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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ガニア編

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この一時は誰のため 其の二

――ゼブレスト・ルドルフの執務室(ルドルフ視点)


「今頃、ミヅキ達が苛め抜いてるんだろうなぁ」


 つい、そう零せば、アーヴィ達の視線が一斉に俺へと向けられる。


「ルドルフ様、一応はミヅキ達が被害者なのですから」

「それを娯楽に仕立てて他国を巻き込む奴らが、本当に被害者と言えるのか?」

「……」

「無理があるだろう、アーヴィ。そもそも、俺は正解を当てる自信があるぞ?」


 俺が言い切ったことが意外だったのか、アーヴィは軽く目を見開いた。まあ、その反応が普通だろう。今回は複数の言い訳が予想されているため、ミヅキも『最終的な言い分を当てるのは、完全に運だ』と言っているのだから。


 ……ただし、それは『一般的な追及だった場合』である。


「そういえば……ルドルフ様は答えを選ぶ際、殆ど迷われませんでしたよね。何か理由があったのですか?」


 思い出したのか、セイルが疑問の声を上げた。エリザとアーヴィもセイルと同じ疑問を持ったらしく、視線で俺に答えを問うてくる。

 そう、俺は自分で言ったように自信があった。いや、確信を持っていたという方が正しいか。

 これは『ミヅキの性格を熟知していること』と『シュアンゼ殿下がミヅキの同類であり、共犯者であること』、そして『イルフェナとガニアがこの娯楽に納得していること』を前提とした上で、『エルシュオンの親猫ぶりを考慮すること』で答えが導き出されるようになっている。

 要は、これらの要素を熟知している俺が非常に有利だっただけだ。ミヅキもそれを見越して、『料理の共同開発』などと言い出したと、俺は思っていた。


 元々、ミヅキはゼブレストで色々と作っている。それに加えて、ゼブレストに『戦が多い国以外のイメージを持たせることを狙っている』と口にしていた。


 それ以外にも地味に営業をしているらしく、ミヅキが原因と思われる問い合わせがちらほらと来るようになっている。ただ、異世界料理のレシピ譲渡は難しいため、今回の一件を利用したような気がしてならなかった。

 ミヅキが賞品を公言している以上、正解した国では異世界料理モドキが作られるようになるだろう。……『今現在、ミヅキがゼブレストで作っているものが公になっても、おかしくはない状況になる』じゃないか。


「まず、一番あり得ないものは『シュアンゼ殿下を恋人に仕立てて、ガニアに魔導師を独占させようとした』ってやつだ。これはシュアンゼ殿下の協力が必須だが、そのシュアンゼ殿下はミヅキの共犯者。しかも、ガニア王が断罪の場を用意した以上、国として狙ったわけではない。そもそも、ミヅキの性格を知っている奴らは誰も納得しない。……『参加者の誰が聞いても不自然』なのさ、下手をすれば『ガニアには何か思惑があるのか?』と疑惑を持たれるだろう」

「まあ、それは……」

「無理がありますね」

「ミヅキ様ですもの、そのような立場に興味などないでしょう」


 アーヴィ、セイル、エリザの順に呟き、其々が納得の表情で頷く。ミヅキが柵のない立場を利用している以上、どこかの国に括られるような――『王族の伴侶』なんて立場は、絶対に選ばないと知っているからだ。

 御伽噺に憧れる、お花畑思考の女性達とは違い、ミヅキがそういった立場に抱く感情は『自由がない上に、色々と面倒』というもの。自活ができる逞しい庶民だけあって、ミヅキは非常に現実的だ。


「次に却下されるのが、『逃亡した襲撃者を捕らえて、自分の株を上げる』というもの。雇った奴らがシュアンゼ殿下の子飼いだったのは間抜けだが、子飼いじゃなくとも無理があるぞ? ガニアでは企画した奴の株が上がるかもしれないが、ミヅキは異世界人だ。しかも、『テゼルト殿下が頼み込んで、シュアンゼ殿下の足の治療に来てもらった』わけだろう? イルフェナからその責任を問われるのは当然、ガニア王になる。テゼルト殿下かもしれないけどな。そもそも、イルフェナがそんな自作自演を見抜けないと思うか? バレた時、イルフェナからの追求は避けられないぞ? 何より、シュアンゼ殿下は国王派だ……シュアンゼ殿下がミヅキの共犯である以上、『この選択肢は絶対に選ばせない』」

「お待ちください、ルドルフ様。『選ばせない』とは?」


 俺の言い方に気づいたアーヴィが声を上げる。確かに、この言い方はおかしいのだろう……『普通なら』。


「そのままの意味だ。……ミヅキ達は自分達が望む答えへと誘導すると思うぞ? 『ガニアや共犯者達に迷惑が掛からず、犯人に最もダメージを与えられる決着』にな」

「「「は?」」」

「いや、だからな? 今回の一件、最終的な決着によってはガニアにもダメージがいくだろう? ミヅキ達はそれらを回避しつつ、犯人に最も痛手を負わせる方法を取ると思うぞ? だからこそ、『その選択肢以外を潰す』。じりじりと追い詰め、甚振っているんじゃないか?」


 そう告げれば、皆は絶句した。ま、まあ、そうだろうな。娯楽と称して尋ねておいて、追い込む答えを最初から決めているなんて。


「ええと、その、それでは各国への通達は……?」

「娯楽としては間違っていないぞ? 『ミヅキ達が選ぶ答えを導き出す』ってことだからな。言葉遊びの延長のようなものだよ、アーヴィ。『犯人が最終的に言い出す言い訳』ではなく、『ミヅキ達が望む答えが正解になる』と気づけば、正解を選ぶことは可能なんだ」


 問い掛け自体が引っ掛けになっているが、娯楽という点では同じである。大真面目に犯人の言い分を考えた場合は運任せになるだろうが、ミヅキ達の行動やその背景を知っていれば正解に辿り着く。

 背景事情もミヅキから平等に情報提供がされているため、正解するのは決して不可能ではない。難易度を下げる要素に気づきさえすれば、必然的に答えが限られてくる。


「それで、あの答えになったのですか」


 呆れたような表情にセイルに向かって、俺はにやりと笑う。


「シュアンゼ殿下という王族を害した以上、不敬罪も含めて重い処罰に問える。そして、ミヅキのことはエルシュオンやイルフェナが抗議するだろう。エルシュオンはこの娯楽に納得はしたが、ミヅキが害されることを不問にするとは言っていない。『ガニアにとっても罪人であり、イルフェナも重罰を後押しできる』。ああ、『犯人の派閥もイルフェナに敵視されるかもしれない』な? 『それを裏付けるような、王弟殿下達のこれまでの行ないがある』んだから」

「ルドルフ様、それは……っ」


 付け加えた可能性に、はっとするアーヴィ。セイルとエリザも俺の言いたいことが判ったのか、呆気に取られたようだった。

 そして俺も生温かい気持ちになる。……ああ、俺の親友は本当に賢くて、性格が悪い。


「これまではガニアという『国』、その頂点たるガニア王が責任を問われる可能性があった。だから、イルフェナも抗議はできなかった。それこそ、王弟殿下の思い通りになるからな。だが、今回は違う。しかも、各国へと通達されてるんだぞ? ここからは『王弟一派が魔導師に喧嘩を売った』と捉えられるだろうさ。エルシュオンだって黙っちゃいない」


 ミヅキがガニアに居る事情はともかく、異世界人を害すれば後見人の抗議は当然。本来は国へと抗議が向けられるだろうが、これまでのあれこれを踏まえると、抗議の対象は『国』という曖昧なものではなく『王弟一派』。

 ガニアへの抗議を『あの馬鹿どもを何とかしろ!』というものにできると言えば、判りやすいだろう。王弟一派がやらかしているのは事実なので、証拠さえあれば処罰が可能だ。『王弟一派を敵認定したイルフェナが、ガニア王支持へと回った』とも言える。

 最悪、ミヅキ自身が実力行使に出るが……先に手を出したのは王弟の方なのだ。これまでのミヅキの実績(意訳)を知っているなら、魔導師に喧嘩を売った馬鹿数名を犠牲にして難を逃れようとするのが『当然』。

 その可能性も考慮して、ミヅキは他国に情報提供という名の根回しをしているのだろう。『魔導師が暴れる展開もありえますよ』と。


「なるほど、今後は王弟殿下とその派閥に抗議が行なえるのですね。今回の一件でその筋書きを広める、と」

「それに加えて、シュアンゼ殿下が王弟一派と敵対していることのお披露目だろう。共犯者とわざわざ吹聴しているからな。まあ、シュアンゼ殿下もこれまで思うことがあったようだし、ミヅキという共犯者を得て、反撃に出たんだろう」


 エリザと会話しつつも、俺はミヅキ達を思い浮かべる。ミヅキから聞くシュアンゼ殿下の情報から察するに、間違っても大人しい人物には思えなかった。足が悪いから表舞台に立てなかっただけで、その本性はミヅキと同類ではあるまいか。

 二人の鬼畜……苛めっ子を相手に、犯人はどうやって乗り切るつもりなのだろうか? あの二人は今後のためと称し、犯人を踏み台にする気満々のように思えるのだが。


「ま、今回は予想外のことが起きない限り、『二人を害したかった』が正解になると思うぞ? 王弟は自分に盾突くシュアンゼ殿下が疎ましかっただろうし、ミヅキだって同様だ。理由があり過ぎるんだ、言い逃れもまず無理じゃないか?」


 事実、王弟達には二人を害する理由があり過ぎる。しかも、仕掛けた実績あり。犯人は勿論、王弟自身もその疑惑を否定することは不可能に近い。

 さすがに王弟を処罰することは無理だろうが、娯楽を通じて疑惑は各国に広まることになる。今回はそれでいいのだろう。

 処罰が可能な決定打があるなら、とっくに王弟は廃されているはず。……つまり、『今はまだ、その決定打がない』。シュアンゼ殿下の救済も考えると、無理もできまい。


「ルドルフ様、『予想外の事態』とは? 他の可能性がないのに、何かありましたか」 

「ん? 二人に追い詰められることによって生じた、過度の精神的負担による突然死と自害」

「「「……」」」

「それ以外に思いつかん。ミヅキ達から逃げられるとも思えん」


 尋ねてきたアーヴィだけでなく、セイル達もまた何とも言えない表情で沈黙する。否定する要素がなさ過ぎて、その可能性を否定できないのだろう。まあ、そんなことで王弟を追い詰める手が緩むとは思えないが。


「とりあえず、結果報告を待つか」


 そう締め括り、俺は再び手を動かし始めた。




――一方その頃、ガニアでは。



「やだなぁ、そんなことで自分の株が上がると思っているの? イルフェナがそんな自作自演を見抜けないと、馬鹿にしてます?」

「貴方程度ならば、それが可能だろうが……もう少し、優秀な参謀を持つべきだね。ろくに政を知らない私や民間人のミヅキに言われて、恥ずかしくはないのかい?」

「……っ」


 二人に増えた苛めっ子達が、順調に犯人の精神力を削っていた。無邪気さを装うミヅキに、呆れた様子を隠さないシュアンゼ。二人はノリノリで犯人の退路を塞ぎ、じりじりと追い詰めているのであった。

 望む決着は事前に決めてあるため、一気に仕留めることも可能なのだが……二人はあえてそれをしなかった。


 その理由は『シュアンゼが王弟一派との敵対を明確にする場として、最適だから』。


 事情を知っている者達は応援するように二人を見守り、事情を知らない者達は初めて目にしたシュアンゼの一面に絶句している。これまでのシュアンゼの評価が、著しく低いことも影響しているだろう。

 だが、それは間違いであった。シュアンゼは……『足の悪い、不幸な王子』は。牙を剥く時を待っていただけだと、思い知らされたのだ。

 ただ、ファクル公爵は面白そうにシュアンゼを見つめている。苦々しい表情の王弟と違い、その表情に浮かぶのは『期待』。長く王家に失望してきた老人は、漸く自分の目に適う逸材が出てきたことを喜んでいるのだ。

 そんな中、『初めての発表会』の獲物となった男は、とうとう自分の首を絞める台詞を吐く。


「……っ、『世界の災厄』と呼ばれる魔導師を警戒するのは当然でしょう!? 殿下は南で魔導師が何をしたのかをご存じないのですか? 我が国でも、自分勝手に振る舞っておりますぞ!」

「……へぇ? つまり、貴方は悪意を以てミヅキを害そうとしたのか」

「シュアンゼ殿下、あれは好き勝手に振る舞う異世界人への警告なのです! 叩かれれば、多少は大人しくなりましょう。それに殺すつもりはなかったと、貴方の手駒達から聞いていらっしゃるはず」

「私も狙われたけど? 依頼内容さえ、覚えていないのかな?」

「そ、それは……彼らは貴方が誰かを知らなかったという、か……。……!?」


 苦しい言い訳を重ねる犯人に対し、シュアンゼとミヅキは揃って笑みを深めた。二人が望む言葉を引き出せた以上、これ以上の茶番は不要である。

 びくりと肩を跳ねさせる男に対し、二人は獲物を追い詰める狩人の目で終幕を告げる。二人にとって、この決着は『決定事項』なのだから。


「もういい。言い訳は十分だ。貴方が私達を害そうとする気持ちは十分に伝わったよ……この場の皆にもね」

「『私達に怪我をさせる』が正解ってことですね」

『は?』


 意味不明なミヅキの一言に、揃って疑問の声を上げる皆様。だが、ミヅキはそれに構わず、言いたいことだけを告げる。


「実は、この一件の最終的な言い訳を皆に予想してもらってました! ちなみに、王様もイルフェナも了承済み! ああ、全ては『ガニアが魔導師を独占しようとしたと思われないため』ですよ? この娯楽のおかげで各国の皆さんも信じてくれましたから、『その点は』安心してくださいね。ただし、私達を害そうとしたことは別件扱いです」

「私も襲撃された以上、ただで済むとは思わないでもらいたい。いくら表舞台に立っていなかったとしても、高位の継承権を持つ王族であることに変わりはないからね」

『な!?』


 あまりのことに、ファクル公爵さえも驚愕の表情になる。そんな周囲の人々をよそに、仕掛け人たる二人は楽しげに笑っていた。

 ……ファクル公爵が望んだ逸材は、予想外の方向に才覚を見せたようである。ゼブレストの宰相がこの場に居れば、頭を抱えただろう。『ミヅキの悪影響か』と。

Q:性質が悪いのは誰ですか?

A:黒猫&灰色猫です。

主人公に理解ありまくりなルドルフ。達観しつつも、ちょっとシュアンゼが羨ましい。

その頃、黒猫&灰色猫は甚振りつくした獲物にトドメを刺していたり。

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