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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ガニア編

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宣戦布告は鮮やかに 其の二

――手合わせにて(ロイ視点)


 魔力がぶつかり合う感覚が伝わってくる。当然だろう……僕は三人の魔術師達から総攻撃を受けているのだから。教官特製の魔道具によって成った結界でそれを防ぎつつ、反撃の機会を窺っている最中だ。

 イクスさんとカルドさんの二人に立て続けに負けたせいか、向こうは大分頭に血が上っているらしい。それでもこれ以上負けるわけにはいかないから、三人がかりで押し切って潰そうとしているのだろう。


「これだけ連続して撃ってくる以上、所持している魔道具は攻撃魔法のものみたいですね。自己保身よりも攻撃を重視して、一気に僕を潰す気ですか」


 彼らがそのような戦法を取った理由は実に単純だ……それは『僕が魔術師だから』。至近距離からの攻撃に向かない魔術師ならば、詠唱をする隙を与えなければいいと判断したらしい。

 先に戦った二人のように武器の扱いを得意とするようには見えないため、僕の攻撃方法が魔法しかないと判断するのは簡単だったろう。そもそも、魔術師には武器を主軸にして戦う者は少ない。

 

『常識に囚われるから、負けるんだよ』


 尊敬する魔導師……教官の声が脳裏に響く。こういった攻撃に晒されると、さすがにその意味を痛感できた。あれは僕自身に向けた警告であり、同時に魔術師を相手にした時のための秘策でもあるのだろう。

 

『魔術師は接近戦に向かない』


『魔術の行使には詠唱が必須』


 教官が強いのは、こういった『この世界の常識』に当て嵌まらないからなのだ。

 これまで存在した魔導師達が魔術師と比較して規格外な存在だったとしても、脅威として伝わっているのは魔法に関する被害の大きさのみ。言い方は悪いが、魔力の高さが規格外だっただけ、という可能性もある。勿論、その高い魔力を扱いきれる腕と知識は、尊敬すべきものだけど。

 ただ……それならば、この世界の常識から外れた存在ではない。比類なき才能に溢れた魔術師とも言い換えられるから。

 その認識を覆したのが、僕達の教官となってくれた異世界人の魔導師。彼女はきっと『魔導師になったのではない』。この世界の常識を利用する上で、『魔導師と名乗っている』のだと思う。

 異世界人のままならば、彼女の能力は『異端』の一言で済まされてしまっただろう。個人の能力ではなく、『異世界の強さ』として認識されたはずだ。

 だが、魔導師ならば話は変わってくる。魔導師は……『この世界にも存在していたのだから』。この世界の常識が当て嵌まる中における『非常識』。それが魔導師ミヅキ。


『この世界の魔術師連中は頭が固いのよ。一つの事に対し、応用が殆どないの』


『守りの魔法が攻撃に使えないなんて、誰が決めたの。自分の魔法を途中で消したりすれば、相手の不意を突いた上で、次の魔法を行使することができるじゃない。使い道は実に様々なんだよ』


『そうね……例えば、魔道具で結界を張って相手の攻撃を防ぐとして。相手に隙を作れなければ、結界が破壊されるか、魔道具の魔力が尽きるかの二択でしょう?』


『だから』


『隙を作るような魔法を行使して、自分も次の行動に移れるようにする。……武器による攻撃だって、十分に狙えるじゃない。最終的に相手を倒す手段が魔法である必要なんてないでしょう? 勝てばいいのよ』

 

 どんな手を使っても勝てばいいのだと、彼女は僕達に教えた。『魔術師だから』という思い込みに囚われず、『魔法を使えることは一つの手段』として認識しろと。

 だから、イクスさんやカルドさんもあのナイフを使ったのだろう……重要なのは勝つことであり、自分だけの力での勝利に拘る必要などない。手にした武器もまた、己の一部。

 意識を集中すれば、攻撃魔法を打ち続けている三人の居場所がはっきりと判る。……ああ、本当に教官が言った通りですね。僕が攻撃を受け続けて動かなければ、相手だって動く必要はないのだから。

 反撃してこない僕を侮っているのか、それとも倒れないことに焦り始めているのか、攻撃の手が休まることはなかった。その分、集中力や魔力は消費されているので、疲労は確実に溜まっているはず。

 それらを実感した時、僕の口元には笑みが浮かんだ。余裕などない状況のはずなのに、僕はやがてやってくる反撃の瞬間を今か今かと待ち構えているのだ……!


『敵の居場所が確定』し、『相手は確実に疲労している』。そして……『僕に集中している』。


 魔道具を使って攻撃を防いでいる僕にとって、重要なのは反撃のタイミング。その一瞬を制すれば、確実に勝てるだろう。そう思い、僕は密かに複数のナイフをいつでも投げられるように用意した。

 教官の手で強度と重さを弄られた不思議なナイフ。だけど、そこに結界の術式を込めたのは僕自身。

 魔道具を作り出すような才はないけど、小さな魔石に結界の術式を込める程度ならば僕にも可能だった。元々、これで生計を立てていたので、治癒や解毒といった簡単なものならば可能だ。

 もっとも、そこまで珍しい物ではない――魔術師を名乗らない人も、治癒や解毒程度ならば使えるため――から、稼げる金額はそれなりだったけど。

 それが攻撃に活かせるなど、一体、誰が想像しただろう?


『この世界の魔法は【術者の魔力の何割を使う】という解釈になっている。暴走をしないよう、安全面に重きを置いた結果でしょうね。だからこそ、【生まれ持った魔力が高ければ、魔法の威力も高くなる】。それは事実だけど、優秀さとイコールじゃない』


『本当に優秀な魔術師は【自分で術式を改良して使う】。何故だか判る?』


『単純なのよ、そのままだと! 解呪だって、やり放題! いくら頑丈な結界でも、解析がたやすければ解くのは簡単。攻撃魔法の軌道だって読めてしまう。判らないのは威力くらいね』


『これは自分自身にも当て嵌まるからね? 自分で作り出した罠を一瞬で解いたり、予想外の動きや効果がある魔法を使ったりすれば、誰だって驚くもの。状況に応じての駆け引きが可能になる』


「はい、教官……僕はイクスさん達のように力業での攻撃ができないから、その隙を作り出します」


 攻撃……いや、『結界を張る』範囲は広く、攻撃を仕掛け続けている三人にも届くように。


『反撃に転じたら、一気にいきなさい。クズ魔石とはいえ、この小さいナイフだけならば、それなりに強固な結界が張れるでしょう。広範囲に亙る攻撃よりも、一点集中して相手の結界を破壊、もしくは揺らがせろ! 結界同士の衝突で相手の術を相殺できれば儲けものだけど、投擲そのものの威力があれば、貫通する可能性もある』


「敵の居場所は判っている。隙を作り出したと同時に、複数のナイフを投擲。二本……いや、三本の方が確実ですね。最も近い場所に居る一人は僕自身が追い詰めるから、牽制を兼ねた一本だけを投げればいい。それ以外の二人を優先的に狙います」


 投擲は得意だ。自分を守るためのものとして覚えたけれど、イクスさんとカルドさんにも投擲の腕は褒めてもらえた。だから、あの二人は僕の勝利を疑ってはいない。

 この戦法で重要なのは『投擲の威力』、そして『複数のナイフを的に当てられる正確さ』。その二つが二人よりも優れていることを、僕達は知っている。これまで過ごした時間の中で、事実として認識できていた。

 

 だから、僕がこの手合わせに負けるはずはない。何より……相手が魔術師なのだから!


 魔術師として、同じ魔術師の欠点を知る僕が、簡単に負けるわけにはいかない。そもそも、この場は教官の教えを身に付けているかの確認の場。

 僕にはそれがはっきりと理解できていた。『魔力の高さは優秀さとイコールではない』という教官の言葉を実感させるため、あの人達はこの手合わせを用意したのだろう。


「いきます!」


 聞こえないと判っていても、つい一言を。これは『手合わせ』。『殺し合いではない』。

 次の瞬間、『地面に』広範囲の結界が現れる。脆く作ったそれは使う魔力が少ない分、攻撃に集中していた魔術師達に気づかれることなく広がっていった。


「なっ」

「っ!?」

「ちょ、おい……っ」


 三人の魔術師達はそれぞれに声を上げて盛大に転ぶ。僕がやったのは、結界を地面に張っただけ。気づかれないことを最優先にしたため、魔術師達は弾かれるというより転ぶだけだが、教官が『応用の一つ』として教えてくれた結界の使い方だ。

 当然、攻撃魔法も止む。だけど、僕は彼らが地面から弾かれたと同時に、その結界を消滅させていた。僕自身が作り出した結界なので、解くのも簡単だ。ただの地面に戻してしまえば、僕も『敵』に向かって駆けていける。

 地面はもう上に乗った人を弾かない。そう認識すると同時に駆け出しながら、僕は魔術師達へとナイフを投げた。悲鳴が聞こえたような気がするけど、今の僕には気にする余裕がない。

 

「動かないでください! 残るお二人も降参を。おかしな真似をすれば、更に攻撃を仕掛けます! ナイフと攻撃魔法、どちらでも構いませんよ?」

「ひっ、お、お前、いつの間に……っ」


 喉元にナイフを突きつけられ、情けない声を上げる魔術師。気が付けば僕が目の前にいたのだから、驚くのも当然だろう。ずっと魔力を追っていたから、視界が多少悪くとも位置の把握に問題がないだけなのだが……彼らにそんなことが判るはずもない。

 今もはっきりと魔力を感じ取れるので、残る二人も死んではいないらしい。……良かった、それだけが心配だった。いくら治癒特化の魔術師であるラフィークさんがいると言っても、死ぬような怪我は拙いだろう。


「勝負あったわね。お見事ー♪」


 教官とシュアンゼ殿下、ラフィークさんが拍手をしてくれる。イクスさんとカルドさんは『当然!』というように、満足げに頷いていた。王弟殿下と他の魔術師達は……顔を引き攣らせているが。


「待て! お前、そのナイフに何の術を仕込んだ!? 先ほどの二人も使っていたことといい、結界を破壊するような威力を持つなど、魔導師の仕込みだろう!?」


 即座に上がる、王弟殿下の声。だけど、僕は首を横に振る。


「違いますよ。あれは僕が『ナイフに結界を張ったから』です。ナイフ自体が小さいので、広範囲に張るよりも強固なものになります。魔力もそれほど必要としません。投擲の威力と相まっての結果です」

「私、最初に許可を取りましたよね? 『結界の魔道具の所持くらいはいいですよね?』って。私は一言も『術者自身に使う結界』とは言っていませんよ?」

「ぐ……しかしっ」

「攻撃系の魔道具しか持たず、攻撃魔法で押し切ろうとしたのが、そちらの作戦。それで負けたからといって、文句を言うのはみっともないですよ。対応が可能だった以上、貴方達のミスです」


 説明すれば、即座に追い打ちをしてくれる教官。しかも、相手の戦法が悪かったと言わんばかりなので、誰が聞いても『防衛に重きを置かなかった奴が悪い』としか思わない。

 ……なるほど、これが『言質を取ることの重要さ』ってやつですね。勉強になります。

 

「くそっ、俺も魔導師の教えを受けていれば……」


 未だ、僕にナイフを突きつけられている魔術師が悔しげに呟く。勘違いしているらしい彼の姿に、自然と僕の口から言葉が漏れた。


「僕達が強くなったのは『あの人』が教官だったから。魔導師だからじゃありません」

「はぁ? 同じことだろう?」

「違いますよ。だって、僕は結界以外は投擲しか使っていないじゃないですか。『魔導師じゃなくても、可能なこと』ですよね?」


 にこりと笑って、トドメを刺す。……少しは貴女に近づけているでしょうか? 教官。

対・魔術師の場合、三人の中で最も強いのは魔術師であるロイ。

ただし、見た目が一番貧弱なため、強そうには見えません。

主人公の教育を一番吸収しているのも彼なので、小型版主人公くらいにはなるかも?

なお、ロイが使っていた魔道具による結界は、対・騎士寮面子仕様の強化版。

『誰が魔道具を作ったのか』ということに言及しなかった王弟のミスです。

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