魔導師、ルーカスを訪ねる 其の三
ルーカス達へと『側近達、撃沈の記録』を聞かせた後。
サイラス君からの謝罪を、ルーカスは改めて受けとった。元々、サイラス君に対しては憤っていない――サイラス君の失望は、当然と思っていた模様――らしく、実にあっさり済んでしまった。
寧ろ、居た堪れなくなったのはサイラス君の方である。よもや、ここまでルーカスが冷静に物事を見ていると思わなかったのか、中々頭を上げようとはしなかった。
「あのさ、サイラス君。時間もないし、ちゃっちゃと次に進もうや。ほら、ルーちゃんも怒っていないしさ」
「ですが……」
「気になるなら、今後はあんたが定期的にルーちゃん達を訪ねればいーじゃん! ヴァージル君はルーちゃんと一緒に居るんだから、ヴァージル君を訪ねるっていう、名目が使えるでしょ」
ヴァージル君とルーカスは基本的に一緒に居るみたいだし、情報や気になることを、ヴァージル君経由で伝えることは可能だろう。
「キヴェラ王にそう言っておいてあげるからさ! ほれ、さっさと立て。キヴェラの問題はこれだけじゃない」
「……。判りましたよ、アンタの案だってことを陛下にきちんと伝えておいてくださいね?」
「りょーかい! 大丈夫、大丈夫! 魔導師の提案ってことにしとけば、煩い奴らも反対しないよ。……反対したら、じっくりと『お話し』させてもらおうじゃない。二、三人心を折られれば、学習するでしょ」
「物騒なことを言うんじゃない!」
ひらひらと手を振りながら提案すれば、速攻でルーカスからストップがかかる。何だよ、反対する以上、私を説得する義務があるじゃないのさ。
「あ〜……サイラス? これ以上、お前が気にすると、キヴェラが大変なことになりそうだから、いい加減に止めてくれ」
「だがな、ヴァージル……」
「お前の都合じゃなくて、キヴェラが被る被害、という意味で。魔導師殿に心を折られたら、今度こそ、再起不能になりそうな方達がいるんじゃないか? ……誰もがルーカス様のように、平然と魔導師殿に食って掛かれるとは限らない」
「あ、ああ。それもそうだな」
『キヴェラが新たな被害を受けそうだから、止めれ』(意訳)というヴァージル君の説得に、顔を引き攣らせながらも従うサイラス君。
……。
何 故 、 そ れ で 説 得 さ れ る ん だ ?
「当然だろうが! 貴様、自分の与える被害を判っていないのか!」
「ええ〜! 異世界人凶暴種に、ちょっとじゃれ付かれるだけじゃん!」
「お前、自分の言動がそんなに可愛らしい程度と思っているのか!」
「うん」
「たわけが!」
頷けば、即座にスパン! と丸めた紙で叩かれる。ジトッとした目を向ければ、ルーカスはどことなく満足そうだった。
紙の厚みがそれほどないため、全く痛くはないが……馬鹿にされた感ありありだ。ドヤ顔しているように見えるのが、妙に腹立たしい。
最初の紙束を回避されたせいか、第二撃を狙っていたわね!? 念願叶って、満足したのかよ、ルーちゃん!?
「俺は確かに、お前に敗北した。それは事実だから、否定する気もない。だがな! 貴様が他国で起こした数々の騒動の報告は受けている。……どこが『ちょっと、じゃれただけ』だ。完膚なきまでに潰しているだろうが!」
「それ、元から潰される要素があっただけ。足場が脆いくせに、『世界の災厄』に喧嘩を売ってくるなんて、愚かの極み。ほぼ自滅。自殺願望ありの、獲物立候補者!」
「それでも遣り過ぎと言ってるんだ! 今度こそ、キヴェラを傾かせるつもりか!?」
「このままだと、近い状態になるかもね?」
「何だと? さっきも、気になることを言っていたな。……それは一体、どういうことだ。父上は他国との距離を縮めるよう、動いていたはずだが」
憤っていた割に、速攻で私の言葉に反応するルーカス。その切り替えの早さに、呆気に取られて見守っていたヴァージル君達の方が付いて行けないらしく、彼らは困惑したままだ。
彼らの状態は、ルーカスのこんな態度が意外だったせいもあるだろう。ポンポンと言葉を交わしていたかと思えば、必要なことはきちんと聞き取っているのだから。
……。
魔導師に一矢報いたことに満足し、気が済んだということが理由ではない……はず。そう思いたい。
「ええと……その、魔導師殿? ルーカス様も落ち着いてください」
「アンタ、ここに来た目的を忘れてないでしょうね!? ルーカス様を煽って、どうするんです!?」
彼らは我に返ると、其々、私とルーカスを宥めだした。……私のみ、説教じみた言葉を向けられているのは、気のせいと思っておこうじゃないか。
ただ、彼らの言葉も事実である。いつまでも馬鹿なことをやっている場合じゃない。
私は肩を竦めると、サイラス君へと視線を向けた。
「サイラス君、私が送った手紙を持って来てもらったよね? あれをルーちゃん達に見せて」
「あれ? ここに居るのに、自分で伝えないんですか?」
「伝えてもいいけど、キヴェラ王と同じ手順を踏んだ方が良いんじゃない? キヴェラ王は『事前情報がないまま、話の流れで伝えるに至った』わけだから。ルーちゃんのみ、いきなり相談とか拙くない?」
「あ〜……陛下より、優先しているように思われるかもしれませんね」
気にしなくてもいいのかもしれないが、私は今回、キヴェラ王を訪ねたわけではない。『サイラス君を訪ねるついでに、お話しをさせてもらった』だけ。
それなのに、ルーカスにはいきなり相談するとか、ないだろ。未だ、ルーカスに反感を抱いている者達――側近達以外――からすれば、あまり良い印象は抱かれまい。
サイラス君が納得したということは、実際にそういった輩がいるんじゃないか? 側近達のようにキヴェラ王への忠誠心が高いとか、かつてのキヴェラに未練を残す人々からすれば、ルーカスは『現在のキヴェラとなった元凶』ですものね。
「今更だ。お前が気にすることではない」
ルーカスは平然と言い切っているが、ヴァージル君は心配そうにしている。……ヴァージル君の方を信じるべきだな、これは。ルーカスは強がっているというより、あえてその批判を受け止める気になっているだけみたいだし。
「無駄に不安要素を作る必要はないってだけだよ、ルーちゃん」
言いながら、サイラス君から受け取った手紙――以前、私が送ったもの――を差し出す。不機嫌そうにしながらも、ルーカスはそれを受け取った。
「ヴァージル」
「はい」
ルーカスの視線と呼びかけで十分なのか、ヴァージル君はルーカスの背後から手紙を覗き込んだ。
――そして。
「あ゛?」
「こ……これ、は……」
ルーカスは目を据わらせた。ヴァージル君に至っては、顔を引き攣らせただけにとどまらず、顔色さえも変えている。
ですよねー! 誰が知っても、そんな反応になるわな、この案件。
事情があって処罰できないことを逆手に取り、他国で好き勝手してくるなんてね。キヴェラではキヴェラ王とその周囲が抑え込んでいただろうけど、まさか他国でやらかしてくるとは思うまい。
「うっわ〜……ルーカス様、陛下とそっくりな反応をしてる……」
「親子だねぇ」
のほほんと(?)会話を交わしていた私とサイラス君に、手紙を読み終わったルーカスは鋭い視線を向けてきた。
「おい! これは事実なのか!?」
「は……残念ながら、事実です。アルベルダ王にも確認が取れております」
「マジでーす。もう笑うしかないというか、ご愁傷様としか言いようがない」
言いにくそうに、けれどはっきりと肯定するサイラス君。対して、私は乾いた笑いしか浮かばない。
キヴェラの事情は判る。戦狂いの弊害、次代への影響などを踏まえ、キヴェラはこの問題を必死に隠してきたと予想がつく。そうでなければ、血筋正しい公爵令嬢に『婚約者なし』はありえまい。
魔王様は威圧があったから仕方ないが、それ以外の王族は納得できる事情――いざという時の、政略結婚の駒要員など――がない限り、婚約者候補くらいはいるのが普通。
それがいない=とんでもない不良物件。
理想は修道院にでも行ってくれることだったろうが、そのような慎ましくも清らかな生活で満足するような性格ではないのだろう。
最低限、次代の足場固めができるまでは手が出せない。ここで騒ぎ立てれば、第二王子の王位継承が危うくなる。
「あ、これがキヴェラの平常運転とは思ってないから、安心して。寧ろ、事情が伝わったことで、理解と共に、深い同情が寄せられている。……戦狂いのことも含めて」
「う……それは微妙に嬉しくない……」
煩いぞ、ヴァージル君。まあ、気持ちは痛いほど判るけど。
ああ、ルーカスに至っては頭を抱えてしまっている。……おいおい、ルーちゃん。その「さっさと始末できていれば……!」って呟き、聞こえちゃってるから、控えなさい。
なお、これは嘘ではない。キヴェラ王から説明を受けたアルベルダと魔王様は、キヴェラ側の事情に理解を示したのだから。……キヴェラ王が哀れまれたというか、同情されたというか、そういった方向で。
特に、アルベルダは先代のことがあるため、キヴェラが明かした事情に、深い同情を向けてくれている。先代に苦労した者同士、通じるものがあるのかもしれない。
ただし、キヴェラからすれば、そんな状況はとことん情けないものでして。
(意訳)
『馬鹿を抱えて大変ね。ああ、先代がやらかした弊害が未だ、残っているのかー……まあ、頑張れ』
なんてことを遠回しに言われている状況なのよね、実際。大国という自覚がある人達からすれば、転げ回りたい心境だろう。
憐れみや同情とは、時に人を傷つけるものなのです。ぶっちゃけ、まともなキヴェラの人からすれば、プライドには盛大に皹が入る出来事ですからねー。
それでも、速攻で処罰できないもどかしさ。……私が『商売のお話(意訳)』をしなかった場合、どうなっていたのだろうか。
「……魔導師。お前はどんな報復を思いついた? 父上がここへ寄越すくらいだ、キヴェラが不利にならないようなものなのだろう?」
「……さあ?」
確信を持っているようなルーカスの言葉に、私は笑みを深める。……肯定を匂わせながらも、曖昧に暈す。
私の提案はあくまでも『商売』という形なので、実際にやってみなければ判らない。ただ、外堀は順調に埋まっていっているので、おねだり姫を含んだ元凶どもの封じ込め程度にはなるだろう。
それをどう活かすかは、キヴェラ王次第。私はそれ以外に関与できないため、『不利になるか・ならないか』という聞き方では、答えようがないだけだ。
ルーカスもそれに気づいたらしく、ばつが悪そうな顔をした後、改めて質問を投げかけてきた。
「すまない、言い方が悪かったな。……この事態を打破できるだけの、策を思いついているのか?」
「当然! 少なくとも、おねだり姫を含んだ元凶どもの封じ込めはできるかと」
「聞かせろ。あいつらはキヴェラにとって、害悪でしかない」
「血が繋がっているんじゃないの?」
「はは! おかしなことを言うな? 王族にとって血縁者とは、最も身近な『敵』だろう?」
にやりと笑うルーカスに、血縁者に対する情は見受けられない。寧ろ、害悪と言い切っていることからも、排除する気満々なのだろう。
こういった判断ができるからこそ、ルーカスは王に相応しかったと思う。元凶どもを嫌っていることも事実だろうが、彼は『国』というものを最上位に考えられる人じゃないか。
グレていた時期はともかく、冷静になれば的確な対応ができる人なのだろう。だからこそ……私の考えた策に組み込める。
「大丈夫そうだし、詳しい説明を聞きたい?」
「頼んだ」
さて、おねだり姫? あんたにとって、最悪の対抗勢力を作り上げさせてもらおうかな。
ルーカスも当然、元凶達が嫌いです。もはや害悪扱い。
連中を排除できる可能性に、かなりやる気になっています。
策の考案者が主人公なので、そういった方向には絶大な信頼あり。
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※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。
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