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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
変わりゆく世界編

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王女と魔導師、(内心)高笑いする

 美しい庭、美味しいお茶、お茶菓子は私が作った異世界スイーツ!

 そんな素敵なお茶会は――


「嫌ですね、クリスタ様。『民間人』であり、『この世界の常識さえ知らないのが当然!』の異世界人である私でさえ、知っていることですよ? 一般常識があれば、判ることではありませんか」

「あら、そう? ……そうね、私ったら、『特定の方達を無知どころか、無能扱い』してしまったわ」

「そりゃ、『当たり前のこと』に思い至らなければ、馬鹿扱いされても文句言えませんしね」

「まあ、そう言ってくださる? 私からすれば当然なのですが……貴族としての教育を受けられた方々ですもの、『ご自分の発言が家単位での報復に繋がる』……なんて、知らない方がおかしいでしょう?」


 私とクリスタ様が猛威を振るっていた。背後にブリザードが見えそうな会話を続けているせいか、空も曇ってきた気がする。

 笑顔でザックザックと、心当たりがあるご令嬢・ご夫人達の心を抉っているのは、私とクリスタ様。異世界人凶暴種と、アルベルダの王女殿下でございます。つまり、『アルベルダ公認のイビリ』。

 ……反論? できませんよ、彼女達には。だって、『私達は間違ったことを言ってない』からね!


 一言で言うと、『お前らの頭は民間人どころか、異世界人以下か』となる。


 だって、情報収集とか腹の探り合いなんて、貴族としての嗜みじゃん?

 堂々と誰かを扱き下ろす発言ができるのは、相手に対してよっぽど優位に立てているか、その発言内容が周囲に共感されるものだった時だけ。

 各国の王族の皆様を見てみろよ。個人として思うことがあろうとも、あからさまな扱き下ろしなんてしないじゃん!

 ちなみに、王族がこれをやっちゃうと即座に、『あの国はそういった考えだ』という、国単位の意見として過大解釈されてしまう可能性・大。国の名を背負ってますからね、王族って。

 

 貴族だって、迂闊な発言は致命的。

 ならば、思い上がった勘違い女が、それらをした場合の評価は?


「婚約破棄……婚約破棄、ねぇ? あれには魔王様も呆れてしまって! そりゃ、王族や貴族の婚姻は国や家のために行なうものですけど、それでも非常識扱いされる時期じゃないですか。それなのに、ご自分の醜聞を嘆くよりも、誠実な対応をしてくださったローザさんやご両親は立派ですね」

「ローザは申し分ない令嬢ですもの。その教育をなさったご両親もまた、素晴らしい方達でしてよ」

「その誠実さがあったからこそ、彼女の家『には』何もしないと、魔王様も仰ってましたよ」


 嘘ではない。商人さん達からの証言もあり、ローザさん達はすでに私――魔王様にお使いを頼まれ、情報をせっせとイルフェナに送っている魔導師の庇護下にある。

 というか、これはキヴェラの公爵家が動いた場合の対策の一つ。


 だって、私はキヴェラを敗北させた魔導師。

 現キヴェラ王をぶん殴り、謝罪させ、キヴェラ王城を崩しかけた外道。


 冗談抜きに、キヴェラでは恐怖の代名詞となっているのですよ。そんな奴に喧嘩を売ったなら、公爵家だろうとも、切り捨てた方が被害は小さい。

 普通ならば絶対に、キヴェラの公爵家に軍配が上がるだろうが、私は対キヴェラのジョーカーです。個人としては最強カード。

 揺るがぬキヴェラの勝利と自信を、突き崩すどころか蹂躙するのが私の遣り方なので、キヴェラの皆様は割と本気でビビっている模様。

 あれだ、負け知らずだった奴がボロッボロにされてトラウマになるってやつ。キヴェラが傲慢だった部分も確かにあるから、余計に恐怖伝説が広まりやすかったんだよねぇ……。

『どこから、どんな攻撃が来るか、誰も予想できないから、防ぎようがない』とまで言われているので、裏工作方面での私の評価は激高である。

 その代わりに、『善良さ』や『女性らしさ』といった方面は、安定した信頼のなさだ。婚約者達(=守護役)も私にそんなものは求めていないため、改善される気配すらない。


 ……で? 魔王様はそんな物騒な生き物を送り出したんですが?

 アホ猫がただドナドナされたわけじゃないのだ、目的があるって判るよね?


「私ね、魔王様からお使いを頼まれたんですよ。そして、こうも言われているんです……『遊んでおいで』って」


 にやりと笑って、俯きがちな令嬢達へと視線を向ける。


「お友達のクリスタ様がローザさんのご友人ということもあって、情報収集は『とっても』捗りました。そうそう、今更泣き言なんて聞きませんよ? だって、『王族であるクリスタ様の前で、堂々と自慢できた』じゃないですか! これで、その場のノリとかはないでしょうよ」

「ええ、ええ! 私も驚いてしまって! ですが、そのご覚悟があるのですわ。私は傍観者として、見守らせていただきましょう。ふふっ、キヴェラの公爵家がついていてくださるのです。格下扱いされる王族の庇護や仲裁など、不要でしょう」

「クリスタ様、潔い! すっぱり見捨てますか!」

「あら、それは恥知らずにも、アルベルダ王家を頼ってきた場合ですわよ? そのようなこと自体、起こるはずはないのです。だって、我が国の王族達は、大国の公爵家に劣ると言われてしまったのですから!」


 ――できることなど、ございませんでしょう?


 嫣然と微笑むクリスタ様だが、その目は全く笑っていなかった。ローザさんのことを優先してはいたけれど、近衛騎士の実家やそのお仲間達がしていたことは、今、クリスタ様が口にしたことに該当する。

 ……怒って当然だわな。クリスタ様は誇り高き王女様ですもの。


「さあ……皆様、折角のお茶会ですわよ。どうぞ、魔導師様がお作りになった異世界の甘味を召し上がってくださいな。二度と口にできない方もいらっしゃいますのよ? 今後、話題になった時に、寂しい思いをなさらないためにも、ね」


(意訳)

『今後、異世界スイーツが王族や貴族達に提供される予定はあるけど、貴女達にはもうないから! ほらほら、味を覚えておきなさいって。流行や話題に乗り遅れること確定だけど、仕方ないわよね♪』


 お貴族様、特に女性達にとって、流行は超大事。噂に疎かったり、ドレスの型が古いと笑われることもあるらしい。

 ファッションや人の噂話がある意味、彼女達のステータスなのだ。それらに乗り遅れる未来を教えてやるクリスタ様って、本当に優しいですね!

 クリスタ様の誘導に、令嬢達はテーブルの上にある物へと手を伸ばし始めている。そうそう、そうやって異世界スイーツとクリスタ様の言葉に、気を取られているといい。

 

 だって、茶葉はもう密約済みよ?

 私とサロヴァーラの第一王女ティルシアは、『お友達』だもの!


 なお、女狐様は本日のお茶会にも、王家御用達の秘蔵の茶葉を提供してくれている。

『見縊ったはずの王家の力は、こういったものでも計れるのよ。きっと、愚か者達は高価な茶葉だと気づくわ。家柄自慢の貴族はね、そういったことに煩いのよ』とは、女狐様のお言葉だ。

 要は、『アルベルダ王家はこんなものも入手できますよ』と、暗に自慢しろってことだろう。判りやすく着飾ったり、家の格で比べなくても、淑女ならば気づくはず。

 ちなみに、ティルシアへの対価は『ロイヤルミルクティーの淹れ方を教えること』!

 サロヴァーラに居た時、一度だけ姉妹に振る舞ったのだが、これをリリアンはかなり気に入っていた。ただ、普通にミルクを入れても同じにはならないため、残念がっていたらしい。


 で。

 ティルシアとの遣り取りの最中、こんなことを囁いてみた。


「ティルシア……お菓子とかは無理だろうけど、リリアンにロイヤルミルクティー淹れてやりたくない? 大好きなお姉様が自ら淹れてくれたお茶を飲めば、勉強疲れも吹き飛ぶと思うよ?」

『……!?』



 ……悪魔の誘惑と言うなかれ。余談だが、私の提案を聞いた途端、その場面でも想像したのか、暫くティルシアの様子がおかしかったのは秘密である。

 シスコンは相変わらず、健在です。割と大変な立場だというのに、ティルシアが全く不幸に見えないのは、妹との日常をたまに語られているからだ。幸せそうで、何よりですね!

 なお、揺るぎない妹への愛をガンガン刺激されたティルシアは、いつも以上に頼もしく、有能だ。落ち着いた後、開口一番に言ったセリフも凄かった。


『茶葉をアルベルダに流通させている商人達に協力させます。私に任せなさい!』


 ……。

 当たり前だが、彼女は王女としての権限を殆ど取り上げられている『はず』である。少なくとも、国の財政に関わってくるであろう、茶葉の流通や商人達への協力要請を、自由にできる権利は持っていまい。


 しかし、それを成し遂げるのが女狐・ティルシア。

 奴なら、『妹への愛で国を守り抜け!』と言っても、多分遣り遂げる。


 心温まる黒猫と女狐の交流によって、サロヴァーラはすでに私の味方だ。他にも、協力者多数。

 何せ、今回は『自分の周囲から消えたら困る物』といった方向で考えてくれれば、ピンポイントで敵は困る。同じ立場にあるため、私以上にそういった物に詳しいのだ。

 よって、第一弾が私とイルフェナの商人さんになった。異世界スイーツがなくても、生活には困らないからね!


「美味しいお茶ですわね……」


 異世界スイーツを食している令嬢達を眺めながら、クリスタ様が嫣然と笑う。

 ……それ、『勝利の美酒は美味い』って意味ですよね? クリスタ様。


※※※※※※※※※


一方その頃、キヴェラにて――


 とある不幸な青年騎士の部屋では、不幸の手紙……ではなく、魔導師からのお手紙が、転移法陣が描かれた羊皮紙の上に出現していたのだった。

 一日の仕事を終えた彼が、帰宅するなりその手紙の存在に気づいて真っ青になるのは、数時間後のことである。

クリスタ嬢、ストレス発散をする。

愚か者達にとってはただの自慢話でも、王女からすれば侮辱です。

じりじりと燃え続けた怒に、誰も彼女を止められません。

※アリアンローズ公式HPにて、コミカライズの続報が掲載されております。

 詳細と新作の『N-Star』掲載について活動報告に載せました。

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