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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
変わりゆく世界編

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340/705

王女と魔導師の企み 其の一

――クリスタ王女主催の茶会にて


「まあ、素敵ね……」


 そう呟いた一人に同意するように多くの女性が頷き、暫し無言でテーブルの上をガン見する。対して、私とクリスタ様は涼しい顔。

 現在、クリスタ様主催の茶会会場でございます。招待客はクリスタ様のお友達と近衛騎士の実家に味方する人々から厳選――それなりに発言力があると思われる人々をピックアップ――し、そこに噂大好きな方達をプラス。

 最後の人達はスピーカーとしての能力を期待しているので、『選ばれし者のお茶会(意訳)』に参加できたことを含め、茶会での出来事を盛大に拡散してくれるだろう。

 なお、彼女達が見入っているのは、テーブルに並べられたスイーツ各種。この世界で得た人脈をフル活用して材料収集に努め、私の知識を総動員して作り上げたお菓子様達である。

 たかがスイーツと馬鹿にするなかれ。この世界、特に貴族階級ともなれば、豊富に食材を使うだけでもその家の力が測れるものなのだ。

 そもそも、元の世界でもスイーツ系は女性に対し、絶大な破壊力を持っているじゃないか。メディアで紹介されれば、人が押し寄せるのが常ですぜ?

 有名なのは世界中のチョコレートが集う、某チョコレートの祭典だろうか? あれは毎回、規模が凄いしね。

 勿論、私は職人ではないので、あくまでも家庭で作れるレベル。だが、『この世界にそういった類の物が少ない』上、『好まれるような物を作った』ならば十分、参加者達の気が惹ける。


 料理好きの異世界人の本気を見るがいい!

『怒らせたければ、不味い食事を続けて出せ』と言われる民族を嘗めるでない!


 ちなみに、これらはイルフェナでも日々、お勉強中。騎士寮面子や魔王様は当然だが、シャル姉様やそのお友達の皆さんにも協力してもらっていることなのだ。

 何せ、『平和的に、私の価値を認めさせる手段の一環』ですからねー、これ。味方にしたい人々と同じ立場の皆さんからのアドバイスは大変、参考になっておりますとも。


『見た目が華やかな方が喜ばれるわ。装飾品と同じね』

『女性が口にするならば、綺麗に食べられる物がいいわね。食べ方の所作も見られてしまうから』


 といった感じに、味覚の問題も含めて協力してくれているのだ。大変、ありがたいことですな。

 で。

 今回はミニサイズのプリンアラモード、プチケーキ各種、小さめに焼いたクレープといった感じのセレクトにしてみましたよ! 崩れやすいパイ系はやめて、種類を豊富にしてみました。あと、手に取りやすい大きさも重視。

 材料の提供をありがとう、ルドルフ! 持つべきものは最高権力者の親友! 乳製品は素晴らしい……!

 ……。


 勿論、食べるのは自己責任。体重が増えることにまで、責任は持てん。

 

 クリスタ様とそのお友達には『食べ過ぎると太りますよ』と言ってあるけどな。まあ、美味い物が高カロリーってのは常識だ。そういった知識がない分、『小さめのお菓子ならば大丈夫』とか思ってそうだけどさ。

 食わせたくない奴らも居るけど、ここは必要投資と割り切って我慢しよう。これが今回の罠とも言えるので、印象に残ってもらわなければ困るしね。

 そもそも、この茶会は私からの宣戦布告だ。ローザさんの意志を確認した私達による、報復の第一歩ともいう。

 といっても、第一ラウンドと称するものは『各国の商人達に距離を置いてもらう』というもの。この茶会でイビリ倒すことも目的だけど、大本命はこちらだったりする。

 これは長期を見込んでいるため、『この茶会から始まる陰険な作戦スタート』というのが正しい。つまり、効果が期待できるのはかなり後。


 それを成功させるためのフェイクこそ、私製作のスイーツであ〜る!


 得られなくなって困るのは、滅多に食べられないスイーツではない。日々の生活や、貴族としての体面を保つための品々なのだから。

 イルフェナを怒らせたことによって、該当者達が異世界関連の品を入手できなくなる……と慌てている間に、それ以外の品も入手経路(=商人達)が徐々になくなっていくという作戦です。気づいた時には、手遅れだ。

 各国の皆さんからは良い返事をいただきましたからね! その本音が『我が国で似たようなことをされても困る』というものであろうとも、ここは協力関係を築いていこうではないか。


「ふふ、ミヅキ様が特別に作ってくださったの。異世界のお菓子だそうですわ」

「あら、お友達のお茶会ですもの。折角、この国に居るのですから、お手伝いはしますよ?」

「嬉しいわね!」


 にこやか・和やかに言葉を交わす私とクリスタ様。その『私達、実は仲良しでした!』なアピールに、お嬢様方は動揺を隠せない。

 そだね、どちらかと言えば、魔王様を仲介にしてグレンやウィル様と知り合った……といった印象が強いもの。まさか、この繋がりがあるとは思うまい。


「あ、あら、クリスタ様は魔導師様とお知り合いでしたの……」


 一人の勇気ある令嬢が声をかけてくる。その令嬢が誰かを認めたクリスタ様は笑みを深め……勝ち誇ったような表情を作った。


「ええ。お父様やグレン小父様との繋がりもございますが、私とも仲良くしていただいておりますの」

「……陛下やグレン様はエルシュオン殿下を介して、魔導師様とお付き合いがあったのではないのですか?」

「いいえ? 割と頻繁に連絡を取り合うほど、懇意にしておりますわよ」

「そ、そうですか……」


 これまでどういったことを口にしてきたかは知らないが、令嬢は顔を蒼褪めさせて黙り込んでしまった。対して、クリスタ様は大変楽しげだ。

 私はこれまで、アルベルダという国に直接関わったことはない。それに加えて、普段は騎士寮に隔離されている身だ。

 その状況だと、グレンやウィル様が私に会う場合は建前が必須となる。『エルシュオン殿下や彼の配下に用がある』といった、表向きの理由が必要になるのだ。まあ、これは仕方ない。

 だが、それが建前だと知っている人は極限られている。このご令嬢――クリスタ様の反応からして、こいつが近衛騎士の姉か妹とみた――はそれを知らなかったんだろう。哀れなことだ。

 しかし、そこで手を止めないのが、クリスタ様。それでこそ、ウィル様自慢のお嬢様!

 哀れむどころか、追撃を令嬢に見舞うことにしたようだ。周囲の微妙な空気を綺麗にスルーし、嬉々として会話を続けている。


「皆様が『色々と』口にされていたことなど、イルフェナはご存知ですわ。それでも大人の対応をしてくださっていただけですの。……私の言葉の意味、お判りになりますわよね?」

「!?」

「そのように怯えた顔をされても、遅いのです。今更ですわ……さあ、本日はどうぞ楽しくお過ごしになって。私も、魔導師様も、『とても楽しみにしていた』のですから」


 (ちょっと乱暴な意訳)

『お前達が言ってた陰口なんざ、とっくに報告済みだ! それでも馬鹿を相手にする暇はないと言ってくれていたのに、今回の婚約破棄騒動かよ。しかも、嘗めた真似しやがって! アルベルダ王家を後ろ盾に魔導師がご出陣だぞ、覚悟しとけ?』


 言葉は悪いが、意味的には間違っていまい。特に、クリスタ様は気の強そうな見た目もあって、迫力満点だ。そして私は、そんな人々を楽しく観察中。

 勿論、他人事のように楽しんでいるばかりではない。この場における最高権力者であるクリスタ様が矢面に立ってくれている間の観察もまた、私のお仕事なのだよ。

 これはクリスタ様と二人で決めたことでもあった。イルフェナ代表(仮)の私が直接見聞きすることもまた、魔王様達は必要としているのだから。

 そして、クリスタ様が予定通りの茶番を始めてから、速攻で気付いたことがある。……傲慢な態度でいたと聞いていたのに、あまりにも貧弱なのだ、該当者達。

 確かに、魔王様や私は怖いだろう。だが、キヴェラは私達が属するイルフェナさえ抑え込むような大国という認識のはず。

 私達が相手だろうとも、対抗できないことはない。この場はクリスタ様&私という組み合わせのため、国の総意かは不明。反論ぐらいはあるはずだ。


 ……何か、おかしくね?


 内心、首を傾げる。クリスタ様曰く、『キヴェラの公爵家から話があったことは事実』だそうだから、横恋慕してきた公爵令嬢の実家が何も知らないということはないだろう。

 それを受けて、近衛騎士の実家は増長していたと聞いている。それなのに、『魔導師、参☆上』となっただけで、この有り様だと?

 クリスタ様が激怒するほどに調子に乗っていたくせに、『アルベルダ王家は魔王殿下や魔導師と仲良しです!』というアピールだけで、ここまでビビるかね?

 この事態から予想されることは、ただ一つ。


 もしや、近衛騎士の実家って、キヴェラの公爵家からは何も言われてないんじゃなかろうか? 


 婚約といっても、近衛騎士はあちらの国へと婿入りになるわけだし。アルベルダがどういった状況になっているかを、キヴェラ王どころか、問題の公爵家すら把握していなかったりする?

 婿の実家と懇意にすると言われていなければ、最低限の付き合いしかないだろう。それとも、キヴェラにこの婚約を反対した常識人がいたんだろうか?

 それなのに、勝手に盛り上がったか……もしくは、騒動の元凶となった公爵令嬢と近衛騎士が調子の良いことを言って、近衛騎士の実家を味方につけていた……?

 ん~……どれも可能性があり過ぎて、特定できん! 大きく分けて、『元凶達が悪い』、『近衛騎士の実家が勝手に盛り上がっただけ』、『公爵家は黒幕で、アルベルダの混乱を狙った策略』ってとこか。

 ……。


 よし、突こう。人の不幸は蜜の味というじゃないか。甘味を追加していただこう。


「そういえば……某家の婚約破棄において、イルフェナの商人達を随分と軽んじていらっしゃいましたよね?」

「ええ……本当に、申し訳ないことをしてしまいましたわ」


 今思い出した、という風を装って口にすると、即座にクリスタ様が申し訳なさそうな顔を作り、私に合わせてくれる。


「ああ、ご安心くださいな? 何もしていない方や、その行ないに眉を顰めるような常識的な方達『は』、今後も変わらないお付き合いをするそうですから」

「まあ、本当に!?」

「ええ。それが事実だからこそ、私は今、ここに来ることを許されております。だって、異世界の甘味は私しか作れませんもの。今後、イルフェナの商人経由でご依頼を受けることもあるでしょうから、今回は一足早いお披露目とでも思ってください」


 魔王様には内緒ですよ、と人差し指を口に当ててウィンク一つ。それを受けて、クリスタ様も微笑んで頷いてくれた。


「嬉しいわ。……一部の方は二度と口にすることがないようですけれど、ご自分の行動の結果ですものね。そもそも、その程度で収めてくださるイルフェナに感謝しなければ」

「王族同士の仲が良いから、その程度で済ませたのでは? 普通ならば、全てに制限をかけられてもおかしくはありませんよ」

「そうよね、イルフェナは港町を抱える国……商人達が集う国でもありますもの。軽んじられると判っていて取り引きしてくれるほど、商人達は無欲ではありませんわ。いえ、人としては当然の感情でしょう」


 ザックザックと、極一部の人達の心を抉っている私とクリスタ様だが、決して嘘は言っていない。寧ろ、非常に丁寧に『こんな風になる可能性があったんだよ!』と教えてあげているだけだ。

 ただ、何人かの令嬢達は顔色がとても悪い。彼女達は政に関わらない立場だからこそ、安易に『国を超えた運命の恋(笑)』に盛り上がれたのだろうが、現実はそう甘くはない。

 そもそも、『貴族が商人に勝る』という認識からして、大間違い。情報と商品を扱う商人達は時に、貴族でさえ抑え込むジョーカー的存在だ。つまり、今回のことですな!

 ちらりと令嬢達に視線を向け、クリスタ様は私に共犯者の笑みを向けてきた。笑みを深めることでそれに応えつつ、私は獲物を物色する。

 

 楽しきかな、女達の腹の探り合い! 人間の敵は人間だよね!

 アルベルダ王家の後ろ盾とクリスタ様の、何と頼もしいことか……!


「さあ、楽しみましょう? ここ暫くは皆様も、随分と盛り上がっていたようですしね?」

『!?』


 クリスタ様の死刑宣告……じゃなかった、お茶会開始の声に肩を震わせる令嬢達を視界の端に収め。

 これからの『楽しい時間』を想い、私はひっそりと目を眇めた。……そこのご令嬢、貴女はクリスタ様側の人間なんだから、そんなに怯えなくても宜しいっ!

お茶会スタート。予想外の繋がりに、参加者達はビビっています。

ただし、元凶達やキヴェラの人々についての情報が不足しているため、

主人公も割と苦戦気味。

やはり、キヴェラの人達にも話を聞く必要がある模様。

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