保護されました
「ほう、異世界人とは珍しい」
私を回収して村に連れてきてくれたゴードン先生――この村のお医者様だそうな――はあっさりと理解をなさいました。
そう、実にあっさりと。
いやいや、もう少し疑おうよ。不審者でしょうが、どう見ても。
私の様子に何を思ったか察したのか、先生はお茶を勧めながら爆弾発言をなさいました。
「この世界には稀に君のような異世界人が来るらしい。この村にも昔から言い伝えられている」
何と! これまでにもお仲間がいらっしゃいましたか!
「あの森から見たこともない服や外見の旅人が現れるという伝承さ。彼等は多くの知識をこの世界に授けたことから『狭間の旅人』と呼ばれている」
「ハザマノタビビト?」
「彼等は確かに異世界から来てこの世界に存在した。だが、彼らについて残っている記述はその功績のみ。いつからか『新たな世界へと旅立った』という説が生まれそこからついた名だ」
ああ、なるほど。
その後の詳細が不明ってことですね。
希望的観測では無事に元の世界へ戻っていてほしいけど、普通に行方不明とか十分ありそうです。
生活できてたなら墓の一つくらい残ってる筈。何があった、一体。
私がそんなことを考えている間も先生は何冊も本を開きながら説明してくれている。
「魔法の幾つかも彼らが作ったとされているが…」
「魔法? あるんですか?」
「うむ、勿論あるぞ。君も魔力持ちだろう?」
……。
……。
………マジ?
かくり、と思わず首を傾げたのは条件反射ですとも、ええ。
でも先生は『何を今更』と言わんばかりに平然としている。
魔法ってあの魔法だよね?
オンラインゲームでは魔法職だったけどリアルで魔法使えるの?
ちょ、異世界一日目にしてこの展開ですか!?
「えーと……その、私は魔法がない世界から来たんですが……」
先生の表情が興味深げなものに変わった。
おお、好奇心が疼くのですね、わかります。
私も自分が魔力持ちと聞いた途端に試してみたくてたまりませんからね。
魔法使い……何やら素敵な響きです!
「試してみるかね?」
「勿論です!」
にやり。
意思の疎通はばっちりです。
先生、年相応の落ち着きが消えてますよ。確かお歳は五十間近でしたよね?
少年のごとく瞳が輝いて隠す気のない好奇心がとっても素敵。
(自分に正直な人なんだろうなぁ……正直過ぎて敵を作ってそうだけど)
一瞬そんなことを考えたけど私個人としては好ましいですよ?
私としても異世界人という前提で相談できる相手に出会えて嬉しい限りです。
この世界に居る間はできる限り貴方の知的探究心にお付き合いいたしますとも!
でも、とりあえずは折角淹れて貰ったお茶を飲んでからにしませんか。
……先生、逃げませんから落ち着いてくださいよ。