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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
変わりゆく世界編

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333/706

魔導師の考察と本音

――アルベルダ・グレンの館の一室


 やって来ました、アルベルダ! 私が王城にお世話になるのも妙な感じなので、今回はグレンの館の一室に滞在させてもらった。

 つーか、今回はあくまでも『私が個人的に、グレンの所に遊びに来た』という形を取る予定。婚約破棄騒動で沸いている最中、魔導師まで現れたら、いらん勘繰りをする輩が出るかもしれないからね。

 そもそも、私はグレン経由で異世界料理などを提供しているため、ここにウィル様達が訪ねて来ても不思議はない。『グレンの館を訪ねたら、魔導師がいた』という言い分で通す気満々です。


 というかだな……先日の魔王様と王女様の言動、明らかにおかしいじゃん?


 魔王様が商人達の守護者であることは事実だが、感情優先で軽はずみな態度を取ることはない。そもそも、魔王様は親猫扱いされるほど、私に対して過保護である。

 これまでを顧みても、不自然なのだよ。それ以前に、異世界人を単独行動させるはずはない。何のために、私は騎士寮で隔離状態になっているというのか。


 それが『殺ってこい!』とばかりに送り出すだと?

 どう考えても、私をアルベルダに送り出すための布石じゃないか。


 ちなみに、おかしいのはアルベルダの王女様も同じ。

 私は……『グレンは好かれているのですね』としか言っていないのに、彼女は何〜故〜か、ウィル様に敵対する勢力が未だに健在ということを匂わせた。


 グレンに煩いことを言う輩=グレンの敵=おそらく、ウィル様の敵。


 ウィル様が王位に就いた経緯を考えれば、内部にそういった勢力が残っているのは当然かもしれない。だが、わざわざ他国の人間に教えることじゃなかろうよ。

 何より、王女様は魔王様と気安い間柄に見えた。外交として私を紹介したならば、彼女の態度――私に縋りついたりしたこと――はおかしいし、魔王様もチクリとお小言くらいは言うだろう。


 結論……あの場は私的なものであり、私をアルベルダに向かわせるための茶番。


 勿論、王女様が言っていた婚約破棄騒動が発端だろう。それが単純なものではない、もしくは見逃せない案件にも拘らず、国が手を打てないと判断されたか。

 私の『異世界人の魔導師』という立場は、こういった時に非常に役立つ。それが『どの国においても有効』と判断されたため、誰からも非難されることはない。

 そういった事情から、『魔導師が勝手な行動を取ろうとも、ある程度は許される』という、暗黙の了解が成されているのだ。私が動いても、『ああ、いつものことねー。悪戯が過ぎたら、親猫を呼ぶから』で済まされる。

『世界の災厄』なんて呼ばれる存在でも、首輪と飼い主付きならば……という感じだ。互いに知り合う機会を作ることで、予想外の事態が起きた際に魔導師が動く布石を打っているとも言う。

 今回はまさにそれに該当する案件なのだろう。だから、魔王様は私が単独でアルベルダに来ることを許してくれた気がする。アル達は魔王様の直属と知られているから、同行するのはちょっと拙いものね。二人共、目立つしさ。


(実際のお言葉)

『ミヅキ? 君に良い考えはないかな? ……折角の玩具だ、楽しく遊んでいいよ』

(意訳)

『ムカついているのも事実だけど、今回は君が適任だ。お仕事しておいで』


 多分、これで合っている。セイルじゃあるまいし、親猫様は無暗に私を問題の渦中に放り込む真似はしない。

 私は民間人なので、魔王様は全ての情報を話すわけにはいかない。これは王女様も同様。魔王様が怒っているのも事実だが、それ以上に問題の解決を望んでいるのだろう。

 そうでなければ、『商人を蔑ろにされた魔王様が怒り狂いました。報復命令発動です。情報収集のため、アルベルダに行きます』という理由などくれまい。私とグレンが懇意にしていることを、魔王様は知っているからね。

 そこまで考えつけば、グレンからの内容を暈しまくったお手紙も納得です。魔王様が私を派遣するか判らなかったため、何も知らない私に事情を暴露できなかったんじゃないか?

 ……。

 そだな、詳しい事情を省くと『王女の味方になってやってくれ』くらいしか言えん。アルベルダとしては、魔王様の対応次第といった感じだったのか。それを見越して、『王女の味方になってやってくれ』だったのだろう。

 魔王様は『魔導師に対して過保護・子猫を腹の下に匿う親猫』がデフォルトとなってきているため、アルベルダに抗議して終わり……という可能性もゼロではない。

 ウィル様やグレンも当然、それを知っている。ゆえに、私の派遣やイルフェナの介入に確信が持てなかった。時には傍観することもまた、自国を守ることに繋がるから。

 だが、魔王様は動いた。イルフェナの王族としての矜持もあっただろうが、私に対する信頼と、商人達の守護者としての責任感と、魔王様自身の善良さゆえに。

 ぶっちゃけ、拗れそうな二国間の関係を見捨てられなかったんだな〜と思う、今日この頃。我が保護者様はマジで善良だ。


 そこで『親猫としての姿が浸透してきたから、期待されたんですね』と微笑ましく思ったらいいのか、『美しく心優しい王族……御伽噺のヒロインか、アンタ』と生温かい視線を向けたらいいのかは判らんが。


 思わず、少しずつ周囲との関係改善を試みる魔王様の姿を思い出す。素直になれないというより、これまでと違い過ぎて戸惑っていると言った方が正しいのかもしれない。

 そもそも、魔王様の周囲にはアル達以外いなかった。家族を含め、『物凄く親しい』か『必要最低限しか関わらない』という二択だったのだ。それに比べれば、現状は快挙である。

 本人にそれを言っても、おそらく否定されるだけだろう。私は魔王様に庇護される立場なのだ……そんな存在に、『手探りで、人との距離感模索中』とは言えないだろうし、弱点になりそうな弱い部分を晒すまい。

 その分、アル達が温かい眼差しで見守っているので、素直に認めた方がマシ……だと思うんだけどなぁ。威圧はともかく、魔王様は本当に愛されているみたいだしさ。

 そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえた。返事をすると入ってきたのは、予想通りの二人組。


「久しぶりだな、魔導師殿」

「直接お会いするのは久しぶりですね、ウィル様。グレンも元気そうで、何より」

「ああ、お前も変わりないようで安心したよ。まあ、儂らはつい最近、会ったばかりだが」

「あはは! お米の試食に呼んだものね!」


 軽い口調で話すのは、この国の王であるウィルフレッド様。そして、彼に従うのはこの館の主であるグレン。私が未婚の婚約者持ちである以上、どちらか一人が単独で部屋に訪ねてくることはない。

 何より、私が『遊びに来た』という設定になっている以上、こういった軽口も重要だ。証拠として残しておけば、追及された時の言い逃れに使えるもの。


「じゃあ、ちょっと込み入った話をしましょうか。……とりあえず、私の予想からでいいですか?」

「ああ。魔導師殿がここに居るんだ、ある程度は察してくれたと思っているぞ」

「少なくとも、魔王様はそう判断したんでしょうね。だからこそ、単独でアルベルダに来ることを許したんでしょうし」


 挨拶をしている間に用意されるお茶のセッティングがメイドではなく、前に助力を願った使用人さんであることも、私の予想を裏付ける要素になっている。

 落ち着いた雰囲気の彼は、グレン至上主義……『グレンの不利になるようなことを、絶対にしない』。給仕として、その場に留まることも考慮された人選です。秘密のお話には最適だ。

 ――そして、私はそれまで考えていたことを二人に話し始めた。


※※※※※※※※※


「……という感じに考えているんですけどねぇ。合ってます?」


 一通り話すと、ウィル様は複雑そうに私を見つめた。


「合っている。それも、与えられた情報から想定できる範囲では、かなり正確だな。グレンが『ミヅキならば、この程度の情報を与えておくだけで十分だ』と言っても、半信半疑だったんだが……俺はまだ、魔導師殿を甘く見ていたらしい」

「ふふ、ウィル様の娘さんと魔王様が茶番を演じてくれましたからね。日頃の魔王様を知っていれば、王女様の態度にお小言なしというのも奇妙だと気づきますよ」

「ということは、エルシュオン殿下は怒っていないのか?」

「いえ、魔王様の怒りは本物です」

「……」


 深々と溜息を吐くウィル様。はは、さすがにそこまで甘くはありませんってば。


「だいたい、自国の王女が諫めている……王家が難色を示しているのに、近衛の立場にある者が婚約破棄してるじゃないですか。これだけで、どういった勢力に属しているか気づくかと。その時点で『ああ、こいつらは今の王が気に食わないんだな』って判りますよ。キヴェラの公爵家を味方につけられるなら、今後も安泰ですしね」


 普通はありえない無茶苦茶な婚約破棄でも、目の前に吊るされた餌は魅力的過ぎた。食いついても今後が安泰ならば、喜んでそちらに尻尾を振るだろう。


「それに、『婚約破棄した近衛騎士は野心家だ』って、王女様も言ってましたから。……彼女は今後が楽しみですね。魔王様の威圧にはビビってたみたいですが、自分の役目はきちんと果たしてみせたんですから」

「お前と会わせることにも意味があったさ。何せ、各国を手玉に取ってみせた魔導師だ。今回のことで、噂の魔導師の遣り方をまざまざと見せつけられるだろう。それも良い経験だ」

「でしょうねー。私がイルフェナ所属である以上、滅多にない機会だろうしね」


 どうやら、王女に行かせることを提案したのはグレンらしい。……微妙に、スパルタ教育をしているじゃないか。相手は怒りの威圧ありの魔王様だというのに。


「はは、俺も最初はどうかと思ったんだがな。グレンが『これも経験です。あの二人の遣り方を知っておけば、大抵のことに動じなくなります』と主張してな」

「ちょ、グレン! それはどういう意味だ!?」


 ウィル様からの暴露にジトッとした目を向ければ、グレンは涼しい顔で生温かい視線を向けてきた。


「言葉の通りだ。エルシュオン殿下は善良な方だが、威圧は慣れが全てと聞いているし、お前は見た目と中身が一致しないだろう? 特に、ミヅキは実績を元に噂が先行しているからな。実物を目にさせた方が早かろう」

「敵認定されなければ、無害なお嬢さんのままだってば」

「その地雷が判りにくい場合があるから、怖いんだ! お前が行動し始めたら、仕留めるまで狩りを止めないだろうが! 今回の事情は複雑だが、あの大馬鹿どもは我が国に必要ない。お前の遣り方を身近で見せるには、もってこいのサンプルだろう?」

「……。こういう時、グレンは魔導師殿の弟分ということを実感するんだよなぁ。似てるよ、お前達」

「勿論! グレンに色々と教えたの、私ですから! 他の人達は割と保護者ポジションでした」


 ぐっと親指を立てて、良い笑顔。私と相棒が構い倒した赤猫は無能ではない。癖はあるが、身内を大事にする良い子である。

 ウィル様もそれは判っているのだろう。グレンから微妙に視線を逸らして、照れている。この世界における身内筆頭がウィル様なので、私の考察が合っているならば、グレンのこの対応は当然だ。

 ちらりと視線を向けたグレンは、己の行動を何ら不思議に思っていないらしい。どうやら、グレンは今回のことにお怒りの模様。私がどういった対応をするか判っていようとも、容赦がない。

 過去に何があったかは知らないが、ウィル様はグレンのこんな一面も知っているのだろう。それも含めて、今回の提案を了承したわけだ。『グレンを止めても無駄だ』という、多大な諦めと共に。

 ……でも、ウィル様がどことなく嬉しそうにも見えるんだよねぇ。やはり、有能な弟分が頼もしくもあり、自分のために知り合い――私のこと――さえも利用してくれることが嬉しいのか。

 グレンは元から身内が害されることを嫌う傾向にあるけど、それがこの世界でいっそう強くなった気がする。日頃から仲良し主従なせいか、ウィル様やアルベルダという国に関しては特に、その傾向が強いのだろう。

 その結果、『色々と』あったんだろうな〜、ウィル様の反応から察するに。グレンは私同様、異世界人だもの。おそらくだが、何の躊躇いもなく敵を葬ってきたに違いない。

 ……。

 

 赤猫……数十年会わないうちに、随分と頼もしくなったのね……?


 赤猫はいつの間にか、ネコ科の大型肉食獣にジョブチェンジしていたようだ。日頃は猫だが、怒らせると牙を剥く仕様か。

 そういった面は身内への愛情ゆえだが、しっかり愛の鞭もあるのだろう。それが今回も発揮され、王女様の派遣に繋がったわけだ。


「じゃあ、詳細を伺いましょうか。貴方達から『望む決着』を聞かない限り、私は動けませんからね」

「……引き受けてくれるのか?」

「魔王様から命じられてますからね。あと、個人的に赤猫の成長が喜ばしい」


 明らかにほっとする主従に対し、にこりと笑う。……魔王様に命じられたことも嘘じゃないけど、私が期待されたことも事実。

 それならば、グレンの思い通りに動いてやろうじゃないか。『ミヅキならば可能』……そうグレンに確信させただけの才覚を見せなければ、情けないでしょう?


 何より、魔王様の怒りは本物なのだ。親猫様のために働きますとも。


「さあ、話してくださいな? 『貴方達は、どんな決着を望みますか』? これが全ての基準になりますから、よく考えて答えてくださいね」


 勝利条件が判らなければ動きようがない。それに……私に今回の詳細を知られる危険性も覚悟してもらわなければ。

 だって、私は『魔王殿下の黒猫』。アルベルダの内部事情に関わることだろうとも、飼い主に報告するのは『当たり前』。私を駒として使いたいならば、それらを覚悟してもらうのは当然だ。


「ガニアから帰国した途端、この騒動だもの! 私の平穏な日々を終了させた恨みを受けやがれ、玩具どもー♪ 許さねぇぞ、地獄に沈めー♪」


 楽しげに現在の心境を暴露する私に、アルベルダ勢が揃って顔面蒼白になる。やはり、気づいていなかったようだ。私は民間人……『今回のことは時間外労働』ですよ!?


「あ、いや、その……」

「悪かった! そこまで考えていなかった!」

「大丈夫ー! 八つ当たりは『全て』玩具達にする予定だから♪」

「「え゛」」


 休日を返上させた恨みは深い。絶対に、馬鹿なことをしたと後悔させてやるからな……?

前話のことから、色々と推測する主人公。

仕掛けたのがグレンなので、怒りは全て玩具へと向かいます。

米が見つかった直後にこれなので、休日を潰された恨みは深い。

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