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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ガニア編

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企む人々

――ある一室にて(王弟視点)


「――それで宜しいのですね?」

「ああ。こうなっては、多少の強硬手段もやむなしだろう」


 苦々しく頷けば、目の前の男も頷き返す。表情を見る限り、心底同意していることが窺えた。

 この男は自分を支持する貴族達の中でも、忠臣と呼べる存在だ。常に私を支えてきたこの男の娘との縁組ならば、周囲も納得するだろう。

 身分も侯爵である上、娘の方も中々に野心家なのだ。今のシュアンゼならば先があると見て、乗り気になるだろう。


 そもそも、政略結婚が当然の立場。その縁組の決定権を持つのは親……つまり、私だ。


 国王夫妻が口を挟んでくるかもしれないが、これに関しては文句を言うことなどできまい。何せ、自分達も政略を踏まえた婚姻なのだから。

 縁談にシュアンゼ自身の意思など、関係ないだろう。いや、『そんな我儘を聞く方がおかしい』!


「まさか、シュアンゼ殿下の足が治るとは。いやはや、予想外のことが起こるものです」

「まあ、な。私達に反抗的な態度を取ることは気に食わないが、それでも親子という関係は絶対だ。役に立たない駒だと思っていたが、今ならば価値を見出してやってもいい」

「さすがは王弟殿下! お優しいことですな」

「ふん、あのような出来損ないでも、一応は息子だからな」


 悪い気もせず頷けば、侯爵もまた笑みを深めた。王族との繋がりができるのだ、この男にとっても悪い話ではない。

 ただ……不安要素がないわけではなかった。


「問題はあの魔導師と、シュアンゼの傍を離れん従者だ。まったく、取るに足らない身分でありながら、私の邪魔をするなど! だが、魔導師との繋がりという意味では利がある。それだけは認めてやろう」

「ああ、あの魔導師ですか……愚か者達のせいで警戒心を強めたでしょうが、所詮は部外者。口を出すことなどできませんよ。万が一そのようなことになったら、イルフェナへと抗議をすればいいのです」

「そうだな。ふむ、そうなっても面白いか……」


 誘拐には失敗したが、エルシュオン殿下は魔導師の後見人。魔導師が何か騒動を起こせば当然、その責任を取らなければならない。


 あの魔王と呼ばれる王子が私に謝罪する。


 魔力だけではなく、その優秀さも他国に知れ渡る王子が!


 そう考えるだけで、気分は高揚した。私を認めない者達がどういった反応を見せるのか、考えるだけでも胸がすく思いだ。

 魔力が高いゆえに起こる威圧、その容赦ない手腕から付いた渾名……『魔王殿下』。最悪の剣こと、『翼の名を持つ騎士』――狂信的とも言える忠誠心を持つ騎士達――を従える姿に、畏怖の念を抱く者は多かった。

 物語に登場する魔王のようだと恐れられている存在が私に謝罪するなど、考えるだけで口元に笑みが浮かぶ。


「魔導師の妨害など、たかが知れている。協力者となりそうな者を買収なり、脅迫なりすれば、後は無事に目的を達成できるだろう」

「いや、実に頼もしい! 娘も良縁に喜び、貴方様へと感謝の念を抱くでしょう」


 上機嫌で返す侯爵とて、計画の失敗は考えていまい。いや、これほどに有利な状況で、失敗などありえないのだから!

 喉を通る酒の香りも心地よく、どことなく浮ついた気分のままに、計画の成功を思い描く。

 ――イラつくことが続いたが、今夜は暫くぶりに良い夢が見られそうだ。

 国王の苦悩する様を思い浮かべ、私は一人笑みを深めた。







 ――ここにエルシュオンが居たならば、生温かい目で二人を眺めたことだろう。

『王弟殿下と侯爵は甘い』と呟き、己の庇護下にある魔導師の凶悪っぷりに溜息を吐くに違いない。

 そう、二人は忘れているのだ……彼らの策は『常識が前提となっている』ということを!


『魔導師は【常識さえ知らないのが当然】の異世界人』

『悪役が相手にするのが、善人とは限らない』


 この二点に思い至っていれば、彼らはこれほど温い策など実行しなかったであろう。

 そもそも相手は、他国で遣りたい放題やった挙句に勝利を勝ち取った『異世界人凶暴種』。そんな常識が通じるなら、とっくに誰かが止めているはずである。

 それでもどうにもならなかったから、エルシュオンが親猫……いや、保護者として、最終手段扱いをされているのだ。いくら情報不足とはいえ、この程度は思い至って欲しいものである。

 二人が策を講じている間、問題の外道――従者の方ではない。念のため――は喜々として、対策を練っていた。それはもう、『反撃こそが本番!』と高笑いする勢いで!


 全てを娯楽と捉える生き物相手に、有効な手段など存在しない。

 己が不利になればなるほど燃え上がり、報復の糧とするのだ。手に負えない。


 その悪影響は当然ながら某主従に現れ、彼らは徐々に外道――魔導師に馴染んでいった。特に主の方は後がないと思っているため、今を楽しむことに重きを置いている節さえある。

 宥める常識人代表のテゼルトの心労をよそに、彼らは楽しく『遊んで』いるのだ。ストッパーが不在の今、彼らを諫められる存在などありはしない。

 遊びを仕掛けたのは『王弟殿下と侯爵』。圧倒的に有利な条件が揃っているのも彼ら。『常識を前提に考えれば』王弟殿下の言い分は(ある意味)納得できるものであり、他者がどうにかできるものではないだろう。

 ……。

 ……普通ならば。



※※※※※※※※※


 ――シュアンゼの部屋にて


「……というわけで、シュアンゼ殿下に仕込み杖を進呈しました」

「いや、そうは言ってもな……些か物騒ではないかね?」

「何を言っているんです! これくらいは必要ですよ!」


 難色を示すガニア国王夫妻に対し、私は説得を試みている真っ最中にございます。

 まあ、その気持ちも判る。警備の騎士が元々居る上、シュアンゼ殿下は王族なのだ。『武器を必要とするような危険があるのか?』という疑問を抱くのも当然だろう。


 王族に手を出した時点で、本人どころか一族郎党の首が飛ぶことも十分ある。

 貴族はその危険性を理解できているからこそ、迂闊に手を出してこないと思っても不思議はない。


 これはガニアだけが特別というわけではなく、一般的な認識だ。ゆえに、ゼブレストやサロヴァーラでの騒動において、私に軍配が上がった。『王族を害そうとした反逆者達から、王族を守ったこと』が(ある意味では)事実だったから。

『魔導師は王族の味方をした』――この『事実』がある以上、世間は正義の味方的な認識をしてくれるのだよ。王族が民にさえ知れ渡るクズでない限り、害そうとした連中は反逆者にしか見えないからね。


 大丈夫、私の本音はバレていない。『断罪の魔導師様』は未だ健在さ。

 裏工作と情報操作まで行なうのが、素敵な大人の嗜みじゃないか。


「シュアンゼ殿下が狙われる理由は二つ。一つは『王弟殿下の敵として消される場合』、もう一つは『強制的に王弟殿下の派閥に組み込まれる場合』。拙いのは後者の方ですよ」


 ぶっちゃけ、ご令嬢に襲われる可能性・大。相手が女性なので、シュアンゼ殿下が圧倒的に不利なのだ。物凄く大雑把に言えば、『部屋に二人きりで居ました!』という事実があるだけで、責任問題に仕立て上げられる可能性があるからね。

 

 そこで最強アイテム、仕込み杖が活きて来る。


 抵抗することを目的にしているのは、シュアンゼ殿下自身の拒絶を明確にするためであり、同時にご令嬢と距離を置くためだ。いくら何でも、剣を突き付けられて『逢瀬してました』はなかろうよ。

 まあ、いくら理由があると言っても、リアル武器な仕込み杖に『物騒過ぎやしないか?』と思うのも無理はない。実際にスパッとやれる代物だからね、あれは。

 特に、シュアンゼ殿下はこれまでそういった危険に晒されてこなかったことも、そう考えてしまう原因だろう。

 王族の婚約者という立場は魅力だが、同時に女達の嫉妬を受ける立場でもある。これに家が関わってくると、落命する可能性も十分ありだ。

 だが、シュアンゼ殿下には婚約者がいない。だから、『そういった争いをする必要がなかった』。

 また、足が悪かったことも幸いした。『足が悪く、微妙な立場の王子』のために、命を賭けてくれるお嬢さんがいなかったのだろう。実の親はシュアンゼ殿下を放置してるし、国王夫妻が勝手に婚約者を決めるわけにもいくまい。

 なお、テゼルト殿下にも婚約者はいない。親世代が盛大に勢力争いをしているせいで、テゼルト殿下と婚姻を結ぶことの危険性が知れ渡っていたことが主な原因だ。

 迂闊に婚約を結べば、速攻で王弟派の皆様に潰されます。集中砲火に耐えられるような家とご令嬢でない限り、冗談抜きに命の危機だろう。

 テゼルト殿下も王弟殿下の被害者の一人なんだぜー……哀れである。政略的な方面での婚姻を狙おうにも、王弟殿下をもう少し大人しくさせない限りは無理だろう。何をされるか判ったもんじゃない。

 王弟殿下は魔王様を狙った前科があるので、テゼルト殿下達の判断は正しかったと思われる。他国の王族との婚姻だろうとお構いなし! だろうな、きっと。


「魔導師殿、私も殺傷能力のある武器をシュアンゼに……というのは、遣り過ぎなような気がする。襲撃に関しては護衛の騎士達がいるし、相手が女性だったとしても、迂闊に怪我をさせると後が厄介だ。責任を取れ、と言われかねない」


 テゼルト殿下も国王夫妻寄りの考えな模様。こちらはシュアンゼ殿下の立場が悪くなることを警戒しているらしく、過剰防衛となることのみを案じている模様。

 うむ、皆さんの言い分は判った。では、私も納得してもらえる証拠を出そうじゃないか。


「実は、そう言われることを見越して、似たような状況になった方達に証言をお願いしています。リアルに被害に遭った方達の証言こそ、私が『絶対に必要』と判断した理由ですから。ああ、証拠に残っちゃうので、仮名で証言してもらいます。彼らも政略結婚が当たり前な身分ですから、階級による意識の差というものはありませんよ」


 そう言いつつ、事前に用意した通信用の魔道具を準備する。相手側には通達してあるので、待っていてくれるはずだ。証言が必要になったら連絡するということで、話がついている。


「あー、テステス。仕事してるところに悪いんだけど、そろそろ証言して貰ってもいい?」

『……ん? ああ、構わない。状況は事前に伝えてもらった通りなんだな?』

「うん。やっぱり、過剰防衛に思われてる」

『まあ、な。そんな状況にならなければ、そう思うのが普通だろう』


 呑気に会話を交わしつつ、唖然としているガニア勢を振り返る。唐突な証言者の登場に、彼らは固まっていた……あは、まさか証言者を用意しているとは思いませんでしたか。

 とはいえ、今回は匿名でなければならない。こちらにも注意を促しておかなければ。


「証言者は某国のRさん、Rさんのお付きのA氏、更にRさんの護衛のS氏です」

「……。ミヅキ、それどこの国? 君、手紙の一件があったから、何だか怖いんだけど」

「気にしちゃ駄目ですよー。世の中には表に出せない、大人の事情ってものがあるんですから。重要なのは証言の内容であって、彼らが誰なのかということではありません。つーか、スルーしろ」

「えー……」


 顔を引き攣らせないでくださいよ、シュアンゼ殿下。ほれ、さっさと済ませましょ!


『大体の事情は聞いた。現在の状況もミヅキから聞いている。結論から言うと……【絶対に】過剰防衛ということはない』

「あの、何故そこまで『絶対』を強調してるのかな……?」

『経験談だ! 女だからと温い対応をすれば、そこに付け込んで自分を有利にしようと狙って来る! 許すな・迷うな・手加減なしの精神で挑め! ああ、泣き落としもしてくるだろうから、その時は容赦なく蹴り出せ。か弱い淑女が男を襲うはずはない、明確な拒絶を見せることが重要だ』

「また、随分と極端なことを……」


 Rさんの熱の籠もった教えに、ガニア勢は顔を引き攣らせている。う、うん、まあそうなりますよね! 『令嬢は貞淑であるべき』というのが一般的な教えなので、『襲う云々』という単語にぎょっとするのも仕方ない。

 だが、そこで新たな助言者が現れた。


『少し宜しいですか? ――様。……シュアンゼ殿下は、いえ、貴方達は甘過ぎます。今回の様な状況でなくとも、既成事実を作って婚姻に持ち込もうとするクズは一定数いるでしょう。ですが、貴方達はそれ以上に警戒すべきです。王弟殿下が企みに関わり、その許可を出していた場合、ほんの少しの隙で言い逃れができない状況に追い込まれますよ』

「それ、は……」


 A氏の指摘に、シュアンゼ殿下が言いよどむ。否定できればいいのだろうが、どう考えても王弟殿下は私達の味方をしない。それどころか、自分の派閥の者をけしかけて、シュアンゼ殿下の動きを封じようとする可能性の方が高いだろう。

 シュアンゼ殿下は王弟殿下にとって、すでに『敵』だからだ。それだけではなく、足が治ったならばとばかりに、自分達の駒として使うことを考えても不思議はない。

 ただし、そこは皆の保護者を自負するおか……じゃなかった、A氏。忠告だけで終わるはずもなく。


『親子関係が事実である以上、【子の縁談は親が決める】と言い切られてしまう可能性もあるのです。逆に言えば、そこで過剰な拒絶を見せれば、親子関係が破綻しているというアピールにもなります。ミヅキが関わっている以上、情報の流出手段には事欠きません。無能な親に良い顔をするよりも、将来性のある息子の方に付く……という輩も出るでしょうね』

「! そうか、逆に利用する手もあったか……!」


 私を使うこと前提の、新たな策をシュアンゼ殿下に授けていた。

 A氏は不憫なお子様(=Rさん)を見守ってきた過去がある。どうやら、シュアンゼ殿下の状況を聞き、同情していた模様。


「ちなみに、A氏は体を張ってRさんを守ってきた人です。だから、Rさん以上にそういった連中に対して嫌悪を示す傾向にありますが、『己の欲に忠実な馬鹿どもへの対応』に関しては、一番頼りになりますよ。Rさんを守り切った上で、自分も無事ですから。……まあ、女嫌いにはなったようですけど」

『聞こえているぞ、ミヅキ。否定はしないがな』

 

 解説をすると、速攻で突っ込んでくるA氏。……何だよ、合ってるならバラしてもいいじゃん。

 だが、被害に遭った人達の話は思ったよりも効果があったようだ。ガニア国王夫妻も納得しかけているらしく、先ほどまでの躊躇う様な表情が消えている。テゼルト殿下はもう少し慎重に、といった感じか。

 シュアンゼ殿下とラフィークさんはA氏の提案を『使える』と判断したらしく、そちらも狙うことにしたようだ。ちらちらと私に視線を向けて来る主従……はいはい、手伝ってあげますよ。情報の暴露は任せとけ。 

 皆が何となく納得しかけた時、それまで沈黙していたらしい人物の優しげな声が割り込んできた。 


『殺ればいいのですよ、そのような輩など』

「え゛」


 ……内容は優しくなかったが。

 S……お前、今まで黙っておいて、最後に爆弾を投下する? 皆が納得しかけた時に限って、そんなこと言っちゃう!?

 こちらに彼の殺伐思考を理解できるような、物騒な輩はいない。つーか、普通はやっちゃダメです。それらはバレないようにやるものでしょ!? 闇に葬る案件でしょう!?

 私が内心突っ込んでいる間に、Sは更に具体的なことを言い始めた。


『叩き斬ってしまいなさい。ああ、女性が隠し持てる大きさの短剣を用意しておくことをお勧めします』

「……その、それは何に使うのか聞いてもいいかな? あと、いきなり殺すというのは……」


 代表するかのように尋ねたテゼルト殿下へと、尊敬の籠もった視線が集中する。だが、Sがそのような空気を読むはずがない。


『生きる価値のない者に、最後の見せ場をくれてやるだけですよ。いいですか、通常、貴族階級の女性が男性の部屋に一人で押し掛けることはありません』

「え、私は普通にやるけど。咎められたことって、ないよ?」

『貴女は特殊です。そもそも、女性扱いをする人の方が珍しいのでは?』

「……」


 反論できず、ふいっと横を向く。皆の視線が痛い気がするけど、綺麗にスルー。……あの、可哀想な子を見る目で見ないで欲しいんですけど。

 そうしている間にも、Sの話は更にとんでもない方向へと進んでいった。


『話を戻しますね。そのような状況を作る場合、部屋の周囲には協力者がいるはずです。女性が単独で忍び込むには無理がありますし、人払い兼目撃者といったところでしょうか。買収された者が居る可能性を踏まえ、愚か者を叩き斬れと言っているのですよ。用意していた短剣で自分の体を傷つけて、悲鳴を聞きつけた人がやって来る前に、女の近くに落としなさい。王族殺害未遂に追い込めます』


 S、犯人殺害計画を推・奨☆ 

 ただ殺すだけじゃなく、一族郎党を葬る好機にしろってことですね♪


 ……なんて、呑気に考えている場合じゃない。ちょ、折角、納得しかけていたガニア国王夫妻が凍り付いてるし……!


「そ、それって、仕立て上げるって言わないかい? どう考えても、こちらの方が悪質だよね!?」

『世の中は綺麗事だけではやっていけません。相手が仕掛けてきた場合に限り、こちらも反撃するのです。何か問題が? ……ああ、細かい点はミヅキに相談するといいですよ。こういったことが得意ですから、彼女』

「ちょ、いい加減なことを言うんじゃない! 私は目的達成のために、仕立て上げることも厭わないだけです! それ以前に、私は協力者という立場! 主犯は別にいるから!」

『馬鹿女どもを、喜々として潰しまくったじゃないですか。あれに個人的感情がないとでも? 大丈夫ですよ、それらはとても魅力的な一面として認識していますので』

「いや、アンタの基準で褒められても……まあ、いいや。襲撃が止まない時は、それなりの報復を考えているから」

『期待していますよ。是非、こちらにも報告してくださいね』

「了解。じゃあ、切るわ。ありがとねー!」


 溜息を吐き、半ば無理矢理に通信を切る。……ガニア国王夫妻がまだ固まっているんだけど、大丈夫だろうか。


「ええと……続きまして、ターゲットの身近に居た人代表のKさんからのお話になります」

「「「「「え゛」」」」」

「こちらは常識人だから、大丈夫ですって」


 最後のS氏が強烈だったせいか、揃って固まるガニア勢。だが、次は本当に大丈夫。某脳筋美形のお世話係にして、常識人のKさんだから。


「それでは繋ぎますね。……お待たせしました。あの女騎士のやり口と、皆さんがとった対策について伺いたいんですが……」

『よし、俺の番か。あの女、自分の取り巻き達を利用してただろ? だから【あいつと接触した状況を、自分に都合よく解釈した上で、周囲に流す】って方法を取っててさ……』


 そんな感じで、Kさんの話は続き。最終的に


『既成事実を狙って来るなら、絶対に噂も同時に流してくる。その噂を流した奴を拘束し、徹底追及。同時に自分達の仕出かしたことの重大さも理解させろ。流された噂を否定できるような状況にしておけ』


 というアドバイスを貰った。その頃にはガニア勢も真剣に聞いていたので、こちらの対策は取ってもらえると思われる。

 余談だが、途中でKさんの幼馴染が乱入してくるというハプニングがあったのだが、『今度遊んであげるから、話が終わるまで大人しくしていなさい』『判った』という遣り取りのみで終わったので、特に問題なし。

 その遣り取りをする最中、微妙に生温かい目で見られたのは華麗にスルー。……いいんですよ、あの人はあれで。純白思考の脳筋様だから、本能に従って何を言い出すか判らないし。


「と、いうわけで。納得していただけたでしょうか」

「う、うむ。あれほどに熱が籠もった忠告である以上、納得せざるを得まい。事実はもっと酷いのであろう?」

「ご想像にお任せしますよ」


 ガニア王の許可も頂き、準備は万端。後はシュアンゼ殿下次第と思い、視線を彼に向ければ――


「私の手で、あいつらに報復できる……そうか、そういった展開もありか」


 妙に黒い笑みを浮かべ、明らかにこの状況を楽しんでいた。それはもう、暗い影なんて欠片もない程に……!

 しかも、その片手は何〜故〜か、私の服の裾を掴んでいる。……いつの間にか、捕獲されていたらしい。


「ミヅキ、協力してくれるよね? 君の得意分野なんだろう? ああ、何だか楽しみになってきたよ」

「……。楽しむのは構いませんが、全てを私のせいにはしないでくださいね? 魔王様から説教されるので」

「善処するよ。ただ、君の日頃の行ないから、信じてくれるか判らないけど」


 畜生……! 私が主犯扱いされる未来は確定か!

悪企みをするのが、悪役だけとは限りません。

経験者の言葉を聞き、主人公の発想にも理解が得られた模様。

テゼルトはシュアンゼを案じていますが、シュアンゼはやる気満々です。

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