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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ガニア編

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他国の反応 其の三

――コルベラにて


「ほう、今度はガニアの王弟殿を潰すのか」

『え゛』


 ミヅキから送られてきた手紙と映像に目を通したセレスティナの言葉に、その場に居た者達――兄王子の一人とエメリナは除く――は凍り付いた。

 まあ、それも当然だろう。北の大国の王族を潰すなど、簡単に口にしていいことではない。そのようなことが現実となれば、他国にもそれなりに影響が出る。

 ただ……彼らが驚愕した理由は、それだけではない。セレスティナの態度が信じられなかったのだ。

 別にセレスティナが潰すわけではないのだが、彼女の口調は『だからどうした?』とでも続きそうな、軽いもの。周囲とて、顔色が変わろうというものだ。あまりにも、平然とし過ぎている。


「その、セレス? お前はどうして平然としていられるのだ? 魔導師殿はお前にとって、大切な友人なのだろう?」


 代表するかのようにコルベラ王が問えば、セレスティナは勿論だと言うように頷いた。


「友人だからこそ、ミヅキの気性を知っているのです。今回ばかりは、ミヅキやエルシュオン殿下直属の騎士達は拳を収めません」

「ほう? 何か理由があるのか?」


 あまりにも自信たっぷりに言い切るセレスティナに、コルベラ王は首を傾げた。エルシュオンがミヅキを諫めると思っていたからだ。

 キヴェラとの一件の際、彼らはコルベラでエルシュオンと言葉を交わしている。その時のことや、先日のサロヴァーラにおける対応を聞く限り、どうにも争いを好むようには思えなかった。

 それが大半の者の意見であろう。はっきり言って、エルシュオンは魔導師ミヅキを諫める側である。寧ろ、最後の砦と言ってもいい。

『恐ろし気な噂とは裏腹に、実に誠実で穏やかな対応をされる方』というのが、エルシュオンに対するコルベラの認識であった。セレスティナとエメリナが世話になったという点からの好意もあるが、それを抜かしても王族として善良に見えたのだ。

 にも拘わらず、先ほどの受け答え。セレスティナとてそれを知っているだろうに、あっさりと『魔導師は王弟を潰す』と言い切った。そう言い切るだけの事情があるのだと、嫌でも判る。


「キヴェラの後宮に居た時……ああ、ミヅキが助けに来てくれた直後くらいのことなのですが。ルーカス殿はエルシュオン殿下とルドルフ殿を侮辱したのですよ」

「うむ、それは聞いておる。そもそも、それがルーカス殿を殴りつけた理由の一端であろう?」


 セレスティナの言葉に、コルベラ王は頷いた。それはあの場に居た者達も目にした光景であり、魔導師が拳を振るうという珍事であった。

 魔法を扱うもの……魔術師は基本的に、敵と距離がある状態での攻撃魔法や味方の支援といった方面での戦い方をする。勿論、例外とているのだろうが、それでも接近戦は好むまい。魔法には詠唱が必須なので、その隙に攻撃を受けてしまうからだ。

 ミヅキは武器をほぼ扱えない。見た目的にも華奢で武器を扱う体つきをしていない上、エメリナの投げナイフすら使いこなせない状態。要は、武器に関して素人なのだ。

 セレスティナ達からの情報により、コルベラ王はそれを知っていた。そう、知っていたのだが……。


 何故か、ミヅキはルーカスに対し、魔法ではなく拳で挑んだ。

 多少は魔法を使っていただろうが、基本的に殴り合いである。疑問を抱かず、応じるルーカスも大概だ。


 あの時、周囲の人々の反応が遅れたのは、『キヴェラの王太子を殴った』という事実に凍り付いたことだけが原因ではない。

『魔導師が拳!? 拳なの!? 魔法じゃなくて!?』という、常識が覆る珍事に対する驚愕が理由の半分だ。

 いくら『世界の災厄』などと伝わっていようとも、それらは魔法による被害である。拳で殴りかかる魔導師など、聞いたことがない。

 ただ、セレスティナとエメリナはその理由を知っていた。実に単純で、『ミヅキらしい』と呆れてしまう理由を。

 

「あの時、ミヅキは怒り狂っていたのです。それはもう、そのまま報復に向かう勢いで。自分以外にも動いている者がいたからこそ、辛うじて思い止まっただけでしょう。私達も自分の状況を忘れ、ミヅキを落ち着かせたくらいですから」


 いや、あの時のミヅキは怖かった! 

 そう語るセレスティナに、コルベラ王は今度こそ言葉をなくす。それが事実ならば、エルシュオンに牙を剥いたガニア王弟に未来などないと……そんな未来を予想してしまって。

 また、問題はそれだけではなかった。王弟の息子であるシュアンゼだけではなく、こんな事態を引き起こしたガニアとて、他国からの目は厳しくなるからだ。

 最も大変なのはガニア王だろう。『本来は王が向き合わなければならない問題を、部外者である魔導師(=他国の民間人)に解決させた』という事実はガニア王の力不足を連想させ、内部からも厳しい声が上がる可能性が高い。

 そんな未来を思い描き、皆の表情が苦いものとなる。だが、救いの手は差し伸べられていたらしい。


「私達にこういった情報をもたらすくらいですから、大丈夫ではないでしょうか?」


 暫く考え込んでいたエメリナが、軽く首を傾げて意見を口にする。


「ミヅキのことですから、何もしないとは思えません。ですが、巻き添え……と言いますか、何も知らずに王弟殿下の味方をしてしまう者達が出ることを防ぐ意味もかねて、こういった行動をとったのだと思います」

「ふむ……情報提供の他に、警告も兼ねていると?」

「はい。元凶ともいうべき方達のみ、ミヅキは狩りたいのでしょう。あの映像、そして手紙の内容から推測して、王弟殿下方の派閥はかなり苦しい状況となっているのではないでしょうか。今後、他国に更なる被害者を作らせないことは勿論ですが、彼らの現状を他国にも伝えておく。そうすることで排除を正当化させたいのだと思います」


『排除を正当化させる』。それは諸刃の剣であろう。迷惑を被りたくない他国の支持は得られるだろうが、ガニア内部からの反発がないわけではない。ミヅキが異世界人ということもあり、ガニア王を支持する者達でさえ不快に思うかもしれないのだ。

 いくら被害者だろうとも、ガニアで王族や貴族相手に勝手な振る舞いをすれば、ミヅキに対する印象は悪くなる。身分というものに拘る者が必ずいるからだ。そういった者からすれば、自国を荒らされたようにも見えるだろう。


 ただ……その『敵意を抱かれる状況』こそ、ミヅキの狙いという可能性がある。


 そんなことになれば、悪意は魔導師へと集中するだろう。貴族達の負の感情は、その大半が弱い立場の者へと向く。魔導師を支持した他国に喧嘩を売るよりも、当の魔導師――生意気な民間人の小娘の排除を狙うに違いない。


「魔導師殿は自分に悪意を集める気なのかな」


 ぽつりと。セレスティナの傍に居た兄王子が呟いた言葉に、誰もが何とも言えない表情となった。

 人の悪意を恐れるどころか利用するのがミヅキなので、その可能性は高い。寧ろ、そうすることで王弟の息子であるシュアンゼを守ろうとしているのかもしれなかった。

 このままでは、シュアンゼに安息などはない。王弟が排除されたとしても、シュアンゼが王族の血を持つ限り、野心ある貴族達からは狙われる。特に王弟を権力争いに利用している者達からすれば、『子ができる体であればいい』という認識だろう。

 彼らが自分達の矢面に立たせる存在に求めるのは、優秀さではない。『正当な血筋』という部分のみなのだから。

 ミヅキは自分にとって価値のないものにはとことん無関心だが、情を見せた者に対しては面倒見がいい。共犯者となっているシュアンゼを守る一環として、またシュアンゼの未来を繋ぐ意味でも、目立つ行動をとりかねない。


「ミヅキならば、やりかねません。私達の時も『自分がキヴェラの王太子妃と侍女を拉致する』という方向で事を進めましたから」

「そうですわね。エルシュオン殿下がミヅキの報復を許しているのは、シュアンゼ殿下の事情も考慮されているからやもしれません。『悪意を自分に集め、報復という形で排除する』。それがミヅキの目的かもしれませんわね。茶会でのことがガニア内部に広まれば、今後は手を出してこない可能性もあります。それでは困るから、わざと怒らせている……」

『……』

 

 再び、沈黙が落ちた。実際に助けられた者達からの言葉は、実に説得力がある。

 コルベラ王は溜息を吐くと、一度皆を見回した。


「我が国は魔導師殿を支持する。なに、今回の件は誰がどう見てもガニアの王弟殿下に非があろう。『我が国に対し、同じことを起こさせるわけにはいかん』。いいか、これはコルベラのための判断だ」


 素直に『魔導師に味方する』と言えればいいのだろう。だが、コルベラは小国。北の大国を相手に、あからさまに敵対姿勢を見せるわけにはいかない。王弟であろうとも、その力は馬鹿にできない。

 何より、ミヅキとて自分のためにコルベラがガニアとの関係を悪化させるなど、望むまい。そんなことになれば、ミヅキ達の負担が増えるだけだ。


 だからこそ、判らない程度に少しだけの助力を。

 少しの偽りを混ぜて、あくまでも『自国のため』という姿勢を貫く。


 それも嘘ではないが、本当にそれだけならば、わざわざ魔導師への支持を通達する必要はない。だが、王が口にした以上は、それがコルベラの方針ということだ。

 ミヅキには手紙で伝えるため、公にはしなくともそれが証拠となる。コルベラを味方として使うか、使わないかは、ミヅキ次第。

 だが、ミヅキならば……自分の喧嘩に他者を巻き込むことはすまい。その影響も予測できるのだから。

 そういった逃げ道も予想された上での、魔導師への支持表明。何事もなく済めばいいが、味方として扱われたとしても、この国の者達に魔導師を恨む気持ちはないだろう。


 コルベラはそれだけのことをして貰った。あれほどの恩を忘れるほど、コルベラの民は恥知らずではない。


 苦難の時を耐えきった小国だからこそ、無条件の好意というものの価値を知っているのだ。そのお蔭で、今のコルベラにはセレスティナとエメリナの姿がある。どうして感謝せずにいられるだろう。

 ミヅキがどんな決着を狙っているかは判らないが、知らずとも一度は味方をしてやりたい。そう思うほどに、国の恩人であるミヅキに対し、彼らは好意的である。

 そもそも、コルベラはキヴェラと一戦を交える可能性があったのだ。それに比べれば、大したことではない。

 コルベラは王家の姫……いや、『身内』のために一度は滅亡を覚悟した国。ゆえに、こういった決断は受け入れられやすかった。


「さて、ミヅキはどういった解決をするつもりなのやら?」

「ふふ。ミヅキのことですから、楽しく遊びそうですわね」


 場違いなほど楽し気に、セレスティナとエメリナが言葉を交わす。そんな姿に――二人がミヅキへと向ける信頼の強さに、人々の顔には苦笑が浮かんだ。



※※※※※※※※※


 ――キヴェラにて


「は……? 何だ、これ?」


 転移法陣を介して届いた手紙と魔道具に、サイラスは首を傾げる。夜勤明け、自室に戻った直後にミヅキから貰った転移法陣が発動した。サイラスとて、近衛騎士の一人。疲れてはいたが、それを後回しにするという選択はない。

 ただ、微妙な表情になってしまう理由もあった。


「今度は何だ? 例のやつの、新しい情報でも入手したとか……?」


『例のやつ』=『様々な障害を越えた愛の物語』。ぶっちゃけ、BLだ。しかも、キヴェラでの実話疑惑がある。

 そもそも、転移法陣は緊急用(意訳)ということで、魔導師から手渡されたもの。その内容がかなりアレなものだったため、突然送りつけられるものにサイラスが警戒するのは当然だろう。

 ……が。


 訝りながらも目にした手紙と映像に、サイラスは固まった。

 どう考えても、それは近衛騎士個人の領分を超えていたからだ。


 そこからのサイラスの行動は早かった。魔導師のパシリに使われている気がしないわけでもなかったが、彼の頭は正しく最優先事項を判断した。

 今来たばかりの道を全力疾走で戻りつつ、サイラスは本日のキヴェラ王の予定を思い出す。この時間帯は上層部の者達との会議を行なっているはずである。サイラスの抱える情報は国としての判断が求められるものなので、実に都合が良かった。


「あの、トンデモ魔導師め! 何で、こんな情報、を俺に寄越すかな……っ」


 走りながら、つい愚痴を零す。ただ、口にこそしないが、感謝する気持ちもあった。今ならばまだ、魔導師は盛大に事を起こしていない。キヴェラの対応を決める十分な時間が残されているのだ。


「ちょ、おい、サイラス!? お前、何をしてっ」

「緊急事態だ、退け!」


 サイラスの様子に、扉付近で警備をしていた同僚が慌てて声をかけるが、無視して室内へ。突然の乱入者に、室内に居た者達の視線がサイラスへと集中する。

 だが、そこは大国。近衛騎士の慌てた姿に何らかの事態を悟り、彼らの視線は自然とキヴェラ王へと向かっていった。


「緊急事態、につき……っ……失礼致します! 先ほど、魔導師殿から無視できない情報が届き……っ」


 そう告げながらも、手にした物を差し出すサイラス。息が荒いままもたらされた情報、そこに『魔導師』という単語が含まれていることに彼らは驚愕し、室内は騒然となった。

 キヴェラにとって、魔導師ミヅキは無視できない存在なのだ。それがどういった方向のものであれ、彼女の起こす騒動は把握しておいた方がいいという見解をされている。


 一言で言えば、騒動の種扱い。それでも互いに利がある結果を出すので災厄扱いはされないという、非常に微妙な位置付けである。


 キヴェラ王は一つ頷くと、側仕えへと視線を向け、サイラスが手にしている物を持ってくるよう促した。側仕えも頷くと、即座に行動に移る。その表情が強張っているのは、気のせいではないだろう。

 いや、キヴェラ王以外は全員が似たような状態なのだ。一度手酷い敗北を味わわされた相手なので、落ち着いていられる方が不思議である。こういった点も、彼が王に相応しいとされる要素なのだろう。

 そして、手紙に目を通したキヴェラ王の反応は――


「ほお? あの愚か者、黒猫の尻尾を盛大に踏み付けおったな」


 だった。黒猫=魔導師ミヅキ。その事実を知る者達は、王の言葉に凍り付く。だが、そこで王の言葉に疑問を持った者がいた。


「陛下。『黒猫に喧嘩を売った』ではないのですか? その、まるで、『黒猫を怒らせることをした』という風に聞こえるのですが」

「うむ、そうだぞ? 結果として魔導師殿を拉致したのであり、本来の目的はエルシュオン殿下らしい」

「……は?」

「ガニア王に責任を擦り付けるため、エルシュオン殿下を拉致しようとしたらしい。それを、魔導師殿が邪魔したそうだ。ああ、傍には白と黒の忠犬達もいたらしいぞ?」

「そ、そうですか……」 


 室内は一気に静寂に包まれた。それほどの衝撃であった。

 キヴェラ王の言葉を簡単に言うなら、『ガニアの愚か者(=王弟)がエルシュオンを拉致しようとして失敗、邪魔した魔導師を拉致。その場面を、エルシュオン直属の翼の名を持つ騎士達も目撃している』となる。

 どう考えても、言い逃れできない状況だ。しかも、手紙に『エルシュオン殿下が目的』と書かれているあたり、憶測ではなく確実な情報なのだろう。

 本来ならば、こういった情報は隠されるべきである。ミヅキもそれは理解できており、『何故、自分がガニアに滞在しているか』といった方面での理由として書かれていた。

 あまり暈されていないのは、ガニアとキヴェラが隣接しているゆえの配慮だろう。何かあった場合、キヴェラが南の盾となった方が混乱は少ない。

 そんな思惑が透ける内容であっても、送り先はサイラスという『個人的に親しい(?)者』。連絡用の転移法陣を渡してあることも事実なので、『友人にイルフェナ不在を伝えただけ』という言い分で通すらしい。さすが頭脳労働職、姑息である。

 ただ……この場では、そういった建前はあまり重要視されていない。話を聞いていた者達にとって、重要なのは『エルシュオン殿下が拉致されかけた』ということのみなのだから。

 さらっと告げられた驚愕の事実に彼らは顔を強張らせ、けれど内心は盛大にパニックに陥った。


『終わった! ガニア、終わった!』

『ガニア王め、さっさとあの馬鹿を始末しておけばいいものを……!』

『ちょ、商人達に連絡を! いや、その前に間者をガニアに向かわせるか!?』


 などといった感じに、皆様の頭の中は楽しいことになっている。誰も『魔導師を止める』という方向に行かないあたり、彼らは過去の経験を活かせているのだろう。

 即ち……そんなことは無駄だ、と。


「案ずるな。この件に関しては、すでに話がついているらしい。ゆえに、イルフェナからの抗議はなしだ」


 再び、キヴェラ王へと視線が集中した。


「その代わり、魔導師殿個人の報復が認められているようだ。ただし、元凶に限り。まあ、協力者も含まれるだろう。……ガニアの内部が荒れるぞ、我々が気にするのはそこだ」


 その言葉と同時に、彼らは表情を改める。彼らの頭の中では即座に、今後の対応が練られ始めているのだろう。こういった対応ができなければ、大国として君臨するなど不可能だ。


「しかし、魔導師殿も考えたな。サイラスという『個人』に情報をもたらすことにより、結果的に儂らにも伝わる。サイラスの行動を予測した上で、『魔導師とキヴェラが組んだと思われる要素を潰した』か! 中々に気を使っているではないか」

「確かに。気安い関係とは言えませんから、『キヴェラがガニアに混乱をもたらすため、魔導師と組んだ』などと言われかねません。情報は必要ですが、我が国には特に気を使わねばならないでしょう。ですが、この方法ならば、我々が魔導師殿に借りを作ることもないかと」


 宰相も頷き、王の言葉を補うように見解を述べた。あの魔導師ならばやりそうだ、と。

 ミヅキが王の勢力と認識されている以上、キヴェラと連絡を取り合うのは宜しくない。王弟の派閥にバレれば、『ガニア王はキヴェラと通じている』などと言われかねないだろう。

 だが、サイラスという個人を通すことにより、いくらでも言い逃れが可能になる。情報をどうするかはサイラス次第であり、そのまま黙秘する……という可能性もあるからだ。何より、そんな不確かなものが重要な情報とは思われまい。


「魔導師殿も騒動は必要最低限に収めたいのだろうな。一つの国が荒れれば、その影響は嫌でも他国に広がる。それが北の大国ならば、当然のこと。……面倒なのだろうな、単に」


 微妙な表情でぽつりと付け加えるキヴェラ王。その言葉に、誰もが深く頷いた。

 魔導師ミヅキ、彼女は大変自己中である。様々な国に友人を持つ彼女は、自由に行き来できなくなることが嫌なのだろう。同じく、商人達の行動にも制限がかかる可能性があった。


 つまり、食材>(越えられない壁)>ガニア。


 そういった意味では、ミヅキは実に判りやすいのだ。特にキヴェラはミヅキの自己中ぶりに理解があるので、間違っても『平和とガニア王に同情して云々』などという理由ではないと思っていた。


 なお、彼らの認識はほぼ正解である。シュアンゼのことのみ、予想外なだけだ。


 話を聞いていたサイラスもまた、『あ〜、やりそう。つか、絶対にそっちだろ』と納得している。同時に『素晴らしい考察力! さすがキヴェラの王たるお方!』などと思っているあたり、彼も大概なのだが。


「まずは、この魔道具の映像を見てからだな。さて、何が映っているのやら」


 どこか楽しげに呟くと、キヴェラ王は側仕えに魔道具の準備をさせる。他の者達も王の言葉を受け、表情を引き締めて映像に注意を向けた。


 ――そんな彼らが、あまりの内容に顎を外す勢いで唖然とするのは、数分後のことであった。






 一方その頃、サロヴァーラでは――


「あら……随分と楽しいことになっているわね」


 女狐様がミヅキからの手紙に目を通し、にやりとした笑みを浮かべていた。

 魔導師が情報を渡す先に選んだのはティルシア。ある意味正しい選択であり、同時に王弟一派の未来に更なる不運が約束されたのだった。 

コルベラは弱者という立場に理解があるため、シュアンゼや巻き込まれる人達を

案じる方向に。

キヴェラは魔導師からの手紙は様々な意味での忠告だと受け取っています。

キヴェラはガニアの敵対国だった過去もあるので、情報を渡す方法も

サイラス経由(他国は王族か上層部の誰か)にして、気を使っていたり。

※活動報告にアリアンローズ様で行われる『サイキョウ系フェア』のお知らせを載せました。

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