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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ガニア編

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続・三人組の使い道

「はい、私の勝ちー♪ 惜しかったねぇ、もう少しで私に届いたのに」

「畜生……!」

「そうそう、その悔しさをバネにして頑張れ」


 悔しそうなイクスの呟きに返しつつ、彼らの傍に足を進める。目の前には地面に座り込む三人組。シュアンゼ殿下の子飼いとなった彼らは現在、私によってスパルタ教育を施されていた。

 何せ、私の遣り方は『体で覚えろ』というもの。短期間で強くなってもらうことが前提となっているため、どうしても無茶をすることになる。

 この遣り方は言葉で説明するよりも身に付きやすい反面、疲労が著しいのが欠点。治癒魔法があるため、怪我による鍛錬中止がないのが幸いです。体力が尽きるまで、『お勉強』は続きます。

 自己鍛錬か、騎士寮面子との手合わせしかやったことがないため、私が教えるならばこの方法しかない。ただ……ある意味、非常にやる気を煽る方法とも言える。

 彼らの職業的に、戦闘慣れしていないように見える私に負けるのは屈辱だろう。だが、その感情があるからこそ、伸びる。そもそも、私は『あらゆるイレギュラーに対応でき、尚且つ、へこたれない人材』を育成したいのだ。

 

「……あ、あんた、本当に容赦ないな……」


 荒い息のまま、カルドが見上げてくる。その声には隠しようのない悔しさ――己に対する苛立ちも含む――が滲んでいた。

 彼らとしては、それなりに付いて行ける自信があったのだろう。それなのに、始まってみれば予想以上の強さを望まれた。……私に対し、手も足も出なかった。

 プライドが傷ついたかもしれないが、それが現実だ。だが、無詠唱の魔法を使った戦闘に慣れれば、魔術師が相手だろうとも怖くはなくなる。


 ぶっちゃけ、最初から最高難易度に慣れさせるのが狙いです!


 私との手合わせが『普通』になれば、詠唱を必要とする一般的な魔術師なんざ、瞬殺できる。私の強さの基準がおかしい――魔王様や騎士寮面子が基準です――と言われているのと同じく、彼らの基準も狂わせてしまおうという計画なのだ。

 魔法はその威力と派手さから、強いと思われがちなのだが……実際は欠点満載だ。その欠点を突いて英雄になったのがセイルなので、接近戦に持ち込むだけでも、一気に勝率が上がることが判るだろう。

 とはいえ、慣れないと確かに怖い。慣れるまでは魔術師のロイを相手にするという手もあるけれど、肝心のロイがこの二人に本気で魔法を打てるとは思えなかった。他の二人にしても、どうしても身内ゆえの甘さが出る気がする。


 そこで鬼教官こと、外道魔導師の出番であ〜る!


 恐ろしげな噂も手伝って、リアルに命の危機を感じてくれるに違いない。大怪我を負ったとしても、治癒特化の魔術師であるラフィークさんがスタンバイしてくれているため、即死以外なら問題なし。勿論、シュアンゼ殿下も賛同してくれている。

 三人組は単なるスパルタ教育と思っているようだが、彼らの認識を変えることも目的なのだよ。一度この環境に馴染んでしまえば、どんな事態に直面しても何とかしようと足掻くだろう。諦めることだけはすまい。


 大丈夫、人間は慣れる生き物だ。環境適応能力に優れた種族なのだ……!

 あらゆる面で成長(意訳)しつつ、精神的にも強くなれ!


 何より、三人組はすでにシュアンゼ殿下の子飼いだと知られている。今後予想される事態を考えれば、精神的な逞しさも必須なのだ。お貴族様だけではなく、騎士からの嫉妬は避けようがない。

 騎士達が王族に忠誠を誓う存在だからこそ、ぽっと出の三人組は『騎士を出し抜いて、シュアンゼ殿下からの信頼を勝ち取った存在』と認識される。三人組には実績がないので、騎士達も個人的な感情を持て余すだろう。

 そうはいっても、揉めるのは宜しくない。ならば、三人組の方に耐性(意訳)を付けさせるべきである。そう結論付けた結果が、私達による『教育』。

 はは、鬼教官達のスパルタ教育に比べれば、周囲からの嫌味や嫌がらせも笑って流せるようになるさ。命の危機にならないだけマシ、対抗手段があるだけマシ、みたいな? 『子猫が爪を立てる程度か。温いな〜』くらいには思えるだろう。

 何せ、その一番の比較対象が魔導師こと『世界の災厄』。ガニアでの実績――仕掛けられたら、仕留める勢いで報復――を知っていると、些細な嫌がらせで満足する者達の小者ぶり……いやいや、その程度で十分という可愛らしさが目立つ。子供が癇癪を起こした程度じゃないか、どう見ても。

 さて、三人組の息も整ってきたようだ。休憩を兼ね、もう少しお喋りでもしようか。 


「ここで手を抜いてどうする。私は『強い騎士』を求めてるんじゃないの、必要なのは『遣り遂げることが可能な、シュアンゼ殿下の子飼い』だよ」

「……どういうことだよ?」


 怪訝そうな表情になるカルド。他の二人も興味があるのか、黙って私達の遣り取りを聞いていた。


「柵に囚われない立場ってね、『結果を出せるかは本人次第』なの。その結果はシュアンゼ殿下に響いてくる。……無駄死にさせる気はないけど、無能ぶりを晒させる気もないわ。あらゆる場面で結果を出せる、万能型の子飼いが理想」

「いや、それは理想が高過ぎだろう!?」


 カルドが即座に突っ込むが、私は首を横に振った。


「騎士を差し置いてシュアンゼ殿下の信頼を得る以上、僻む輩はどうしたって出る。身分がない以上、実力で黙らせるしかないのよ。身分がないなら、それに代わる何かがなければならない」

「それはあんたの経験から学んだことなのか? 魔導師」


 それまで黙っていたイクスが口を挟む。彼は私の噂を聞いたことがあるのだろう。それを踏まえて、『魔導師が民間人には過ぎる人脈を得ている理由』に思い至ったらしい。

 そんなイクスに、私はにこりと微笑んだ。


「当たり。逆に言えば、時にはそれが状況を覆すカードになる。私には貴族のような柵はないけど、並みの貴族以上の価値……『結果を出せる存在である』と認められている。だから、『各国の王が話に乗ってくれる』。それにね、あんた達がシュアンゼ殿下の子飼いってことは明言されてるんだよ? 貴方達の言動の責任を取るのは、シュアンゼ殿下……『命の恩人の顔に泥を塗るような真似をするの』?」

「……俺達は恩知らずじゃねぇよ」

「状況的にどう見られるかってことだよ。気を悪くしたなら、謝るわ」


 どこか不満そうにイクスが呟いた。軽く謝りながらも、つい微笑ましく思ってしまう。

 こんな言い方をするのは卑怯だと思う。だが、彼らの性格を考えると、とても有効な言い分だろう。まして、彼らはシュアンゼ殿下の現状を知っている。……見捨てるとは思えない。


「チッ、判ったよ。やるよ、やってやるさ! あの殿下、どうにも危うい感じがするしな」

「確かに、シュアンゼ殿下は自己保身を全く考えていらっしゃらないように見えますね。その、一度も僕達を子飼いにする危険性に触れてらっしゃいませんし」


 カルドとロイもシュアンゼ殿下のことが心配らしい。……やはり、彼らからもそう見えてしまうのだろう。

 だからこそ、私やラフィークさんはこの三人組のことを歓迎している。私の保護者と化した魔王様のように、この三人の立場を保証するために、自己保身を考えるようになるかもしれないじゃないか。


「だったら、あんた達がその抑止力になればいいじゃない」

「あ? どういうことだ?」

「あんた達には身分がないって言ったでしょ。それを補うのがシュアンゼ殿下の存在。……もっとはっきり言おうか。あんた達の存在自体が『罠』として使えるのよ。勿論、シュアンゼ殿下とセットでね。その有効性を示せば、シュアンゼ殿下もたやすく自分を捨てたりはできないでしょう?」

「「「は?」」」


 にやりと笑って提案すれば、揃って声を上げる三人組。はは、やっぱり気づいてなかったな?


「あんた達が守るのはシュアンゼ殿下。あんた達は貴族じゃない上に、ご主人様が王族だから、家同士の繋がりや権力で排除することはできない。あんた達自身の意志で裏切らない限り、実力行使しかないのよ。そして、シュアンゼ殿下に攻撃を仕掛けるならば、必然的にあんた達が邪魔になる。……シュアンゼ殿下の子飼いに仕掛けるってさ、『シュアンゼ殿下を害そうとした』っていう、自己申告なのよね。あんた達が守るのは主だけなんだから」


 言い掛かりではなく、これは事実。この三人には『それ以外に動く理由がない』。シュアンゼ殿下から何かを命じられていた時も同様。『妨害行為』になりますよ? これ。王族が相手でない限り、絶対に勝てる。王族から命じられたお仕事を邪魔をするって、問題だろう。 


「だから、あんた達から仕掛けるのは絶対に駄目。相手が仕掛けた時点で、正当防衛にできるからね。仕掛けさせて、相手の有責にしろ。あんた達はまだ嘗められているから、私やシュアンゼ殿下に不満を持つ輩が仕掛けてくる可能性・大」

「え、ええと、それって僕らは囮……」

「些細なことよ。『この程度のことが判らない馬鹿は、この国に要らない』って、シュアンゼ殿下が言ってたから、潰す気満々ね! ああ、勘違いしないで欲しいんだけど、抵抗するなとは言ってないから。……正当防衛を主張しつつ、殺れ。死なない程度に〆ろ」


 教官モードで言い切ると、何故か三人組は沈黙した。はは、何を今更。


「当然でしょう? トドメを刺すのはシュアンゼ殿下の役目だけど、火の粉を払うのはあんた達の役目。目には目を、歯には歯を、攻撃には相手が二度と歯向かう気を起こさないほどの報復を! これを続ければ、そのうち仕掛けて来なくなるわよ。危険人物には認定されるけど」

「それはアンタのことだろうが、魔導師!」

「勿論♪ 目指せ、シュアンゼ殿下の狂犬! 主以外に懐かない、凶暴な忠犬におなり」

「物騒な渾名を付けようとするんじゃねぇっ!」


 相変わらず突っ込み属性だな、カルド君! 大丈夫、君達が認められるための第一歩は用意しているから、楽しみに待っていたまえ。

 ……トテモ楽シイ『イベント』ダヨ? 私、嘘吐カナイ。


「僕達、どうなるんでしょうね……? 何か、とんでもないことになっているような」

「強くなりなさい。それが生き残るための必須条件だから」  

三人組、鍛えられるの図。子飼いにした目的も知った上で、彼らは頑張ってくれる模様。

黒猫&灰色猫は彼らの善良さに付け込みつつ、意識改革を目指します。

主人公がガニアを去る頃には、様々な意味で逞しくなっている可能性・大。

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