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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ガニア編

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魔導師VS王弟・第一ラウンド

『だいたい、君はねぇ……っ』


 そんな感じで、魔王様のお説教が始まりかけた時。

 ――妙に、扉の外が騒がしくなった。

 正確には扉の外、廊下に複数の人達の気配。しかも、何やら言い争っているような声まで聞こえる。

 片方は……王様達が連れて来た近衛騎士だろう。どうやら、この部屋に乗り込もうと――声をかけての入室ではないので、『乗り込む』でいいと思う――している団体様が居る模様。

 思わず、誰もが沈黙した。ついつい、シュアンゼ殿下に生温かい目を向けてしまう。……まあ、そのシュアンゼ殿下も溜息を吐いて、怒りの笑顔を浮かべているんだけどさ。


 マジか。

 マジで来ちゃうのか。


 いやいや、確かに今まで『これで誘拐扱いされたら、王弟が犯人ね♪』とか話してたけどさ?

 馬鹿正直に来るってどうよ!? 予想通り過ぎて、狙ってたとか思っちゃうだろ!?

 当たり前ですが、ここはシュアンゼ殿下の部屋。ついでに言えば、現在は王太子殿下&国王夫妻がいらっしゃいます。だからこそ、近衛騎士が扉の外に居るのであって。


 一言、声をかけろよ。いきなり乗り込もうとする時点で、おかしいだろ?


 という気持ちなのですよ。もしくは、もう少し偶然を装って来るべきじゃないか。何で、最初から『そこをどけ!』なんて声が聞こえるのさ。


「……。王弟殿下って……とっても素直な方なんですねぇ」

「本音を言ってもいいよ? 私ももう少し取り繕うと思っていたし」

「でも、不敬罪……」

「魔導師殿、この場は許そうじゃないか。と言うか、是非言ってくれ。私達の代表として」


 王太子殿下が温〜い笑みを浮かべながら許可を出す。ああ、さすがに呆れたんですね。では、早速。


「王に向かない理由がよ〜く判ります。野心家にしてはアホ過ぎ、魔術師として自信過剰過ぎ、確かに有する魔力しか褒めるべきところが見つからない!」


 多分、顔は悪くないだろう。シュアンゼ殿下の親だし、代々選び抜かれた血が混ざっているのだから。流れる血は最高級、なのにこれってことは……教育と性格矯正の失敗だろうな、絶対。

 シュアンゼ殿下は頭痛を耐えるように、額に手を当てている。国王夫妻は諦めの表情、ラフィークさんは……無表情だった。これまでが偲ばれる。


「すまないね、ミヅキ。あんな奴が迷惑をかけて」

「いえいえ、一番自己嫌悪に陥っているのはシュアンゼ殿下でしょ。お気を落とさず。大丈夫ですよ、私の世界には『氏より育ち』という言葉もありますから。ちなみに、意味は『血筋より、育った環境や教育が重要』」


 実際には、『性格形成には、家柄や身分より育った環境や教育が影響を及ぼす』というものなのだが。まあ、所詮は異世界の言葉だ。シュアンゼ殿下の心の平穏のためにも、都合よく解釈してしまった方がいいだろう。

 なお、元の意味だとちょっと説得力に欠ける。王弟殿下も王族としての教育は受けていたと思われるので、教育係に責任がある……と思われる可能性があるのだ。教育係だけを悪者にしちゃ駄目だろ、あれは。 

 そんなささやかな気遣いは、シュアンゼ殿下の気持ちを浮上させたらしい。納得するように、何度も頷いて言葉を噛み締めていた。


「素晴らしい言葉だね、私も自分がアレと同類とは思いたくはない……!」


 ですよねー! その、もう少し王弟殿下が賢ければ『方向性の違い』というオブラートで包めたとは思うんですけどね? ……策に溺れるどころか、最初からコケるタイプだろ、あれ。

 持ち上げ続けた派閥の奴ら的には『お馬鹿な方がいい』のかもしれないが、これに国を任せようとは思わない。そりゃ、期待されていなかった第一王子に希望を見出すだろう。即位できた理由はこれじゃあるまいか。

 ただね、これほど『素直な人』だと悪事は向かないと思う。これまで処罰に至れなかったのって、最初でコケてたのが原因じゃない? 本命までいかないなら、注意だけで終わるしかないだろうし。


 最初でコケているなら、裏工作が成立しない。

 勝手にやらかしたとしても、派閥の誰かがフォローできてしまうから生き長らえた。


 この仮説が成立するなら、注意すべきは王弟本人ではなく派閥の貴族達と従っている魔術師達。いきなり本命(=王弟)狙いで行っても、周囲に潰されると見て間違いはない。

 逆に言えば……私が投下されたことを切っ掛けに、事態が動く可能性がある。イルフェナに仕掛けたことは事実であり、覆せない『事件』なのだから。後がありません!

 隠蔽工作も無理ならば、勝負に出て来るかもしれないじゃないか。今回ばかりは、王弟殿下を諭して終わりにならないだろう。王弟殿下の派閥は本格的に私、もっと言うならガニア王を狙ってくる可能性・大。

 ってことは、周囲から狩ればいいのか。あら、意外と獲物が多いかも? 少しは振るい落としを考えなきゃならないかもね、今回。さすがに『血塗れ姫、再び!(意訳)』な事態は拙い。

 そうと決まれば、行動開始。立ち上がって――まだ正座中だった――、魔王様に一つの提案を。


「魔王様、こちらが話し掛けるまで黙っていてくれません? 早速、向こうから来たみたいです。しかも今現在、扉の外で護衛の騎士と揉めてます……乗り込もうとしたところを止められて」

『は……? 本当に来たのかい? 何故、止められている? 君が……というか、誘拐した人物が居るかの確認だろう?』

「お供を連れて、団体様でいらっしゃったようですよー……。こちらはシュアンゼ殿下が大変、居た堪れない状態になっています。私も生温かい目を向けてますし」

『ミヅキ、追い打ちはやめようね? 君と違って、繊細な人は多いんだよ?』

「他にどうしろと。私だって、もう少し頭を使うと思ってましたよ」


 ぶっちゃけ、王弟殿下が一人で確認に来ればいいだけだ。だって、自分の息子の部屋だもの。団体様で来ているから近衛騎士に警戒され、止められているだけですぞ。

 騒ぐのは、その後でもいいじゃないか。派閥がある王弟様の発言ならば、問題に発展させることもできるだろう。


「あの人はね、王になれなかった時から思考が停止してるんだよ。まあ、傀儡にしたい者からすれば、『貴方こそ王に相応しい』という言葉だけを信じてくれる方がやりやすいからね。王になった後は『ずっと自分を支え続けてくれた忠臣達』に任せるだろうし」


 苦々しく語るシュアンゼ殿下。この様子だと、シュアンゼ殿下の方も取り込もうという動きがあったのだろう。

 なるほどー、物は言い様ですな。『自分を支え続けてくれた忠臣』……うん、まあ王弟殿下から見れば間違ってはいないだろうね。それが正しい認識かは別として。

 それも王弟殿下が『王位は自分のもの』と信じていられる要因ではあるのだろう。『貴族達が挙って膝を突く』……そんな存在は王しかいない。


『判った、暫く黙っているよ。魔道具はどうするつもりだい?』

「布巾でもかけて、そのままにします。リアルタイムで私と敵との一戦をお聞きくださいな」

『はいはい、あまり迷惑をかけないようにね』


 言いながらも溜息を吐き、魔王様は沈黙した。魔道具の向こうでは皆も聞き耳を立てているのだろう。

 って言うか、心配はそれか! 私が害されることは考えてませんか!? 微妙に酷くね? 保護者なのに。

 あ、ガニア勢も呆気に取られている。『心配するところって、そこ!?』と皆の顔に書いてあるわ、やっぱり。

 そんなことを考えていたら、押し切られる形で扉が開いた。即座に人が雪崩れ込んで来る。


「ご無事ですか! エ……っ!?」


 先頭の男性――多分、王弟殿下――が私を見て固まる。私の目が据わったのを見たせいかもしれない。

 はは、そーか、そーか、やっぱり貴様が主犯かい。『エ』って言ったもんな、今。『エルシュオン殿下』と続くはずだったんだろ?

 思わず、心の中で藁人形に釘を打ちまくる。ああ、呪術が使えなくて良かった。そんな温い殺し方は駄目だ、個人としてあらゆるものを失ってもらわなければ、私『達』の気が収まらん。

 私の存在は向こうも予想外だったらしく、広い部屋に雪崩れ込んできた人々――数名の騎士と魔術師達――は非常に混乱している模様。騎士も見知らぬ女が部屋に居ることが不思議らしく、困惑した視線を国王夫妻に向けている。


「あら、随分と大人数。……で? 私に何か? 無事を確認されるようなことは、何もないのですけれど」


 それって、守りを固めている騎士達への侮辱よね! と明るく言えば、魔術師達は決まり悪げに視線を泳がせた。

 だが、それでも王弟殿下は揺らがない。『魔王様と王太子殿下の繋がりを知らない』から。


「それは失礼。ですが、私は魔術師です。城の結界に不審な接触があれば、疑うのは当然のこと。貴女の魔力の気配を辿るのに少々時間をとりましたが、ご安心を。責任を持って保護させていただきます」

「ですから。心配されるようなことは何もないのですけど」


 王弟殿下も自分の株を上げるように誘導しているが、私とて言葉遊びに興じていた。こちらから状況を口にせず、王弟殿下の考えを先に喋らせる。あちらの狙いを逆手にとって、報復を。

 ただ、王弟殿下は警戒心を滲ませる私の態度を都合よく解釈したらしい。誠実そうな、安堵させるような口調で話し出す。


「このような立場の者達に囲まれれば、強がるのも無理はありません。まして、貴女は突然この場に召喚されたのでしょう? もう大丈夫ですよ」

「へぇ? まるで、誘拐でもされたみたい」


 カマをかければ、王弟は大きく頷いた。


「そのとおりです! 誘拐でしょう、まさに!」


 その言葉に、騎士達は驚愕の表情で私をガン見し。魔術師達は王弟殿下に同意するかのように、其々が頷いた。

 で、そんな機会を逃す私じゃないわけで。

 笑顔で反撃といきましょう! さあ、第一ラウンドをいざ!


「ありえない! 貴方が言ったように、城の結界に触れれば『異質な存在が入り込んだ』と判るでしょう。ですが! それは『襲撃』や『侵入』として認識されるのが常識。いいですか、常識です! 逆に『誘拐された』なんて言葉が出るのは、誘拐そのものに関わっている人だけなのですよ。だって、関係者でなければ知りえない情報ですもの」

「……っ」

「さらに! 貴方はわざわざ自分の部下らしき魔術師達を連れてきています。……貴方自身が言うように誘拐されたならば、『被害者の保護』になるはず。これは騎士で十分でしょう? 近衛の仕事を奪うことになってしまいますもの。逆に、『魔力の高い者の誘拐を企てていて、終点のみずれた』ならば、初めから保護とやらをする対象の抵抗を警戒して、魔術師達を揃えていた……という見方もできるのですよ」

「……。随分と歪んだ見方をなさるようだ」

「魔術師が団体で押し寄せた挙句に、『何故か』誘拐されたことに仕立て上げられそうなのですもの。『証拠もないのに、この部屋にいらっしゃる皆様を犯人扱いしている』ならば、疑惑を抱かれても仕方ないのでは?」


 あくまで私の見解です、これ。『お前が誘拐したんだろ!』とか言ってませんよ、状況的に考えられる可能性を口にしているだけ。

 つーかね、何故『この場に居る人達が犯人』みたいな言い方ができるのさ? 保護しただけかもしれないじゃん? 自分だって『保護しに来た』って言ってるんだから。

 私達の会話に、騎士達は魔術師達へと疑惑の目を向け始めていた。何より、彼らも先ほどのこと――無理矢理押し入ったこと――を不審に思っているみたいなので、被害者本人(一応)の言い分に説得力があるのだろう。


「言い掛かりだ! 折角、保護してやろうというものを」

「それが間違いです。私は保護してもらう理由がない上、国王ご夫妻と王太子殿下公認でここに居ますから」


 ……まだ、正式に許可は貰ってないけどね。

 内心そう付け加えるも、彼らはそれに異を唱えることはしなかった。だが、王弟殿下達は訝しげに私や国王夫妻に視線を向けてくる。


「ふん、その場だけのものだろう? 国王が安易に城への侵入を許すはずがない! そのようなこと、大問題だろうが!」

「そうですねー、普通はね? ですが、私の立場上、公にするのは宜しくないのですよ。そもそも、テゼルト殿下が個人的にイルフェナのエルシュオン殿下に話をつけた案件ですからね」

『な!?』


 さすがに、騎士達と魔術師達から驚愕の声が上がった。かの魔王殿下との繋がり、という意味での驚きだろう。魔王様とテゼルト殿下が友好的な関係ならば、この誘拐が悪手だったと思うはず。

 誘拐する必要などないじゃないか、普通に国に呼べばいいだけなのだから。

 

「私も魔王様から聞いてはいたのですけどね? いやぁ、斬新なお迎えでした。ええ、勿論、魔王様の目の前で転移しましたよ。守護役達や翼の名を持つ騎士達もいましたから、国への報告もばっちりです! ……ガニアの方って、意外と遊び心があるのですね! 私の好みに合わせてくれたのでしょうか」


 うふふ! と笑ってはいるが、私の目が笑っていない自覚はある。企みに気づいているという、明確な暴露ですからね。

 あらあら、そんなに顔色を変えて……これは私からの優しさですよ? お前達が敵に回した奴らがどういった存在か、知らなければ可哀相だもの。


『貴様らはぁ〜、魔王殿下を誘拐しかけぇ〜、イルフェナを敵に回したぁ〜!』

『最悪の剣がお怒りじゃぁ〜、ついでに魔導師もお怒りじゃぁ〜!』


 そう声を大にして言いたいところをぐっと堪え、オブラートに包みまくって情報を提供。

 魔術師達の顔色が悪い? 気のせいだ、私は気のせいであることしか認めない。


「サロヴァーラの件で顔を合わせた時、頼んだのですって。まあ、可能か不可能かはともかく、テゼルト殿下達が必死になっているのは感じ取れたそうで。それで私の派遣なのですよ」


 にぃ、と王弟殿下と愉快な配下どもに向けて笑う。

 ヒントは散々出したぞ? 私は魔術師憧れの存在じゃないか、大いに喜ぶがいい!


「初めまして? イルフェナに保護されている魔導師ですよ。シュアンゼ殿下の足の治療のため、ガニアに呼ばれました」

「でたらめを言うな! いくら魔導師だろうとも、生まれつきの障害など、治せるわけがない!」


 即座に叫ぶのは王弟殿下。魔術師としての知識がそう言わせているのだろうが……つい、冷めた目を向けてしまう。


「噂どおり、我が子のことは国王ご夫妻任せなのですね。要らないとばかりなその態度……テゼルト殿下や国王ご夫妻が動くのも納得です。甥であり、我が子同然に可愛がっていらっしゃるからこそ、どんな可能性にも縋りたいのでしょう。なのに、貴方は……」

「な、なんだ……」


 笑みを消して、冷めた目を向ける。思わず、という感じに王弟殿下が一歩下がった。


「親として愛情を示すこともないのですね。よく判りました。この部屋にはシュアンゼ殿下とていらっしゃるのですよ? 『侵入があった』と認識しているならば、まずは我が子の身を案じるでしょうに……誘拐などと見当違いの意見を述べて、どうなさるおつもりだったのですか? まさか、国王ご夫妻に責任を取らせるつもりでした?」

「そのようなことはないっ!」

「あら、違うのですか。それは失礼致しました。では、この件に関してはお二人が責任を追及されることはありませんよね? だって、全部貴方の勘違いであり、妄想なのですから!」

「ぐ……そのとおり、だ」


 よし、言質は取った。ガニア勢が軽く目を見開いているけど、そこは見ない振り。王弟殿下達も周囲の状況に気づいていないみたいだからね。

 先手必勝……素晴らしい言葉である! 色々と騒ぎ出す前に『お前の勘違いなの、騒げば恥ずかしいからねっ』と釘を刺しておくのは重要です。この後、腹立ち紛れに騒ぐかもしれないもん。

 悔しげな王弟殿下に、勝ち誇った表情の私。どちらが場の勝者かは言うまでもない。

 そして、重要なのはそれだけじゃないのだ。今の会話、特に私が話した内容は非常に重要な意味を持つのであ〜る。


 お・馬・鹿! お前、騎士が傍に控えているって忘れてるだろ?

 騎士には報告の義務があるんだぞ? 私も魔道具に記録している会話を、喜んで提供しようじゃないか!


 はっきり言って、今回の王弟殿下達の所業は疑惑止まり。証拠がないので、下手に追及すれば『陥れる気か!』と逆に突っ込まれる可能性がある。いや、間違いなく批難の声は飛ぶ。

 だが、私にはその括りがないわけで。

 あくまでも当事者として感じた『可能性』であり、『証言』。それも民間人ゆえに『思ったことを言っただけ』。ただし、『その内容は無視できるものではない』。

 無関係な人々にも危機感を抱かせること、請け合いです。日頃から王弟殿下一派の行ないを知っているなら、事態のヤバさに気づくはず。

 さて、それでは最期に魔術師としてのプライドをペキッ♪ と折っておきましょう。


「そうそう、先ほどのお話ですが。城の結界に触れる者は通常、侵入か襲撃です。ですが、貴方を含めた魔術師は全く役に立たないので、これからは近衛騎士達に頼んだ方がいいですよ? 恥ずかしい失敗もしなくて済みますから」

「な……っ」

「ああ、勘違いしないでくださいね? 魔術師ならば知っていて当然ですが、魔法は接近戦に向きません。ついでに、このような室内も無理ですね。巻き添えが出てしまいますから、保護どころではないでしょう。……それも『保護という言葉に、疑問を抱いた理由』なのですが」


 憤りかけた魔術師達は、続いた言葉に顔色をなくしていく。事実なので反論できまい。下手に反論するなら、『では、どのように救出するつもりだったのですか? 是非、見せてくださいな』とでも言ってやる。

 これ、クラウス達ならば可能なのだ。ただし、彼らは『魔法を使いこなせている人』。こいつらと同じにしてはいけない、間違いなく抗議が来る。


「ですが、誘拐でなくて本当に良かったですね! もしも、誘拐されていたら……私、きっと暴れていますから。こんな風にね」


 パチリ、と指を鳴らす。目的は複数の魔石、ずっと警戒がてら探っていた、魔術師達が身に着けている魔道具。

 それらは軽い音と共に砕け散る。状況を察した魔術師達は己が体を服の上から探り……状況を理解して顔面蒼白となった。


『無詠唱』に『複数の魔石の同時破壊』。さあ、最後の仕上げを。


「魔力の高さなんて、価値がありません。重要なのは『使いこなせるか』。そもそも、長い詠唱は隙にしかなりませんもの」

「そのようなことはない! 魔力の高さがあってこそ、様々な魔法が使えるではないか!」


 自分の存在意義に関わるせいか、王弟殿下が怒鳴る。けれど、私は軽く首を傾げる。


「でも、それだけじゃないですか。武器に喩えると、私の言っている意味が判りますよ?」

「何?」

「ミヅキ、理由を聞かせてくれないかな? 興味があるんだ」


 意味が判らない人代表――追い打ちではないと思いたい――として、シュアンゼ殿下が声をかけてきた。名前を出したのは、親しさのアピールか。ちらりと国王夫妻に視線を向けるも、彼らは純粋な疑問と思っている模様。

 ……。まあ、いいか。説明が必要なのも事実なのだから。


「魔力を素晴らしい武器……剣に喩えます。剣の扱いを覚えたばかりの新人兵士が凄い武器を持ったところで、脅威にはなりません。経験、培った腕、そして精神力。使い手の努力がなければ、意味がないでしょう? それに魔術師として名を残している方達は、功績によって後に名を伝えているじゃないですか」

「なるほど。そう言えば、魔力の高さならば、エルシュオン殿下に勝る方はいないらしいね。だけど、彼が魔術師として知られていないのは……」

「体に負担になるので、魔法が使えないからですよ。それこそ、魔力が高いだけでは意味がない証明ですね」


 にこやか・和やかに会話する私とシュアンゼ殿下に、魔術師一同は無言だった。特に王弟殿下は大ダメージだったらしく――魔王様という例を出したことも大きい――、反論する元気もないらしい。

 よしよし、漸く理解できたか。じゃあ、最期に実演してやろうな。


「だからね、初級の魔法でもこんなことが可能なのですよ」


 そう言って、氷片を部屋中に出現させる。騎士は即座に反応して王族達を庇ったが、魔術師達は無詠唱ゆえかノーガードのままアホ面を晒していた。魔道具を壊したため、結界すら発動しないのに……である。

 これは日頃から『魔道具がある』と認識しているゆえの、油断。要は、ない場合の対処に慣れていない。騎士寮面子のように、魔道具がない状態での鍛錬などしていないに違いない。

 氷片は誰にも等しく向けられている。さすがに誰もが驚きの表情をしているが、私の言いたいことはこの状況でないと理解してもらえない。


「ほんの小さな、ナイフ程度の氷片。それでも、狙った場所によっては致命傷となりえます。現に、騎士達は動いたでしょう? 『そういった可能性があると理解できている』上に、『反射的に動ける』のですよ、彼らは」


 そうですよね? と視線で問い掛ければ、騎士達は力強く頷き返す。


「当然だ。そのために日々鍛錬し、こういった状況に備えているのだから」

「ですよね。……先ほど、私が『魔術師は全く役に立たないので、これからは近衛騎士達に頼んだ方がいいですよ?』と言ったのは、このためです。この国の魔術師達は彼らのように咄嗟の行動がとれないようでしたので。理解していただけましたよね?」

「あ、ああ……」


 顔を青褪めさせながらも、頷く王弟殿下。そんな彼に対し、私は内心拍手喝采。

 よし、第二の言質ゲット! これで、少なくとも城内で魔術師達は好き勝手ができん!

 魔術師達が勝手な行動をしないためにも、『城内の警備は近衛に任せておけよ? お前達、役立たずだからな?』と理解させておく。これも報告書に記入されるので、今後はこういった問題も起こるまい。

 これ、お互いの立場や役割りを理解できていないと起こる衝突なのだ。本当に国のためを思っている魔術師達が王弟殿下の派閥に煽られて、騎士達と問題を起こす可能性もあるからね。

 この場合、仲裁が大変難しい。基本的に騎士の役目でも、魔法が必要な場合も当然あるのだから。

 今は王弟殿下達が都合よく利用しないよう釘を刺すだけなので、この認識で良い。報告書には適材適所という言葉と共に、もう少し詳しく説明しておく必要があるだろう。これらの言い方はアル達に聞けば問題なし。


 よし、第一ラウンドはこれで終了だ。顔合わせと脅迫という目的の達成に、いくつかの言質も取れた。まずまずの成果と見ていいだろう。


 指を鳴らして、氷片を消す。一気に安堵の雰囲気が漂う皆様だが、騎士達は油断なく私を見張っていた。あは、やっぱり遣り過ぎましたか!

 そりゃ、警戒されるわな。どうやら、危険人物認定された模様。うん、判ってた。

 ま、まあ、事情説明は後でしてあげるから、今は黙っていておくれ。


「理解していただけたようで、何よりです。では、お気をつけてお帰りくださいね」


 もう用はない――そう匂わせた言葉に、魔術師達は逃げるように部屋を後にしていく。その中で、王弟殿下だけが一度振り返り、憎々しげな表情で睨みつけてきた。

 なので、つい『ここは期待に応えるべき』というサービス精神のまま。


 蔑んだ笑みを浮かべたまま、立てた親指で首を切るジェスチャー。


 口パクとかが通じればいいのだが、言葉の壁がある以上は通じまい。よって、誰にでも判る手段をセレクト。

 慌てて逃げ出す王弟殿下の姿に、私の気持ちがしっかり伝わってくれたことを確信する。


「魔導師殿、今のって……」 

「『お互いに頑張ろうね!』という、気持ちの表れですが」

「そ、そう」


 嘘は言っていない。頑張るものが『何か』を明確にしていないだけで。

第一ラウンド終了。言質も取れたので、まずまずの成果です。

代償は騎士達に警戒されたこと。まあ、早いか遅いかの差なのですが。

逆にシュアンゼとは順調に友好度が上がっている模様。

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