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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
幕間

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327/704

決別の日

――王弟夫妻が拘束されている部屋にて(ファクル公爵視点)


 椅子に座ったまま、拘束されている二人――王弟夫妻を眺める。彼らは堂々としている私の態度に思うことがあるのか、何を言ったらいいか判らないようだった。

 それも当然だろう。自分達の味方と思い込んでいた者が、王の言葉に従っているのだから!

 だが……そんな二人の姿も、私を失望させることはない。失望とは、僅かでも期待する気持ちが残っていればこそのもの。私が王弟夫妻に向ける感情の中に、そんなものなど残ってはいなかった。

 ――そう、『王弟夫妻』。

 彼らは王族としての立場をそのままに、このような扱いを受けているのだ。さぞ、屈辱的なことであろう。


 拘束――その処遇が示すものは、『信頼できぬ』という意志表示。


 大人しく会話に応じ、その処罰を受け入れることはないと思われているからこその処置だ。私が騎士達の同席を望まなかったこともまた、この状況を作り出した一因だろう。

 もしも。

 もしも、彼らが己が罪を自覚し、反省する姿勢を見せていたならば……このような扱いだけは免れたはず。

 各国の王族、そして自国の王の前で、あの魔導師に徹底的に遣り込められた挙句に心を折られたにも拘らず、王弟夫妻は己が罪を認めようとはしなかった。二人が屈したのは、魔導師がもたらした恐怖。


 いや、正確に言うなら……『罪を自覚できていない』。


 これは彼らばかりに責任があるわけでなく、そう思い込ませた周囲にも同等の責任が課せられるべきものであろう。根本的な常識や認識が歪めば当然、全てに正しい判断ができなくなる。

 勿論、楽な方を選び続けた二人にも責はあろうが、そう仕向けた者達とて、罪はあるのだ。


 ゆえに、陛下は『仕向けた者達』を逃がしはしない。

 全ての咎を王弟殿下に押し付けることなど、絶対に許さない。


 全ては……次代のため。ガニアはすでに次代を見据え、動き出しているのだから。あの魔導師は今代に期待していない。いや、切り捨てているとも言えるだろう。

 そもそも、魔導師の信頼を得たのはテゼルト殿下とシュアンゼ殿下という、次代を担うお二人。今代に期待するならば、もう少し温い一手を打っているだろう。それができない人物ではない。

 何より、あの魔導師はとんでもなく自己中心的な性格をしているのだ。


『今、追及しているのは、ガニアという【国】に求める対応です。規模が違いますよ、優先すべきは個人的な感情ではありません』


 ……嘘を吐くなと言ってやりたい。いや、ある意味では正しいのだろう。そういった面もあるゆえに、各国の王族達は魔導師に賛同したのだから。

 だが、実際は……今代に該当する者達が気に食わなかったのではあるまいか? 他国にまで迷惑をかけたのは『ガニアという国』であり、属する派閥等は関係ない。

 役立たずと称されても、否定はできないのだ。粛清対象になっている者達は勿論、無関係だと安堵している者達にさえ『馬車馬の如く働け!』と突き付けているようにしか思えない。

 私とて魔導師やイルフェナに対し、それだけのことをしている自覚はあるのだ。気に入らない奴らに後始末を押し付け、次代からは新たな時代の幕開けを……とでも望んでやしなかったろうか。

 あの魔導師ならば、それくらいは画策する。高笑いしながらエルシュオン殿下の報復をする一方で、部外者気取りの者達を使い潰す計画を立ててみせるだろう。

 何せ、自分に悪意を向ける者達を『玩具』と言い切る外道だ。今代を支える貴族など、単なる労働力とでも思ってそうじゃないか。徹底的に利用するに決まっている。

 

 自己中心的な者が最上位にするのは『己の感情』。

 ならば、この結末は……『魔導師が個人的に望んだもの』。


 この仮説に思い至った時、思わず恐れ慄いた。そして、呆れた。だが、漸く理解したのだ……『魔導師とは、【世界の災厄】と恐れられる存在であった』と! 

 駒にできると思う方が間違いなのだ。それが可能なのは、あの魔導師が策の中での己が立ち位置を『誰かの駒』というものにしているから。

 唯一、駒扱いをしても許されるのが、イルフェナの飼い主なのだろう。魔導師殿がエルシュオン殿下の配下と名乗っているのは、そういった意味もある気がする。そうでなければ、白と黒の狂犬達は彼女を仲間と認めまい。 

 あの狂犬達が表立って動かなかったのは、すでに頼もしき『同志』が送り込まれていたから。この国の歪みを正しているように見えて、実際はあの魔導師の望み通りになっているではないか。

 そのことに気づかなければ、人々は彼女を『断罪の魔導師』と称え、正義の使者のように扱うだろう。その果てに、陛下が魔導師と言葉を交わした通りに行なう粛清も『正しいこと』として認識される。いや、王弟殿下の醜聞があろうが、王家の評価が下がらないというべきか。

 王弟殿下以外の粛清は陛下が主体となるため、魔導師の思惑に添ったようには見えないのだ。王弟夫妻を陛下が見限ったことも含め、陛下自身がこの国の歪みを正したように見えるじゃないか。

 実際には、その道筋を示したのも、状況を整えたのも、ミヅキという名の魔導師である。その見た目も災いし、彼女が画策したと正直に言っても、誰も信じないだろう。

 本当に……己が評価されることを望まないからこその策。それが『善意』などという言葉で終わらないのは、私が彼女の性格を理解しているゆえ。もとい、『深読みすると、あの魔導師の評価は逆転する』。

 ……。

 

 どう考えても、粛清対象達に全ての悪評を押し付ける気満々である。

 彼らを踏み台にして王家の評価を上げるとは、何と外道な……!


 それを踏まえると、王弟夫妻のこの状況は割とましな方かもしれない。陛下への教育の一環として、幽閉と処刑だけで済むのだから。

 今回は寧ろ、中途半端に家が残った方が地獄である。肩身の狭い思いをしつつ、今後を模索する日々……没落する家はどれほどに上るのだろう? 彼らの精神的な負担と不安を考えれば、ついそう思えてしまう。

 だが、それこそが魔導師からの報復なのだろう。あの魔導師は王弟殿下の派閥ごと嫌っていたようだから。


「まあ、今更だな」


 軽く溜息を吐いて、思考を切り替える。私がすべきことは、魔導師についての考察ではない。時間がいくらあっても足りないのだ、このような『雑事』はさっさと済ませるに限る。


「少しは落ち着かれましたかなぁ、殿下」

「……っ、ファクル、公爵」

「随分と大人しくなられましたな? 困った時以外、私の言葉に耳を傾けなかった方が」


 事実を告げれば、王弟殿下は唇を噛んで俯いた。……私の忠告を蔑ろにしてきた自覚があるのだろう。それでも私が殿下の派閥の筆頭と思われていたのは、今言ったように『困った時には一番に頼ってくるから』だった。

 何とも情けないことである。主とは配下の者達を守り、率いる存在ではないのか。そのように思われて、私が……建国時より国を守ってきたファクルの名を持つ者が、喜ぶとでも思ったか!


「貴方が幼い頃、私は時間の許す限り、王たる者の姿を教えてきたはずです。ですが、貴方は……楽な方へと逃げた。魔術師として誇るものが生まれ持った魔力しかないのも、魔術師としての実績がないからでしょう」


 ……まずは、魔力のことを。

 生まれ持った魔力の高さゆえに、王弟殿下の魔術師としての資質は高かった。それは事実である。

 だが、それだけでは歴史に名を遺す魔術師にはなれまい。独自に術式を考案し、形として後世に残してこそ、その偉業を称えられるのだ。

 にやり、と笑う。びくりと肩を揺らす王弟殿下に構わず、私は最も殿下の胸に刺さる言葉を口にした。


「努力が必要ですからな? 良き王族となることにも、素晴らしい魔術師となることにも」

「う……煩い! 煩いぞ、ファクル公爵! 裏切者の分際で、よくも私を侮辱できたものよ!」

「ははっ! おかしなことを言われますなぁ。……私は殿下に忠誠を誓ったことなど、ありませんが」

「な……に?」


 目を見開く殿下に対し、私は更なる毒を吐く。


「当然でしょう? 今代の王は貴方の兄上様ですぞ? 現在は王弟でしかない貴方に忠誠を誓うならば、ファクルの名など名乗れません。国を任せるに相応しい方ならば、忠誠を誓うでしょうがな。宜しいですか、『王位の簒奪を狙う以上、反逆罪に問われても仕方ない』のです。たとえ、それが王弟という立場にある方であっても。現在のアルベルダ王が簒奪者呼ばわりされるのは、そういった経緯があるからなのですよ」

「……何故、アルベルダ王は王となれたのだ」

「簒奪者であろうとも、王家の一員です。王となる資格は元から有している上、あの方には王となる才覚も覚悟もあった。それでも王位に就いた当初は、内部に多くの敵がいたと聞いております。『彼らを納得させ、民に望まれた』。それこそ、あの方が王となることを認められた背景ですよ」


 綺麗事だけでは済まない状況だったろう。不名誉な噂も、心ない言葉も、過ぎるほどあったはず。

 けれど、それを乗り切ったからこそ、あの方は王として認められた。現在のアルベルダ王ほど『継承権や血筋が全てではない』と証明する方はいないだろう。


「アルベルダ王という『比較対象』があるからこそ、ガニアには血筋のみを優先する者ばかりではありません。……王となった場合、各国の王達と腹の探り合いをすることになるのです。殿下は……それに勝つ自信がおありですかな? 言い包められれば当然、配下達から糾弾されますぞ? その責を取るお覚悟がおありか?」


 耳当たりのいいことばかり吹き込む者達は、こういったことを告げていまい。王位に就くことで背負うものは桁違いの重さになり、その重さに潰された者も少なくはないのだから。


「殿下はその恐ろしさを知るべきでした。王位を望むならば、それを背負えるだけのものを身に付け、批難する声を捻じ伏せるだけの努力をしてみせなければならなかった。その上で、兄上様よりも己の方が王に相応しいと名乗るべきだったのです。……貴方が王位に就く可能性もあったのですよ。それを潰したのは、殿下ご自身ですぞ」 

「……」


 反論の言葉はない。それも当然だろう……殿下はすでに『他国の王族達の恐ろしさを知っている』。その経験が、己が無謀さを思い知らせたに違いない。配下はあくまでも補佐であり、王の代わりとなれるはずはないのだから。

 あの断罪の場で繰り広げられた、魔導師と各国の王族達の遣り取り。完全に魔導師の味方といえたのはエルシュオン殿下のみで、それ以外の方達は『其々が納得したからこそ、魔導師に味方した』。

 それが王というものなのだ。一国を背負う以上、個人の感情や好意的な程度で味方などしない。

 少し判断を誤れば、その人脈さえ消える一幕。それなのに、あの魔導師は実に楽しげに乗り切ってみせた。陛下が魔導師の言葉を受け入れたのは、それらを目にしたことも大きいだろう。


 己が命がかかっていようとも、その提案がどのような未来を招くか判っていようとも、『遊び』を止めない。

 それが魔導師。唯一、魔王殿下が懐かれたという『化け物』。


 狂人と呼ばれないのは、確実に結果を出すことと……被害を最小限に留めるよう望むエルシュオン殿下がいるからだろう。

 まあ、エルシュオン殿下は元から狂犬達の飼い主なので、黒猫が一匹増えたところで今更なのかもしれないが。


「ご理解されたようで何よりですよ。……ああ、陛下はシュアンゼ殿下に対するお言葉を望んでいたようですが、特になかったと伝えておきます。シュアンゼ殿下の才覚を目の当たりにした以上、己が息子とはいえ、恐ろしいでしょうからな」

「シュアン、ゼ……」

「ええ、シュアンゼ殿下です。陛下にとっては可愛いご子息ですが、殿下にとっては違うでしょう?」


 これまでどのような扱いをし、どれほど酷い言葉をかけてきたのか、自覚がないわけではないのだろう。そして現在、シュアンゼ殿下は魔導師さえも味方につけた強者という認識をされている。寧ろ、シュアンゼ殿下自身が見せつけてきたというべきか。

 そのような存在に対し、王弟殿下が向ける感情が『我が子に対する申し訳なさ』などというはずもなく。


 ……恐怖に顔を引き攣らせ、盛大に震え出した。


 ああ、だから『シュアンゼ殿下に対しての言葉を望まない方がいい』と進言したというのに。

 まったく、陛下は判っていらっしゃらない。王弟殿下とシュアンゼ殿下の間にあるものは冷え切るどころか、鋭い刃となって互いを傷つける氷そのものなのだから。

 幼い頃の感情を引き摺るほど、シュアンゼ殿下は愚かではない。寧ろ、切り捨てて明日に繋げる方だ。そもそも、己を切り捨てることさえ躊躇わなかったじゃないか。

 シュアンゼ殿下の価値観は『自分にとって大切な存在』と『それ以外』で構成されている。だから、敵にならない限りは『興味を抱かない』。似た者同士だからこそ、あの魔導師とシュアンゼ殿下はとても仲がいいのだろう。

 もはや話し合いにならないと、ずっと黙ったままのクルーデリス……王弟妃に顔を向ける。クルーデリスは蒼褪めながらも、縋るような目を私に向けていた。

 それでも縋る言葉を紡がないのは……シュアンゼ殿下のことを聞かされたからだろう。切り捨てられているのはクルーデリスも同様、迂闊なことをすれば……とでも考えているのか。

 まあ、それは実に正しい解釈だ。私が余計なことを伝えれば、シュアンゼ殿下は即座に行動に移すだろうから。

 そうだな、『最後に両親と言葉を交わしたい』とでも言いだして、自分でトドメを刺しに行くだろう。その『最後の言葉』が恨み言か、心を抉る言葉かは判らないが、間違いなく再起不能に追い込むに違いない。

 ……。

 ふむ、私も親として最後の言葉を送ろうか。


「なあ、クルーデリスよ。国に掛かりきりで、お前の教育にろくに口を出せなかったことは、私にも非があろう。だが、その数少ない中にあった叱責や教育係の苦言を無視し、ただ甘やかす母親に逃げたのはお前自身だ」


 家に帰る度に、子供達には其々言葉をかけてきた。息子達は厳しい言葉をかけても食らいついてくるような子達だったが、クルーデリスだけは耳を塞ぐばかり。

 いくら良い教育係をつけても、私が居ない間は女主人である妻の言葉には逆らえない。クルーデリスは自分に甘い母親を利用して、厳しい言葉から逃れてきた。


「知っているか? お前が王弟妃として相応しくない振る舞いをする度、お前の母は実家を継いだ兄に叱責されていたのだぞ? 『夫が多忙ならば、家を守るのは女主人の務めだろう。我らの母は確かに愛情深い方だったが、ただ甘やかすような愚か者ではなかった! お前はファクル公爵家の名を地に落とすような真似をしてきたのか!』と」

「お母様、が?」

「当然だろう? お前の母親は家族に愛されて育った。私が寂しい思いをさせたことも一因だろうが、私とて、遊びまわっていたわけではない。……女主人ならば、家を守る義務がある。それなのに、お前があの状態なのだ。その原因が母親であることは、たやすく察しがつく」


 というか、息子達も妹や母親を諫めてはいた。妻はそんな息子達よりも、甘えてくる娘が可愛かったのだろう。

 だが、家の中では『ただの我儘』で済むものも、社交界に出ればそれで済まなくなる。妻は社交界の評価を受け、自分の罪深さを初めて自覚したのだ。


「お前が社交界に出るようになってから、母親は色々と言ったはずだ。……あれも必死だったのだよ。お前をあのままにはできないと、漸く悟ってな。だが、お前は自分に甘い母親以外は要らぬとばかりに、母親を避け出した」

「だって、お母様は私に厳しいことばかり言うんですもの。それまでは何もおっしゃらなかったのに」

「……。お前が息子を蔑ろにしていると知った時、妻は療養という名目で領地に籠もることを泣きながら願い出た。耐えられなかったのだろうなぁ、己が罪を突き付けられるのは」

「つ、み……」

「罪だろう? 王族の妃に相応しい血筋の女を、相応しくない性根の者に育て上げてしまったことが! 周囲から聞こえてくる声、息子達からの冷たい視線……それら全てから逃げたのだ」


 そこまで告げて、私は改めてクルーデリスに視線を合わせた。クルーデリスは初めて聞くことに驚いているようだが、それだけのようであった。そんな姿に、妻の姿が被る。

 

 ――ああ、本当に良く似た母子だ。自分のことしか考えていない。


「気づかないのか、クルーデリス」

「え?」

「お前の母親はな、自分の仕出かしたことから逃げたのだよ。本当に娘が愛しいならば、最後まで傍に寄り添っているだろう。公爵夫人としての誇りがあるならば、何としてでもお前を矯正しようと努力するか、縁を切る。……お前の母親はどちらも『諦めた』。いや、『自分のために、お前を見限った』と言えばいいか?」

「!?」


 ぎょっとするクルーデリスだが、これは事実である。母親として最後まで責任を持つこともせず、ただ一人、厳しい声が届かない安全な場所に引き籠もったのだから。

 

「我が子よりも自分の平穏を選んだ母親だろうが、どう考えても。公爵夫人としても失格だろうがな。まあ、お前も自分にとって都合のいい母親しか要らぬようだし、お互い様ではあるのだろう。……いいか、クルーデリス。お前はシュアンゼ殿下に何もしてこなかった。母親としての義務さえ怠った。そんなお前に、シュアンゼ殿下を所有物のように扱う権利などない!」


 母親に見捨てられていたと気づかされ、最後の希望さえ私に砕かれたクルーデリスは、呆然としたまま涙を流す。それこそ、クルーデリスが未だに甘い考えをしていたという証であった。

 クルーデリスには『シュアンゼ殿下を生んだ』という強みがある。魔導師の報復を免れたことにシュアンゼ殿下が関わっている以上、我が公爵家を取り込みたい者達がそれを訴えてくる可能性があった。

 確かに、今まで色々とやらかしてきたのは王弟殿下であるし、魔導師の滞在中に起こった毒殺未遂事件では、犯人達の妻子が見逃されている。そういった前例がある以上、クルーデリスが見逃されてしまう可能性もゼロではない。

 

 だが、だからこそ。ここでくだらない希望を叩き壊しておかなければ。

 そのような話が一度でも出れば、シュアンゼ殿下が即座に排除に動いてしまう。


「わ……私はあの子の母親です! そ、それに、旦那様の悪事には関わっておりません!」

「そうだな、だからどうした?」

「え? だ、だから……」

「母親としての義務を怠るどころか、息子を虐げてきたのに、縋るのか? シュアンゼ殿下は恩には恩を、悪意には悪意を以て返す方だぞ? そのようにふざけたことを言うならば、素直に処刑を待たせてくれるかも怪しいな」

「ひ……っ」


 クルーデリスは顔を引き攣らせるが、これはかなりの確率で起こるだろう。いや、正確には『クルーデリスを殺すのは悪意ではない』。シュアンゼ殿下としては、ただ邪魔者を消すに過ぎないのだから。

 シュアンゼ殿下は両親に対し、どこまでも無関心なのだ。悪意さえ向ける価値はないと、心底思っている様子が窺える。

 脅えきった二人に満足し、私はひっそりと笑みを深めた。あの魔導師の要求を叶える意味でも、この二人には大人しくしてもらわねばならない。まして、この二人のためにシュアンゼ殿下が泥を被るなど、許せるものではない。

 必要ならば、何度でも絶望に叩き落してやろう。それを非道と呼ばれようとも、一向に構いはしなかった。


「それでは、そろそろ失礼させていただきますね。ああ、お二人とも……くれぐれも、妙な気を起こされませんように。耳に優しい言葉がどれほど信用できぬものなのかは、今の貴方達ならばご存知のはず」


 ――あれほど慕っていた貴族達は誰も姿を見せませんからなぁ?


 それだけを告げて一礼し、部屋を後にする。案じるような視線を向けてくる騎士達に苦笑を返し、私は在るべき場所へと歩き出した。

 問題は山積みだと判っているが、妙に気分がいい。そんなことを思わせる任務だった。

   

ファクル公爵家の令嬢が王弟妃に→ファクル公爵が王弟のフォローをしている→王弟の派閥認定。

上記の理由で、王弟の派閥だと周囲に思われていました。まあ、普通はそう見えます。

ガニア王に対し、厳しいことを言っていたのも原因。それさえも利用するのがファクル公爵ですが。

なお、シュアンゼに関するファクル公爵の懸念は正解だったり。

シュアンゼに対する認識は、ガニア王とファクル公爵で天と地ほどの差があります。

※現在、ヒロイックソングス!にて、魔導師とのコラボクエストが楽しめます。

 ドロップアイテムなどは魔導師に馴染みのあるものとなっておりますよ♪

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