他国の反応 其の二
――アルベルダにて
「「……」」
ミヅキからの手紙に、アルベルダ王ウィルフレッドとグレンは無言となった。言葉が続かなかったとも言う。
「ガニアの王弟殿下っていうと、あれか。まあ、いつかは盛大にやらかすだろうとは思っていたが」
「よりにもよって、エルシュオン殿下を利用しようとするとは……想像以上の方でしたな」
グレンの『想像以上の方』という言葉の方向性を正しく感じ取り、ウィルフレッドは乾いた笑いを浮かべた。
勿論、それは『優秀』という意味ではない。真逆の意味である。ただ、該当人物が王族であることも事実なので、一応の暈しを試みただけであろう。
「まあ、魔導師殿が単独で動いている以上、ガニアもそう酷いことにはならんだろうさ」
「ほお? 随分と呑気なことで」
手紙を指先で弾きつつ口にするウィルフレッドに、グレンは怪訝そうな顔になる。そんなグレンに苦笑しつつ、ウィルフレッドはどこか楽し気に文面を目で追った。
「俺達にわざわざこんな『忠告』を与えるくらいだぞ? 情報を流すという意味もあるだろうが、魔導師殿は『王弟殿下に非がある』ということを明確にしたいんだろうさ。多分、魔導師殿の誘拐に関しては話がついているんじゃないか?」
「まあ、そうでしょうね。ガニア王に責任を負わせないためにも、誘拐に関してはミヅキも事を大きくしないでしょう。そもそも、本当の狙いはエルシュオン殿下。正式な抗議などすれば、それこそ王弟殿下の思惑に乗ることになるかと」
「だよなぁ。それも見越して『失敗する可能性は低い』と踏んだんだろうさ。未遂に終わっても、イルフェナから抗議されればいいんだからな!」
ウィルフレッドの声に嫌悪が滲む。グレンもまた、ガニア王弟の使った手に苦い顔だ。
ただ、二人はミヅキと懇意にしていることもあり、ミヅキの性格と好む手段も理解できていた。
「『イルフェナはガニアと事を構える気がない』。これがエルシュオン殿下の望むことなんだろう。だからこその、『魔導師からの通達』。たとえ俺達が情報を得ても……」
「動くな、という警告を兼ねているのでしょう。当事者間で何らかの思惑がある以上、部外者の介入は無粋でしょうな」
実際には無粋どころか、巻き添えを食らうだけであろう。敬愛する親猫を害そうとした敵に対し、黒猫がその牙を収めたことなどないのだから。
まして、ミヅキからの手紙によれば、誘拐現場には翼の名を持つ騎士達も居たという。狂信的ともいえる忠誠を持つ騎士達が、主を害されて黙っているなど、あるはずがない。
『他国の王族を狙う』というアイデアまでは良かったが、その後が続かない。
ガニア王弟の才のなさが露呈する一幕である。この事実が知られるだけでも、味方する奴はいなくなる。
しかも、今回は最悪な相手の恨みを買っている。明るい未来など絶対にないと、アルベルダの主従は理解できていた。黒猫は盛大に祟るであろう。
まあ……それを除いても、『ガニア王弟がウザイ』と思う気持ちは本当だ。何せ、彼は兄であるガニア王を追い落とす手段として、他国に目を向け始めている。
今回はイルフェナが的になっただけであり、必ずしも王弟が懲りるとは限らない。ぶっちゃけ、『自国にやられたら困る』という心境なのだ。王弟を始めとして、彼に従う魔術師達がいることも事実なのだから。
「こういう言い方は悪いが、王弟殿下が初めに狙ったのがエルシュオン殿下で良かったな。迂闊に成功すれば、次は別の国に狙いを定めてくるだろうさ」
「ああ、やりそうですな。まあ、今回のことで野心どころか、命さえも失いそうですが」
「いやいやいや! グレン、お前、さらっと怖いことを言うなよ!」
何気なく続いた言葉にウィルフレッドがぎょっとする――相手が北の大国の王族だからだ。惜しんだわけではない――も、グレンは涼しい顔をして続ける。
「我が国に迷惑がかかる可能性があるのです。ミヅキが殺る気になっているなら、ここは後押しして仕留めて貰った方が世界のためです」
「グレン? お前、『やる気』の意味が違ってないか?」
「いいえ? ミヅキならば元凶のみを狙うでしょうし、燃え滓となったゴミが再び燃え上がることも許さないでしょう。そんな温さを持ち合わせる奴ではないと、陛下もご存じでは?」
「……」
言い切るグレンに、ウィルフレッドは返す言葉がない。グレンは正真正銘、ミヅキと同郷。しかも、ある意味ではミヅキの弟分兼弟子のような存在であった。ゆえに、ミヅキの言動にも理解がある。
そのグレンから、この言葉。『王弟、終わったな!』とウィルフレッドが慄くはずである。
ただ、ウィルフレッドもグレンの言葉には納得できてしまう。その根拠となっているのが、ミヅキから送られてきたもの。
本来は無関係である自分達のところに送るためか、ミヅキからの手紙は『私の何が悪かったんでしょうか?』という言い方をしており、あくまでも自分の非礼を反省する姿勢が徹底されていた。
それは事実なのだが……まあ、その、それだけでは終わらないのがミヅキという魔導師だった。
「う、うん、まあな。今回はエルシュオン殿下が狙われたから、いつも以上に優しさがないとは思う。その証拠がこの茶会の映像だろう?」
王弟への不快感を露にするグレンに多少引きつつ、ウィルフレッドは手紙同様に送られてきた魔道具に視線を向けた。自然と、グレンの視線もそちらへと向けられる。
「奥方の派閥、その面子が一目で判るぞ? 王弟妃殿下の取り巻きの中には、子の縁談が控えている者もいるだろう。若い令嬢も混じっているから、彼女達の家が王弟殿下に組していると見るべきだ。で、この映像と魔導師殿からの情報を得た結果、どんなことが起こる?」
「……。婚約、婚姻関係の解消。通常ならば相手が納得する理由が必要でしょうが、これは立派に距離を置く理由になりますな」
微妙な顔で答えるグレンに、ウィルフレッドは楽しげに笑った。
「そうだ、しかも『相手に非がある状態』でな! 他国だけじゃなく、ガニア内部でもこの映像が広まったら……」
ウィルフレッドの言いたいことに気づいたグレンが、はっとして視線を鋭くさせる。
「なるほど、これはガニア内部の見極めも兼ねているということですか。これで王弟殿下の派閥から距離を置くなら、その家はそこまで王弟殿下に傾倒していない……いえ、『その程度の繋がりしかない』。ミヅキの介入によってガニア王が優勢となれば、そちらへと靡く……!」
「距離を置くには十分な案件だろ、これ! それでも離れない、もしくは離れられないなら、ガニア王の敵にしかならんだろうよ。いやはや、見事な忠誠心じゃないか。忠臣ならば、最後まで主と共にいられて本望だろう」
ウィルフレッドは茶化して『忠臣』などと言っているが、実際は泥船への道連れであろう。
何せ、『イルフェナに喧嘩を売った』、『魔導師に敵認定された』、『それらのことを他国にもバラされた』といった凄まじい要素が揃っている。これらのことを知ってなお、王弟の味方をするならば……『そうしなければ後がない』ということだろう。
「魔導師殿はガニアの貴族連中を篩にかけているのさ。いくら何でも、王弟殿下の派閥丸ごと処罰なんて真似はできないからな。本当に王弟殿下とその『味方』だけを狙う気なんだろう。それがエルシュオン殿下からの指示かもしれないが」
「ああ、ありえそうですね。あの方はガニアが傾くことなど、望まないでしょう」
「はは! そんな選択をするエルシュオン殿下の懐が深いのか、その希望に沿う魔導師殿が凄いのか、俺にも判らん。だが、俺はあの二人やその周囲の騎士達を好ましく思う」
どこか満足げに告げるウィルフレッドに、グレンも苦笑を浮かべる。片方だけでは恐れられるばかりの『魔王殿下』と『魔導師』は、二人揃うと随分と優しい存在のように映るのだ。
二人が恐ろしい噂通りの人物ではない――ミヅキの場合、敵にならないことが条件だが――ことを知るグレンとしては、二人がそのように評価されることを嬉しく思っている。それはウィルフレッドも同じであった。
「よし、魔導師殿には『アルベルダは全面的に魔導師殿を支持する。というか、我が国とも常識が違うようなので、こちらに逃げ込まれても困るというのが本音だ。面白いことを期待している』とでも送っておくか!」
「陛下!? そのようなことを告げれば、ミヅキは本気にしますぞ!?」
「はは、いいじゃないか。魔導師殿は他国にまで迷惑をかけるつもりはないみたいだしな、俺達も便乗させてもらおう」
慌てるグレンに、楽し気なウィルフレッド。こんな二人の姿もまた、このアルベルダでは見慣れたものである。
そして。
猫親子と称される二人と同様に、彼らもまた『片方だけでは恐れられるばかりだが、二人揃うと随分と優しい存在のように映る』と評価されていたりする。
先代が無能だったとはいえ、王位を奪ったウィルフレッド。
子供のような見た目とは裏腹に知略を発揮し、その簒奪に協力したグレン。
彼ら二人が血塗られた道を歩んできたのは、紛れもない事実である。恐れられないはずはないのだ。
特にグレンは、その出身さえ謎に包まれている――異世界人ということが黙されたため――ことが災いした。今はともかく、当時はそれなりに煩い連中から痛い言葉を投げつけられていたのだ。
だが、当のグレンは師匠ともいえるミヅキの言葉に従って、その状況をしっかり利用していた。ゆえに、グレン自身はあまり傷つけられたと思っていない。
『嫌味は人を無条件に見下す奴の虚勢にして、最高のアピール! 突け、怒らせろ、そして言質を取れ! 頭が軽い奴なら乗ってくれる! 乗ってこない奴は警戒すべし! そして、利用しまくった後に「情報ありがとう」という労りの言葉をかけ、自滅ということをわざわざ教えてあげれば完璧! 争いに善悪なんてない。最後に笑うのは己であり、それが決定事項となるくらいに腹を括れ!』
何が完璧なんだ、などと突っ込んではいけない。ミヅキ的にはそれが正しいだけだ。
ただ、大変外道な教えであるとグレン自身も自覚していた上、『周りが言ってることは事実。つーか、そんな不審者が好き勝手してたらムカつくよな』としか思わなかっただけである。それでも実行するあたり、グレンも優先順位をつけられる性格をしていたのだろう。
そういった要素は至るところで発揮され、戦だろうと、外交だろうと、負け知らずの存在となっていった。元の世界での教育(意訳)が役立った成功例である。
その結果が『知将』などという渾名。グレンでなくとも、誇りたくはないだろう。その過程が嫌過ぎる。
しかも、そんな(一般的には)辛い状況を利用しているなんて、普通の人が思うはずもなく。
当初、ウィルフレッドやその側近達はグレンを利用する気など皆無だったため、グレンの狙いを知るまでは『巻き込まれた可哀想な子』扱いであった。
グレンの黒歴史・其の二である。実年齢より幼く見られていたことも含め、グレンとしては忘れたい一幕だ。
狙いを暴露した時は、ウィルフレッドでさえ唖然となった。それ以降は徐々に頼られるようになっていったので、黒歴史だろうとも必要な過程だったのだろう。……と、グレンは思っている。
だが、そんな苦難の時にさえ、ウィルフレッドとグレンの微笑ましい(?)遣り取りが失われることはなかった。それゆえか、ウィルフレッドがグレンを側近と認めてからは精神的な余裕があるのだ。
困難に直面しようとも、王とその周囲に限っては絶望と無縁である。そんな姿を見れば、彼らの配下達とて奮起する。『王は悲観などしておらず、諦めてもいない』、と。
知らぬは本人達ばかり。猫親子を微笑ましいと和む二人もまた、周囲には微笑ましく見られているのだ。
※※※※※※※※※
――カルロッサにて
「「……」」
宰相親子は揃って溜息を吐く。どこか遠い目になっているのは、気のせいではないだろう。
「……いつかはやると思っていましたが」
苛立ちを滲ませつつ、宰相閣下はミヅキからの手紙を手に取った。
何度確認しても、呆れしか浮かんでこない。それほどに、ガニア王弟夫妻の行ないは信じがたいものだった。
ぶっちゃけると、『馬鹿だろ、こいつら』という一言に尽きる。
手紙の内容的には、ミヅキが己の言動が間違っていたかを問うているだけだ。ただし、その過程で何があったのかを明確に書き記している。
しかも、魔道具の映像付きで。
実に手際がいいじゃないか。どう考えても、ミヅキがこういった展開を狙って相手を誘導したようにしか見えない。
「何故、エルシュオン殿下を狙ったのかしら。確かに、イルフェナは相手がガニアだろうと、臆することなく抗議するでしょうけど……相手が悪過ぎるじゃない」
イルフェナにクラレンスという友人を持つセリアンだからこそ、あの国が大人しくはないことを知っている。特に、最近はミヅキと交流があるせいか、エルシュオン殿下の配下達の凶悪さを痛感しているのだ。
そこに、この騒動。ガニア王弟夫妻の頭の出来を疑っても仕方がないのかもしれない。あまりにも、無謀だ。
女性的な見た目に、女性的な言葉遣い、それらを利用しているセリアンだからこそ、王弟夫妻の行動が愚かに思えてならなかった。どう考えても、彼らは策を講じることに向いていない。
印象一つで、事態は良くも悪くも変わるのだ。最初から悪印象――最悪の相手に、最悪の印象を抱かせる――を与えてどうする。情報収集といった事前準備のお粗末さにも呆れるが、せめて取り繕うくらいはすべきである。
なのに、夫婦揃ってミヅキに喧嘩を売っている。馬鹿か、馬鹿なのか!
現在、宰相閣下とその補佐官の頭の中は、上記のようなことで占められていた。頭脳労働職である二人だからこそ、王弟殿下の策の拙さ、そして王弟妃殿下の対応の悪さに注意が向く。
勿論、ミヅキの行動も十分問題ありなのだが、『二国間で揉める可能性を(とりあえず)消した』、『相手を誘導し、言質を取っている』、『その情報を別の案件に盛り込み、他国に流す』といったことを達成しているため、彼らにとっては高評価。
個人的な感情という点でも、国の重鎮という意味でも、どちらに好意的になるかは判り切ったことだった。
何のことはない、彼らは思い上がった馬鹿が嫌いなのだ。
無能のくせに、権利ばかりを主張する輩など滅べばいいと、半ば本気でそう思っている。
宰相とは国のブレイン。色々とストレスが溜まるポジションなのである。
そんな彼らにとって、魔導師ミヅキは非常にありがたい存在だった。エルシュオンを通す手間こそあれ、受けた仕事には必ず望まれた結果を出し、後からでしゃばる真似もしない。
『望まれた役割りのみに徹し、結果を差し出し、その後の干渉もなし』。繋がりを作りたい場合はミヅキの淡白な姿勢に困るのかもしれないが、その場限りの戦力が欲しい場合は実に重宝する。
幸いなことに、カルロッサはセリアンやジークといった面子がミヅキと親しいので、互いに利がある案件ならば頼ることが可能だろう。いくら友好的な関係だろうとも、彼らの立場的に『お友達は利用しない』などといった温い考えでは困るのだ。民間人とは事情が異なる階級である。
まあ……それに納得してくれる希少種がミヅキなのだが。自称・民間人であるミヅキ。それを素直に信じる者は少ない。
「幸いなことに、エルシュオン殿下がミヅキ個人の報復に納得しているようです。イルフェナが抗議するような事態にはならないでしょう。ただ、ガニアは少々荒れそうですね」
「父上、その荒れ具合が問題では?」
「手紙に『シュアンゼ殿下と友人になった』と書いてあります。おそらくですが、彼がミヅキの協力者なのでしょう。そして、シュアンゼ殿下は王弟殿下の実子……覚悟を決められている、ということではないでしょうか」
宰相閣下の指先が示す先には、確かにそう書いてある。ただ、それが示す意味を悟り、二人の表情に憐みが浮かんだ。
王弟のやらかしたことは、いくら王族だろうとも問題である。しかも、自国の王に対し、明確な悪意を見せつけていた。ここまでくると、もはや粛清対象にするしかないだろう。
野心のままに国を傾かせる可能性があるからこそ、野放しにはできない。今回の件が決定打となり、王弟を頂点とする派閥に属する貴族達は、確実にその力を削ぎ取られる。
その中核たる王弟夫妻や妻の実家は当然のこと、息子であるシュアンゼもただでは済まない。良くて幽閉、悪くて自害だ。罪人として処刑にならないだけマシ、程度の扱いである。自害ならば、王族としての名誉だけは守られる。
ただ……ミヅキという例外が居る以上、その通りになるかは疑問だった。
「ミヅキがそのようなことを見過ごすでしょうか? さすがに処罰に立ち会わせることはないでしょうから、刑の執行は彼女の帰国後になると思いますけど。ミヅキが共犯者を使い捨てるだけ……とは思えません」
微妙にアレなことを言いつつも、セリアンの表情は真剣そのもの。対する宰相閣下もまた、その可能性を捨て切れないようである。
「ですが、魔導師殿はこういったものにも非常に理解があります。個人の我儘で法を歪めることが後にどれほどの影響を与えるか、気づかぬはずはない」
「サロヴァーラのこともありましたから、よほどのことがない限りは無理でしょうね」
サロヴァーラの一件こそ、王個人の我儘――温情や政治的要素――の果てに起きたもの。当事者であったミヅキが、ガニアに同じ道を辿らせる可能性は低かった。
「ガニア王がシュアンゼ殿下を憐み、魔導師殿の願いという形であったとしても、そう簡単には頷けないでしょう。王弟殿下の血筋を正当と主張する者が出る限り、シュアンゼ殿下の存在は不安要素にしかなりません」
「ですよねぇ……あの小娘、どうするつもりなのかしら?」
二人揃って溜息を吐くも、その表情は困惑気味。不可能とは思えど、そういった状況を覆してきた存在がミヅキだからだ。
意外なことだが、ミヅキは気にかけたものに対しては情が深い。シュアンゼが犯行に関わっているならばともかく、彼は完全にとばっちりである。何より、親である王弟夫妻との間には、ほぼ情などないといってもいい状態。
気の毒にも程があるだろう。彼は親から愛情を与えられなかったばかりか、親の罪によってその未来を奪われようとしているのだから。
それなのに、シュアンゼは王族としての覚悟を見せた。親の失脚どころか、自身の今後さえ危ういというのに、だ。
ルドルフという前例――ゼブレスト王ルドルフもまた、父親の負の遺産に苦しんだ人物である――がある以上、ミヅキが動く可能性はゼロではない。
何より、シュアンゼは『ガニアにおける協力者』。恩を返す意味でも、ミヅキならば動きかねないと二人は思っていた。
「とりあえずは、静観ですね。今回の件に関しては、魔導師殿の対応に問題はないと伝えておきましょう。ああ、『何か聞きたいことがあれば、いつでも連絡を。我々の階級のことには不慣れでしょうから、できる限り相談に乗ります』と追加しておきますか」
「なるほど、今後も情報収集を続けると」
「小娘呼びをしつつも気に掛ける貴方がいるなら、おかしなことではありませんよ? セリアン」
笑いを含んだ宰相閣下の言葉に、セリアンは顔を赤らめる。セリアンがミヅキを可愛がっていることなど、父親たる彼にはお見通しだった。
ただ、それさえも利用するのがセリアンの父である。有能さを求められるフェアクロフ出身であり、現宰相を務め上げる彼にとっては、息子の交友関係さえも利用すべきものだ。
「まあ、いいですけどね。私も気になりますし」
溜息を吐きつつも肩を竦めるセリアンに、宰相閣下は笑みを浮かべた。それは父としてのものであり、それ以上にカルロッサの宰相としてのもの。甘さの残る息子へと『命令』を下すことで、その成長を促しているのだ。
ただ……宰相閣下の気遣いなど、必要なかったのかもしれない。
今回は『上司の命令』という形だが、言われなくともセリアンは実行しただろう。彼もまた、宰相補佐を務める人物……自らその道を定めた者。セリアンもまた、この国を想っているのだから。
アルベルダ主従もまた、周囲の人達に微笑ましがられています。
明るく振る舞っていますが、ウィルフレッド&グレンも過酷な時間を乗り越えてきました。
カルロッサ宰相親子は頭脳派らしく、王弟夫妻の馬鹿さ加減に呆れています。
というか、自国にこんなのがいたら速攻で排除。
そういった意味もあり、自分達と同じく頭脳労働である主人公の味方です。




