否してました。母親である公爵夫人が少し文句を言ってきましたけど、『人を利用することを前提とした媚びなど、不快なだけ』とばっさりやられてましたね」

「正論じゃん!」


 即答すれば、サイラス君とヴァージル君は深く頷いた。……彼らにとっても、鬱陶しかった模様。

 ですよねー、その母親も何を考えているんだ。いくら元王女だからといっても、現在は公爵夫人……『臣下』だろうに。

 おそらくだが、公爵夫人はルーカスを自分の甥程度にしか認識していなかったんじゃないか? 息子達とは仲が良いのだから、娘とも……と思っていた可能性もなくはない。

 おねだり姫なんてものを生産するくらいだ、頭の出来はたかが知れている。やりそう、超やりそう……!


「それ、よく大人しく退いたね? 娘を溺愛しているってこともあるけど、『近い身内なんだから、仲良くすべき』とか言い出しそう」

「まあ、母親の方も厳しい言葉が怖かったんだろうさ」

「へ?」


 唐突に会話に混じってきたルーカスの方を向けば、嫌そうな顔をしながらも、会話に加わってくれている。情報をくれる気らしい。


「『周囲に男達を侍らせるような、慎みのない血縁者など、恥でしかない。それとも、貴女はああいった教育を施したのか? 随分と親密そうな【お友達】とやらだが、その言葉通りだといいな? 傍からは阿婆擦れにしか見えんが』と言ったら、顔色を変えて黙った」

「ぶっ……ルーちゃん、キツイなぁ!」

「ふん、事実だろうが。まあ、親密な関係であるならば、とっくに嫁いでいるだろうさ。今となっては、それが残念でならない」


 思わず吹き出せば、ツンと顔を逸らすルーカス。ヴァージル君も苦笑しているあたり、当時はルーカスをろくに窘めなかったのだろう。

 煽ることはしないけれど、宥めることもしない。主の感情と周囲の状況を判断できる、良い側近じゃないか、ヴァージル君。

 ……公爵夫人達のそういった行動は、ヴァージル君がキヴェラ王に報告したんだろうな。キヴェラ王相手じゃ、そんな態度は取らなさそうだもの。


「ルーカス様の言葉は確かにキツイけれど、それで付き纏われることはなくなったからね。まあ、あの方達は『嫌な思いはしたくはない』と考えていらっしゃるみたいだよ? 魔導師殿」

「ヴァージル君、それも結構、遠回しな嫌味だよね? 事実かどうかはともかく、『拙い状況だと判っているから、引いた』ってことでしょ。ほほう、自己保身に動くことはあると」

「好きに受け取ってくれて、構わないよ。魔導師殿」

「否定しないのかよ……」


 と、いうか。

 ヴァージル君はこっそり助力してくれたんだろう。今の発言、どう考えても助言よね。

 彼の身分は判らないが、元王女とおねだり姫を止められるほどの高位貴族ではあるまい。それを踏まえて、『自己保身できない馬鹿じゃないから、温い手を打てば、逃げられる可能性がある(意訳)』と教えてくれたように聞こえる。

 それ以前に、この主従は元王女とおねだり姫に対し、色々やらかしているんじゃあるまいか? 二人の発言を聞く限り、どうにもそういった傾向が強いような。


「誰の目から見ても、奴らはキヴェラの恥だ。百歩譲って、公爵夫人の方はまだ役目を果たしたと言えるが……娘の教育は失敗したな。賢い令嬢ならば価値があるが、自分の欲が最優先の令嬢と仲良くする義理などない」

「ルーちゃん達にメリットがないもんね」


 世の中はギブ&テイク。一方的な搾取や利用は、当然の如く嫌われる。

 そもそも、次期王と懇意のように見せかけることで、誰もおねだり姫に苦言を言えない状況になってしまうだろう。元からの身分と血筋に加え、次代の最高権力者が味方しているならば、家のためにも口を噤むしかない。


 ただ……ルーカスはそんな思惑に乗ってくれるほど、愚かではなかった。


 おねだり姫にとって、それは大きな誤算だったろう。しかも、兄上大好き(注・サイラス君情報)な弟君達もルーカスに倣ってしまったため、次代への擦り寄りは絶望的。

 そこらへんの事情が、他国での婿探しに繋がったのかもしれない。キヴェラからその国へ嫁いでしまえば、我儘生活を維持できるもの。

 キヴェラ王の姪姫にお小言を言える相手なんざ、物凄く限られる。おねだり姫は間違いなく、そういった展開を狙っていたはずだ。

 だが、再び予想外の事態が発生した。それが『キヴェラ王の、他国への歩み寄り』。

 ただ、キヴェラの評価がそう簡単に変わるはずもないため、今回のアルベルダのようになったわけだ。貴族達の気弱な態度が、おねだり姫的に『キヴェラはアルベルダに対し、未だに優位に立っている』と思わせてしまった、と。

 最初からグレンがガツン! とやらかしていれば、大人しくしていたのかもしれないが……多くの貴族達に押し切られたんだろうな。ウィル様に迷惑はかけたくないだろうし。


「しかも、狡賢い程度の頭の出来だ。まあ……親はあっさり騙せたようだから、他でも通用すると思ったんだろうが」

「ルーちゃんは利用されてくれなかった、と」

「俺だけではない。父上は当然のことながら、弟達も同様だ。母上達は最低限の付き合いを余儀なくされているが、それもあっさり流しているはずだ」

「ああ……元王女『は』さすがにハブれないもんね」


 理解を示せば、ルーカスは苦々しく頷いた。

 母親である公爵夫人は、キヴェラ王の実妹だ。しかも、降嫁したとはいえ、元王女。キヴェラの貴族社会が、血筋による結束――生粋のキヴェラ人優遇――という方針を取っていた以上、蔑ろにはできなかったのか。

 ただ、そんな状況でも、王妃様達はその機会を無駄にはしなかった気がする。公爵夫人達と付かず離れずの状況だったとしても、自分達にできることをしていたような。


 だって……おねだり姫の縁談、誰も世話してないからね!


 公爵夫人からそういった情報を得る度、王妃様達はターゲットにされた人を逃がしていたんじゃなかろうか?

 公爵夫妻は、おねだり姫を溺愛しているみたいなので、これまで娘に良縁を望まなかったとは思えない。何故か、そういった話が全くないから、おねだり姫が自分で探してきたんじゃね?

 どう考えても、先手を打って潰した人がいる気がするんだよねぇ……おねだり姫や王妹の立ち位置的に、それが可能なのは公爵夫妻とそこそこ親しく、彼らが望むような有望株を逃がせる術と地位がある人。

 ビンゴじゃね? これ。王妹からの縁談話が来たら断れないから、先手を打って別の婚約者を宛がったり、留学させたりした結果が、おねだり姫の婿探しか?

 否定できない予想に、私がひっそり慄いている間も、ルーカスによる『表に出せない裏話』はまだまだ続く。


「その分、娘の方の評価は地に落としたがな。俺や弟達が挙って嫌っている上、本人の言動に問題あり。……さて、ご機嫌取りをする価値はあったかな」


 クク……と低く笑うルーカスは、悪どい笑みを浮かべている。ヴァージル君は苦笑し、サイラス君は……おい、玩具? 何故、『自分は関わりがない』とばかりに、顔を背けているんだ!?


「おーい、ルーちゃん。あんた、裏で何かやってなかった?」

「さあな? 俺は奴らに対する嫌悪感を隠さなかっただけだ。ただ……有力貴族達が奴らと距離を置く切っ掛けにはなったと思うぞ? 公爵家よりも、王家に力があるのは当然だからな」


 いやいや……それ、十分な嫌がらせだから。もしかしなくとも、おねだり姫に婚約者がいなかったのは、あんたの発言その他も原因の一つじゃない!?

 そう思えども、ルーカスの判断は正しいと思ってしまう。アルベルダに迷惑をかけることになったのは問題だが、キヴェラ内部の有力貴族達に擦り寄られても困るじゃないか。


「まあ、いいけどね。私がルーちゃんに望むのは、それと似たような役割だし」


 生温かい目を向けて呟けば、ルーカス達の視線が私へと向けられた。


「どういうことだ?」

「キヴェラ王には『民と王家の緩和剤要員として、ルーカスが最適』って言ったんだよ。ほら、エレーナは生粋のキヴェラ人じゃなかったから。あんた達の恋物語が好意的に捉えられていることもあって、一定数はあんたの選択を支持する人達がいるんだよ。知ってるでしょ?」

「あ、ああ、まあ、それは知っているが……」


 困惑しながらも、頷くルーカス。


「それを利用して、民と王家の仲立ちをしてほしいのよ。キヴェラ王が規格外過ぎたことが、生粋のキヴェラ人とそれ以外の溝を深めちゃってるから。ルーちゃんも知ってるでしょう? 何の功績もないくせに、キヴェラの貴族というだけで思い上がっていたお馬鹿さん達がいたことくらい」


 本当に有能ならば、何らかの功績があるだろう。だが、それがない場合、彼らが縋るのは『大国キヴェラの貴族であり、生粋のキヴェラ人である』ということ。

 他国に歩み寄ろうとしているキヴェラにとって、今後、そういったことをやらかされるのが一番困る。


「私が関わった一件で、ある程度は淘汰されたけど……まだまだ残ってるのよね。だけど、いきなり王が方針を変えれば、反発は必須。だから、『王に生粋のキヴェラ人以外の意見を伝える存在が必要』」

「その適任者が俺だと?」

「適任でしょう? 血筋で勝てる奴はいないし、弟達との関係も良好だから、意見を無視されることもない。今後の実績次第で、反発も抑え込めるんじゃない?」

「……」


 ルーカスは暫し、考えているようだった。反対するというより、『できるか・できないか』という方向で悩んでいるのだろう。

 王太子でなくなったルーカスのカードは『血筋』、『配下達の忠誠』、『人脈』そして……『己の才覚』。

 間違いなく、数年は厳しい立場になるだろう。そこを乗り切って実績を積み上げていけば、『王家の血を引きながらも、生粋のキヴェラ人以外にも目を向けてくれる公爵家』というものが出来上がる。

 次代に代替わりするまでにそうなってくれれば、弟さんの治世になった時、頼もしい存在となって支えてくれるはずだ。


「キヴェラ王は優秀過ぎるのよ。今は良くても、退位後のキヴェラを誰も想像できない。これまでのキヴェラの在り方を徐々に変えていくとしても、在位中に完遂することはできないでしょう」

「……父上は了承したのか?」

「反対はされなかったわね。他国と歩み寄り始めたことが、視野を広める切っ掛けになったのかも。何より、復讐者達の存在があったからこそ、今のキヴェラの脆さに気づいたんじゃないかな」


 キヴェラで内乱が連発するのは、他国にとっても避けたい事態だ。そういった意味もあり、キヴェラ王が他国に歩み寄りをみせたことを、受け入れた部分もあると思う。

 なにせ、『キヴェラ王でさえ、キヴェラを完全に掌握してはいなかった』と知ってしまった。そうでなければ、復讐者なんて存在が出るはずはないのだから。


「……ま、それは家族で話し合って考えなよ。私はあくまでも提案しただけ」


 肩を竦めて、この話題を終わらせる。これはルーカスだけの問題ではないので、是非とも国王一家で話し合ってもらいたい。


「で、話を戻すけど。ルーちゃんが公爵家を興す理由が、もう一個あるんだよ」

「ん……? まだ、何かあったか?」


 あるんだなー、それが! 私としては、こちらの方が今は優先順位が高い。


「元王女な公爵夫人とおねだり姫の対抗勢力になって♪」

「「「は?」」」

「いや、だからさ? あいつらって、血筋が大問題じゃない? だから、それ以上にハイスペックな公爵家が対抗馬になってくれれば、勝手に自滅すると思うんだよ」


 私以外が呆気に取られているが、これは結構重要なことだと思う。

 こう言っては何だが、ルーカスの方が奴らよりも色々と上である。そもそも、キヴェラ王が手を出せないのは『次代を担う王子を産んだ側室の実家』ということと、『彼自身が王だから』だ。


「王ってさ、結構面倒な立場だよね。処罰できるほどの罪があれば周囲も納得するけど、それがなければ、迂闊に手が出せない。……前例を作れば、暴君の誕生に繋がってしまうから。今後、『かの偉大な王とて、感情のままに公爵家を潰した』なんて言わせないためにも、正当な理由が必要になってくる」

「まあ、そうだな。父上とて、暴君になりたいわけではない。だが、時にはそういったことも必要だと思うが」

「うん、そうだよね。だけど、子孫のことにまで責任は持てないじゃない。今は納得させられても、後に都合よく使われる事実があっても困る」


 キヴェラ王は自分の影響力というものを、理解できているのだろう。側室の実家を潰すのも拙いだろうが、迂闊に行動に出た場合、その理由が求められる。

 そもそも、今回の一件を『あくまでも、共同での商売』という形にしているのは、おねだり姫がやらかしたことを公にしたくないという、キヴェラ側の事情があるからだ。それは今回ばかりでなく、今後も変わらないだろう。

 その前提を壊さないようにするならば、お馬鹿さん達を抑え込めるような存在が必須。ルーカスの配下達に奴らを見張ってもらって、問題行動を起こす前に、説教してもらえばいいだけだ。騒ぎが大きくなれば、王とて、苦言の一つや二つ向けられるだろう。

 ……そして、もう一つの意味もあったりする。


「最悪の場合さ、弟さんの側近候補になってる次男を養子にしちゃえ」

「はぁ? あの家の跡取りだぞ?」

「いや、割とマジで。……問題の多い公爵家の跡取りを、血筋が勝る家が引き取る。これ、周囲にどう見える? 『お前達からの隔離であり、その家に未来はない』って言っているようなものでしょう?」

「いや、そうは言ってもな。それほど簡単には……」

「あくまでも、最悪の場合ってことだよ。弟さんの側近ごと、潰されるわけにはいかないもの。……どうせ、数年で隠居したくなるだろうからね。しぶとかった場合だよ」


 にやりと笑えば、皆の視線が集中する。ええ、これは『公爵夫妻が簡単に潰れなかった場合』の息子さん達の救済案。ただ、そこまでいくかは別問題。


「処罰はできないと言ったな? だが、奴らを抑え込む……いや、囲い込んだ上で黙らせる方法があるということか?」

「イエス! というか、強靭な精神をしていない限り、確実に引き籠もるね」

「魔導師殿。残念ながら、彼らは……特に、令嬢の方は、そう大人しくはないんだが……」

「アンタ……今度は何をするつもりなんです……?」


 訝しげなルーカスとヴァージル君。だが、私に一時期同行したことがあるサイラス君は、何故か顔を引き攣らせていた。


「失礼な奴だな、サイラス君! 私はいつも確実に結果を出しているでしょう!?」

「その過程と遣り方がとんでもないから、怖いんですよ!」


 その態度に突っ込めば、怒鳴るように返された。……ルーカス達もサイラス君に同意しているらしく、二人揃って頷いている。この主従、基本的に思考回路は似ている模様。


 チッ、学習してやがる……!


 まあ、いいや。彼らの反応はともかく、サイラス君は『私ならやりかねない』と思ってくれているようだし。

 ええ、ええ!  その期待に応えられると思います!

 そもそも、私は今回、イルフェナの商人さん達の味方です。商売として考えているのです!


「広告は派手な方がいいよね?」

「「「は?」」」

「だからさ。……『生きた宣伝』って、素敵よね……?」


 私は稼がせてもらう気満々なのですよ? キヴェラの皆様? 

ルーカス……処罰はできないが、キヴェラの害悪を何とかしたい。

主人公……処罰できないなら、弄んで金を稼ぐために使いたい。

目的は同じですが、温度差のある人達です。

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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