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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
幕間

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325/705

小話集28

小話其の一 『日本人による米騒動、その後』


 イルフェナの騎士寮、その一室。そこは――


「美味しいね、グレン……! 米だよ、お米様だよ!」

「そうだな、ミヅキ! 儂らの苦労は報われた……!」


 おにぎりを手にした私とグレンの楽園と化していた。呆れた眼差しで見守るのは騎士sとゴードン先生である。

 なお、魔王様とアル、クラウスの三人は、魔王様の執務室で食していたりする。……お仕事が忙しい魔王様への差し入れなのです。使った食材、その調理法をきちんと明記した上での、サプライズなのですよ。

 魔王様達は身分のある人達なので、新しいものを試す場合、こういった手順は必須。作る過程も騎士寮の料理人さん達か、騎士sの監視が必要だ。

 人によっては、『私を信じていないの!?』とか思うのかもしれないが、元の世界の常識を持つ私からすれば『当然』という一言に尽きる。


 政府要人に、得体の知れないものを食べさせるか? ないだろ?


 しつこいほどに徹底させるのは私に対し、いらん疑惑を抱かせないためでもある。勿論、一番は魔王様達の安全を考慮してのことではあるけどね!

  

「ふむ、面白い食感だな。確かに、甘味とは別物のようだ……ミヅキ達はこれが目当てだったか」

「私とグレンの出身国では、主食になっている農作物ですよ」

「ほう、これがなぁ」


 先生は米に興味津々な模様。手にしたおにぎりを眺めたり、食べたりと、忙しい。騎士sもおにぎりが気に入ったらしく、文句も言わずにもそもそと食べている。

 余談だが、おにぎりに巻いた海苔は、料理人さんの帰省土産だったりする。漁村の出身らしく、『ミヅキに馴染みがあるかもしれないから』と、色々と持ち帰ってくれたんだよね。

 その中の一つが海苔。海藻類は乾燥させたり、塩漬けにしたりして、保存食になっているそうだ。ここらへんは元の世界と同じだろう。野菜の代わりにもなるし、地域によっては珍しくないとか。

 ただ、海苔単体では今一つ使い道に困る食材のため、一般には流通していないそうだ。私もこれをメインに何か作れと言われれば困る――調味料などが不足しているため――ので、暫く貯蔵庫で眠っていた。

 この世界はこういった『生産地限定の食材』が多い。元の世界……特に日本のように、割と何でも流通しているわけではない。

 それを探すことから始めなければならないため、異世界人が遺したレシピが限られた物になってくるのだろう。料理好きでも、食材不足のために作れないことが多いのだ。

 その点、私はかなり恵まれた状況にあると思う。異世界人がこれ以上の環境に置かれることはまずないと思われるため、食材の発掘と密かにレシピを根付かせることが、最大の貢献と言えなくもない。

 他国の皆様が割と協力的なのは、そういった事情を判っているからだと思われた。自分達にも恩恵がある案件なので、『自分達も協力するよ♪ だから仲間に入れてほしいな♪』という心境なのだろう。


「飼料になったりしていたから、本格的にこちらに回してもらえるのは一年後かな。私との契約があるから、王家の主導で労働力や土地の確保もしてくれると思う」

「まあ、いきなり寄越せと言われても困るだろう。下手をすれば、来年の種籾がなくなってしまうしな。こちらの分を生産できる状況を整えてくれるならば、儂とて文句はない」

「今後を考えたら、このくらいの我慢は必要よねえ」


 私の説明に、協力者であるグレンも納得の表情で頷いた。グレンは国の政を担う立場にいるため、こういった事情に理解がある。

 単純に『約束だから、米寄越せ!』というものではないのだよ。今後も安定した供給を望むならば、その準備期間は必要だ。ガニアがごたごたしていることも踏まえ、長い目で見守る所存です。

 何より、ガニアとしても『魔導師との接点』という利点がある。私が契約しているのはシュアンゼ殿下……『国王派』。どうしようもなくなった場合、『こちらが負けたら米の契約が無効になるけど、構わない?』という最強の言葉が、私達に対して使えるのであ〜る!

 私とグレンにそんな事態を許すという選択肢はないため、速攻で乗り込むことは確実。あらゆる知略と人脈を駆使し、私達からお米様を奪う存在を滅してくれる。


 ガニアよ、来年は期待している。今すぐ米寄越せ! なんて無茶は言わん。

 働きによっては、末永く仲良くしようじゃないか。


「陛下はお前が作るものを気に入っているから、これも気に入ると思うぞ。というわけで、土産を頼む。中の具は今食べているささみと梅のマヨネーズ和えが美味いな。ああ、塩鮭モドキを解したものでもいいかもしれん」

「らじゃー! ウィル様も半ば協力者みたいなものだから、それは構わない。だけど、どうせなら握りたてを食べさせたいから、向こうに戻った直後に連絡を寄越せ。手紙用の転移法陣で送ろうじゃない!」

「おお! 是非とも頼む!」

「任せろ! 前に頼まれたアルベルダ用の梅干しも仕込み済みだ!」


 快諾すれば、グレンは嬉しそうに笑った。私にとっての魔王様的存在が、グレンにとってのウィル様だ。『美味い物を食わせたい。自分の世界の食べ物を紹介したい』というのは、ごく自然な感情です。

 魔王様にしろ、ウィル様にしろ、『王族におにぎりを食べさせるんかい!』という、声なき突っ込みが聞こえるのは余談である。異世界料理でなければ、まず間違っても口にしない食材――飼料とかにも使われていた穀物のため――だからね。


 それを可能にしたのが、『魔導師が苦境を受け入れてまで、欲した食材』というエピソード。


 ……イルフェナには私の奮闘の裏にあった『目的』がバッチリばれているのです。報告書を二度見されたり、色々な人達に何度も確認されましたとも……!

 勿論、馬鹿正直に答えました。私にとってのガニアの一件は、報復と食糧事情で構成されております。人は己のためならどこまでも頑張れるし、私は自己中だって自己申告してるじゃん?

 色んな人達に『馬鹿だろ、こいつ』と言わんばかりの目で見られたけれど、気にしない! 魔王様の一件に対する報復が含まれていたのも事実だもの!


「グレン、夕食は丼にしよ! ネギ塩だれの肉を沢山盛ってさ!」

「おお、いいな! くぅ……久々の米が美味過ぎる……!」


 嬉々として提案すれば、即座に乗るどころか、涙ぐむグレン。グレンにとっては数十年ぶりの米なので、感動も私以上のものがあるのだろう。

 判る、その気持ちが判るぞ、グレン! これからは素敵なお米ライフを楽しもうな!

 そんな私達を、騎士sは生温かい目で見つめていた。


「こいつらの行動理由って……。ガニアには聞かせられないな」

「二人の会話を聞いてると、殿下が自分を責める必要ないよな。食い物のために、ガニアをあの状態にしたのかよ……」


 煩いぞ、騎士s。文句があるなら、お前達に米を食わせないからね!?


※※※※※※※※※


小話其の二 『猫耳騒動、その後』


 全円のペチコートに、同じく全円仕様のロングのワンピース、無駄にフリルが満載のエプロンは純白。そして、頭には……メイドカチューシャにリアルな猫耳。

 これが現在の私の服装だったりする。何で、こんな服装に着替えたかと言えば。


「可愛いわぁ〜! いいわね、素敵ね、女の子って感じで!」

「……ジャネットさん、喜び過ぎ」

「いいじゃない! 猫耳がなくても可愛い服だけど、猫耳があるとより可愛らしいのね〜」


 騎士寮の食堂を利用できないジャネットさんや女性騎士達のリクエストだったりする。女性騎士達が騎士寮の食堂を利用するわけにはいかないし、魔王様の執務室を用もなく訪ねるわけにもいかない。

 ――その結果。

『猫耳を着けたまま、昼食を提供してあげてください』という、クラレンスさんからの命令……いや、お願いをされたのだ。

 ……で。

 いつものように騎士sを伴い、昼食を持って訪れた際、


『どうして、黒騎士達は猫耳を作ったの?』


 という、非常に当たり前の疑問をぶつけられたのだ。

 ですよねー! いい年をした男達が揃って猫耳製作とか、『何があったんだよ』と突っ込まれるのが当然です。

 特に隠す必要はないため、『異世界の萌え文化を話したら、斜め上の解釈をされました』と馬鹿正直に告げたところ、即座に『そちらを見たい!』という方向になったのだ。騎士といえども女性である以上、可愛い物が好きな模様。

『自分に似合わない分、他のものに求めるのよ!』と女性騎士の一人が力説していたが、私に求めるのは間違いだと思う、今日この頃。

 種族的な骨格の差で華奢には見えるかもしれないが、中身は異世界人凶暴種。外道と評判の魔導師です。

 まあ、そんな遣り取りがありまして。

 そこから先は、ジャネットさんの強力なプッシュによってお着換えです。ジャネットさんがこういった我儘を言うことは非常に珍しく、猫耳も本日限定ということで、私も乗りよくお付き合い。


 擦れ違う人達の視線が生温かいのは綺麗にスルー。

 どうせ猫耳付きじゃん、今日一日は。


「ところで……話を聞く限り、ミヅキは『可愛い物』みたいな感じで話したのよね?」

「そうですよ? この服もその時に見せましたから。この服だって可愛らしさ重視で、機能性重視じゃないですし」


 猫耳はフリル一杯のメイド服のオプションだった。……そう、オプションだったんだよ、猫耳は!

 それが一体、何を間違って『リアルを追求しろ! 異世界の技術に迫れ!』になったんだろう……? 実に、疑問だ。


「あの人達、自分の興味のある物しか見てないからなぁ」

「猫耳しか心に響かなかったんじゃね?」


 騎士sが当時を思い出しながら口にすると、女性騎士達の間に微妙な空気が流れた。

 余談だが、彼女達は間違っても翼の名を持つ騎士達に恋心を抱かない人達である。彼女達曰く、『主と同類だけで人生が成り立つような連中相手に、そういった感情を持つだけ無駄』だそうだ。

 ……。

 おそらくだが、特殊性癖といった要素も理由の一つになっていると推測。奴らの現実を知っていれば、『ないわー』という一言で終了するのが普通だろう。


「どうせなら、この服装でぬいぐるみを抱っこしてほしかったわぁ……アルバートが自慢していたのよ。ぬいぐるみを抱き抱えて見上げてくるミヅキが凄く可愛かったって!」

「ああ、さっきの出来事ですね。私と魔王様を見た団長さん、物凄くいい笑顔でしたから」

「殿下も可愛かったでしょうねぇ」


 うっとりと語るジャネットさんの頭の中では、私と魔王様の頭に猫耳が着いているのだろう。やはり、魔王様の猫耳装備は違和感がない模様。ぬいぐるみと似ていることもあり、近衛騎士達からの評判は上々だ。


 恐怖の対象から一変、親猫としての認識は順調に広まっている模様。

 誤解が解けて良かったですね、魔王様! ……『猫耳が似合う』という評判が良いことかは別として。


 ジャネットさん達の様子を眺めながら、執務室に居るであろう魔王様を想う。

 魔王様は私共々、今日一日は猫耳装備が確定している。金色の猫耳を着けた魔王様は猫親子(偽)に見守られながら、もくもくと執務をこなしているのだろう。

 時折訪ねてくる人達の反応に、遠い目になる姿まで目に浮かぶじゃないか。それを苦笑して見守るアル達だって、この悪戯の共犯者……まあ、『悪戯の対象者、その本命が誰だったか』は別として。 


「今日は一日、猫耳を着けたままですよ。魔王様の貴重な姿を目にできるチャンスです!」

「本当!? ちょ、ちょっと仕事を探してみようかしらね!?」

「ジャネット様、狡いです! 私達だって、殿下の猫耳姿を見たいんですよっ!」

「そうですよ! きっとお似合いです!」


 だから、ちょっと被害を拡大させてみましょうか。騎士寮面子やクラレンスさんの企みって、魔王様に親しみを持たせる事のような気がするしね!

米騒動&猫耳騒動の後日談。

米騒動では主人公の、猫耳騒動では魔王殿下のイメージに影響が出ました。

イルフェナにおいて、良くも悪くも、二人への親しみやすさアップ。

※活動報告に魔導師19巻のお知らせを掲載しました。

※PCブラウザゲーム『ヒロイックソングス!』とのコラボ企画のお知らせを

 活動報告に載せました。

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