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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ガニア編

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変わりゆくガニア

――ガニア王城にて


「……どういうことだ、これは」


 呆然と呟くのはガニア王。その隣では王妃様も困惑気味。

 そうなった理由は簡単だ。私が『事後報告として』! 先日の一件の『全て』を報告したからであ〜る!

 あれですよ、シュアンゼ殿下を狙ったらしい襲撃。それを『魔導師を狙った』という感じに改変し、他国にばら撒いたのだ。

 この一件はある程度、事前に察知されていたらしく、私は所謂『襲撃の確率を上げるための囮』として使われた。勿論、相談なし。嵌められましたよ、シュアンゼ殿下とテゼルト殿下に!


 ……が、そうなった事情も判るんだな。原因、私にもあるもの。


 原因というか、私がシュアンゼ殿下を隠れ蓑にしてあれこれやらかしていることが犯人達の不安を煽ったのだろう。テゼルト殿下を次代として認識する者達にとっては、シュアンゼ殿下が力をつけることが嬉しくないわけだ。

 シュアンゼ殿下が力を付ければ、その親である王弟殿下が調子に乗る。それどころか、今度はシュアンゼ殿下を次代の王に据えて、自分が権力を握ろうとするだろう。

 実際は、その可能性は皆無だ。シュアンゼ殿下は大人しそうな顔と華奢な外見に反して、腹黒い上に気が強い。何より、自分の両親が大嫌いなのである。

『奴らに権力を握らせるくらいなら、自分ごと沈めてやらぁっ!』な発想を地で行く人なので、絶対にその未来はありえないだろう。

 そもそも、シュアンゼ殿下は国王一家と仲良しであり、テゼルト殿下とは兄弟のような関係を築いていた。それを知っていれば、今回のような騒動も起こらなかったのだろうが……シュアンゼ殿下の性格や王弟夫妻に対する考えを知る人が少な過ぎた。

 これはテゼルト殿下達がシュアンゼ殿下を安全な場所に囲っていたことにも原因があるだろう。権力者達に利用させないためではあるのだろうが、弊害もある。

 現に、シュアンゼ殿下自身の意志や性格を知る人達が殆どいない。これでは現在の状況から、テゼルト殿下の敵扱いを受けても文句は言えん。

 しかも、見た目の印象で気弱なイメージしかないため、王弟夫妻の駒認定を受けている。一度でも怒鳴り合いの喧嘩でもしていれば違ったのだろうが、肝心の王弟夫妻とエンカウントしないのだ。

 結果として、シュアンゼ殿下は未だに『両親に見捨てられた哀れな王子』やら、『足が悪く、引き籠もるしかできない王子』という印象が強かった。

 

 誰のことだよ? と突っ込んだ私は悪くない。悪くないぞ、絶対に!


 いや、足が悪いってのは事実ですよ。それはいい、そこは正しい。だけど、『哀れな王子』ってのは絶対に嘘だ。

 シュアンゼ殿下にはラフィークさんやテゼルト殿下達が居た。『孤独ではない』んだよ、少なくとも。

 しかも、テゼルト殿下は割とシュアンゼ殿下に何でも話すため、情報に疎いとか、情勢を知らないというわけではない。


 最初に捕獲されましたよね、私。


 仕込み杖を鈍器扱いして、女性をぶん殴ってましたよね。


 今回だって、私を平然と巻き込んでましたよね……?



 おい、『哀れな王子様』ってのは誰のことだ。私は『腹黒く、容赦のない王子様』しか知らんぞ?



 身動きできず、遠巻きながら人の悪意に晒され続けた繊細な王子様(証言者:王妃様&ラフィークさん)は、それはそれは凄まじい成長を遂げられていたようだ。

 しかも身動きできない分、その成長は内面オンリー。立派に、魔導師とも遣り合えるような逸材にお育ちあそばされた模様。灰色猫は意外と凶悪だ。


 ……とはいえ、私にも魔導師としての意地があるもので。


『リアルに再現! 御伽噺的展開に学ぶ、【王子と乙女の脱出劇】(改変版)!』が決行されたのだった。

 キャスト的には間違っていない。『リアル王子様とリアル乙女が、襲撃者の魔の手から脱出する』という内容に偽りはない。ちょっと違うのはその内容で、『王子様を抱っこして逃げるのは乙女の方』とか、『泣いたのは襲撃者の方』といったコメディ要素が追加されているだけだ。


 だって、私は魔導師ですもの。

 最高のエンターテイナーとして、皆様に笑いを提供したいじゃないか!


 そう、『皆様に笑いを提供する』のですよ……!

 つまり、以前にお手紙を送った各国に、映像と経緯を書いた手紙を送っちゃった♪ 皆は物凄く楽しんでくれたらしく、評判は中々である。

 ルドルフに至っては、『面白そうだから、今度うちでやろうぜ! 多分、アーヴィやセイルに追っかけられるけど』というコメントが来た。さすがだ、親友。そのノリの良さが大好きだ!

 ちなみに、セシルも似たような反応だった。ただし、こちらは『魔導師をお姫様抱っこしたい派』である。王妃様達や侍女の皆さんも『セレスならば似合いそう!』という反応だったとか。

 逆に深刻だったのは、バラクシン。教会派貴族を〆たあれこれがあるだけでなく、『お兄ちゃん呼び』の前科があるため、『ちょ、待て! もしや、我が国でも行われる可能性があったのか!?』とばかりに、パニックになったとか。

 ……。

 そういや、腹違いの王弟だったね、ライナス殿下。自分達に似た状況だからこそ、怖いのか。

 勿論、『【今は】やる気はありませんよ』とお返事しておきました。『何もない限りはやらないけど、余計なことをしやがったら……』という脅迫です。アリサがいる以上、当然ねっ!

 キヴェラはさすがに落ち着いているというか、完全に他人事としてのコメントだった。以前に私がやらかしたことに比べたら、インパクトがなかったことが敗因と思われる。

 ちっ、もう少し凝るべきだったか……!


 ただ、どの国も一様に襲撃者達には同情的だった。

 それも含め、ガニア王へと『襲撃者達の忠誠に免じて、減刑を』と言ってくれたらしい。


 計画的に巻き込んだことを逆手に取る形でシュアンゼ殿下には納得してもらったため、不敬罪に引っかかることはない。寧ろ、真面目な襲撃者達の方に同情が集まる展開だ。それもまた、自然な流れではあったろう。

 だが、私はグレンの暗躍だと信じて止まない。私の協力者として、他国が私の味方になるよう働きかけてくれたと思っている。

 そんな背景を知らなければ、ガニア王達の反応は当然と言えるだろう。『他国からのお願い』とは言っているが、ここまでくると立派に脅迫だ。これらを無視して処罰……という真似はできんわな。


「どういうことも、何も。見た通りでは? 皆さまは自国でのことがあるから、襲撃者達に同情してくださったのでしょう。欲に目が眩んだ愚か者ならばともかく、彼ら、いえその首謀者は……『テゼルト殿下の側近』でしょう? もしくは、近い位置にいる方でしょうね。主への忠誠のために一族郎党の人生を投げ出すなど、立派じゃありませんか」

「……。やはり、気づいていたか」

「昼間の襲撃、しかも予想されていたもの。そして、現在のガニアの情勢。それを踏まえれば、導き出すことは難しくはありません。何より、シュアンゼ殿下が救済を願っています。……その願い、叶えますとも。魔王様との約束、そして私自身の望みもありますから」


 微笑んで告げる私に、ガニア王は怪訝そうな顔になった。おそらく、私がシュアンゼ殿下と交わした契約が予想外だったと思われる。……シュアンゼ殿下、王族といっても権力とかほぼないからね。交渉材料がないと思われたんだろう。

 だが、そんなことはない。シュアンゼ殿下は、魔導師とアルベルダの知将が一丸となって欲するものを与えることができるのだから!

 この契約によって、私には『お米食べ放題(無料)』が約束されている。その期限は『シュアンゼ殿下が生きている間』。

 契約内容的に、シュアンゼ殿下には王族でいてもらうことも必須。身分が変われば領地や待遇、権利なども変わってくるため、現在の地位――王族としての身分――はどうしても必要なのだ。

 勿論、それはかなり難しい。王弟殿下のこともあるし、シュアンゼ殿下自身の機嫌を損ねても拙い。『シュアンゼ殿下の望む決着にしつつ、王族としての立場を維持』という、Sクラスのミッションです。

 ……しかし、私は大和魂を持つ誇り高き民族であって。


 不可能を可能にしてこそ、『何事も凝り過ぎて変人の域』と言われる日本人!

 萌えのままに薄い本を量産する人々の如く、全力投球する所存にございます!

 米を愛する日本人として、やるしかなかろう……!


 ……などという気持ちを隠して、私は笑みを深めた。ガニア王達は敵ではないが、私の味方でもない。だからこそ、彼らもあの襲撃の囮として私を組み込んでいた。

 それを咎める気はないし、魔王様達にも咎めさせない。いや、あの人は私を案じつつも、さすがに今回のことは怒るか。……怒りの矛先が私オンリーならば、問題なし。

 まあ、ともかく。

 今回は『忠誠ゆえに襲撃を企てた者達』を起点に、『シュアンゼ殿下を狙う輩達への見せしめを狙う者達(=テゼルト殿下達)』と『米寄越せ派(私&グレン)』の争いとなったわけだ。焦点となるところが掠りもしないのは、互いの状況の差と思っていただきたい。


「ねぇ、王様? いくら北の大国といえども、他国の王達からの『お願い』を無視できます? 勿論、騒ぐ人達は出るでしょうけど……『彼らは王達を黙らせることができる』のかしら?」

「……っ」


 くすくすと笑いながら告げる私は異様に見えることだろう。少なくとも、笑いながら口にする内容ではない。


「私は『私自身が襲撃されたこと』なんて、怒っていませんよ? 随分と楽しませてもらいましたから」

「……ほう? だが、エルシュオン殿下が何というか」

「言わせませんよ、そんなこと。『被害者が【罪はない】と判断している』んですよ? それで騒ぐならば、まるでイルフェナがガニアに強く出るために画策したように見えてしまうじゃないですか」


 事実である。被害者からの訴えがなければ、犯罪は成立しない。

 ぶっちゃけ、私の方が加害者だ。映像を最初から見ていれば被害者だと判るだろうが、都合よく後半だけを見せれば加害者と見られても仕方がない。


「本当に大丈夫ですよ? 『ガニアが【自分達は被害者だ】と言えば、危うかった』でしょうけど。……誠実さって重要ですよね。政には時に嘘が必要ですが、偽りない言葉が必要な時もある」


 命拾いしましたね! と告げて拍手すれば、ガニア王は深々と溜息を吐いた。


「その言葉を聞けただけで、安心できる。今回のことはどう取り繕っても、イルフェナに申し開きができん。今ここで私に告げる以上、エルシュオン殿下からの許可は得られたのだろう?」

「はい、勿論! 他国からの言葉もあって、納得してくれたみたいです」


 魔道具を通して、怒鳴られたけどな! 長々説教されたけどな……!

 そんな恨み言を言うつもりはない。魔王様からの説教は想定範囲であり、ストップさえかからなければいいのだ。最悪、帰国の命が下されなければ問題ない。

 

「そうか。それだけは感謝しよう。……そなたが何を狙っていようとも、我が国の害となるならば、防げばいいだけだ」


 一つ溜息を吐いた後、ガニア王は視線を私に向けた。その眼差しは強く、笑みを浮かべた私を探るよう。


「あら、私は当初から魔王様との約束を守っているだけですよ? ……貴方達が余計なことをしなければよかっただけでは?」

「そうであろうな。だが、我々も漸く覚悟を決めた。事態が動き出した以上、形振り構っていられないとは思わんかね?」

「……。そうですね、足掻く姿は嫌いじゃないです」


 王弟殿下の追い落としは決定事項らしい。その一環として、味方側の不穏分子の切り捨てを行なったのか。

 ある意味、正しい選択だろう。忠誠心に目を曇らせたのか、焦ったのかは判らないが、あの襲撃はあまり賢い遣り方ではない。下手をすれば、ガニアという国を傾かせる事態になっていた。


「彼らはちょっと考えが足りませんね。私がここに居ること、そして『結果的に国王派に助力するようになっている』のは、シュアンゼ殿下がいるからなのに」

「そうだな、奴らはそれを理解しておらん。まあ……今回のことで、嫌でも理解できただろう。次はないがな」


 少しだけ、ガニア王の顔に悔しさが滲んだ。予定では見せしめにするつもりだったため、他国の介入に屈したように感じているのかもしれない。 

 あまり王という立場に執着がないように見えていたが、どうやら意外とプライドがあったらしい。いや、色々と騒動が起こった果てに自覚したというべきか。


「簡単には、そなたの思い通りにならんぞ? 我らとて、意地があるからなぁ」

「ふふ、期待しています」


 宣戦布告にも似た言葉に、笑顔で返す。さすがに呆れたのか、ガニア王は肩を竦めて張りつめていた雰囲気を消した。

 嫌だな、私は『自分に素直』であって、『誰が障害となろうとも気にしない』のに。


 ――上等じゃないか。だけど、最後に笑うのは私。

 

 寧ろ、ガニア王は良い顔をするようになったと思う。当初の、どこか優柔不断そうな様が今は見られない。

 これならば、どのような結果になったとしても、王としての采配を振るえるだろう。後々、他国の王にガニアで起きたあれこれを突かれ、言葉に詰まるようでは困る。


「さて、私は酒盛り会場に行きますね。ウィル様からお酒貰いましたし!」

「うむ。そなたの希望した参加者達はすでに待機しているはずだ」

「ありがとうございます!」


 それじゃ! と片手を上げて、その場を後にする。ちらりと、視界の端に王に寄り添っている王妃様が見えた。その表情は、どことなく嬉しそうに見える。

 王を案じてはいただろうに、王妃様は会話に入ってこなかった。それは『国の最高権力者』と『他国の代表者のような立場である魔導師』の会話だったから。

 本当に賢い人だ。一歩引いて二人の会話を冷静に聞くことも重要だし、私を観察する役目も担えるものね。何より、下手な口出しはガニアの評価を下げると判っていたのだろう。


「それじゃ、テゼルト殿下達を誘って行きますか」


 この飲み会、『関係者は全員参加』となっていた。しかも、『仲直り用』となっているので、飲み会面子には襲撃者達も含まれていた。

『酔い潰せ・報復は二日酔い程度に留めておけ』という意図が透けて見えるような気がするのは、気のせい。グレンなら私が酒に関して無敵ということも知っているだろうけど、酒をくれたのはウィル様である。偶然ですよ、偶然。

 さあ、楽しい楽しい飲み会といきましょう? 大丈夫! 無礼講にする気、満々だから!

前話の後、主人公は親猫にがっつり怒られました。

誘拐されかけた本人がガニアに行くわけにもいかず、結局は長時間のお説教に。

なお、グレンの暗躍は正解です。

そして、酒を送ることをウィルフレッドに提案したのもグレンです。

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