表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

328/706

番外編・ミヅキ的ホラーゲームの楽しみ方

猫親子+騎士寮面子+グレンでゆる~い日常話です。

夏といえば、ホラーですよね。

「お前がよく口にする『オカルト』って、何が怖いんだ?」


 ――全ては、アベルのこの一言から始まった。


「え? とりあえず、見た目的な感じ、かな? 明らかに生者じゃないっていうか」


 アベルの素朴な疑問に答えつつも、私は内心首を傾げた。正直なところ、アベルを納得させられるような答えではないと、私自身も思ってしまったからだ。

 私のようにホラーもの大好きな連中は一定数存在するし、廃墟に足を運ぶ人達もいるだろう。そもそも、『怖い』と言いながらも、夏のホラー特集は定番である。ホラー映画だって、作られ続けているじゃないか。


 明らかに、自給自足しております。寧ろ、量産してます。

 『オカルト』を本当に恐れる人達って、割と少なくね?


「視覚的な意味で不気味、説明できない現象がある……という不明確さか? 儂はそれほど好むわけではなかったが、ミヅキ達に付き合っていたからなぁ……あまり怖いと思えん」


 お米様のためにイルフェナに来ていたグレンが、首を傾げながら呟く。グレンにとってはかなり昔のことになるため、若かりし頃を思い出しているのだろう。

 ……そういえば、グレンもホラーゲームに付き合わせたっけ。特に苦手とか言わなかったから、グレンも割とホラー系が平気な方だったはず。


 いいじゃん、オンライン参加型のホラーゲーム! 皆でやれば楽しいじゃん!


 私と同郷だからこそ――ホラーゲームなどが完璧に理解できている、という強みがある――のグレンの意見だったが、その言葉に首を傾げる人達が続出した。彼らを代表するかのように、カインが口を開く。


「何で、ミヅキ達に付き合っていると、オカルトが怖くなくなるんです? 一人じゃないからって理由ですか?」

「いや? その、ミヅキ達はな……『自分達が楽しむことを前提に、斜め上の解釈でゲームをプレイする傾向にあったから』だ」

『は?』


 意味が判らなかったのか、皆の声が綺麗にハモる。微妙な雰囲気の中、グレンは私の方を窺いながらも、言いにくそうに理由を述べ始めた。


「ゲームにはストーリー……まあ、状況の設定というか、一つの物語に添っているのだよ。要は、恐怖の物語の登場人物として、プレイヤー達が参加しているということだ。ここまではいいかね?」

「は、はあ、何とか」


 ゲーム自体に馴染みがないためか、この世界の人達に理解させることは難しい。それでも『何となく?』程度の理解は得られたのか、カインは頷いた。周囲の皆も同じく。

 そんな彼らに一つ頷くと、グレンは溜息を吐いて私に生温かい目を向けた。


「例えば、『閉じ込められた館の中で、殺人鬼に追い駆けられる物語』だったとする。登場人物達の目的は『館の謎に迫りつつ、館を脱出しての生還』だ。勿論、謎解きなどもあるから、『登場人物達が協力し合い、その館から脱出すること』が重要になるだろう」

「まあ、そうですね。手分けをすることで危険に晒される危険性はありますが、少しでも早い脱出を狙った方が生存率は高いでしょう」

「謎解きがどういった意味を持つかは判らないが、脱出すれば生存できるならば、それを重視すべきだろうな」


 アルとクラウスは『とりあえず生存』という方向で考えているらしい。確かに、エンディング要素などを一切気にしなければ、それが最短の道と言える。

 ただ、そういった道を選んだ場合、大抵はエンディングで『全ては謎のまま』的な言葉が追加されるだろうけど。

 物語としては意味不明のまま終わるってやつですな。現実的に考えれば、これが一番良いのかもしれないけどさ。

 グレンもウィル様の側近として生活しているせいか、彼らの言い分も納得できるらしい。「騎士ならば、そういった考えになりがちでしょうな」などと呟いていた。


「『物語』という方向で考えず、『生還』ということを最重要項目に挙げるならば、まあ妥当でしょう。ですが、これはあくまでも『物語』。そのシナリオを知るため、隅々まで館を探索し、そうなった原因を解明するまでが、最高の結末を迎える条件のようになっているのですよ」

「なるほど、そのために危険を冒すと」

「その通りです。こういったところが、現実との違いでしょうな」


 アル達は納得したのか、しきりに頷いていた。『物語を読む』という感じに考えると、『多くの謎を残したまま、とりあえず生還しました』という結末はないと思った模様。

 皆が納得できたことを悟ったのか、グレンは話を再開した。


「ミヅキ達は当然、謎を解明する最高の結末を目指します。……目指すのです、が」

「……。何か、おかしなことでもやるのかい? グレン殿」

「近いですなぁ、エルシュオン殿下」

 

 さすが、親猫様。

 そう暗に聞えたのは、気のせいではないだろう。皆の生温かい視線が、私へと突き刺さる。


 何さー! 皆で役割分担したり、協力して遊んでたもん! 悪いことなんて、してないよ!?


 そう主張するも、魔王様は温〜い笑みを浮かべたまま、軽く私の頭を叩く。……信頼がないようだ。ちょ、まだ話を聞いていないのに、この扱いって酷くね!?

 ジトッとした目を向けるも、魔王様はどこ吹く風。……あ、騎士sが『殿下が正しい』『日頃を思い出せ』とジェスチャーしてやがる。そうかい、お前達も魔王様と同意見なのかい。


「ミヅキと有志数名は……何故か、追ってくる殺人鬼を襲撃するのです……!」

『はい?』


 再び、皆の声がハモった。疑問の表情を浮かべる皆を無視し、グレンの話は止まらない。


「確かに……確かに、定期的に撃退しなければ、探索はままならないでしょう。しかし! 最初から最後まで、一箇所で撲殺紛いを延々と続けるって、どういうことだ!? 倒れ伏した殺人鬼に暴行を加える集団の方が、より怖いわ!」

「だって、面倒じゃん! スタン系の効果がある武器があるなら、一度昏倒させた後は楽勝よ? 二〜三人で交互に殴れば、絶対に反撃されないもん。殺人鬼系の敵って、チョロイよね」

「だからって、最初から最後まで殴り続けるな!」

「時々はメンバーチェンジしてたよ? 謎解き系も得意だったし」


 嘘ではない。そもそも、そういった系統の敵って、ラストまで倒せないことが大半だ。

『だったら、最初から足止めしとけばいーじゃん?』という提案をしたのは私だが、それに乗ったのは参加者の皆様である。寧ろ、それまで散々追い駆けられたことにストレスが溜まっていたのか、嬉々として協力してくれた。


 ホラーゲームにありがちの『探索要素』と『追い駆けっこ要素』。ゲームの展開的には仕方がないとは思うが、あれにイライラを募らせる人達も一定数は居るのだよ。


 誰でも一度は探索中に追い駆けられ、『こんな時に出てくんなぁぁぁ、畜生が!』とブチ切れたことがあるはず。

 そういった敵は大抵、最後まで倒せない。しかも時間の経過で、何度も登場。謎解きやアイテム探索に集中したいプレイヤーとしては、ウザイことこの上ないわけで。

 撃退に使えるような武器も限られていると最悪だ。延々走って、隠れて、やり過ごすしかないんだぜー……元の場所から遠く離れると、軽く殺意が湧く。


「折角のオンライン……協力プレイなんだもの。皆の力を合わせて、全員生還を目指したい」

「綺麗な言葉で纏めているが、お前達がやっていたのは敵の足止めだろう。あの動画を見た儂の友人が、開口一番に何て言ったと思う? 『人間の方が怖い』だぞ!?」

「実際、人間の方が怖いじゃん。あらゆるホラーって、切っ掛けはほぼ人間だよ。毒には毒を以って制す! ほら、間違ってない♪」


 嘘は言ってないじゃん? と笑って、ひらひらと手を振れば、グレンは呆れたような眼差しを向けてくる。

 いいじゃないか、赤猫。人間、誰しも自分が一番可愛いものだと教えただろう? 生きる上で、それは割と正しいぞ?

 だいたい、敵に気の毒な事情があろうと、哀れな存在だろうと、無関係な者達を襲う時点で同情の余地はない。


 私に攻撃を仕掛けた瞬間から、そいつとはLive or Dieな関係だ。弱肉強食だ。


 人間によって引き起こされた悲劇が恐怖の物語に繋がっているなら、再び人間による恐怖を味わうがいい。

 その結果、元凶が盛大にトラウマを植え付けられたとしても、学習能力ゼロのそいつが悪い。つーか、自分から加害者になってるじゃん? 反撃されても、自業自得。

 完全に、自己責任じゃないか……勿論、異議は認めない。 

 というか、化け物系の敵って攻撃が可能な分、見た目でビビらなきゃ怖くないよね。幽霊とか呪い系の内容だったとしても、対策が用意されているなら何とかなる。

 この世界を基準にした場合、幽霊とか呪いの類なんざ、黒騎士達にとってご褒美だろう。キャッキャウフフと花を飛ばしながら、嬉々として獲物に群がるに違いない。

 物理攻撃が効くならば、ジークが狂喜するだろう。死なない遊び相手じゃん、どう考えても。


 それ以前に、今は私も化け物に片足を突っ込んでいる存在なのですが。

 異世界産の魔導師という、リアル世界の災厄よ?


「……。ミヅキの発想でいくと、オカルトって大して怖いものじゃないよね」

「人間こそが厄介な存在だと、我々も知っていますからね。貴族階級では、足の引っ張り合いが常ですし」

「死後、復讐を成し遂げようとする根性は凄いが、それに伴う知能がなければなぁ……感情に振り回されて八つ当たりをするから、ミヅキのような者に狩られるんだろう」


 さっきから、ひそひそと煩いですよ? 魔王様。それからアル、クラウス!

 そもそも、これはゲームの話だからね!?


「お前なら、現実で同じような事態に巻き込まれたとしても、変わらないだろ」

「楽しむだけだろ、どうせ。寧ろ、嬉々として挑む姿が目に浮かぶ」


 煩いぞ、騎士s。思っても、そういうことは口を噤め。魔王様に警戒されちゃうでしょ!?

判りやすく『殺人鬼に追い駆けられる』という方向のホラーゲームで解説したら、

全く怖がられませんでした。

彼らの立場的に、『人間の方が怖い』と納得できてしまった模様。

主人公と守護役達に馴染み過ぎているせいでもあります。

※活動報告に魔導師19巻の詳細を載せました。

※来週の更新はお休みさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ